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先輩開業インタビュー

自分の力で働き続けるために。キャリアを考えて独立・開業した、人気ブルーパブの女性醸造家

北千住駅から徒歩3分。小さな路地にあるブルーパブ「さかづきBrewing」はまだ明るい時間から大勢のお客さんで賑わいます。テーブルに並ぶのはさまざまな形状のグラスに入ったビールに、サラダ、アヒージョやしっかり煮込まれたスペアリブ。ここでしか楽しめないクラフトビールが自慢の店ですが、手の込んだ料理も評判が良く、どのテーブルのお客さんもしっかり飲み、食べておしゃべりを楽しんでいます。
さかづきBrewingのオーナー兼醸造家である金山尚子さんは、大手ビールメーカーで培ったビール作りの経験を生かして店をオープンしました。オープンから3年を迎え、ますます人気を集めているさかづきBrewingの開店までの軌跡と、開店後のヒストリーをうかがいました。

このまま会社員として生きていく人生でいいのか。キャリアを見つめ、独立を選択

このまま会社員として生きていく人生でいいのか。キャリアを見つめ、独立を選択 ――金山さんは元々アサヒビール株式会社に勤められていたそうですが、なぜ独立・開業をする道を選んだのですか?

金山:30歳を過ぎたころ、「このまま会社勤めを続けて自分に何が残るのか。定年退職をしたあとはどうするのか」とこれから先の人生のことを考えたんです。するとそこにはあまり明るい未来が見えなくて。

ならば、自分の力で好きなように働き続けられるように独立しようと思いました。ブルーパブを開いたのは自分にできることがビールを造ることだけだったから。アサヒビール時代に生産と研究開発を経験していたので、醸造ならできると思いました。

――醸造したビールを卸売りするのではなく、わざわざ店を開いたのはなぜでしょう?

金山:お客様に届けるというところまで自分でやってみたかったからです。だから自然とブルーパブを開くという発想になりました。ただ、パブといえど美味しい料理を出す店にしたかった。私自身がお酒だけを飲むということがあまりできないので、美味しい料理を食べながらビールを楽しめるレストランにしたかったんです。なので、シェフを雇うことは最初から考えていました。

3種類のクラフトビール ――独立までにどのような準備をされたのでしょうか。

金山:在職中はほとんど何もしていませんでした。退職前の数年間はプロジェクトを牽引する立場にいたので、日々の仕事でいっぱいいっぱい。とはいえ、思いついたことをノートに書き綴ってはいました。店名や店内のイメージ、ビールは何種つくるかなど……。さかづきBrewingという店名もそのときに考えました。みんながグラスで乾杯しているイメージです。独立を思い立ってから退職までは2~3年かかりました。プロジェクトの途中で抜けてしまうと迷惑がかかるので、その仕事が一区切りついてから辞めることにしたんです。

補助金申請から内装、設備の設計までほとんどがDIY。文字通り「手作りの店」

――さかづきBrewingは合同会社として立ち上げられていますが、その理由はなんですか?

金山:株式会社だと立ち上げの手続きが煩雑になりそうだったからです。できるだけ設立までの過程をシンプルにするために合同会社にしました。開業の手続きはネットを参照しながらほとんど自力でやったので負荷を軽くしたかったんです。

――開業にあたりどのような手続きをしたのでしょうか?

金山:大きく分けて4つのことをしました。場所探し、資金調達、会社の設立、醸造設備の設計です。これらをすべて1年でやりました。

――4つの要素について順番に教えてください。まず、場所探しはどのように進めたのですか?なぜ北千住に店を開いたのでしょう?

補助金申請から内装、設備の設計までほとんどがDIY。文字通り「手作りの店」 金山:物件探し自体は不動産屋さんに相談しました。北千住を選んだのはエネルギッシュな商店街があり、住宅も多いことからたくさんの来客が見込めそうだったからです。飲食店が多いこともポテンシャルを感じました。3カ月ほど東京中の商店街を実際に歩いて比較したんですよ。そのうえで北千住がベストだという判断をして、そこから物件を探しました。それにもともと北千住には親しみがあったんです。前職の本社は浅草で、研究所へはつくばエキスプレスで通っていたので、わりとよく飲みに行く街でした。

地域を北千住に絞ってから物件をみつけるまでは2カ月ぐらいかかりましたが、場所も規模もちょうどいい場所をみつけることができました。内装工事は節約のため、ほとんどDIYです。壁や天井は友人たちに手伝ってもらいながら手作業で塗りました。床のワックスも椅子のペンキも自力ですね。楽しい作業ではありましたが、とにかく忙しかったのでお金があれば外注したかったです(笑)。

醸造所の前に立ちはだかる「酒類製造免許」の壁。クラウドファンディングで開店までの資金をつなぐ

――次に資金調達ですが、これはどのようにされたのですか?

