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先輩開業インタビュー

海なし県の埼玉で「かき焼き」の店を開業。セカンドキャリアを楽しむコツは“無理しない”こと

日本全国の47都道府県のうち、海岸線を持たない“海なし県”は8つ。その1つである埼玉県の中部にあるベッドタウンの鶴ヶ島市に、産地直送の旬な牡蠣を炭火焼で楽しめるお店「かき焼き ヌマタ」があります。店主である沼田好一さんは元商社の営業マンであり、定年後にまったく未経験の飲食店を開業。どんな経緯で店を立ち上げ、なぜこの場所で牡蠣を提供したのか。詳しくお話を伺いました。

セカンドキャリアはのんびりと個人経営の飲食店を開きたかった

――セカンドキャリアで飲食店を始めたのはなぜですか?
理由は単純です。今年72歳になるのですが、60歳で定年を迎えた後、何もすることがなく、家でゴロゴロしていてもしょうがない。それなら少し前から興味が湧いていた飲食店でも始めてみようかと考えたのがきっかけです。とはいえ、大げさに手広く商売をしたいという欲もなかったので、体力的に無理をせず比較的自由に運営できる店を持ちたいと思い、この店を立ち上げました。

セカンドキャリアで開いた「かき焼きヌマタ」の炭火焼の牡蠣の写真 ――海のない埼玉、しかも中部に位置する鶴ヶ島市で牡蠣を提供しようと考えたのはなぜですか?
自宅が同じ鶴ヶ島市にあり、近所でのんびりと営業したかったからです。特に市場調査をしたわけではなく、海がないから評判になるだろうといった狙いもありませんでした。牡蠣を中心とした海鮮の炭火焼きスタイルも、飲食店に携わったことのない私でもできることを考えた結果、自然と行きついたものです。もしこれがこだわりの料理を提供する店であれば、腕を磨く必要があり、定年後に始めるには少しハードルが高い。それなら産地直送のよい素材を仕入れて、それを焼いて食べるというシンプルな方式がよいだろうと考えました。

――牡蠣はどこから仕入れているのでしょうか?
この店を立ち上げることを決めてから、都内で牡蠣や海鮮を炭火焼きで提供している店に修行に行ったのですが、そこで牡蠣の仕入れ先を紹介してもらいました。その後は、DMや電話などで業者から営業がある度に、お試しで取り寄せて味がよければ仕入れています。扱っているのはすべて生牡蠣で、今取り寄せているのは宮城県女川産です。季節によっては三重県から仕入れるなど、できるだけ旬のものを出すように心がけています。その他のホタテやはまぐりといった貝類は県内の卸売市場に買い付けに行き、自分の目で見て新鮮で旬を迎えたものを提供しています。

数字に追われる日々だったサラリーマン時代の苦い思い出

セカンドキャリアで開いた「かき焼きヌマタ」の備品の写真 ――以前の職業は何をされていたのですか?
大手物流会社のグループ企業で商社マンとして営業を担当していました。学校を卒業後、入社してから定年を迎える60歳まで転職することなく勤めていたので、毎日数字ばかりを追いかける日々でした。主に建設会社を相手にクレーンなどの重機を販売していて、扱う額も何億と大規模な取引がほとんどです。毎月のノルマもきつくて、課せられた目標をクリアするのにとにかく一苦労でした。

――飲食店とはまったく違う分野で活躍されていたのですね
会社に勤めていると勤務年数によって役割や責任も大きく変わっていきます。単にノルマをクリアするだけでなく、人事などの管理も任せられるようになる。成績がよいと次の年はさらに高い数字を求められ、年々ハードルが高くなっていくわけです。それを超えられなければ、当然のように人員整理が始まる。同僚や部下に移動やリストラを告げるのはとても辛いもの。今振り返ってもかなり苦い思い出です。そうした経験もあってか、今思い返すと当時から個人で自由気ままに店を経営している人に憧れていたように思います。

