趣味からスタートしてインド修行へ。求められて始めたヨガインストラクター
美容や健康維持、ダイエットなどを目的に、世界中で親しまれているヨガ。近年では健康志向からライフスタイルにも取り入れる人も増えています。そんなヨガのインストラクターを仕事にしているのが、青木陽佳さん。自宅での教室だけでなくヨガスタジオでの講師や、イベントの開催など、さまざまな形で活躍しています。そんな青木さんに、ヨガインストラクターを始めたきっかけや多岐にわたる活動内容、そしてコロナ禍での運営などについてお話を伺いました。
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友人からの誘いで始めたヨガ。先生の一言がきっかけでインドへ渡る
――青木さんとヨガとの出会いはどのようなものだったのでしょうか?
初めてヨガに触れたのは、今から15年ほど前です。以前勤めていた広告会社の同僚に誘われて、趣味の一つとして通い始めました。当時、ちょっとしたヨガブームがあって、都内でヨガスタジオが増え始めた頃でした。同僚は海外出張から戻ったばかりで、滞在先でもヨガが流行っていたようです。それで日本でヨガを習おうと思い探したところ、よい教室が見つかったということで私も誘ってくれたのです。
――すぐにインストラクターを目指したのですか?
いえ、そもそも広告関係の仕事が激務だったので、当初はそれほど集中して通えていませんでした。通うのを止めたり、違うスタジオに移ったり、また行かなくなったり……。そんな状態だったので、インストラクターを目指すなんて考えたこともありませんでした。特に熱中することもなく、普通の生徒として気軽に通っていたレベルです。
――仕事にしようとは考えていなかったのですね。
そうですね。ただ、今振り返ると、広告業界にはフリーランスの方が多く「こんな働き方もいいな」と感じていました。そもそも新卒で就活をしていた時から、「なぜ就活が必要なのか?」「なぜ働くのだろう?」と、考え込むタイプだったんです。なので、会社員ではない、自由な働き方に憧れを持ってはいました。広告関係では7年ほど勤めたのですが、会社の事情もあって解散となりました。その後に興味のあった芸術文化振興の仕事に就くことができ、5年勤めたものの、マルチタスクの業務や事務の正確性など、職場で求められるスキルに追いつけず、悩んだ末に退職しました。
――では、ヨガインストラクターになったきっかけはどういったものだったのですか?
仕事を辞めた後、アルバイトなどで収入を得ていたのですが、当時通っていたヨガ教室の先生が、「時間があるならインドに行ってヨガを勉強してみたら?」と声をかけてくださったんです。その先生もインドでヨガを学んできた方で、普段からヨガの文化的な背景や哲学的なことも教えてくださっていました。インド文化の神髄は、自分自身の本質を知ることであり、話を聞けば聞くほど、自分にどのような価値があるのかと自問自答していた当時の私にとって魅力的に感じたのです。そこで、思い切ってインドのアシュラムと呼ばれるヨガの道場に行くことを決めました。それが2017年のことで、今の活動のきっかけになっています。
新しい価値観を知ることができたインドでの共同生活
――アシュラムではどのようなことを学んだのですか?
私が行った、南インドのケララ州にあるアシュラムでは、当時、建物の事情から、仮設の合宿施設で指導者養成コースを開講していました。他の参加者と共同生活をしながら、朝5時から消灯時間の22時まで、講義や実習だけでなく、生活全般を通してヨガの考え方やインドの文化などを学びました。
――インドでの生活は大変でしたか?
忙しい1日の中で与えられた課題をこなすのはかなり苦労しました。また、お昼休みの間に洗濯などをしなければならないのですが、洗濯機などはなく、バケツで手洗いです。でも、すべてが新鮮で貴重な体験になったと思います。また、私が受講した時は他に30名ほどの参加者がインド中、世界中から集まっていました。生活の中でそれぞれに割り当てられた掃除や配膳などの仕事を行うのですが、文化の違う方々との共同作業は知らない世界に触れる機会でもあり、そうした時間すべてがかけがえのない財産になっています。
――言葉の問題はなかったのですか?
私が滞在したアシュラムには、日本人スタッフの方がいらして、通訳を手配してくださいました。ただ、通訳講義や実習の時だけで、プライベートの実生活はまた別の話です。でも、通訳としてインドに3年半留学していた日本人の方もいらしたので、言葉の面ではそれほど苦労はなく、大変助かりました。おかげで無事すべてのプログラムを修了することができ、指導者としての資格「Teacher of Yoga」や、200時間のヨガの課程を修了したことを証明する「RYT200」の資格を取得することができました。
帰国後、またもや友人がきっかけでインストラクターとしての活動をスタート
――帰国後、すぐにインストラクターとして活動されたのですか?
