1. 独立・開業・フランチャイズ情報TOP
  2. マイナビ独立マガジン
  3. 先輩開業インタビュー
  4. “困りごと”がビジネスチャンスに!祖父の自分史をつくることから始まった「きおくあつめブック」
先輩開業インタビュー

“困りごと”がビジネスチャンスに!祖父の自分史をつくることから始まった「きおくあつめブック」

近年は終活ブームもあって、自分史作りが注目されています。自分史には、過去の功績をまとめたものや闘病記、戦争体験、遺言、エッセイなど、たくさんの形式があり、作る目的もさまざまです。ただ、実際に作成しようと思うと、執筆に手間取ったり、印刷にも高額な費用がかかったりと、なかなか前に進まないといった声が少なくありません。そんなニーズに対して、手軽に自分史を作成できるサービス「きおくあつめブック」を立ち上げたのが、アトリエつむぎの田島由衣香さんです。デザイナーとしての経験を活かし、亡くなった祖父の思い出を一冊にまとめた際に思いついたアイデアで起業。現在は、「きおくあつめブック」だけでなく、地域企業のチラシやパンフレットの依頼も増えているのだとか。そんな田島さんに、起業のきっかけや活動内容を詳しくお聞きしました。

みんなの記憶を集めて作る「きおくあつめブック」

――まずは事業内容について教えてください
“孫が喜ぶ家族史アルバム”をコンセプトにした「きおくあつめブック」を制作・販売しています。わかりやすくいえば自分史に部類されるものなのですが、残された人たちがより気軽に開けるようなデザインと構成なのが特徴の一つです。自分史といえば、高齢者が自分で執筆するイメージがあると思いますが、「きおくあつめブック」は私がお話を伺い代筆して仕上げます。また、出版社などで立派なものを作るとなると、かなり高額になってしまうケースがあります。それほどコストをかけずに楽しめるものがほしいというニーズに応え、「きおくあつめブック」は制作費も10〜20万円代とできるだけ抑えています。

きおくあつめブックの写真 ――デザインや構成はどのように決めたのでしょうか?
例えば孫の視点から考えると、数百ページもある自叙伝を読むかと言ったら、そうでもないと思うんです。それよりも知りたいのは、故人がいつどこで生まれ、パートナーとどうして出会い、どのように家族と過ごしてきたのか。そして、そうした節々の記録としてどんな写真が残っているのかだと思います。それを考えると、たくさんの写真があって、みんなで楽しめるものがいい。また、写真とともに年表や家系図などがあるとわかりやすいですよね。そこで、自分史とアルバムの中間に位置するようなものを作れるサービスがあったらいいなと思い、現在の構成になりました。

――「きおくあつめブック」を思いついたきっかけは?
試作として初めて作ったのが、祖父母のものでした。祖父の葬儀でふと「私はおじいちゃん子だったはずなのに、祖父のことを何も知らない」と気づいて。また、葬儀にきている人たちも祖父にとって一番近い人たちのはずなのに、みんながみんな、祖父をそれほど知らないのではと思ったんです。小学校の頃だけしか知らない人。大人になって趣味のボーリングクラブの中でしか知らない人。おじいちゃんになってからのことしか知らない私。でも、祖父にとってはそれぞれバラバラではなく全部が彼の人生なんです。そう思うと、なんだか切なくなってしまいました。そこで、みんなの記憶を集めて一冊にまとめようと思い、名前も「きおくあつめブック」にしました。

――そのままネーミングにしたわけですね
はい。作っていて初めて知ることも多く楽しかったし、実際に法事に持っていったら親族みんなが喜んでくれました。まだ幼い親戚の子が、「おじいちゃんって子どもだったの?」と興味深そうに見てくれたのが印象的でしたね。法事は本来、亡くなった故人の話で盛り上がる場なんです。でも近頃の法事は、みんなで食事をして、近況を話して終わるイメージが強い。そんな時に、「きおくあつめブック」があれば場の雰囲気もより有意義なものに変わるはずです。もし祖父と祖母が生きている時に作れたら、もっといろんな話を聞けて、もっと楽しい時間が過ごせたと思います。だから、生前に安価に作れる自分史をサービスとして始めました。