――サラリーマン時代からお店の経営を考えていたのですか?
いいえ、会社勤めをしているときは個人で商売をしている人にうらやましさこそありましたが、自分で始めようとまでは考えていませんでした。定年前には会社で退社後についての研修会が催され、セカンドキャリアを考える機会があったのですが、そのときは定年後のことなどまるで想像もつきませんでした。外部講師から「人生は長いのだから定年になってからのことも考えておくように」と言われ、数年後の目標を立てる課題が出されるんです。でも、日々の業務のことで頭がいっぱいで、そんなことまで考えている暇がない。研修後にグループで目標を発表するのですが、私は何も思いつかず提出すらしなかったと思います。

定年後に待っていた「行き場所がない」という現実

セカンドキャリアについて真剣に考え始めた時期について語る「かき焼きヌマタ」店主の沼田好一さんの写真 ――実際にセカンドキャリアについて真剣に考え始めたのはいつ頃でしたか?
退職後、数年たってからですね。定年を迎えた後、業務の引継ぎを兼ねて後任へのサポートを会社から頼まれ、2年ほど契約社員として働いたのですが、それも辞めてからは自宅でただテレビを観るだけの毎日です。こうなると大変なのが妻ですよ。今まで何十年と早朝から夜遅くまで外で働いていた旦那が家に居つくわけですから。生活のリズムが変わり、困惑するのも当然でしょう。それならと、私もできるだけ外出しようと考えるのですが、どこにも行き場所がない。これは私だけでなく、定年を迎えたサラリーマンによくある話ではないでしょうか。

――趣味などはなかったのですか?
会社勤めで多忙な毎日を送るサラリーマンを経験した人なら共感してもらえると思いますが、仕事しかしてこなかったので今さら没頭できる趣味なんかありません。都内で働き詰めのいわゆる“仕事人間”だったので、これといったご近所付き合いもなく、気軽に声をかけて一緒に出掛けるほどの関係性も構築できていない。するともう自宅にこもるしか手がなくなるのです。でも、そんな自分を見る妻の目が気になるのも事実。これは何かしないといけないなと悩みました。

――勤め先だった会社の同僚と出掛けたりはしないのですか?
会社の付き合いというのは、仕事ありきのものです。年に1回、OBが集まって旅行に行ったり、週末などにゴルフで集まったりすることもありますが、普段から飲みに誘って出掛けるようなことはないですね。そもそも住んでいる場所も離れていますから。それに、上司や部下の関係になるともっと複雑で、それなりに気を遣うものでしょう。会社を辞めた後も気疲れするような付き合いはしたくないと誰もが思うはず。そういったことを考えると、ひんぱんに連絡するのも気が引けます。

――では、現状を何とかしようとすぐに行動したのですか?
商社に勤めていた頃から「うちで働かないか?」と声を掛けてくれていた運送会社の社長が近所にいて、そこで契約社員として2011年から働き始めました。運送という仕事上、トラックでの配送中にトラブルが起こることもしばしばあり、その問題を解決するために交渉役として雇われたのです。荷物の破損や車の事故などが発生した際に、話し合いをしに出向くのが私の役割です。これまで営業一筋できたので、交渉事は専門分野ですからね。頭を下げるのなんてお手の物。今も週3日の契約で勤めています。

――お店を続けながら勤めているのですか?
そうです。店の営業日が水・木・金・土・日の17時から21時まで。運送会社では月・火・水の日中のみ働いています。丸1日休める日はないですが、家にいても何もすることはないし、外に出て働いているほうが健康的です。もし用事があれば、前もって告知をしてお店を休んでいますし、時間を遅らせて営業することもあります。それが個人経営のメリットでもあり、無理をしないことを前提で始めたので、かなり自由にさせてもらっています。常連になってくれたお客様もそうした事情はわかってくれていますからね。

費用はすべて退職金から。こだわりをなくして出費を抑える

セカンドキャリアで開いた「かき焼きヌマタ」の外観の写真 ――お店をオープンするまでの経緯を教えてください
当店は2015年にオープンしたのですが、前年にサラリーマン時代に通っていた生牡蠣を扱う都内のお店にお願いして、経営に関する知識やノウハウを教わりました。その店の経営者もサラリーマンを経験した方で、脱サラをして海鮮の炭火焼きを始めたということもあり、こちらの事情を理解してくれていろいろと親切にアドバイスをくれたのは幸運でした。1年くらいの間、週に3日ほど通って、16時から19時くらいまで下準備を手伝っていたと思います。

