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先輩開業インタビュー

海外展開を目指すホテルブランド「エンブレムホテル」。経営の鍵は「人が好き」な人材の登用

旅好きが高じて、あるいは人と人を繋ぐことに魅力を感じてホステルを開くオーナーは少なくありませんが、ベッド数が100台を上回るような大型のホステルを開業する経営者はこれまでそう多くありません。
下町の風情が色濃く残る足立区西新井にある「エンブレムホステル西新井/東京」はベッド数が182台にも上る超大型のホステル。2015にオープンし、当時は都内最大の規模でした。エンブレムホテルはさらに2017年には金沢、2018年には箱根にも同ブランドホテル/ホステルを展開。現在では海外進出を目指し、資金やノウハウを蓄えています。エンブレムホテル株式会社代表取締役の入江洋介さんは、ホテル経営の鍵は人材が握ると考えています。ここでは従業員を「コネクター」と呼び、その世界観形成に共感できる人を社員として雇用しているのです。一人の会社員だった入江さんがどのように独立・開業し巨大なホステルを運営したのか、また多店舗展開できるようになった理由は何なのかを探りました。

人と人をつなぐためのニュートラルな場を作りたい

人と人をつなぐためのニュートラルな場を作りたい ――最初に「エンブレムホテル」の名前の由来を教えてください

入江:ホテルやホステル業界の象徴的な存在になりたいという願いをこめました。それからできるだけニュートラルな印象の名前にもしたかった。
「エンブレムホテル」はホステルという形でオープンしましたが、僕が目指しているのは人と人がつながるエンターテイメントな宿を作ること。宿を主軸に他業界との融合などあらゆる展開に備えて、なるべく一つのイメージが強くなりすぎないようにしました。ロゴマークはEmblemのEとHotelのHをつなげたデザインになっており、人と人がつながり、広がっていくようにという思いを込めています。

――なぜ人と人をつなげたいと思うのですか?

入江:僕は人と人がつながることってシンプルにハッピーなことだと思うんですよ。人との出会いは人生に潤いをもたらしてくれる。例えば海外に行ったとき、バーやホテルで人と交流ができるとその旅行の価値はぐんと大きくなりますよね。観光名所を巡るのも楽しいですが、人との交流は旅の価値そのものにもっと大きな影響を与えてくれます。

――人をつなげるためになぜホステルという手段を選んだのでしょう。

入江:ホステルをつくることによって、そのエリアにはよそから人が訪れることになります。その中に地元の人も使いたくなるようなカフェがあると日本だけでなく、世界とローカルをつなげることができる。人をつなげるエンターテイメントな場づくりの第一歩としてホステルはちょうどいいと思いました。

人を楽しませることが好き。エンターテイメント業界を知り、デベロッパーの道へ

人を楽しませることが好き。エンターテイメント業界を知り、デベロッパーの道へ ――エンターテイメントな場を作りたいと考えたのはなぜですか?

入江:子どものころから人を喜ばせることが好きだったんです。父が海外駐在員だったため幼少期は海外で育ち、よく自宅にお客さんを招いていました。そこでちょっとしたショーやダンスを披露して親やお客さんに楽しんでもらうことの面白さを知ったんです。高校はアメリカの学校に通っていたのですが、そこでは少しやんちゃをしていて。周りから浮いた存在だったのですが、クラスの出し物で演劇をやり、それがクラスメートや先生からとても喜ばれたことから演技の道に進むことにしました。演劇専門学校に行き、大学では演劇サークルに加入したりしましたが、興味はだんだんと舞台ダンスの方へ。やがてエンターテイメントの場づくりに移り、就職もエンターテインメント施設を開発していた会社にしました。

――就職後はどのような仕事をされていましたか?

入江:入社したのは不動産デベロッパーです。数年は通常の不動産事業に従事し、6年目に再開発の一環で大手外資系ホテルの開業に携わりました。不動産オーナーの立場としてのかかわりなので限定的ではありましたが、ホテルがどのように運営され、どのような役割を担うのかとても勉強になりました。その中でホテルというのが非常にエンターテイメント性の高い施設だということに気づいたんです。

海外の例ですが、カジノやテーマパーク、大型劇場を運営するラスベガスのホテル群やシンガポールのマリーナベイ・サンズなどをイメージしてもらえるとその意味を感じてもらえると思います。そこで、ホテル開業を目指したいと思い、転職や留学によって知識を蓄えていくことにしました。当時28歳でしたが、漠然と独立は38歳でしようと思いました。

独立を思い立ち、留学や転職で10年間修行。投資の知識を身に着け開業へ

――独立を思い立ってからしたことは何ですか?

