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先輩開業インタビュー

三軒茶屋ならではのおもしろい土地活用がしたい!保護猫と触れ合える複合施設「SANCHACO」

近年、日本は空前の猫ブームとなっています。SNS上では猫のかわいい動画や写真が投稿されており、雑誌やテレビでも猫の特集が散見されます。自宅で猫を飼う人も増えていて、さまざまな猫グッズや飼育アイテムなどが登場しています。そんな中、話題となっているのが東京・三軒茶屋に誕生した、ワーキングスペース、レンタルスペース、賃貸住宅からなる複合施設「SANCHACO(サンチャコ)」です。特徴は、施設内を保護猫が自由に歩き回っていること。仕事をする場所に猫がいると邪魔になる気がしますが、それがまたうれしいサービスになっているようで、多数の猫好きが利用しているのだとか。今回は、そんな「SANCHACO」のオーナーである合同会社シナモンチャイ代表・東大史さんに、施設を立ち上げた経緯やご自身の経歴、また運営について詳しくお話を伺いました。

裏テーマは“保護猫と里親をマッチングする場所”

「SANCHACO」の施設内の写真 ――施設の特徴を教えてください
SANCHACOは、1階にリモートワークなどに利用できる時間貸しのワーキングスペースと、イベントや一日飲食店など多目的に使えるレンタルスペースがあり、2階、3階がメゾネットタイプの賃貸住宅となっています。一番の特徴は、飲食営業もできるレンタルスペースを除いて、地域の保護猫団体から預かった猫が施設内を歩き回っていることですね。実は、裏テーマに“保護猫と里親をマッチングする場所”というものがあります。自由に保護猫と触れ合えることから、それがきっかけとなって利用者が飼ってくれることも少なくありません。現在も、ワーキングスペースで5匹の猫が暮らしています。

――保護猫と里親のマッチングも施設の目的の一つになっているんですね
そうです。私の思いとしては、ここで仕事をしながら猫と触れ合う中で、利用者が気の合う猫を見つけてくれるのが理想です。ただ「かわいいから」という突発的な衝動ではなく、本当に飼えるのか、責任を持って育てられるか。里親にはそれをじっくり考えてほしいんです。定期的に譲渡会などのイベントも実施しているので、実際にそうしたタイミングで覚悟が決まった施設の利用者に譲渡されていくことが多いですね。

――施設をリピートして使うことで保護猫との距離も縮まる、と
施設の設計としても、段階を踏んで猫に親しむための工夫がしてあります。まず、正面の入り口が多目的に使えるレンタルスペースで、そこからワークスペースが覗けるようになっているんです。「あれ?奥に猫が見えるな」と気になってくれた方に、今度はワークスペースを利用いただき、保護猫に囲まれながら仕事をしていただく。その時間の中で人と猫とのコミュニケーションが生まれ、お互いの距離が縮まる。そんな流れをイメージしています。

「保護猫譲渡」を不動産経営にインストールしたらどうなるか

――SANCHACOを立ち上げた経緯を教えてください
元々、私の祖母がこの場所でアパート経営をしていて、祖母もその一室に住んでいました。その祖母が亡くなってしまい、今は私の父が相続している状態になっているのですが、いずれ私が管理することになる。それなら、今から土地を活用しておもしろいことができないかと思ったのがきっかけです。

――相続予定の不動産の活用方法としてスタートしたのですね
はい。ただ、近年の不動産の活用モデルを考えた時、単一の価値観のもとにマンションやアパートを建てたり、大手の飲食店に貸したりと、いわゆる“個性”がない物件が建つ場合が少なくありません。それって、地域としても特性がなくなっておもしろくないですよね。せっかく若者からも人気の三軒茶屋で、しかも路地裏という特性のある立地にあるのだから、自分にしかできないアイデアを盛り込んだ実験的な建物を作りたかったというのが、SANCHACOを作った一番の理由です。

