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先輩開業インタビュー

失業中のアイデアが年商1億円の事業に。AsMama甲田恵子が教える、成功までの3ステップ

地域の知り合い同士で子どもの託児や送迎を頼り合うSNSアプリ「子育てシェア」を運営し、さまざまなビジネスコンテストで受賞が続くなど、現代の子育てニーズを捉えたサービスで注目を集めている株式会社AsMama(アズママ)。代表取締役の甲田恵子さんは、仕事と子育ての両立に奮闘するなか、突然会社を解雇され、職業訓練校に通ったことがきっかけで起業の道を選んだ異色の人物です。現在は会員数4万人、年商1億円を超える規模まで事業を成長させてきた彼女ですが、当初は明確なビジネスモデルを見つけられず、一時はキャッシュが底をつきかけるなど、多くの困難を乗り越えてきました。それでも「生まれ変わってもAsMamaの社長をやりたい」と目を輝かせる彼女が語る仕事のやりがい、起業のヒントとは? 臨場感たっぷりなこれまでのエピソードとともに語っていただきました。

働きたいママの気持ちをブログで発信。すごく反響があったけど、起業なんて考えてもいなかった

cont01.jpg――甲田さんがAsMamaを作られたきっかけは、職業訓練校に通ったことだったそうですね。

甲田:その前は上場企業の広報室長をしていましたが、ある日突然「9割の社員を解雇します」と社長が発表したんです。それが転職して2年くらい経った33歳のときで、娘は3歳。育児をしながらもバリバリ働ける環境を考えて選んだ会社だったので、またイチからの転職を考えると、どよんとした気持ちになって。

――突然の解雇は戸惑いしかないですよね。それで職業訓練校に?

甲田:それまでは全力で結果にコミットする働き方をしてきたけど、突然解雇されて、自分が何のために働くのかを考える機会になったんです。ありがたいことに他社さんからオファーもいただきましたが、気持ちの整理もついてないし、IRをやっていた都合でインサイダー(組織の内部事情に通じている者)でもあったので、間を置く意味でも職業訓練校に行くことにしたんですね。でも、学校に通ううちに、ここにいる人たちがどういう経緯で来たのか、この人たちのやりたいことを叶えるには? とかに興味関心が移ってしまって。

――それがAsMamaを起業するきっかけに?

甲田:職業訓練校には、「少しだけ子どもの面倒を見てくれる人がいたら、仕事をやめずにすんだのに」という女性がたくさんいて、世の中にそういう人はいっぱいいるんだろうなと。逆に「空いてる時間を活かして、世の中の役に立ちたい」と考えている人もいるはずだから、そういうマッチングが身近にできればと思ったんです。それをブログに書いたら、ものすごく反響があったんですよ。

――最初の発信は個人のブログだったんですね。

甲田:はい。だけど、そのときは起業なんてまったく考えていませんでした。だからフィジビリティ(新規事業が実現可能か検討するための調査・研究)みたいな感じで交流会をして、市場調査して、その情報を持って、誰かにやってもらおうと思っていたんです。だけど、どこに持って行っても、「収益モデルは?」「短期的に儲かるの?」とか、そんな質問攻めにあうんですよ。一方で公共的なところに行って提案しても、失業中で話し相手がほしいかわいそうなお母さんみたいな扱いをされちゃって(苦笑)。AsMamaのシステムは過去に例がなかったので、どこにいっても話を聞いてもらえませんでした。

誰もやらないなら、私が起業するしかない。無償でも一緒に頑張ってくれる仲間を全国から探した

cont02.jpg ――自分で起業するにしろしないにしろ、AsMamaのシステムがビジネスになる確信はあったんですか?

甲田:私が最初に起業しようと決めていなかったのは、どうやったらビジネスになるのか、私自身見つけきれてなかったのが大きかったです。ただ、調べれば調べるほど、地域共助のサポートは本当に必要なものだと思えてならなかった。明確なビジネスモデルはないにしても、ニーズがあるのはブログや交流会でわかっていたので、世の中に価値を提供すれば必ずお金になるという確信がありました。

――どこも取り合ってくれないことがきっかけとなり、自ら立ち上がり、起業することを決意したのですね。AsMamaは一人で始めたんですか?

