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先輩開業インタビュー

廃棄間近の食材でクラフトビール作り!副業からアップサイクル事業を立ち上げたベンチャー企業

近年、企業によるサステナブルな取り組みとして注目されているのがアップサイクル商品です。賞味期限などにより捨てられるはずの廃棄物を、まったく新しい別物にアップグレードして生まれ変わらせた商品のことで、食品ロスなどの観点から取り組む企業も増えており、さまざまなものが誕生しています。そんな中、横浜発のBeer the Firstが販売しているのは、廃棄間近の食品を使ったクラフトビール。JALや三菱地所など大手企業をはじめ、パンやご飯、麺などを原料に新しいビール作りに取り組んでいます。同社代表の坂本錦一さんに、ビジネスの内容や起業のきっかけ、また商品作りについてなど詳しくお話を伺いました。

廃棄間近の食材から作ったクラフトビールを販売

――まず事業内容を伺ってもいいですか。
私たち「Beer the First」は、廃棄間近の食材をアップサイクルしたクラフトビールを企画・販売する「UTAGE BREWING」を展開しています。炭水化物を麦芽に置き換えてビールを作り出す製法を採用していて、基本的にはパンや白米、麺やお菓子などを原料にしたビールを企画し、売り出しています。

――これまで何商品ほど販売してきたのでしょうか?
これまでに開発したのは9ブランドで、その中でも2、3種類の味を作ったものもあるので、商品数は12、13種類ぐらいでしょうか。代表作として知られているのは、JALの国際線ラウンジで提供される余剰ご飯を活用し、アップサイクルしたクラフトビール「Japan Arigato Lager」。また、三菱地所保有ビルの災害備蓄食品から作ったクラフトビール「Loop Marunouchi」や、長野県のお土産屋さんが作っているウエハースの切れ端を使ったものなどもあります。

コロナ禍をきっかけに副業でクラフトビール作りを開始

――今の事業を始めた理由を教えてください
私は元々食品の卸をしている会社で働いていました。地方の農家さんや食品メーカーさんからの商品調達を担当していたのですが、そこで見ていたのが廃棄になる食品です。「もったいないなあ」と感じ、何かできないかと考えることも少なくありませんでした。そうしているうちに、やってきたのがコロナ禍で、一気に在宅時間が多くなりました。そこで、私はクラフトビールが好きなので、一度ビール作りをしてみようと思ったのですが、酒税法などの関係でそれは違法になってしまいます。それなら会社としてやってみようと思い、どうせなら以前から問題視していた廃棄食品と掛け算した商品を作ろうと考えたのが、今の事業を立ち上げたきっかけになります。ただ、まったくの素人だったので、まずは副業として始めました。今の仕事を本業にしたのは2023年2月になります。

――クラフトビールには詳しかったのですか?
知識はほとんどありませんでした。なので、まずはYouTubeを観たり、書籍を買って勉強したりして、徐々に理解していきました。また、インターネットで調べてみると、クラフトビールのレシピを公表している海外サイトがあって、そうした情報は商品作りでとても参考になりました。外国だとクラフトビールを自宅で作っている人も多いようで、レシピをサイト上でシェアしているんです。そうしたサイトで見たレシピに関して運営元へ連絡して、「このレシピで合っていますか?」「どのように製造していますか?」と質問していました。

坂本錦一さんの写真 ――最初の商品はどのように企画したのですか?
私は神奈川県横浜市に住んでいるのですが、近所にあるパン屋さんに声をかけたのが最初です。店舗展開しているパン屋さんで、横浜高島屋さんへも商品を卸していたので、繋いでいただき提案することができました。そうして生まれたのが、横浜高島屋さんの廃棄間近のパンを使ったクラフトビールで、それが当社の商品第一号になります。大手百貨店ということもあり、プレスリリースなども出していただけたのと、ちょうどサステナブルへの取り組みが一般的に注目され始めたタイミングだったこともあって、メディアから取材申し込みがたくさんあったのはラッキーでした。テレビでも3番組ほどで取り上げていただき、反響がかなりありました。

――売れ行きはどうでしたか?
メディアで紹介されたこともあって、想定していたより5、6倍ほどの売上がありました。初日は約200本を店頭で販売したのですが、その日に半分は売れてしまったのには驚きました。せっかく取材を受けたテレビ番組の放送日前には売り切れてしまいそうな勢いで、在庫がもたないと心配になったほどです。お1人様1本までと販売規制をかけて、何とかテレビでの放送日までもたせたのを覚えています。

「酒類小売業免許」がなく販路拡大計画が破綻に

――横浜高島屋さんでの販売後はどのように展開していったのですか?
横浜高島屋さんのパン屋では神奈川県にある40社ほどのパンを扱っていて、800種類ほどの商品が並んでいます。私はその提携しているパン屋さんにビールを卸せるようになれば、一気に販路が広がると考えていました。ですが、ビールを卸すにも各店舗がお酒の販売免許を取得していないと販売できないということをそこで知り、愕然としました。

――販売免許については知らなかったのですね
恥ずかしながらまったく知りませんでした。それで「これはパンだけだと難しいかもしれない」と思い、次にチャレンジしたのが、災害備蓄食品を使ったビールです。横浜高島屋さんが防災の日に備蓄品フェアを開催していて、それに合わせて販売しようと企画したのが三菱地所保有ビルの災害備蓄食品を使った「Loop Marunouchi」です。その次に、ラーメンの麺からビールを作ろうと、横浜開華楼さんの麺と山本海苔店さんの海苔を使った「華麺舞踏会」、続いて一風堂さんと開発した「KAEDAMA ALE」を商品化しました。そして、2024年3月に発売したのがJALさんとの「Japan Arigato Lager」です。