「SANCHACO」の保護猫の写真 ――ところで、なぜ猫だったのでしょうか?
犬好きはほとんどの方が愛犬を散歩しているのでわかりますが、猫好きは街を歩いていてもその人が猫好きかどうか気づきません。でも、猫好きの人もとても大きな“猫愛”を持っている人が多くて、その熱量たるやすごいものがある。そういう人たちを集めたら、おもしろいコミュニティができるはずだと思いました。そこを出発点に、猫を介していろんな人を結びつけるワークスペースができたらどうなるだろうと発想して、この場所を作ったというわけです。

――“保護猫”というのも興味深いです
よくある猫カフェのような感じにはしたくなかったんです。とはいえ、地域の中で新しいことをやろうとすると、どうしても周辺の住民から反対が起きたり、トラブルに発展したりすることもある。何かそうした懸念を超越するような要素が必要だと思った時に、私の場合は「保護猫がいいのでは?」と思いつきました。要するに、「保護猫のために」という目的の施設になると、周辺地域からのネガティブな意見も減るはずだと考えました。また、保護猫を譲渡するというシステムを不動産経営の中にインストールしたらどうなるのだろうという、個人的な興味もあった。そこで、保護猫団体さんと連携しながら構想を練りました。

信念を持って突き進んでいけば時代のほうが変わっていく

――これまでどのような仕事をされてきたのでしょうか?
2003年に新卒で大手食品メーカーに入社しました。元々、大学で環境について学んでいたこともあり、環境部門の立ち上げに携わりたかったのですが、当時の花形はやはり開発で、私も開発部署に配属されました。その後、社会的にITビジネスが注目され始めたので、私もそうした分野の知見を身につけようとITの世界に飛び込み、渋谷のITベンチャーに転職して新規事業開発に携わりました。そこでは、ITの仕組みを使って飲食店や不動産に付加価値をつけていくといった仕事をしていました。

――現在とはまた違った分野で活躍されていたのですね
ITの仕事をしている中で地方へ行き、各地のいろいろな業種の社長さんと話をする機会が増えていきました。そうして情報交換をするうちに、インターネットが徐々にブロードバンドになり、ADSLから光に変わっていく過程で、これまで東京から地方に情報が流れていたものが、これからは地方から東京へ“情報の逆流”が起きるはずだと思うようになりました。地方には日本のオリジナリティ豊かな魅力があふれている。今後は地方側に立ち、そうしたコンテンツを形にするほうが、絶対的におもしろいと気づいたんです。また、大学で環境学を学んでいたこともあって、環境に関する仕事を作りたいと思い立ち、独立をしました。

合同会社シナモンチャイ代表・東大史さんと保護猫の写真 ――独立後はどんな仕事をしていたのですか?
最初に相談を受けたのが、「山梨県にある放棄された山林を活用して何かできないか」というものでした。私が思いついたのは、当時、婚活ブームだったこともあり、都市部から若い男女をバスで連れてきて、山林の中で合コンしてもらうという企画です。山林の中にさまざまな体験を用意しているのですが、例えば間伐作業をすると、太い木がバキバキと音を立てながらドーンと倒れる。そうした音や振動を五感で体験することになります。すると、人はどうしてもドキドキしますよね。そうした環境や体験を共有していると、男女の仲は深まっていくものです。実際に結婚して現地に移住する人も現れ、それを知った他の行政から地方再生の依頼が来るようになりました。

――発想がすばらしいですね
でも、最初は疑問視されましたよ。「そんなことは迷惑だ」とか「うまくいくはずがない」といった声がたくさんありました。ただ、私はITベンチャーの時代から、信念を持って突き進んでいったら、時代のほうが変わっていくというシーンを数多く見てきました。実際に地方でさまざまな仕掛けをしてそれが成功すると、地元新聞やテレビが取り上げ、それを知った人たちは私を信頼してくれるようになりました。その後は国の事業にも携わるようになり、2018年から大学に勤めた後、2020年にSANCHACOを立ち上げるため、また独立したという流れです。