甲田:もちろん最初は一人です。でも、インフラとして広げるにはどうしたらいいか考えたときに、私には莫大な資金も、芸能人みたいな影響力もないから、AsMamaを広げたいと思う人たちの想いを集約するしか方法はないなと。そこでブログに反応した人たちに、「地域共助で人々が豊かになるこのサービスに共感してもらえるなら、一緒に広げていきませんか?」「なんらかのビジネスモデルで収入が得られたら、みんなで利益をシェアしましょう」という呼びかけを始めたんです。

――強い意志のある賛同者を集めて、大きな力にすると。最初は何人が集まったんですか?

甲田:全部で200人くらい問い合わせがあったのですが、そのうち半分くらいは「業務委託で仕事をください」という利益重視の人たちでした。ひょっとしたら1年間売り上げがないかもしれないけど、それでも大きなリターンを目指して、一緒にやっていきたいと思ってくれる人が私には必要だったので、50人くらいに会って、最終的には13人が集まったんです。佐賀とか、大阪とか、岐阜とかに住んでいる人もいましたね。それが2009年です。

――その13人は社員ではなく?

甲田:社員ではなく、想いに共感する人ですね。なので、固定のお給料を支払うわけではなくて。月に何度か全国で開催するイベントで得たお金を、たとえばその月の売り上げが10万円だとしたら、経費に5万円かかったので、残り5万円を13人で分けましょう。3800円ずつが今月のみなさんの分ですよって(苦笑)。だから、本当に想いのある人だけが一緒に頑張ってくれたということですね。

ママとつながりたい企業に、AsMamaのネットワークをマッチングすることで年間1億円の収益を得ている

cont03.jpg ――立ち上げ当初はどのくらいの資金を用意されたんですか?

甲田:前職をやめたときの退職金700万円を使いました。店舗や設備を整えようと思うと、それなりの資金が必要ですけど、ネットビジネスであれば多額の資金は必要ない。前職は投資会社だったので、売り上げ見込みがないのに固定費が先に立つと、倒産リスクになることはわかっていたので、最低限ですませるようにしました。

――決まった収益がないうちに固定費を作ってしまうと、いずれ首がまわらなくなる。独立ではよくある話かもしれません。

甲田:とくに避けなきゃいけないのは人件費と家賃で、まだ人件費はものを生みますけど、家賃は何も生まないし、もっと言うと管理コストは最たるムダだと思います。一人ひとりが自立していれば、最初はマネジメントなんていらないんですよ。だから私も含め、13人全員が同等の立場にしました。立ち上げ当初に「自分がCEOで、君はCOOね」と、役職をつけてしまうのは失敗しがちなパターンかもしれませんね。

――起業から7年が経ち、AsMamaは社員を雇うまでになりましたが、現在の主な事業はなんでしょうか? また、収益はどのようになっているのですか?

甲田:「地域交流事業」と「共助コミュニティ創生事業」と呼んでいるものが主です。「地域交流事業」ですが、まず、AsMama独自の研修を受講した認定支援者「ママサポーター」が全国に600人くらいいて、地域共助の普及に取り組んでいます。彼女たちの子育て世帯へのアプローチ総数が全国で500万世帯を超えていることもあり、そのリーチ力を生かして企業の広報やマーケティング、集客を支援させていただく協業事業が「地域交流事業」で、1イベント当たり約50万円を得ています。

――もう一つの「共助コミュニティ創生事業」とは?

