将来への不安を乗り越えるために
変化を続けて中古車業界へ。
「みんなをハッピーにする」事業で
新しい生き方を提案したい。
このままではキャリアが行き詰まることは明らか——。
20代で上場企業を退社し、ゼロからスタートした理由とは
──ハッピーカーズ創業前の新佛さんのキャリアについて教えてください。
キャリアのスタートは上場企業の営業職です。右も左もわからない新人から数年で全国トップクラスの営業成績を収めることができました。でも年収は300万円程度。40代くらいの先輩をみても桁が変わるくらい収入を得ている人は役員クラスに限られる。ふと将来の自分に照らし合わせた時に、「このままここで働いているわけにはいかない」と気がつき、退職を決意しました。
──せっかく入社した上場企業を早々に去るというのは、かなり大胆な決断だと思います。
周囲からはなかなか理解されませんでしたね。でも私にとっては必然の選択でした。当時私は父を早くに亡くしたことで、いったん実家に戻ったのですが、母と一人息子である私の二人で暮らしてみて「危機はもうそこにある」ことを実感したのです。母親もいずれすぐに介護が必要になる。いくら会社に身を捧げる働き方を続けてもどこかのタイミングで親のためにキャリアを放り出さなければならなくなると。
もしこのまま上場企業に勤めながら40代や50代になり、それが現実になったら、仮に年収が1000万程度あったとしてもどうにもならないだろうと予測しました。だから私は早めに見切りを付けて動いたんです。
当時、周囲のみんなはおそらく同じようなリスクを感じつつも、見て見ぬ振りをしていたのだと思います。それが悪いわけではありません。正社員でいることが一番合理的だと教育されてきたのだから当然でしょう。
──どんなことに挑戦したのでしょうか。
まず年収の平均値を基準として年収が高いとか低いという考え方を捨てました。自分にとって、何があっても快適に過ごせる額はいくらだろうと。そこから逆算してどう行動するか決めました。他人の価値を基準にすることから自分の価値を基準にしていく生き方に明確に舵を切ったのです。
当時20代後半でしたが漠然と好きなことを仕事にして年収2000万くらいあれば、快適な人生を送れるのではないかと考え、その実現を目指しました。
当時圧倒的に目立っていたのは広告業界。広告を制作するグラフィックデザイナーやアートディレクターで成功すればその目標は達成できそうだと思い、デッサンなどの基礎からデザインを勉強しました。ちょうどデザインの世界がデジタルヘ移行しつつある時期だったので、今でもデザインソフトの定番であるphotoshopやillustratorも学びましたね。
その後は雑誌広告批評編集部を経て、大手人材会社のHR制作部に採用され、半年後には委託のフリーランス・ディレクターとして契約しました。ここでスーパー優秀な方々と出会いまくったおかげで現在の私があります。本当にあらゆる点で営業、制作問わずみんな優秀すぎてこれはショックでした。
私はここで、成功する組織、人づくりの秘訣を学ばせてもらったように思います。そんな彼らと一緒に様々なプロジェクトを進めていく中で、日本を代表する大手クライアントを多く担当させてもらえるようになり、20代の頃目標としていた年収2000万円は30歳にして実現させました。その後一人では対応しきれない範囲になったためクリエイティブオフィスを設立。法人化することでさらに大きなプロジェクトを獲得し、より顧客に感謝されるようになりました
労働集約型の事業を脱し、少ない工数で大きな利益を稼ぐには?