プロフィールブックやインタビューブックの反響に手応えあり

――起業した理由を教えてください
起業する前は、教育系セミナーなどを全国展開している都内の会社に勤務していました。私は美大出身ということもあって、主に社内プロジェクトの制作物を作っていたため、グラフィックデザインを覚えることができました。ただ、かなりのハードワークを求められる会社で、帰宅が遅くなる日も少なくありませんでした。そんな中で妊娠し長期休暇をとった時、まず思ったのが「この会社に戻ってくるのは難しいだろう」ということ。同じ働き方をしていては、子育ては無理だと直感しました。

――では、勤めている頃から起業は意識していた?
私は元から型にはまっていたくないタイプだったのと、自分次第で効率よく稼げるスタイルに魅力を感じていたことから、個人で働くことに憧れをもっていました。さらに妊娠したことで、子育てしながら働くとなったら融通がきくほうがいいと思い、さらに起業への関心が高まったというわけです。もちろん子どもがいても働きやすい就職先が近くにあればと、転職も同時に考えてはいました。ですが、今住んでいる川越からアクセスがよく希望の条件を満たす就職先はなかなかなく、働き方を変えるなら子どもが生まれたタイミングだと感じたため、自分で起業することを決心しました。

アトリエつむぎの田島由衣香さんの写真 ――本を編集した経験はあったのですか?
そんな大袈裟なものではないですが、初めて経験したのは自分の結婚式でした。当時、式にきてくれた友人や知人に配るものとして、席次表とあわせて新郎新婦の生い立ちや出会いの経緯などを載せたプロフィールブックが流行っていたんです。それを自分でも作成し、出来上がったものをInstagramに載せてみたところ、知らない人から「私にも作ってください」とDMが5件ほどきたので作ってあげたんです。それが楽しくて、これは将来的にビジネスになるかもしれないと可能性を感じました。一方で、幸せいっぱいの若者の人生よりも、酸いも甘いも経験していて倍以上も生きている高齢者のほうが、もっとおもしろい話が聞けるんだろうなと、ふと思いついたんです。今思えば、それが「きおくあつめブック」のアイデアの種だったと思います。

――すでに原案があったのですね
あともう一つが、以前に勤めていた会社で、とあるクライアント企業の社員のインタビューブックを作る機会がありました。ある資格試験に合格した24名へのインタビューだったのですが、これも本当におもしろくて。「今度の試験で一番を取れなかったら、お気に入りのゲームソフトを捨てて勉強に集中すると決めていた」など、思わず吹き出してしまうようなエピソードがたくさんありました。そのインタビューブックが大好評で、社内で初めての社長賞をいただいたんです。試験勉強でこれほどまでのドラマがあるのなら、人の人生ってもっと子孫にとって価値のある話がたくさんあるのではないか、と思ったことも起業アイデアになりました。

コンテストへの出場がそのまま事業を始める準備になった

――起業後、集客はどのようにしたのですか?
元々、世にない商品なので、認知してもらうことが大変だということはわかっていました。説明しないと理解してもらえないし、ニーズの掘り起こしもしなければなりません。そこで起業後、すぐに応募したのが埼玉県主催のビジネスプランコンテスト「SAITAMA Smile Women ピッチ2021」でした。起業したのが2021年7月で、翌月には締め切りだったので急いで準備したのですが、まだ仕事がまったくない状態だったので、問題なく出場できました。むしろ、コンテスト1本に集中できたので、周りの出場者よりは有利だったと思います。おかげで最優秀賞をいただくことができました。

――受賞できたポイントはなんだったと思いますか?
前職でセミナー講師もしていたので、人前でプレゼンやスピーチすることに何も抵抗がないのは大きかったと思います。また、他の出場者のサービスや商品よりも「自分ごと」にしてもらいやすいサービス内容なのも強みでした。実は、当初の目標はファイナルに残ることでした。なぜなら、ファイナリストには5分間のスピーチ時間が与えられます。審査員として名だたる面々が参加しており、埼玉でビジネスをする上で知り合いになっておきたい人たちが並んでいるわけです。そこでスピーチできるなんて、この上ない宣伝になると思いました。マスコミも来ていて、ビジネスのPRにもつながりますから。

――起業するには絶好の舞台だったわけですね
そうです。あと、コンテストに出場するメリットになったのが、エントリーシートがほぼ事業計画書になることです。プレゼン資料も営業で使えるので、出場することが事業を始める上での準備になりました。宣材資料もすべて用意してくれていたので、最高のスタートを切れたと思います。さらに優勝できたので40万円の賞金もいただき、運転資金も用意できました。