甲田:マンションや分譲などの自治会や子ども会の運営を受託するようなイメージで、クローズドだったコミュニティを共助可能な環境に整えたり、企業人事と協働して従業員一人ひとりが共助環境を持てるようにご支援させていただくのが「共助コミュニティ創生事業」です。それぞれのコミュニティの大きさにあわせて年間費用を得ています。ママサポーターの役割としては、子育てシェアという地域共助の仕組みをより広げるために、交流イベントの運営者になって、参加者同士もしくは自分と参加者をつなげる役割もします。

――ママサポーターが主催する交流イベントには、コミュニケーションを取りたい、手助けがほしいと思っているママが多く参加されているそうですね。

甲田:ママサポーターは、全国の保育園や幼稚園、公園、ママ団体のところに行って毎月500?1,000人くらいのママに向けて「子育てシェア」の普及をするほか、協働する企業様の思いや特徴を子育て世帯に口コミで伝えています。子育てを応援したい企業が直接伝えるからこそ、出会いを求める子育て世帯にはダイレクトに情報や思いが届くんです。生活や子育てに役立つ情報を常に求めている子育て世帯は多くいらっしゃいますので。

――イベントでは、ママたちに参加費をいただいたりも?

甲田:AsMama主催のイベントで、参加費を取ることは考えていません。一方で、ママサポーターが主催するイベントでは、彼女たちが設定する材料費程度の参加費がかかるものもありますが、それらの参加費はまるまるママサポーターが得られるようにしています。つまり、AsMama主催のイベントには協働する企業のブランディング力も借りつつ、参加者のママは経済的負担なくより安心して参加することができ、そこで得た地域コミュニティや知識を各人がそれぞれ深めていくことができるようになっています。

――なるほど。ネットワークのあるAsMamaが、子育てママとつながりたい企業と潜在ニーズのある子育て世帯のマッチングをしているんですね。「子育てシェア」のシステムも無料なんですか?

甲田:「子育てシェア」は登録料も手数料も一切無料で、会員同士が子どもの送迎や託児をワンコインの500円(延長、オプションなどは別途)で頼り合う仕組みなんですけど、「共助によって世の中を豊かにする」というのが当社のコアミッションですので、このシステム自体の利益はまったくありません。

――「地域交流事業」と「コミュニティ創生事業」というBtoBで事業収益を得ながら、利用者からは1円の利益も取らない、というのは非常に画期的なビジネスモデルですね。

甲田:2つの事業で年間1億円強の活動費を生み出し、それをママサポーターの支援だったり、「子育てシェア」のシステム開発費やカード決済時の手数料、万一の事故の際に会員に適用される保険の料金などに使わせていただいています。

社員13人の給料が払えないかもしれない。大きな賭けに出た、起業3年目の覚悟

cont04.jpg ――いまは軌道に乗ってきたと思うんですが、簡単にたどり着いたわけではないですよね?

甲田:なかなか芽が出ない間に、最初の13人はほとんどがやめ、2人しかいなくなってしまいました。潮目が変わったのは3年目の2012年の夏で、地域共助そのものに保険が適用できるようになったんです。そして同年同時期ごろにシステム開発をしてくれる会社も見つかって、1つの仕組みができあがったんですね。


――事業が軌道にのっていないのに、20数人×固定給を毎月支払うんですよね? 聞いているだけで冷や汗が出ます……。

甲田:パート・アルバイトの人もいましたけど、仮に平均10万円で雇っても、毎月200万円かかる。しかも、いままではイベントなどをやった分だけもらえる半面、やらなくても責められないから、一気に全員で走ろうと組織が変わったところで、「いままでのゆるいのがいいんですけど」みたいな人が抜けていきました。旧来メンバーがやめていくのは、経営者として自尊心を失うほどの大きなダメージがありましたね。

――一気に20人も雇うなんて、お金は大丈夫だったんですか!?

