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先輩開業インタビュー

映画監督から難病を経て、焼き菓子の世界へ。食の安全とおいしさを追求する街の小さなグルテンフリーカフェ

近年、食や健康意識の高い人に支持されているのが「グルテンフリー」です。小麦製品が合わず、食後に下痢や腹痛、倦怠感などさまざまな症状に悩む方を中心にグルテンを含む食品を摂取しないようにするグルテンフリーの食生活が広まっています。そんな中、東京都東村山市にあるカフェ「Commons Kitchen(コモンズキッチン)」では、グルテンフリーを求めるお客様に向けた焼き菓子が提供されています。店主の河合樹香さんは、元々まったくの異業種でキャリアを築いていました。ところが、途中で体調を崩し、難病であるクローン病を発症したことから食生活を見直し、たどり着いたのがグルテンフリーだったとか。そんな河合さんに、カフェを開業したきっかけや経緯について詳しくお話を伺いました。

小麦粉、卵、乳製品を使わず、ビーガン対応の焼き菓子を販売

コモンズキッチンのショーケースの写真 ――コモンズキッチンではどんな商品を販売しているのでしょうか?
焼き菓子を扱っているのですが、他のお店と少し違うのはグルテンフリーにこだわっているという点です。小麦粉、卵、乳製品は使っておらず、ほとんどの商品がビーガン対応になっています。また、なるべく地元や国産の無農薬農産物を使うということも、こだわっているポイントの一つです。

――どのような方が買いに来ていますか?
今、グルテンフリーにこだわるお客様がとても増えていて、そうした方々が好んで購入してくれています。ただ、グルテンフリーの商品はパサパサしていておいしくないという声も多いので、それなら私がおいしくてふんわりしていて、誰もが楽しめる健康志向の商品を提供しようと、そうした思いで商品づくりをしています。

――特に人気のある商品はどれになりますか?
ケークサレという、フランス発祥の野菜がたっぷり入ったお惣菜ケーキになります。実家がある所沢市で父が畑をしていて、そこで採れた無農薬野菜や、顔見知りの農家さんから仕入れた安全にこだわった野菜を使っているのが特徴です。実は当店のロゴはケークサレの形で、玉ねぎや蓮根などが描かれています。今では看板商品ですね。

映像の世界で活躍、ドキュメンタリー映画が評価されるも難病を発症

――もともと飲食店を始めたいと考えていたのですか?
いいえ、実はまったくの異業種からの転向なんです。高校や大学時代はアメリカへ留学して、卒業後に1年間、カリフォルニアで映像の仕事をしていました。その後、せっかく映像の勉強をしたので帰国してからも続けようと思い、都内にある老舗のドキュメンタリー会社に就職しました。そこでは環境や農業などをテーマに教育映像を製作し、アジア諸国に翻訳し配給する仕事を10年ほどしていました。そんな中で製作した、農業で起こっているさまざまな問題を1匹の虫の視点を通して描いた映画『ホッパーレース〜ウンカとイネと人間と〜』は、2013年ゆふいん文化・記録映画祭第6回松川賞と、2014年第55回科学技術映像祭内閣総理大臣賞を受賞することができました。

――順調にキャリアを築いていたのですね
そうですね。ですが当時はとても忙しくて、働き方はほとんどブラックでした。ただでさえメディアの仕事は生活が不規則になりがちなのに、それにプラスして、生物多様性について学びたくて大学院にも通い始めたんです。私は割と没頭するタイプなので、体の声をあまり聞かずに仕事と勉学に勤しんだ結果、クローン病という国指定の難病を発症してしまって。大学院は卒業したのですが、会社は退社せざるを得なくなりました。続けたかった大好きな仕事でしたが、病気には抗えませんでした。

