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先輩開業インタビュー

住まいに困る人のサポートがしたい!そんな思いで主婦が始めた不動産業

「衣・食・住」はどれも生活には欠かせないものです。中でも「住」は、暮らしの基盤となる場所ですが、住まいを持つことが難しい人がいるという現実があります。例えば、高齢者や体や心に障がいのある方、LGBTの方や外国人労働者など、日本で暮らす上で社会的に立場が弱いとされている方は、物件の大家さん(あるいはオーナー)から理解を得られず、住むことができないケースが少なくありません。そうした方の住まいの確保をサポートする居住支援を事業の一環として積極的に行っているのが、神奈川県藤沢市にある不動産業者「にゃー企画合同会社」代表の久世妙さんです。主婦であり、子を持つ母でありながら、とあることがきっかけで困っている人のサポートがしたいと起業を決意。市や県と連携しながら支援活動を行っています。そんな久世さんに、なぜこの事業を立ち上げたのか、その理由や経緯を詳しく伺いました。

偶然見たニュースから起業を決意

――まずは事業内容について教えてください
大きく3つあります。まず主軸は、高齢者や障がいのある方、またLGBTの方や外国人労働者など、住居を見つけることが比較的困難な方を対象にした賃貸仲介です。2つ目は不動産売買で、主に中古マンションを買取り、リフォームして再販しています。そして3つ目が、住宅診断士として第三者的な立場から住宅の現在の劣化状況をお伝えし、改修ポイントなどをアドバイスする住宅診断になります。

にゃー企画合同会社の看板の写真 ――起業したきっかけを教えてください
この会社を立ち上げる前、来日していたベトナム人の技能実習生たちがコロナの影響で帰国できなくなっているというニュースを目にしました。その中で、困っているベトナム人の寝食をボランティアでサポートしているお寺の住職さんが取り上げられていたのですが、コスト的にとても大変そうでした。そこで、自分も住まいに困っている人の手助けになるビジネスがしたいと思い、不動産業を始めることにしました。このきっかけをもとに、ベトナム語で家という意味のnhà(にゃー)を、社名に含めたというわけです。

――長くサポートするためにビジネスを始めたのですね
そうです。ボランティアでは、まず自分が豊かでないと続けることが難しくなってしまいます。そこで、生きる上でなくてはならない住居の分野で、民間の不動産会社として人の役に立てないかと考え、事業を立ち上げました。

――ビジネスを成り立たせるために工夫していることはありますか?
私が扱う賃貸仲介の案件は市からの依頼が多く、利益としては非常に少ないのが実情です。でも、自立が困難な方々の住まい探しこそ、私がこの事業を始めたきっかけであり目的です。それを継続するためにはしっかりと不動産売買や住宅診断といった他の事業で利益を出すことが大切で、事業バランスが非常に重要になります。自分が生活できるだけの収益があるからこそ、やりたいことに集中できるというわけです。

「もう少し家にいてほしい」家族からの願いで独立

――起業前に不動産業の経験はあったのでしょうか?
起業する少し前に、半年間だけ町の不動産会社で働いていました。未経験だった私に対して、熟練の方がサポートしてくれておかげで、経理、営業、雑務のすべてを経験できたのはラッキーでした。不動産売買には切ってもきれない銀行とのやり取りなども見せていただくことができました。その知識がなかったら起業は難しかったと思います。

――半年で退職した理由はなんですか?
仕事がなかなか覚えられず、一日の稼働時間がかなり増え、家族から「もう少し家にいてほしい」と言われてしまって。土日はお休みをいただいていたのですが、仕事も家事も中途半端になってしまい、それなら自宅で仕事しようと思い、半年で退職し、起業に踏み切りました。2020年5月に個人事業主としてスタートし、半年後には法人化しました。

にゃー企画合同会社の写真 ――とても早いスピード感で独立されたのですね
ほとんど勢いで起業しました。最初の資本金も社名にあわせて282万8000円と、語呂が「にゃーにゃー」になるようにしました。今思うとふざけていますよね。オフィスも自宅の一室を改築して業務違反にならない程度に仕上げただけ。そこに、専用の出入口を設けてオープンしました。

――法人化した理由はなんですか?
あまり大袈裟に会社を作ると、それはそれでまた家族に迷惑をかけてしまうので、こじんまりと個人事業主として始めたのですが、物件が売れるとそれなりに収入があるので、税金などの問題が出てきてしまいました。その結果、法人化しないと経営が難しくなったというのが本音です。

資格取得で仕事の幅を広げながらスキルアップ

――独立にあたってどのような準備をしましたか?
まずは必要な資格を取得しました。宅地建物取引士や、競売に必要な競売不動産取扱主任者などです。あとは、自分で不動産を仕入れることになるので、もっと建物のことを知ろうと思い、住宅診断士も取得しました。当時はあくまで資格取得は知識を得るためであり、事業としての住宅診断は考えていなかったのですが、今では柱となる事業の一つになりつつあります。

――そのほかに勉強したことはありますか?
リフォームをするにあたっては、床の貼り替えや水道管の修理など、住宅のさまざまな箇所を修繕するための知識が必要です。大工さんや業者の方々にお願いするにも自分に知識が無いと無理な依頼になります。そこで、クロス貼りや電気工事に関する資格もいくつか取りました。なので、業者と一緒に現場へ行って施工を自分で行うこともあって、その際は自分で対応した分の施工費をまけてもらうこともあります。