甲田:2013年に子育てシェアが本格稼働してから、一気にお金を使って、2014年が終わる頃には底が見えてきたんですね。今月の給料は払えるけど、来月はわからないみたいな状態までいきました。

でも、私は人と縁と運には本当に恵まれていて、その頃に、社会的な課題解決に取り組む団体を支援する日本ベンチャーフィランソロピー基金から、転換社債(一定の条件を満たすと株式に転換できる権利が付加された社債のこと)で、利子もかからない投資の話をいただいたり、大きな声では言えないですけど、そのときに応募したビジネスコンテストで最優秀賞をもらって、賞金で3、4か月食いつないだこともありましたね。

これはきれいごとじゃなく、事業をまわしていくとなったら、絶対に給料だけは滞納せずに払う、請求書は期日通りに払う、そのためには手段は選ばないですよ。それは経営者の石にしがみついてでも守らなきゃいけないコミットメントだと思います。

アイデアをかたちにしたいとき、心がけることは「計画・目的・発信」の3つ

cont05.jpg ――たとえば甲田さんのように、アイデアを持つ女性が起業を考えた場合、何から始めるといいと思いますか?

甲田:3つあるかなと思っていて。まず「事業計画を立てる」こと。私も事業計画を立てたのですがそれ通りにはいかず、もう事業計画を作るのやめると言い出したときがあったのですが、投資でお世話になった方から「事業計画は経営者の未来を描く意志で、意志のないところに共感する人はいないから、曖昧でもいいから夢を図にしなさい」と言われたんですね。

とくに女性の場合は、自分が得意なことで起業を始めてみようと思われる方が多いですけど、経費を差し引いたら自分の時給は300円でしたとか、そんなことになりがちで。それは事業ではなく、ライフワークですよね。事業をやりたいなら、事業計画を描いて、5年後、10年後も成り立つものなのか、きちんと見極めるべきです。

2つ目は、「自分のためにやりたいのか、人のためにやりたいのか」。自分が得意なことを活かして何かをやりたいだけなら、それは趣味ですよね。でも、誰かが喜ぶことは仕事になる。これをやったらお金を払ってでも喜んでくれる人がいるかどうか、必ず確かめるべきです。タダならもらってくれる人はいるし、友だちなら1回目はお店に来てくれる。そこで次はお金払ってでも使おう、通おうと思ってくれる人がいるか、そこが仕事と趣味の境目だと思います。

3つ目は、「ひたすら発信すること」。事業計画ができて、喜んでくれる人がいたとして、女性はそこから先で困っちゃう場合が多いんですよ。男性は資金調達して広告を打つとか、自分から仕掛けていく傾向にあります。だけど、たとえば少ない資本で始めた女性は、読者が100人もいないブログで記事を書くだけとか、小さな発信で留まりがちなんですね。それよりは街の掲示板に自分の活動を書いたチラシを貼りに行くとか、いろんな媒体にアプローチするとか、プレスリリースを出してみるとか、大金をかけなくても発信できる方法はあるので、まずは知ってもらうための行動をする。そこまでいけば、あとは運と人が味方をしてくれると思います。

人一倍、苦労した。だけど次世代に残せる事業にチャレンジできることほど、おもしろいものはない

cont06.jpg ――お話しを聞いていると、甲田さんはすごく行動力がある方だなと感じる一方で、ちょっと真似できる自信がないというか、同じ道を歩んだとしたら、途中で何度も心が折れていると思うんです。

甲田:確かに私自身も、こうなることがわかっていても起業したかって問われると、うーんと思うところはありますよ(笑)。ただ、一つ言えるのは、人のためになる起業はめちゃくちゃおもしろいってこと。いま世界中のどの会社から、億というお金で甲田さんを雇用したいとお誘いいただいても、間違いなくその場で断ります。

――それだけやりがいがあるし、おもしろいと。

甲田:次世代に何を残すかっていう可能性にチャレンジできる事業は、そんなにたくさんあるわけじゃないし、補助金や助成金に頼らず社会に価値を提供することで、生きていけるだけの給料を得られる事業って、本当に少ないと思うんですよ。そこに属せていて、なおかつまだまだやれることは山ほどある。自分の人生をかけて、「何のために今日を生きているのか」、それを実感しながら仕事ができるっていうのは、めちゃくちゃやりがいがあるし、おもしろいですね。

子育てシェア / 友だち・知り合い同士で子育てをシェア

http://asmama.jp/

株式会社AsMama
http://www.asmama.co.jp/
※取材時点の情報です

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