コモンズキッチンの河合樹香さんの写真 ――その後は治療に専念したのでしょうか?
はい、治療のために会社を辞めてから5年ほどは何もしていませんでした。クローン病は小腸や大腸に潰瘍ができる原因不明の病気で、これという治療法がありません。また、消化吸収が弱まるのも特徴の一つで、食事は胃に負担がかかるものはできるだけ排除する必要があります。油物や刺激物を食べることはもちろんだめ。そんな時に、母に勧められたのがグルテンフリーでした。正直、私は懐疑的だったのですが、一度グルテンを抜いた食事を試したところ、消化が楽になっている実感があったんです。それでいろいろと調べてみたら、有名なプロテニスプレーヤーや超一流の野球選手も取り入れていることがわかり、これはやってみるしかないと思い、本格的に実践したというわけです。

地元のマルシェで出会った、自分の特技で生活する人々

――実際にグルテンフリーの焼き菓子を作り始めたのはいつですか?
せっかくグルテンフリーというものに出合ったので、自分で試行錯誤してパンを作ってみたのが始まりです。私はパンが大好きだったのですが、グルテンが多いため食べることを自制していた時期が続きました。それなら自分でグルテンを抜いたものを作ってみようと思い、米粉や蕎麦粉を使ったパン教室に通ったり、グルテンフリーの本を読んで自分なりにアレンジしながら自作するようになりました。

コモンズキッチンのケークサレの写真

――商品として販売しようと考えたのは?
きっかけは、近所で開催していたマルシェに足を運んだことですね。会社に勤めていた頃は、激務な上に海外に行っていることも多かったので、マルシェという催し物をまるで知りませんでした。体を壊して実家がある所沢市に戻ってみると、平日なのに人が公園に集まって、マルシェイベントが開催されていることに驚きました。そこでは料理好きな人が得意料理を作って販売していたり、クラフト作品が人気だったりと、おもしろそうな世界がある。仕事をしながら、また子育てをしながら、自分の特技でイベントに出展しているのを見て、そうした生き方もあるということをそこで初めて知りました。

――知らなかった世界に初めて触れたわけですね
衝撃でした。知り合いの無農薬のお茶屋さんがマルシェを主催していることを知って、つい勢いで「私も出店させてください」とお願いしてみました。実際にマルシェでグルテンフリーのケークサレを販売してみたところ、売れ行きが好調で購入してくれた方から「こういう商品を探してたんです」という声をいただきました。何となく手応えを感じたので、ひとまずマルシェで1年ほど販売してみることにしました。

師匠を見つけ、教えを乞うのがお店作りの一番の近道

――お店を始めようと思ったきっかけを教えてください
マルシェで販売を続けるためにシェアキッチンを活用していたのですが、それなりにお金がかかるので、どうせなら工房を構えようと思いました。そうした場所を持つことができれば、販売を希望してくれた店舗への卸しもできるし、ネット販売もできるようになる。加えて、自分の生活のペースを変えずに、無理することなく仕事ができるので、それを叶えるために物件を探してみたところ、今の場所が見つかったんです。もとは和風の居酒屋で、2階も使えたので、ぼんやりとですが「カフェスペースにできるかも」と、構想が浮かんできました。そこで思い切ってフルリフォームし、今のお店ができたという流れです。結果的に費用は1000万円ほどかかりましたが、東京都の助成金に申し込み、採択されたのも大きかったです。

コモンズキッチンの外観の写真 ――オープンは何年ですか?
プレオープンしたのは2020年7月です。つまり、世間がコロナで大騒ぎしていた頃になります。開業までの計画を進めているうちに、飲食店は営業停止だ、ステイホームだと言われ始めて。「これはどうなってしまうんだろう」と思いながらもお店の準備を進めていたら、世間はどこにも出かけられないから、それなら地元で買い物しようという動きが出てきました。そんな中でテイクアウトのみの営業スタイルから始めたのですが、それがむしろラッキーでした。なぜなら、今思えばカフェなんてやったこともないのに、最初から母と二人で商品づくりをしながら接客ができたかというと疑問です。きっと挫折していたのではないでしょうか。それを考えると、シンプルに始められたのは結果的によかったと思います。

