1. 独立・開業・フランチャイズ情報TOP
  2. マイナビ独立マガジン
  3. 先輩開業インタビュー
  4. ニッチなニーズが強みになる。デザイナーならではの発想で生まれたレンタル工作室
先輩開業インタビュー

ニッチなニーズが強みになる。デザイナーならではの発想で生まれたレンタル工作室

近年のDIY人気の高まりに伴って、自分でものづくりをしたいという人が増えています。しかし、実際に作ろうとしても、機材や工具などが必要になり、準備するだけでも費用と時間がかかってしまう……。そんなビギナーに向け、場所や機材をレンタルで提供しているのが千葉県松戸市の「工作室アルタイル」です。開業にいたるまでの経緯や、今後の展望などを代表の佐々木のぞみさんに伺いました。

美術系学生の課題制作や企業の試作品づくりなど利用シーンはさまざま

工作室アルタイルの店内写真 ――工作室アルタイルではどのようなサービスを提供しているのでしょうか?

作業場所はもちろん、さまざまな素材を加工するための機材や工具を貸し出ししています。お客様自身で素材をお持ちいただき、裁断、研磨、塗装、縫製、プリントから撮影まで、自由にDIYで加工できるのが特徴です。いろんなニーズに応えられるようドリルやベルトサンダーなどの工具から、レーザーカッター(レーザー照射で、さまざまな素材を彫刻・切断・穴あけ・マーキング加工する工作機械)や、UVプリンター(吹き付けたインクをUVですぐに硬化させ、用紙・立体へインクを定着させるプリンター)などの特殊なデジタル工作機械までを用意しています。

――どのような方が利用されるのでしょうか。

DIY好きの方に加えて、大学が多い地域なので、建築学科の学生さんたちが課題の制作でレーザーカッターを使いたいときなどに来店されています。その他には、企業にお勤めの方が自社製品の試作品を作る際などに利用されることも多いですよ。また、松戸市は町おこしの一環としてアーティストを招致する活動を行っていて、芸術家やアーティストなどに提供しているアトリエが近くにあるので、そうした方々も足を運んでくれます。

――かなりニッチなニーズにも応えているのですね。

ええ、例えば、ギターを製作されている方や、音響機器を自作されている方などもよくいらっしゃいます。オリジナルのパソコンのキーボードを作っている方や、靴作家の方なども。貸し出す側の私が言うのもおかしいですが、お客様によってここまで違うのかと感心するほど、多種多様の使い方をされています。

工作室を思いついたきっかけは「自分が使いたいから」だった

独立・開業について語る工作室アルタイルの佐々木のぞみさんの写真 ――独立・開業までの経緯を教えてください。

2009年に新卒で印刷会社にデザイナーとして勤めたのですが、日本一周をしたくなって2年間ほどで退職しました。全国各地の美術館や博物館に行ってみたくて、一度に回ってしまったほうが早いという安易な理由でした。ただ、在籍していた会社から退社後もフリーとして仕事を請け負ってほしいという依頼があったので、ノマドワークをしながらの旅です。1カ月半ほど、パソコンが入った10㎏近いリュックを背負って各地を回っていたので、かなり大変でした。

――旅から戻ってからもフリーで活動していたのですか?

引き続き実家でデザイナーの仕事をしていたのですが、ずっと印刷物のデザインだけをこなしていくのはつまらないと感じていました。実は学生の頃から手芸で使うような小物を作って販売したいという想いがあって、日本一周の旅では民芸品を制作している工房にも見学に行っていたんです。実際に作業している現場を見て、益々自分でも手掛けてみたくなりました。工作室という業態を思いついたのも、そうした流れからですね。

工作室アルタイルのレーザーカッターやUVプリンターの写真 ――自身のものづくりへの興味から工作室を思いついたと。

レーザーカッターやUVプリンターといった特殊な機械を置こうと思ったのも、自分が使いたかったというのが本音です。デザインの専門学校に通っていた頃は、そういったデジタル工作機械に興味があったのですが、高額だったこともあり、使えなかったんです。渋谷にレーザーカッターが使用できるお店ができて、使ったところその便利さに驚きました。そうした体験もあって、デジタル工作機械を置くことは絶対条件でした。

また、当時はレーザーカッターを貸してくれるところが渋谷と目黒にしかなくて、実家のある千葉からわざわざ都内にいかなくても使える場所がほしいというのもありました。結局、自分も使いたいし、私以外にも隠れたニーズがあるんじゃないかと思ったのが創業のきっかけです。

――ご自身でも創作されているのですか?

工作室を運営するかたわら、私自身もここにある機械を使って、お客様がいない時間などに手芸用の小物を制作しています。工作室はニッチな業態ですし、認知度が低い状態でスタートしたので、創業時から空いた時間に自分の好きなものを自由に作ろうと考えていました。制作物は主にサイトでのネット通販や、手芸用品店に卸していて、今では売り上げの柱の一つになっています。

経営者向けの勉強会に参加して事業の構想を具体化

工作室アルタイルの外観写真 ――物件を探すのは大変だった?

機械の置き場所や作業スペースが必要なので、倉庫のような何もない物件を探していたのですが、これが意外と少ない。例えば、ラーメン屋の居抜き物件だったらラーメン屋しか入れない構造になっていますから、そのままでは使えません。

工作室の開設に際して一番のネックになったのが、音と臭いです。大家さんはもちろん、近所の了解を得ないといけません。その点、ここは同じ建物内に二代続く人気の焼き肉店があるので、元から騒音や臭気に対して理解があり、特に問題なく貸していただけました。また、乾物屋さんが倉庫として使っていた物件ということもあり、汚れもなく、構造的にも理想的だったこともここに決めた理由のひとつです。

――機械は高額なイメージがあります。開業資金はどのように準備されたのでしょうか?