金山:自己資金900万、中小企業庁の創業補助金が200万、日本政策金融公庫(以下、日本公庫)からの融資が1100万でトータル約2200万円を用意しました。中小企業庁への申請は夫が教えてくれたんです。夫はキャリアコンサルタントをしているので、いろいろなアドバイスをくれました。申請するための書類作りは、同じくブルーパブを開こうとしている人とチェックし合いながら作成。同業者で助け合いました。借りる先を日本公庫にしたのは、そこしか受け付けてくれなかったからです。そのほかの銀行に融資してもらうためには「酒類製造免許」を取得していることが必要だったのですが、この免許は醸造する人ではなく醸造する設備を擁した場所に対して与えられるもの。自己資金だけで設備まで用意できるわけはなく、非常に厳しい条件でした。

ちなみに「酒類製造免許」は、申請してから発行まで最低でも4カ月はかかるんです。その間も家賃は発生するので、この間はとても焦りますね。私の場合は、2015年の8月に申請して、翌年1月に免許を取得しました。これでもとても急いでもらった方なのだそうです。

――新しく醸造所を作られる方は非常に苦労されることですね。

金山:日本公庫は審査から融資までの期間が短く、大変助かりました。それでも開店資金は不足気味。いよいよ底がつきそうになり焦りだしたころ、クラウドファンディングで90万円の調達に成功しました。知人のほか、SNSを中心に話題が広まりビール好きのみなさんが応援してくれたんです。そのお金でどうにか開店までつなぎ、無事にオープンに漕ぎ着けることができました。クラウドファンディングのリターンには食事やビールのほか、ロゴグッズを用意しました。

――会社の設立業務についてもほぼ自力で完結されたのですね?

金山:そうですね、本やネットをみながら進めました。一部、他のブルーパブの経営者に話を聞いて参考にしたこともあります。

醸造設備の設計に関してはどのように進めたのですか ――醸造設備の設計に関してはどのように進めたのですか?

金山:勤めていたときの知識をフル活用しました。これは研究開発の現場にいた経験が役に立ちましたね。研究所では、ちょうど店の醸造所と同じくらいの規模の設備を使っていたんです。手作業で機械を組む作業は初めてでしたが、完成図がイメージできたので自力で進めることができました。 この件に関しても夫には非常に助けてもらいました。実は夫は元同僚で、アサヒビールでは技術職についていたんです。電気系統の知識があったので、タンクの設置場所から配線まで全部一緒に考えてもらいました。夫にはオープンして1年くらいは、一緒に働いてもらいました。接客も醸造も帳簿付けも一緒にやっていたのでとても助かりました。

レシピはウェブやテキストで学び、人材はハローワークで獲得

――ビールの醸造作業はいつから取り掛かったのでしょうか。

金山:免許を付与されてからすぐに取り掛かりました。会社にいたときはラガーしか作ったことがなかったので、エールビールを作るためにレシピを勉強しながら開店準備を進めましたね。フルーツやハーブをどのようなタイミングで入れていくのか、テキストを読んだり、ネットで検索したりしながら学習しました。アメリカではホームブルーイング(自家醸造)が合法なので、多くの人がさまざまなクラフトビール造りを楽しんでいるんです。そういったレシピを参考にしながら、試行錯誤して少しずつノウハウを蓄積しました。

――料理をするスタッフはどのように採用されたのですか?開店時からシェフを雇っていたのでしょうか。

金山:開店のタイミングから雇っていました。採用は、最初はハローワークを利用しました。無料で募集をかけられるので、まずは使ってみようと。私は5、6人目でドイツ料理を作れるシェフと出会うことができたのですが、いい人材に巡り会えるかどうかは運次第だと思います。その後、その方は独立して別でお店を開かれることになったので、以降はWEBの人材募集サービスも利用しました。

レシピはウェブやテキストで学び、人材はハローワークで獲得 ――料理にも金山さんのこだわりが反映されているのですか?