悩んだ末にたどり着いた中古車業界
──クリエイティブオフィスの経営は順調だったのでしょうか。
数年は順調だったのですが、リーマンショックや時代の変化により案件も一気に減ってしまいました。仕事のやり方を変えたり、これまでとは異なる案件を引き受けたりしてスタッフも頑張ってくれていましたが、なかなか給料を上げることができませんでした。当然辞めていくスタッフもいました。私がスタッフの立場でも辞めていたと思います。
同時に、こんなことがしたくて会社を立ち上げたわけではないとも強く思いました。大手のクライアント頼みでは、外部要因によって大きく売上を落としてしまうこともある。一方で小さな仕事を増やしてもなかなか利益に繋がらない。スタッフが辞めると売り上げは下がる。これではこの労働集約型の商売を続けていくのは厳しい。
そこで、「ものを仕入れて売る」という商売なら、スタッフを増やさずに売り上げも利益も増やしていけるのではないかと考えました。
──それまでの領域にこだわらず、事業の方向性を大きく転換したのですね。
はい。小さな資本金で少人数でやるためには、なるべく少ない工数で大きな利益を生み出すことが必要。そこで注目したのが、中古車輸出ビジネスでした。車は単価が高いため、単価の低い商売に比べて一台の売買で大きな利益を見込めます。100個売って10万円の利益を見込める商売と1台売って10万円の利益を見込める商売なら、手がかからないのが後者であることは明らか。また、国内の顧客に商品を販売する場合はクレーム対応などの後工程がふくらむ可能性もありますが、海外輸出であればそうした対応も比較的多くないはず。そう思い、中古車輸出事業を展開するフランチャイズチェーンに加盟することを決めました。
──新たな事業は順調に進んだのでしょうか。
正直に言うと、全くうまくいきませんでした。仕入れた中古車は全然売れず、売れたところで利益は薄く、おまけに利用する中古車販売サイトの手数料が高い。このままではダメだと思い、中古車輸出ではアフリカの内陸部の入り口にあたるタンザニアの港町ダルエスサラームに現地法人を立ち上げて自力で販売ルートを開拓することにも挑みました。しかし、うまくいくわけもなく即撤退。資金も底をついてきました。
──そうした状況だと、加盟したフランチャイズ本部へのネガティブな感情もあったのでは。
それはありませんでしたね。事業に可能性を感じて加盟を決めたのは自分ですから。フランチャイズ本部に支払った、たかだか数100万円という金額で成功が買える訳はないんです。その体験を元にいかに自分が行動していくか。その経験をどうプラスに転がしていくかについて考えていれば、ネガティブな感情とか過去をのんびり振り返っている暇はないんです。
実際に現在のハッピーカーズにつながる貴重なヒントもたくさん得ることができました。例えば当時、私が加盟していた本部のスーパーバイザーは現場を知らない人ばかりでした。ネットを使った海外への中古車の輸出販売という事業の特性上、無理もないことではあるのですが、アフリカに車を売っているのにアフリカへ行ったことがない。本気で加盟者のビジネスの成功を支援するなら、本部担当者は現場に精通しているべき。これは私は身を持って学びました。
小資本でスタート、在庫リスクが低くキャッシュフローも良好。
「中古車買取」で想像以上の成果を上げる
──その後は再びゼロから、ハッピーカーズの源流である中古車買取事業をマンションの一室で創業しています。なぜ競合がひしめくレッドオーシャンの中古車業界を選択したのでしょうか。
まずレッドオーシャンということはマーケットが活況であることを意味しています。そしてそこは中古車市場という巨大マーケットです。中古車輸出を経験したことで、私は仕入れから販売まで、そのマーケットの流れをすべて知ることができました。可能性は十分です。基本的に中古車輸出では仕入れを業者オークションで行います。その相場価格によって小売り価格が決定されていきます。つまり仕入れの場では競合よりも高く買い、競合よりも安く販売しなければいけません。
しかし買取に特化する業態であれば、オークションの前段階で勝負できます。一般ユーザーから適正な価格で買取り(つまり仕入れ)、オークションで販売する「卸」の形態であれば、資金効率に優れ、クレーム対応などの後工程に忙殺されることもないので、収益性の面でも大きな魅力があります。
──詳しく教えてください。