公庫から借り入れをしました。金額はざっくりとですが700万円くらいです。レーザーカッターは即金で購入し、UVプリンターはリースにしています。内装は知り合いの業者に頼んだので、100万円くらいに収まりました。フリーデザイナーの頃から財務をお願いしている税理士さんが資金繰りに強い方なので、実績がなくてもスムーズに借りることができました。

――税理士さんはどのようにして探したのですか?

フリーでの活動の経験から、お金の管理の重要性は理解していました。そこで、知り合いに紹介していただき、経営者向けの勉強会に参加したんです。その勉強会を開いていたのが今の税理士さんです。そこでは経理だけでなく経営についての“いろは”を学びました。授業には1年ほど参加させてもらっていたのですが、工作室の構想が具体的になったのもこの時期です。

――工作室の運営についてもアドバイスをもらっていたんですね。

税理士さんの知り合いだけを集めた勉強会だったので、家庭教師のごとく親身になって教えてもらうことができました。初歩的なことから何でも相談できたのはラッキーだったと思います。その中で、工作室の計画をそれとなく話したら「やりたいことがあるなら、やったほうがいいよ」という言葉をいただき、それで背中を押されたような気がします。それからすぐに準備にかかり、2015年に開業しました。

デザイナーの強みを生かしてお客様を全面的にサポートする

――実際に運営をスタートしてから苦労した点はありましたか?

苦労というか、集客方法には試行錯誤を繰り返しました。チラシを配布したり、タウン誌に広告を載せてみたりと、いろいろ試しましたが手ごたえがなく、とにかく不安でした。ホームページも開設してみたものの、すぐには検索上位に表示されるわけではありません。ただ、予想外だったのは、レーザーカッターやUVプリンターといった特殊な機械を使いたい人は、レンタルで利用できる場所を自分で調べるんです。つまり、お客様のほうからアルタイルを見つけてやってきてくれる。ニッチな業態が逆に武器になりました。それに気づいてからは、広告にお金をかけなくなりました。

工作室アルタイルで製作している手芸用品の小物の写真 ――うれしい誤算ですね。

もう一つ、想定外だったのが、手芸用品の小物の売り上げが思ったよりも伸びた点ですね。サイトでの販売だけでなく、全国にチェーン展開している手芸用品店などからの注文が予想以上に増えました。ほとんど自分の趣味で作っていたものなので、それが当たったのはうれしかったですね。

――工作室の運営では、競合との差別化は意識していますか?

都内にある工作室は機械のセッティングから料金が発生しますが、ここでは機械を稼働させてからのスタートになります。時間貸しという点は同じなのですが、セッティングに手間取る方もいて、お客様はその間も料金がかかることをわかっていますから、焦って失敗してしまうこともあるんです。それは親切ではないなと。なので、機械を稼働させてからのスタートにしました。でも、そうした料金面でのケアがなぜできるかというと、結局は家賃の差なんです。そこは都心から外れた土地に店舗を構えるメリットですね。

あとは、デジタル工作機械を使って工作したくても、データを作れない人も少なくないので、その面では私が直接サポートしています。なので、お客様には「イラストだけ持ってきてくれれば、あとは私が何とかします」とお伝えしています。そこは現役デザイナーの強みを生かしていますね。近所の主婦の方が飼い猫の絵を持ってきて、「これを印刷したいんだけどできる?」と、足を運んでくれたりもしていますよ。

――気軽に相談できるのはお客様にとってもうれしいですね。

できるだけ何でも相談に乗るようにしています。そうしたスタンスが口コミで広まって、レーザーカッターを販売している会社の営業の方までもが、機械の購入に迷っている方に「アルタイルに行って、一度使ってみては?」と、紹介してくれたこともあります。間口を広くしたことが集客につながっていることを実感した瞬間でした。

起業前に「本当にやりたいこと」を自分に問いかける

独立・開業をめざす読者にメッセージを送る工作室アルタイルの佐々木のぞみさんの写真 ――今後の展開をお聞かせください。

今、近くの大学付属の中学と高校で、授業の1コマを講師として請け負っています。その学校では、学生全員がiPadを使って学んでいて、データなどは普通に作れるのですが、一方でそれを出力してモノを作った経験がありません。モノができあがるまでのプロセスを学ばせたいという学校側の要望があったんです。この経験から、アルタイルでもものづくりにチャレンジしたい方向けに教室のようなものを始めたいと検討しています。

――デジタル化が進んで、逆にアナログに不慣れな人が多いのでしょうか。

そのような傾向はあると思います。ここを利用している大学生も、イラストをipadでしか描いたことがないという人がいます。データ上で何でもできる時代になったからこそ、それがカタチになる体験は新鮮に感じるようです。特に美術系の学生には、頭の中に描いた作りたいものがそれなりのクオリティでスピーディに出来上がるという体験を、若いうちにしてもらいたいですね。

――最後に、独立・開業をめざす読者にメッセージをお願いします。

起業するということは、「やりたいことは何か?」を自分自身に問われ続けるという側面もあると思うんです。「儲かりそうだから」と曖昧な気持ちで始めてしまうと、モチベーションが続かず、志半ばで辞めてしまう人をこれまでたくさん見てきました。ビジネス視点だけでなく、それが本当にやりたいことなのかを自分に問いかけることも必要でしょう。あとは、あれこれと考えるよりも行動すること。信念ややりがいなどは、お客様の反応によってあとからついてくるもの。まずは動き出してみてはいかがでしょうか。

工作室アルタイル

所在地:千葉県松戸市根本89-1

http://k-altair.jp/

 マイナビ独立マガジンの最新記事

一覧を見る

 マイナビ独立フランチャイズマガジンの最新記事

一覧を見る
PAGE TOP