入江:まずは投資会社に転職し、投資家の心理を学びました。リーマンショックが起きる前まで投資業は非常に盛んな時期でした。そこで貯金も蓄え、それからアメリカのホテル専門のMBAに通うことにしました。学費はトータルで1000万円以上かかりましたね。プロジェクトのためにあちこち海外へいったりインターンをしたりしたので高額になりました。物ではなく自分の知識に投資した形です。

それからホテルのコンサルティング会社に転職。ホテル不動産の売買やホテル運営会社M&Aのアドバイザリーを通してさらにホテル関連の不動産知識を増やしていきました。再生案件に携わるときは担当先のホテルに数カ月常駐して課題を洗い出したり、スタッフと面談をするようなこともありました。

――独立されるまでは長期間にわたる修行期間があったのですね。

入江:そうですね。僕は結構慎重なところがあるので、しっかり知識を蓄えてから行動することにしました。でもこういう蓄えは後から効いてくると信じてます。そして独立しようと考えていたときのイメージ通り、38歳のときに独立することになりました。

開業される際、資金の調達や営業場所の確保などはどのようにされたのでしょう ――開業される際、資金の調達や営業場所の確保などはどのようにされたのでしょう。

入江:これまでの知識をもとにビジネスプランを書き、それを投資家のところへ持っていきました。

僕の構想は、端からラグジュアリーホテルではなく、カジュアルに楽しめるホテルを開くことでした。今でこそホステルは非常に増えましたが、2014年前にはまだ都内にもホステルは少なく、投資家の方々は面白がってくれました。本当はもっと回る予定だったのですが、運がよく4社ほどプレゼンしたあたりで開業への目星をつけることができようになりました。

物件については投資家の方が紹介してくださいました。1件目の「エンブレムホステル西新井/東京」を開業した足立区西新井という場所は、縁もゆかりもない場所だったのですが、駅から近いこと、競合が少ないこと、もともとビジネスホテルだった建物を使えること、そして何よりも下町人情溢れる足立区に住む人に興味があったことから決めました。シティホテルにあるような宴会場スペースもあり、これも活用できると思った。

投資家にプレゼンしてからオープンまではちょうど1年ぐらいだったと思います。

――外観はビジネスホテルの風貌が残っていますが、居心地のいい空間をつくるために内装にはこだわっているのではないですか?

入江:そうですね。ただ、投資家が抱えている内装設計会社があったので100%自分の思い通りにはいきませんでした。アイディアを出しながらみんなで議論を重ねましたね。しかし僕の考えや運営の方法については1件目の実績に納得していただけたようで、2軒目はもっと自由に、3軒目はほぼ自分のアイディアを全面的に展開できました。

ホテル経営で何よりも大切なのは人材。経歴よりも働き方よりも「人が好きであること」を優先して雇う

ホテル経営で何よりも大切なのは人材。経歴よりも働き方よりも「人が好きであること」を優先して雇う ――ホテルでブランドを表現するうえで最も大切なのは人材だと思いますが、どのような人を採用しているのですか?

入江:まさにそのとおりで、ブランドを体現できるのは人なんです。エンブレムホテルは従業員をコネクターと呼び、人とのつながりをつくることを第一のミッションにしています。エンブレムホテルは人とつながってハッピーになりたいと思う人達に集まってもらいたい。ホテルのロゴを見ただけで「つながりが生まれる場所」とイメージが想起されるようにしたいんです。ですから、人を採用するときの基準は「とにかく人が好きであること」。学歴などは関係ありませんし、他では社員としてはなかなか雇われないようなユニークな人材も採用しています。それがいずれ面白いカルチャーからブランドにつながると信じて。

例えば、長期間旅に出ることをワークスタイルとしている社員は、一生懸命働いては数週間休んで旅行に行くということを繰り返しています。

――長期間休みを取る人はアルバイトとして雇用したほうが経営者としては都合がいいのではないですか?