――メニューはどのように考えたのですか?
開店当初はマルシェで出していたケークサレやパンをそのまま出して、それから徐々に増やしていきました。マフィンなども出すようになると、やっぱりカフェを目指すなら、おいしいコーヒーも提供したいと考えました。そこでどうせ出すなら、やはり体にやさしいコーヒーを出したいと思い、アームズメソッド®という方法で自家焙煎したコーヒーを提供しています。あとは、自家製のジンジャーシロップを使ったジンジャーエールや、こだわりの素材を使ったスープなども販売しています。

――徐々に進化しているのですね
そうですね。ただ、自分一人で初めからすべてが上手くはいかないので、その道のプロフェッショナルから教えを乞うことから始めるようにしています。数々の教室や講習に通う中で、自分が持っているテーマやコンセプトに近しい考えを持っている方に出会うことがあります。私は、そういう先輩や師匠たちから、食のことだけでなく環境やエシカルな商品づくりについて多くのことを学びました。このように先人たちから教えを乞うことで、目指すべきお店や商品作りの大きなヒントを得ることは、成功への一番の近道になると思っています。実はこれは、映画作りと似ていて、自分がそのテーマの専門家である必要はないんです。第一線で活躍している人たちの話を直に聞いて、それを自分なりに解釈したものを映像としてまとめ、人に伝える。今はそれが映像ではなく、焼き菓子になったという感じです。

制度を活用すれば、それほどリスクなくビジネスは始められる

――仕事上でのこだわりはありますか?
商品のラインナップとして、種類を増やすためだけのメニューは作らないことです。全部の商品に提供するまでのストーリーがあり、「どれがおすすめですか?」と聞かれたら、「すべておすすめです」と自信を持って答えられる商品をそろえています。それが、お客様がリピートしてくれている理由の一つだと思っています。商売なので、利益がないと潰れてしまいますが、私は万人受けを狙って商品を大量に作るというよりは、限られたお客様に納得してもらい何回も通いたくなるようなお店作りをしていかないと、結局は大手企業や工場で大量に作られる製品などに対抗できないと考えています。でも、ありがたいことに当店のお客様はその思いやこだわりを舌で感じ取ってくれているという手応えを感じています。

コモンズキッチンのメニューの写真 ――お店を続けていてよかったと思うことは?
映画よりも短期間で成果がわかることでしょうか。映画は評価されるまでに年単位でかかります。今の仕事は単価こそ安いですが、お客様の反応がすぐにわかる。やっぱり再来店して「おいしかったです!」と言われたらうれしいですよ。ダイレクトにうれしい感想をいただけるとやりがいを感じ、お店を始めてよかったと思いますね。

――反対に大変なことは?
映画と同じで、すべて自分でこなさなければならないことです。要は、カフェ経営もプロデュース業なんです。こういう商品を作りたいという思いをもとに材料を集め、味を決めて、実際に形にする。それを写真に撮って、キャッチコピーをつけて、インスタに乗せたり、チラシを作ったり。それに対するお客様の反応を見て、また研究を続ける。もっと細かなことを言えば、店前に出す黒板の字が汚いとだめだし、絵心もないとだめ。ラッピングもうまくならないといけない。もちろんお金の管理も必要で、売上の目標設定や、商品開発は日々の課題です。はっきり言って寝る暇もない。そこは少し大変ですね。

――最後に独立開業を考えている方々に向けてメッセージをください
私自身、企業から離れる時に、奈落の底に落ちるのではないか、もう隠居するしか手がないなんて思い込んでいた時期がありました。でも実際はそうでもないし、自分の得意なことを仕事にしている人たちはいっぱいいる。資金についても起業を応援する助成金や補助金も探せばたくさんあります。そうした制度を活用すれば、それほどリスクなくビジネスは始められると思います。おかげさまで当店もそうしたサポートがあってスタートできました。あとは、何事も始めるのは簡単だけど、続けることが難しいということを知っておくことが大切ですね。私はお店を始めて3年ですが、まだまだ道半ばです。人との繋がりを大切に、一歩一歩進んでいくことが、好きなことを続けるコツではないでしょうか。

Commons Kitchen(コモンズキッチン)

所在地:東京都東村山市久米川町4-15-20
TEL:050-3627-5353
※取材時点の情報です

https://www.commons-kitchen.tokyo/

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