金山:料理のことは基本的にシェフに一任しています。唯一お願いしているのは「おつまみから締めまで一通り用意してほしい」ということ。開店前からごく最近までは、シェフになにかを指示する時間すらなく、ひたすらお任せする感じでした。

オープン直後から大盛況。開業は大成功と思いきや、品切れであえなく休業

――集客のために工夫されていることなどはありますか?

金山:特にこれといった工夫はないんです。幸いにもオープンしてすぐにブルーパブブームがあり、追い風にのって売上はずっと好調。単月ではオープン後すぐに黒字になりました。 ただ、嬉しい半面想定以上のお客様に来ていただくことになり……オープンの翌月にはビールがなくなってしまったんです。新しいビールができるまで休業せざるを得なくなり、クレームに発展したこともありました。それ以降はビールを切らさないように営業や製造のスケジュールを工夫しています。営業しながら、新しい設備と格闘しながら、レシピを書いて仕込みをするのはとても大変でした。

オープン直後から大盛況。開業は大成功と思いきや、品切れであえなく休業 ――ビール作りで失敗することはないのですか?

金山:狙った通りの味にならない場合もありますが、失敗という捉え方はしていません。お客様のリアクションから次のレシピ開発のヒントを得て、ブラッシュアップにつなげています。

それと、お酒って捨てるのが難しいんですよ。廃棄する場合は税務署に届け出て承認を得なければなりません。お酒がどのくらい造られて、どこに運ばれて、どこで消費されたのか詳しく追求されるのでなかなか捨てられないんです。

オープンから3年。ようやく理想的な働き方に近づいた

――仕事をしていて楽しいと思うときはどんなときでしょうか。

金山:オープンから3年経ち、今ようやく自分が理想としていた働き方ができるようになってきたと思っています。営業が安定し、スタッフを増やすことができたので、ビールのレシピを書き、工夫しながら醸造ができるようになりました。立ち上げからオープン1年目まではとにかく走りっぱなしでしたね。寝ている時間以外はずっと働いている状態で、疲れで顔がパンパンになっていました。週2日は定休日があるのですが、醸造や帳簿付けの作業があるので休めなかったんです。醸造と提供の両方をしていると、酒税法が絡んでくるので帳簿の付け方が複雑になるんです。樽を移し替えたらそれを毎回記帳しなければなりません。税務署は「脱税は起こるもの」という前提で調査をするので、原料まで遡って説明できるようにしなければならないんです。8月の忙しい時期に監査が来たこともありますよ。対応が完了するまで数カ月かかってしまいました。

――お酒を提供するだけのお店であればなかった苦労ですね。

金山:でも、私はビールを造ることが好きなんです。飲むよりも造る方が好き。ビール造りだけは勉強だって苦になりませんでした。今でも興味はつきないですね。

――今後の夢や目標はありますか?

金山:もっとビールの種類を増やしたいです。現在の設備では造れないスタイルもあるし、この場所ではこれ以上醸造量を増やすことはできないので、より規模の大きな物件や専用設備を探しています。

――独立・開業をするうえで大切なものはなんでしょうか。

金山:没頭できる対象を探すことと、体力ですね。独立・開業するとなるとすべて自分が責任者となって動いていかなくてはなりません。極端なことを言うと地道に24時間働くぐらいのつもりでないと成功は難しいのかも。そのために、それぐらい打ち込める対象をみつけることが大切ですね。

――独立・開業して良かったと思いますか?

金山:もちろんです。会社にいるときよりも頑張った効果がよく見えるのが独立・開業の面白さですね。自分の努力がきっちり自分に返ってくる。返ってくるものというのはお金であったり、評判であったり、お客様のリアクションだったり。こうやって取材を受けるということも一つの評価だと思います。

さかづきBrewing

東京都足立区千住旭町11-10
16:00~22:00(水~金曜日)/
13:00~22:00(土曜日)/
13:00~21:00(日曜日)
定休日:月・火曜日
※取材時点の情報です

https://ja-jp.facebook.com/sakaduki/

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