入江:本人が望むスタイルで休日を取れることがモチベーション向上につながるならそれは一つの方法だと思っています。オープンして1年ぐらいはその軸を明確にできなかったため、安定した雇用ができませんでしたが、採用面でもブランドの確立を意識したことで今はそれぞれの持ち場で仕事を任せられるスタッフが揃っています。

スタッフ間のコミュニケーションが円滑になるように僕も含めて全員を下の名前で呼び合うようにしたり、褒め合うための仕組みをつくったり、食事会をしたりしています ――「コネクター」には具体的にどのような仕事を求めていますか?

入江:宿業はゲストが次々訪れては去っていく場所。すべての接点でエンブレムらしさを出していかないとそれが伝わらないと考えています。例えば、エンブレムホステル西新井/東京併設のカフェではハンバーガーを出しているのですが、そのメニューはキッチン担当のコネクターに考えてもらっています。最初は日本らしさを体験してもらうために和食を提供しようと思っていたけれど、それなら外でいくらでも食べられる。日本のホームであるホテルに返ってきたら少し食べ慣れたものを食べてほっとしてもらおうとハンバーガーを出すことにしました。ハンバーガーであれば、全世界に展開されていますから食べ慣れていないという人が少ないはずなんです。エンブレムらしい「楽しさ」も表現できるということで提供しています。

――ほかに従業員のモチベーションを上げる施策はあるのですか?

入江:スタッフ間のコミュニケーションが円滑になるように僕も含めて全員を下の名前で呼び合うようにしたり、褒め合うための仕組みをつくったり、食事会をしたりしていますが、まだまだ模索中ですね。どうしたらスタッフみんながワクワクした気持ちで働けるのかを日々研究しています。

明日の運営も未来の集客もコネクターの働きにかかっている

明日の運営も未来の集客もコネクターの働きにかかっている ――ここまでとても順調に運営されているように感じますが、苦労したことなどはありますか?

入江:1年目は従業員に対するコミュニケーションが不足しており、反乱が起きたこともありました。辞めてしまった人もいて「明日営業できるだろうか」と不安になった日もありました。人がいなければ、ホテルは1日も続けられませんから。どのような人を雇いどう育てるか、その軸が決まった今では問題はだいぶクリアになってきました。

――集客のために工夫されていることはありますか?

入江:今のホテル業はオンライントラベルエージェントのレビューがとても大切です。様々な予約サイトやレビューサイトで高評価されないとお客様は来てくれない。まさに生命線です。けれど価格競争に巻き込まれてしまったらエンブレムホテルが体現したいことはできなくなってくる。だからこそ、お客様にサービスをする人材が何よりも大切なんです。うちでは従業員が間違いなく最大の資産です。今の僕の仕事の半分は人の管理ですね。募集は通年でしていて、いい人がいればどんどん採用しています。

夢はグローバル展開。世界中のローカルをつなげたい

――入江さんの今後の夢はなんでしょうか。

入江:エンブレムホテルをグローバルに展開することです。それぞれの地域に入り込み、ローカルコネクションをもった施設をたくさん作っていきたいですね。現在、西新井と金沢はそれができているのですが、箱根はまだオープンしたばかりなのでこれから。面白い人を引き寄せてどんどん人の輪を、地域を超えて広げていきたいです。海外の拠点はニューヨーク、ロサンゼルス、ハワイ、ロンドン、パリ、香港、シンガポール、バンコクあたりを狙いたい。全部自分が住みたい街です。それぞれのローカルを深く結びつけていったらどんな世界が見えるのか、とても楽しみです。

――最後に、独立・開業を考えている人へ向けてのメッセージをお願いします。

入江:独立をしてみて感じたのは、開業そのものよりも継続をさせることの方が大変だということです。ビジネスプランは大したものができなくてもいい。ただ、10年、20年、それ以上続けていけるだけの志の強さが何よりも大切だと思いました。周りにいる起業家たちをみていても同じことを感じます。知識の量よりも目標に対する思いの強さが大切です。だから、どんな状況でも諦めずにやれることをみつけることが何より大切なのかなと思います。

エンブレムホテル株式会社

本社:東京都港区南麻布2-8-5
エンブレムホステル西新井/東京: 東京都足立区梅島3-33-6
エンブレムステイ金沢:石川県金沢市尾張町1-2-8
エンブレムフロー箱根:神奈川県足柄下郡箱根町強羅1320−179
※取材時点の情報です

https://emblem-group.com/ja/

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