――店を始めるにあたり、土地の購入や建物の設計はどのように進めたのでしょうか?
土地は地元の不動産会社に相談しました。この店が建つ前は竹藪で、長年売れていないことを知っていたので、ピンポイントで狙いをつけていました。値段交渉も、いわゆる“売れない土地”だとわかっていたこともあり、有利に進めることができました。建物は設計事務所を経営している地元の同級生にお願いし、特にこだわりもなかったので、予算を組んでその中に納まるようにしてほしいとだけ伝え、後はおまかせです。必要な設備は修行に通っていたお店を参考にしてそろえました。土地と建物と設備を合わせて、ざっくりですが総額2500万円かかりました。

――費用はどのようにして捻出したのですか?
すべて退職金の中から用立てました。なので、どこからも借りていません。人にこの話をすると、必ず「家族がよく許したね」と言われますが、ずっと家にいられるよりましだったんじゃないかなと。実際、妻に相談したときも「私は口を出さない代わりに、手伝いもしませんから」と言われました。ただ、最後まで反対したのが親戚です。「今から飲食店を始めるなんて何考えてるんだ」なんて言われましたが、お金を貯めこんでいたって何かあるわけじゃない。それよりも人に喜んでもらえることをしたかったんです。

セカンドキャリアで開業するなら自己資金のみでできることを

セカンドキャリアで開いた「かき焼きヌマタ」の内観の写真 ――集客はどのようにしているのですか?
オープン時に広告を出したり、チラシを出したりといったことは一切していません。それでも、店名がわかりやすく「かき焼き」としたからか、珍しがって来てくれる人がかなりいました。オープンから5年たった今でも、「前から名前が気になっていて」と来店してくれる方も少なくありません。駅から住宅地へと続く通り沿いに建っていることもあって、周囲に飲食店もなく、目立っていることも理由の一つでしょう。

――店は何人体制で運営しているのですか?
基本的には私とアルバイト1名の二人です。忙しいときはお客様にお願いして、自分で伝票をつけてもらったり、注文した品を取りに来てもらったりしています。「トラブルにならないの?」と聞かれることもありますが、世の中そんなに悪い人はいません。皆さん正直に自分の頼んだものを書いてくれますし、嫌な顔をせず協力してくれます。こちらがのんびりしているせいか、そういう雰囲気を察してくれているのでしょうね。

――お店を始めてみて今感じている一番のメリットはなんですか?
この年齢になると、若い人と話すことが少なくなります。この店はそうした機会をくれる貴重な場所だと思っています。また、家族連れで来てくれた方がおいしそうに食べている姿を見ていると、本当にやりがいを感じます。ここは駅から少し離れた場所にあるのですが、会社帰りの人が一人で立ち寄ってくれることもあり、そうしたときは閉店時間を過ぎても閉めずに愚痴を聞いたりしています。癒しの場に思ってくれれば、これほどうれしいことはありません。今は新型コロナの感染防止対策としてテーブルやイスを間引きするなど、安心してご利用いただけるように努めています。

――セカンドキャリアに何かを始めようと考えている方は少なくありません。アドバイスをいただけますか?
私は年金をもらっていますし、契約社員として勤めてもいます。生きていくだけなら、店がなくても十分に事足ります。つまり、店が赤字にさえならなければ問題ないということです。これが利益を求めて事業を始めたなら、絶対に失敗はできません。せっかくサラリーマン生活を抜け出したのに、またあくせく働くことになる。私はそれだけは避けたかった。もし定年後に飲食店を始めたいなら、自己資金だけで小規模にスタートすることをおすすめします。セカンドライフはゆとりを持って「無理しない」ことを第一に考えたほうが間違いなく楽しいですよ。

かき焼き ヌマタ

所在地:埼玉県鶴ヶ島市藤金196-11
TEL:049-287-0087

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