実は、インドへ渡る際や、アシュラムで過ごしていた1か月の間、インストラクターを目指していたわけではないんです。もっと言ってしまえば、一度も仕事にしようと考えたことはありませんでした。そんな私がなぜインストラクターの仕事を始めたかというと、帰国直後に前職の仕事の関係で友人と会う機会があったのですが、そこで「私にヨガを教えて!」と頼まれたことが始まりだったんです。
――自分から進んで活動を始めたわけではなかったのですね。
そうなんです。話の流れで友人に個人レッスンを行うことになったのですが、それを知った他の友人たちも、「それなら私も」と言ってくれて。最初は4人ほど集まって、公民館で活動していました。それも毎週などではなく、月に2回。なので、開業届けを出すことなく、特に宣伝などもせずに口コミだけで始まった形ですね。
――レッスン料はどのように設定したのですか?
料金については、自由料金という形態を取っています。インドには定価のないものが多いのですが、ヨガも自分の状況に応じて先生にお礼をするそうです。お金のない時も勉強できるし、お金があれば誰かを支えることができる。私もその教えにならって設定しました。ただ、主に近所の方々を対象に自宅で行っている教室など、横並びの方が良い場合には、料金を設定しています。
活動の場を広げて収益の安定化を図る
――ヨガインストラクターとしてどのように活動を広げていったのですか?
私が日本で通っていた教室の先生が開催していた、海岸で行う「ビーチヨガ」を引き継いだことや、帰国直後にアルバイトとして勤めていたカフェのイベントなどを通して、徐々に生徒さんが増えていきました。今は、自宅でのヨガ教室や業務委託でのヨガスタジオの講師としての活動、また、学童のお稽古の一つとして、大人や子ども向けのヨガの先生など、さまざまな形態を取っています。
――活動の場を広げている理由は?
私の場合、月謝制にしていないこともあって、収入を安定させるために教室以外の活動はすごく大事になってきます。業務委託でヨガスタジオの講師業をしている理由の一つはそのためです。また、基本的にはインストラクター業をベースにしていますが、ヨガの考え方を学びたい人向けの講演や、ヨガの食文化を伝えるイベントの企画や手伝いなど、私にできることは何でもさせていただくスタンスを取っています。例えば、熱海の古民家を借りて、1日中ヨガをしたり、身体によい食事をとったりと日常から離れて心身をリセットする「リトリート」など、ニーズに合わせたいろんなイベントを開催しています。
――集客はどのように行っていますか?
何の準備もなく活動をスタートしてしまったこともあり、いまだに教室のHPやSNSアカウントも持っていません。なので、個人のSNSでの告知がメインになります。また、効果的なのが自作のチラシです。以前、アルバイトでお世話になった飲食店などとコラボしてイベントを催すことが多いのですが、店舗に告知のチラシを置いたり、お店のSNSで告知していただくと、かなり反響がありますね。
――これまでの活動を振り返って、大変だったことは?
研修費がかさんだことですね。友人や知人に教えることから始まったので、ヨガインストラクターとしては当然未熟です。例えば、持病のある方がレッスンにいらした場合、どんなことに気をつけたらよいかなど、わからないこともたくさんあります。そこで、指導者向けの講習に通い、より実践的な指導法を1年間学びました。そうした理由から、インドでの修行も含め研修にかなり費用がかかったのも事実です。生活費以外のお金に余裕がなかったのは大変でしたが、逆に余計なことに気を取られず、集中して学ぶことができました。
必要とされることを仕事にしてほしい
――新型コロナウイルスによる影響でスポーツジムなどが営業停止していましたが、自粛期間はどのように活動されていましたか?
屋内での密接した環境でレッスンを行うことが難しいので、オンラインを主体とした教室を開設しました。今もパソコンを使用してモニター越しにレッスンを行っています。おかげさまでこれまで教室に足を運んでくださっていた生徒さんや、イベントに参加してくださった方々とのご縁が続いています。これがスポーツジムやヨガスタジオの専属講師として働き、個人的な活動をしていなかったら、一から集客を始めるなどかなり厳しい状況に陥っていたかもしれません。多様な働き方をしていたからこそ柔軟な対応ができ、急場のピンチをしのぐことができたのだと思います。
――ヨガインストラクターを続ける上で大切にしていることはありますか?
これまで私が教わった国内外の先生方からいただいたアドバイスは今も大切にしています。その一つが、私が最初に通っていた教室の先生からかけていただいた「流行っているところではなく、長く続けているところを参考にした方がいい」という言葉です。これは本格的な活動を始めてまだ間もない私にとって、貴重な助言となりました。また、インドの先生による「宣伝に力をかけるよりもあなたの資質を高めることに力を入れなさい」という教えは、ヨガインストラクターの本分として心に刻んでいます。
――最後に、独立・開業を目指すみなさんに向けてのメッセージをお願いします。
自分の経験を元にアドバイスするなら、必要としてもらえることをしてほしいです。私は、最初からヨガだけで食べていくことはできませんでしたが、アルバイト先のカフェの集客のために始めたイベントがきっかけで、たくさんの生徒さんと出会うことができました。周りの方が求めてくださることこそ、自分へのニーズです。ぜひ、必要としてもらえることを、少しずつでもお仕事にしてみてください。