キャッチコピー「猫が邪魔するワークスペース」で認知度アップ

――オープン時は順調だったのでしょうか?
SANCHACO のオープンが2020年7月で、コロナの真っ只中でした。なので、そこまで大々的に人を集めることができない状況でしたが、その反面、リモートワークなどの新しい働き方が一気に広まった時期でもありました。実は当初、SANCHACOのワーキングスペースをどこかの会社に「猫といられる事務所」として丸々貸し出そうかとも考えたのですが、リモートワークの需要が高まっていったので、今のような時間貸しにしたという経緯があります。

「SANCHACO」の施設内の写真 ――賃貸住宅についてはいかがでしょうか?
おかげさまで入居待ちが発生している状況です。現在、ペット可の賃貸物件の数は全体の2割程度と言われているのですが、それは既にペットを飼っている人向けの物件になります。一方で、新たにペットを飼ってみたいという人も、同じく2割ほどいるとも言われています。ですが、そういう人たちは、ペット不可の物件に住んでいて、飼えない状況にいる場合がほとんどです。それなら、「ペットを飼いたいけど飼える状況にない層」が住める物件というのは、ある意味、市場として顕在化していなかった部分にアプローチできる。つまり、不動産物件としてもかなり競争力が強いということになります。

――集客はどのようにしましたか?
オープン当初はSNSやGoogle広告を活用しました。でも、一番効果があったのがキャッチコピーで「猫が邪魔するワークスペース」。今までだとワーキングスペースに求めるものといえば、生産性や集中力が向上する環境だったのですが、キャッチコピーによって「猫が邪魔してくる」「生産性が落ちる」というまったく反対の要素が広まって、認知度が高まっていきました。

――資金調達はどうしましたか?
祖母のアパートを取り壊して、新たに今の物件を建てたので、8000万円ほどかかりました。その半分の4000万円を金融機関から借り入れしています。あとは、世田谷区では「木密地域」という木造住宅が密集している場所限定で、古い木造家屋を建て替えると補助金が出るので、それも活用しました。

アドバイスは「アドバイスを聞かないこと」

――運営を続けている中で気をつけていることはありますか?
逆説的かもしれないですが、私自身はそれぞれの猫に対して、そこまでの思い入れをしないように気をつけています。いずれ他の家にわたっていくことを考えると、辛いですし、笑顔で送り出してあげたいので、線引きはしています。

「SANCHACO」の外観の写真 ――現在の仕事をやっていてよかったと思ったことは?
以前、ワーキングスペースで14歳のシニア猫を預かっていました。一般的に、高齢猫は譲渡されにくいのですが、賃貸住宅に住まわれた方がそのシニア猫をすごく気に入ってくれて、一緒に住みたいと言ってくれました。もちろん、寿命のことなどを気にされて、不安だったと思いますが、私は逆に「今は猫が長生きするための情報もたくさんあふれているので、一緒にがんばってみませんか?」と伝えたら、飼うことを決意してくれました。今も飼い主さんと猫によい食べ物やサプリなどを一緒に考えています。

――今後の展開を教えてください
もしかしたらまた猫の物件を立ち上げるかもしれないし、今度は違う動物かもしれない。例えば、これが三軒茶屋ではなくて、駒沢にある土地だったら、私は犬と触れ合える施設を建てていたと思います。町にはカラーがあります。三軒茶屋は路地がたくさんあり、猫が見え隠れする雰囲気が昔からありました。世田谷線では猫の電車も走っています。だから、猫なんです。これが駒沢なら、駒沢公園があって、そこで犬と一緒にランニングしている人がたくさんいる。それなら、犬だろうなと。つまり、どんな付加価値を設けるか。そんなことをこれからも考えていきたいです。

――最後に、独立・開業を目指す読者にアドバイスをお願いします
アドバイスは「アドバイスを聞かないこと」ですね。責任を持ってくれない人のアドバイスは、あくまで好き嫌いでしかありません。私も「猫の物件なんて儲からない」と散々言われました。でも、「それはあなたが古い不動産の考え方で縛られているだけでしょう」と、私は聞く耳を持たなかった。自分が信念を持ってやろうと考えていることなら、きっとどこかの誰かにはフィットするはず。ぜひやりたいことを貫いてください。

SANCHACO

所在地:東京都世田谷区太子堂4丁目6-6
※取材時点の情報です

https://sanchaco.com/

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