「きおくあつめブック」が営業ツールの役割を果たしている

――コンテスト優勝後の運営は順調だったのでしょうか?
「きおくあつめブック」で私を知っていただき、その後チラシやパンフレットなど他の制作物の依頼にまでつながることが増えたため、そうした流れができたのはありがたかったです。要するに、ある意味では「きおくあつめブック」が営業ツールの役割を果たしてくれています。

きおくあつめブックの写真 ――本業からさまざまな広がりがあるのですね
そうなんです。その他にも、以前知り合いに紹介いただいた方から「絵本コンテストで賞をもらったんだけど、実際に出版するには数百万円の費用がかかるみたいで…」という相談を受けました。本は出したいけど、お金はない。そこで、私がデザインを担当して数十冊程度を作るなら、費用も十数万円でできるとお伝えすると、「ぜひお願い」と依頼をいただき、まさかの絵本作りをすることになりました。
さらに、その絵本に点字をつけようという話になり、専門の団体に相談すると点字のボランティアさんを紹介してくれて、無料で付けてくれることになりました。後日その方の自宅に伺ったところ、実はそのボランティアさんがコーラス隊の代表の方で、「今度の演奏会でビデオ撮影してくれる人がいないんだけど、お願いできない?」といわれ、私が撮影することになりました。それまで編集ソフトを使ったことがなかったのですが、撮影したものを悪戦苦闘しながら編集し、チャプターをつけ、DVDの表紙もデザインして、盤面印刷したものを納品したこともあります。

――困りごとがそのまま仕事になっている、と
あくまでもメインは「きおくあつめブック」ですが、最近は自分の仕事としてチラシやパンフレット作りの比重が大きくなっています。地域のいろんな方々と知り合うと、「やりたかったけど、形にしてくれる人がいなかった」というお話をよく聞くんです。それなら私がやりましょう、ということで仕事が増えています。私は起業した時に、地域に根ざした仕事をしたいと密かに思っていました。最近は、起業後にSNSを活用して幅広いエリアで事業を展開している人が増えています。でも、私は自分史作りという仕事柄、もっと町の人たちに知ってもらえる活動をしていきたいという思いがあります。だから、人の役に立っている今の状況はとても楽しいですね。近所の商店街を盛り上げるためのイベントやお店の立ち上げなどにも参加することで、日々やりがいを感じています。

“人の悩み”を見つけたら、それがビジネスチャンスになる

――今後の展開を教えてください
「きおくあつめブック」を作ることが、七五三の写真を撮るくらい当たり前のことになるといいなと思っています。たとえ作らないにしても、家族でおじいちゃんやおばあちゃんの話を聞くのが定番化するような、そうした習慣づくりの一助になれたら最高です。あと自分個人としては、ただのフリーランスデザイナーではなく、町のデザイナーになりたいです。地域の方々がなんでも相談できるデザイナーとして、町中から必要とされる人になれるような生き方をしていきたいと思っています。

アトリエつむぎの田島由衣香さんの写真 ――最後に、独立・開業を目指す読者にアドバイスをお願いします
起業は2パターンあると思っています。融資を活用して手広く大きなビジネス展開を目指すパターンと、私のようにプチ起業に近い、小さく展開するパターンです。私はどちらも正解で、無理せずそれぞれの事情に合わせた起業の仕方をするべきだと思っています。私には子どもがいて、借金などのリスクも負えないと考えたので、プチ起業になりましたけど、ここから会社にすることだってあり得るわけです。

――プチ起業するなら、どんな仕事がおすすめですか?
世の中のちょっとした困りごとは仕事につながります。私の場合だと、お孫さんが喜ぶような自分史を制作してくれるサービスがないことが困りごとでした。そうした“人の悩み”を見つけたらビジネスチャンスです。そこで解決するアイデアが生まれれば、「よしやるぞ!」と気合いを入れなくても、少しずつ始めてみると、自分の人生がきっと変わるはずです。いろんなやり方があるので構えずに、小さくスタートを切ってみてはいかがでしょうか。きっと生きることがもっと楽しくなりますよ。

アトリエつむぎ

所在地:川越市的場
TEL:070-8499-1955
メール:atelier_tsumugi@outlook.jp
※取材時点の情報です

https://www.atelier-tsumugi.com/

 マイナビ独立マガジンの最新記事

一覧を見る

 マイナビ独立フランチャイズマガジンの最新記事

一覧を見る
PAGE TOP