――取得した資格が活きているのですね
仕事に活かせる資格はこれからもどんどん取得していこうと思っています。少し前にアスベストのチェックが法律で義務付けられたので、石綿作業主任者の技能講習を受けました。不動産売買に必要な知識ですし、お客様からの相談にも乗りやすくもなります。資格を取ると仕事の幅を広げながらスキルアップできるので、一挙両得だと思っています。

積極的な支援活動が結果として営業につながった

――営業活動はどのようにしましたか?
不動産関係の仲間がいない、お客様を紹介してくれるような取引先もない、ゼロからのスタートで何をしてよいかわからず、具体的な営業活動は特にしていませんでした。強いて言えば、資格を取るために参加した講義の先生や、一緒に受講した受講生たちに名刺を配ったことくらいでしょうか。特に先生には、自分がこれからやりたいことを話して、「わからないことがあったらまた聞いてもいいですか?」と、つながりを持つための努力はしました。実際にお客様を紹介していただけるようなことは少ないですが、困った時に親身に教えていただけるので、心強い存在になっています。

にゃー企画合同会社の久世妙さんの写真 ――つながりのない中、集客はどのようにしたのでしょうか?
私がやりたかったのが社会的立場の弱い方々の賃貸仲介だったので、まずはそうした案件を紹介してくれる行政と仲良くなろうと思いました。そこで、藤沢市、茅ヶ崎市などの居住支援協議会に加盟して、そこから仕事をいただくことから始めました。加盟してわかったのは、意外と支援に力を入れている不動産業者が少ないということです。あくまで支援というボランティア要素が強い分野であり、利益も少ないので、熱心に取り組むだけの余力がある業者でないと難しいのかもしれません。その点、私は居住支援が目的の賃貸仲介だったので、市役所の方々からすれば珍しかったと思います。

――居住支援以外の事業の集客はどのようにしたのでしょうか?
実は、居住支援をした方から不動産にまつわる別件の仕事を依頼されることがあり、支援活動が不動産売買などの仕事にも繋がっています。例えば、高齢になった父の一人暮らし先を探してほしいと依頼をしてきた息子さんがいたとします。お父様の生活スタイルから適切な物件を探すべく、自然の中をお散歩したい方なのか、繁華街など賑やかな場所が好きな方なのかといった、好みなどをヒアリングします。そのときにご家族との信頼関係が構築され、ご家族が抱える悩み事などもお伺いするようになります。その中で、息子さんから「実は自分のところに売りたい物件があって……」という話をいただき、不動産売買もお任せいただけたという流れです。結果論ですが、そうした流れで不動産売買の仕事も増えていきました。

独立に大切なのはその人にしかない発想

――今の仕事のやりがいを教えてください
人助けを目的にしている仕事なので、子どもに胸を張って言える仕事という点は、大きなやりがいになっていると思います。子ども自身も「お母さんはどんな仕事をしているの?」と友達に聞かれたら、「困っている人に家を探すお手伝いしている」と、自慢げに話しているようでうれしいですね。家族からの理解はお金以上の喜びがあります。

――印象に残っている案件はありますか?
居住支援の案件で、40代で精神疾患がある無職の男性が、入居に必要な保証会社の審査で落ちてしまい、10軒近くあたっても住まいが決まらないというケースがありました。男性は「もう一生決まらないのではないか」と肩を落としていたのですが、私が諦めずサポートを続けた結果、ようやく家が決まったときは本当にほっとした表情をしていて。この仕事をしていてよかったと心から思えた瞬間でした。また他にも、親が残した物件を売りたいと相談にこられた方がいたんですが、その方は障がいがある子どもを持つシングルマザーで、時間もない、お金に余裕もない中でどうにもならず困っている状態でした。そこで私が代わりに親族や弁護士と話をして、ようやく売却の目処が立ち、依頼主の女性が「やっと一つ肩の荷が下りました」と安堵されたときも、今の仕事の社会的意義を感じることができました。

にゃー企画合同会社の久世妙さんの写真 ――まさに目的を達成した喜びを感じられる瞬間ですね
大変ですが、「ありがとう」と言ってもらえる仕事なので、忙しくても苦ではないですね。あと、ものづくりが好きなので、リフォームは私にとってほとんど工作の時間です。立地から購入しそうなお客様を想像し、今回は大正ロマン風の室内にしよう、なんてデザインしています。既存の床を板張りにして、腰壁を落ち着いた暗い色にして、あとは珪藻土を自分で塗ってと、そういうことを考えているだけで最高に楽しいです。

――最後に、独立開業を考えている方へメッセージをください
もし独立するかどうか悩んでいるようだったら、とりあえず行動してみることをお勧めします。私は、独立しても損になることはなく、すべてが人生経験になると思っています。かかるお金も勉強代だと思えばいい。独立前に時間的に余裕がなかったり、知識不足といった理由で時期を引き延ばす方もいますが、経験者や知識がある方にサポートしてもらえば解決します。人間は感覚の生き物で、見て、聞いて、匂いをかいで、肌で感じとって、思考を巡らせています。その人にしかできない発想の種があるからこそ、独立しようという思いが生まれたはずなんです。だから、とりあえず開業してみるべきだと思います。スタートしてみて違ったと思ったら、辞めればいいだけですからね。

にゃー企画合同会社

所在地:神奈川県藤沢市辻堂西海岸1-5-7-11
メール:nya.kikaku@gmail.com
※取材時点の情報です

https://www.nya-kikaku.jp

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