中古車買取事業の大きな特徴は「商品の流動性が高い」ということ。中古車オークションは全国各地でほぼ毎週開催されています。日本の中古車市場は非常に成熟しており、仕組みも洗練されているため、成約率が極めて高い。つまり、仕入れた中古車をすぐに現金化できるということです。在庫リスクがほとんどないことも大きなメリットでしょう。
仕入れた中古車は即日オークション会場へ入れることができるため、店舗や駐車場も不要。資金さえ最初に用意できれば、少ない資本で始められます。私自身、実際に中古車買取事業を行ってみたところ、想像以上に早く、大きな成果を上げることができました。
──クルマ買取りハッピーカーズ創業の翌年(2015 年)には株式会社ハッピーカーズとしてフランチャイズ展開を開始。このスピード感にも驚かされます。
きっかけは中古車輸出業者から「買取事業の話を聞かせてほしい」と相談されるようになったことでした。この成功体験をパッケージ化することで、単なる中古車買取り業者として利益を獲得していくよりも、世の中により大きな価値を提供できる。そのためにはフランチャイズという形態が最も合理的だったので、全国規模でフランチャイズ展開を始めました。
「数は質」「質は価値」、全国区のブランドを早期に確立していくためには拡大にもスピードと質が求められます。単なる拡大路線では、ひとたび悪評が立てば終わりです。なので加盟店オーナーは厳選しています。そこで選ばれた方の実績がブランドになるからです。そして気づけば100店を超える規模となっていました。
「クルマを通じて、関わる人すべてにハッピーを提供していく」
加盟オーナーと共有する理念が圧倒的な差別化要因に
──新佛さんは創業時から「車を通じて、関わる人すべてにハッピーを提供していく」という企業理念を掲げています。この理念に込めた思いを教えてください。
中古車買取ビジネスは、安く仕入れて高く売るほど利益を得ることができます。より多くの利益を上げようとすれば、ユーザーから安く買い取る以外に方法はありません。ここに相反利益のジレンマが生まれます。買取業者は「1円でも安く買い取りたい」と考えるのが普通です。
逆にそこで少しでも高い査定額を提示する、ちょっとでも良い気分にさせてくれる買取り店と出会えれば、ユーザーはうれしいのではないでしょうか。あくまで自社の利益は確保しながら、ユーザーに少しづつでもハッピーを提供していく。ごまかしたり、無駄な駆け引きをしたりせずに、適正な価格をシンプルに提示する。このスタイルを貫くことでユーザーからの信頼を積み重ねてきました。
──ユーザーをハッピーにするために、現場ではどんな工夫をしているのでしょうか。
ユーザーが何を求めているのかを理解すること。まずはこれに尽きると考えています。とにかく1円でも高く売りたいのか、そのほかにも手間なく手放したいのか、それとも信頼できる相手に任せたいのか。ユーザーとフラットに会話することで大切にしているポイントが見えてきますし、愛車への思いも聞かせていただけるようになります。
もちろんそれは強い価格競争力があってこそ。そこは店舗を構えたり駐車場も不要ということに加えて、加盟店オーナーが本部に支払う加盟金や月々の会費も安価に設定しています。加盟オーナーの一人ひとりがハッピーカーズの理念を理解し、アンバサダーとなることで、各地域のユーザーとともにハッピーを共有できていることが他社との差別化につながっているのだと思います。
──新佛さんはなぜここまで「ハッピー」であることを大切にしているのですか。
私たちが行っていることは、世の中に対して新しい働き方の提案です。これは冒頭にも述べましたが、他人の価値基準ではなく、自分の価値基準を明確にして生きていくことで、一人でも多くの人にとってより良い人生、Well Beingの実現を目指しています。私たちがおこなっているのは単なる中古車の事業ではないんです。
金儲けのためにあくせくせず、人生を楽しみながら生きていきたい。誰もがそう考えたいけど、考えることさえもはばかられる世の中です。そんな中でも自分も仲間もユーザーもハッピーになれる仕組みを作れば、儲けは勝手に付いてきます。中古車の買取は自分の好きな時間でできるし、適正価格で買い取ればユーザーに感謝されて何年もお付き合いが続き、紹介の輪が広がっていく面白さもあります。楽しみながらやって、人の足元を見ようとしなければ、事業も人生も自然とうまくいくものなんじゃないでしょうか。