JapanArigatoLagerの写真 ――事業を成長させる上で苦労したのはどんなことですか?
事業を始めた当初、私はお酒を扱うための免許を何一つ持っていませんでした。販売するのに必要な免許、卸すのに必要な免許など、酒税上でいくつか分かれているのですが、どれも取得していない、まったくのゼロからのスタートです。なので、第一号商品はビールの製造会社と横浜高島屋さんで直接契約を結んでもらうなど、手間がかかった部分が多くありました。

――現在、アップサイクル・クラフトビールに対して企業からの問い合わせは多いのでしょうか?
はい、たくさんいただいています。当社の取り組みは東京都のアップサイクルを促進するモデル事業に選ばれています。それを知って企業からお声がけいただくケースが少なくありません。また、大企業ほど廃棄は出やすいという現実があります。つまり、課題を持っている可能性のある企業がまだまだ存在しているということ。サステナブル社会の中で、当社の存在価値がますます高まっているのを感じますね。

ターゲットに合わせてコンセプトを作り、味やデザインを決める

――資金調達はどうされましたか?
最初は自己資金でスタートしました。クラフトビールは大量に作ると、とてもお金がかかってしまいますが、小ロットで作れば数十万円から製造することができます。副業から始めたこともありスモールスタートを切りたかったので、当初は本数を抑えて発注していました。そもそもクラフトビールは生きた酵母が入っているので、要冷蔵で保管する必要があり、賞味期限が短いという特徴があります。また、大量生産するには加熱処理が必要なので、そうした意味でも小さく作り、小規模で販売しようと考えていました。

――味やパッケージデザインはどのように決めているのですか?
ビールの種類は130ほどあるといわれています。まず、その中から味の方向性を決めて、「こういう味だと素材を生かせます」「こういうペアリングができますね」と、コラボ企業と相談しながら決めています。例えば、横浜高島屋さんのケースだと、パン売り場に立ち寄るお客様は女性が多かったので、女性が飲みやすいビールに方向性を絞って味を決めました。デザインに関しては、知人にデザイナーがいるので、その方にお願いしました。商品コンセプトをクライアントと決めて、それに沿ったデザインを作ってもらっています。

――製造する工場はどのように探したのでしょうか?
伝手がまったくなかったので、ゼロから探しました。泥臭く、作ってくれそうなところを片っ端から検索して、協力してくれる工場を見つけました。パンを使ってビールができるか相談したところ、「できます」という回答をいただいた時は本当にうれしかったです。

仮説を立てて、数を打つ。それが成功への最短距離

――今後の展開を教えてください
現状の委託製造だと、利益がどうしても少なくなってしまうという課題があります。そこで、自社でも製造できる体制を整えようと準備をしている最中です。ただし、自社工場をもつのはかなりコストがかかってしまうので、建てるのではなく、クラフトビール作りができる貸し工場を探しています。

――現在の事業を続けていてよかったことは?
思い描いていた商品を実際に作って販売までたどり着けた、それだけでも事業をスタートした意味があると思っています。また、狙っていたわけではないのですが、今の社会がサステナブルな商品や取り組みを求めているので、当社への注目度が高く、商材として成長が望める分野であったこともビジネスとして楽しめています。立ち上がったばかりのベンチャーなのに、大企業と対等に仕事ができている現状は、私自身とてもワクワクします。当社としてはこのワクワク感を非常に大事にしていて、これからも常に楽しんで仕事をしていきたいと思っています。

坂本錦一さんの写真 ――最後に、独立・開業を目指す読者にアドバイスをお願いします
「とりあえずやってみる」ことが大事だと思います。リスクを抑え、スモールスタートでできることは意外とたくさんあります。それに、いきなり大きく“当てる”ことは、相当難しいはずです。私も地道に事業を続けてきて、やっとここまで来たという思いです。今ある本業を続けながら、思いついたことをいろいろと「数を打つ」。これが一番よい手段ではないでしょうか。正直、数を打たないと成功するのは難しいと思います。私も新規開拓でさまざまな企業へ営業したり、新しいクラフトビール作りに挑戦しては、何度も玉砕しています。だからこそ、数を打つことを大事にしています。とにかく仮説を立てて、小さく検証してみる。それが成功への最短距離だと思います。

――振り返ってみて、副業からのスタートでよかったと思いますか?
間違いなく正しかったと思います。売上が立つまでにこれほど時間がかかるとは思ってもみませんでした。商品を作ってすぐに販売すれば利益を上げられますが、経験ゼロからのスタートだとそうはいきません。私の場合、1つの企画が商品として完成するまでに、最低でも半年以上はかかっています。中には2年以上実現できていないものだってある。これが今の事業一本だけに絞っていたら、かなり厳しかったと思います。でも、副業なら時間をかけられます。できるだけリスク回避をして、タイミングを見ながら起業することをおすすめします。


株式会社Beer the First

所在地:神奈川県横浜市神奈川区神大寺 2-5-4-403
電話番号:090-8562-5138
※取材時点の情報です

https://beerthefirst.com/

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