フランチャイズの仕組みにおいても、加盟オーナーから「うざい」と言われるくらいのフォロー体制を確立し、スマホ一台で査定から買取り、入金まで加盟店オーナーが管理できるシステムや、オリジナルSNS、資金の流れの見える化などの仕組みを整えながら、100店舗を超える規模になった現在では、テレビ、ラジオCMなどのプロモーションにもさらに投資できるようになりました。昨年からはラジオ全国36局ネットでニッポン放送のナインティナインのオールナイトニッポンへの提供や、新作テレビCMの地上波での放映も続々と決まっています。本部が得た収入は加盟店オーナーの収益を拡大させるために徹底的に再投資しています。富の再投資がさらなるハッピーを生む。結果は実績に表れますので、そのあたりも含めて、今後のハッピーカーズを応援していただけるとハッピーです。
ハッピーカーズの事業を通してWell Beingな人生を提案。
「キャリアビジョンがかなう場所」を広げたい
──ハッピーカーズとしての今後の展望は。
中期的なビジョンとしては300店体制で年間取り扱い台数1万台、年間売上高100億円を目指しており、実現に向けた道筋が見えてきました。すでに昨年度の決算では扱い台数約3000台、売上高37億円を達成しており、早期に実現することができるでしょう。収益を徹底的に再投資していくことでハッピーカーズのブランド力をより強固なものとし、加盟オーナーのビジネスチャンスをさらに拡大していきたいと考えています。
──ハッピーカーズの事業で成功する加盟オーナーには、どんな傾向があるのでしょうか。
成功するオーナーは行動の総量が違いますね。ユーザーとの接点を持つために継続して行動しているオーナーはコンスタントに利益を拡大しています。中古車買取事業は仕組みが単純で参入障壁も低く利益を出しやすいビジネスではありますが、中古車の仕入れ先となるユーザーがいなくては事業が成り立ちません。つまりユーザー開拓の継続がもっとも重要なポイントなのです。「車のことならあの人に相談しよう」と思っていただけるような信頼関係を築くために、地域のユーザー一人ひとりと接点を持ち続けること。その基本を守ることが事業の成否を分ける要因です。
また、新たにハッピーカーズへの加盟を検討している方へは、初期段階で買取資金に余裕を持つことを強くおすすめしています。店舗や駐車場などへの投資が必要ないとはいえ、車の買取に回せる資金的余裕がなければ良いスタートを切れません。その理由も、誤解のないように加盟前にしっかりとお伝えしていきたいと思っています。
──独立・開業を含めて今後のキャリアを考えている人へ、新佛さんからのアドバイスを聞かせてください。
若い頃に私が抱いていた不安と、同じような不安と今まさに向き合っている人も多いのではないでしょうか。子育てや介護でどんどん時間とお金が割かれるのに、収入はアップしない。一方で仕事に求められる強度は高まり続け、会社からはより多くの役割を果たすことを要望される。「このままではまずい」と感じたなら、新たなキャリアビジョンを持ち、すぐに行動した方がいい。なぜならこれまでの人生があっという間だったように、これから先も、きっとあっという間だからです。
そのためにはフランチャイズ加盟も新たな選択肢の一つでしょう。ハッピーカーズは、これからのキャリアビジョンを真剣に考える人に対して、そのビジョンをかなえるための場所を提供していきたいと考えています。何度も申し上げますが、私は中古車業界やフランチャイズという枠にとらわれるつもりはありません。目指しているのは、世の中の一人ひとりにハッピーな生き方、素晴らしい人生を提案していくこと。そのために自分ができることをこれからも全力でやりきっていくつもりです。
新佛千治さんの「想い」をまとめると…
- 広告制作や中古車輸出での苦戦を経験し、「小資本・低リスク・高収益」の中古車買取事業に可能性を見出した
- 人の足元を見ようとせず、自社も仲間もユーザーもハッピーになれる仕組みを作れば、事業は自然とうまくいく
- 子育てや介護、仕事の環境変化で不安を感じている人は多いはず。ハッピーカーズの事業を通じてハッピーな生き方を提案したい
成功を収める経営者と対峙するとき、インタビュアーとしては「過去の失敗談」を聞くことに気後れしてしまうこともあります。しかし新佛さんは自然体で、穏やかな笑顔を絶やさずに失敗体験を語ってくれました。特に印象的だったのは、これまでに味わった苦境について外部環境や誰かのせいにするような発言が一切なかったこと。地道に試行錯誤をくり返してきた新佛さんだからこそ、「車を通じて、関わる人すべてにハッピーを提供する」という理念に行きついたのだと感じました。