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先輩開業インタビュー

「人と同じことをしたくなかった」。八王子初、たった80万円で事業を始めた新規就農者

東京都八王子市初の新規就農者である舩木翔平さん。現在は農業体験の提供や農地の活用支援をしている一般社団法人畑会の理事です。

舩木さんは2010年に東京農業大学を卒業後、すぐに新規就農者を目指しました。農業が軌道に乗り始めるとやがて志を同じくする仲間と株式会社FIO(現:株式会社アンドファームユギ) を立ち上げ、八王子市内で農業を盛り上げるための活動に従事。しかし、やがてメンバーは農業を極めたい人と農業にまつわるイベント事業を興したい人に分かれるようになり、後者の立場だった舩木さんはFIOを離れ、自分の農地を耕しつつ畑会のメンバーとして農家が運営する体験農園のサポートなどを手がけるようになります。

今回は、舩木さんが前例のない地で新規就農者として辿った道筋と、身軽な立場だからこそチャレンジできたさまざまな活動について紹介します。

就職活動をしてもピンと来ない。自身の旅の経験から観光×農業の事業を思いつく

就職活動をしてもピンと来ない。自身の旅の経験から観光×農業の事業を思いつく ――舩木さんは東京農業大学を卒業後、すぐに農業の道を選ばれましたが、一度は一般企業に就職してみようとは思わなかったのでしょうか?

舩木:大学4年生の夏休み明けに少し就職活動をしてみたのですが、いまいちピンと来なかったんです。建設会社の面接を受けて、住宅の魅力について話を聞いてもなんだか自分の進む道とは違うような気がしました。

開業へ舵を切ったのは、学生ながらアルバイトで作った貯金がそこそこあったので、とにかく好きなことをやってみようと思ったから。既存の企業の中にやりたいことがないなら自分で考えるしかないと思いました。

あとは人と同じことをしたくない、という気持ちもありました。僕は実家が工務店だったのでなんでも自分の手で作ってみること、まずはやってみることが当たり前の感覚なんです。

――それで、やってみたいことが農業だったんですね。

舩木:僕は旅行が好きで学生のころは全国をあちこち見て回っていました。そこで地域活性化や観光開発に興味を持つようになったんです。自分の強みを生かして観光で地域を活性化するには、農業を絡めることが一番いい道だと思いました。それでまずは参入障壁が最も高そうな農家に挑戦することにしたんです。

――舩木さんはご実家が農家ではないので、新規就農者として農地を探すところから始めなければなりません。新規就農者への支援は、開業された東京都八王子市よりももっと離れた地方の方が手厚いのではないですか?

舩木:おっしゃる通り、地方には農業を志す人を受け入れる体制が整っているところが多いです。けれど、僕は農作物の生産だけで生計を立てるつもりはなく、農業と人を結びつける何かをしてみたかったんです。

出身地でもある八王子市は都心からほど近く、チャレンジするのにちょうどよさそうだと思いました。地元の農業高校を出ているのでいろいろ話も通りやすそうだとも思いましたし。それと、ちょうど僕が大学を卒業する1年前の2009年に農業経営基盤強化促進法が改正されたこともチャレンジの追い風になりました。これまで新規参入には5000㎡の農地が必要なところ農地面積の下限なしで農業を始めることができるようになったんです。

こうして、東京都で5人目、八王子市で初の新規就農者になりました。

お金を払うだけでは農地を貸してもらえない。労働で信用を築き、農業の世界へ

お金を払うだけでは農地を貸してもらえない。労働で信用を築き、農業の世界へ ――前例のない道をこじ開けていくのは相当な苦労があったのではないですか?

舩木:新規就農者たちで組織された東京ネオファーマーズという団体があり、そこで先輩たちの話を聞いて参考にしました。

東京都では、新規就農者はまず既存の農家さんの元で修行をしないと農地を借りることができません。母の伝手を頼って修行をさせてもらったのですが、その後なかなか独立への道が開けませんでした。

そんなとき農大時代の友人に新規就農者の支援をしている人を紹介してもらい、その方のネットワークで農地を借りたり地元の農家さんとのリレーションを築いたりすることができました。

農家さんは貨幣とは異なる人間関係などの資本を大切にしている人たち。お金を払ったからといって、よそ者にポンと土地を貸してくれるわけではないんです。農家さんにしてみれば農地は先祖から受け継いだ大切な財産ですから、慎重になりますよね。

そこで農家に足繁く通って、畑作業を手伝ったり、一緒に田んぼに入ったりして労働によって信用を築いていきました。農家さんはとにかく労働力不足。仲間を引き連れて手伝いにいったこともあります。またそのころには里山保全のためのNPOに出入りするようになっていたので、その話をすると「それなら一緒に農業をやってみようか」と言ってもらえるようになりました。ある程度コミュニケーションが図れるようになってきたら、まとめて野菜を買い取って、別の場所へ売りに行っていたこともありました。

――農地さえ借りられれば、開業はできるのですか?

舩木:農家として開業するには各地域の農業委員会に許諾を得ないといけないんです。農業委員会には地域によって異なる掟がある。これを破ってしまうと農業を続けることはできません。

掟とは、例えば酪農が中心の地域ではできるだけ農薬を使用しないようにすることだったり、逆に野菜の生産が主流の地域では虫をおびき寄せてしまうような農法をしないようにすることだったりします。米農家が中心の地域では水の使い方が重要になってくる。農家で生まれ育ったわけではない僕は認めてもらうためのルールが分からないので、いろいろな人に話を聞いてまわり失敗しないよう気を使いました。

元手はたったの80万円。補助金とアルバイトで溜めた資金で開業できた

元手はたったの80万円。補助金とアルバイトで溜めた資金で開業できた ――資金はどのように調達したのでしょうか。

舩木:1年間の修行後、自分の畑を借りたのが2012年。修行中にアルバイトなどで貯めたお金が80万円ほどありました。元手はだいたいこのくらいで借り入れはしていません。

というのも、新規就農者には農林水産省から農業次世代人材投資資金(旧青年就農給付金)が毎年150万円、5年間補助してもらえるんです。報告義務があり、補助金を受けると簡単には農業を辞められなくなるのですが、これは大きな援助になります。

一方で支出はビニールトンネルを作ったり支柱を立てたりで20万円程度。大型のビニールハウスを作ろうとすればもっと高くついてしまうと思うのですが、スモールスタートで始めればこんなものです。

農地の賃料は1,000㎡で年間1万円です。僕の場合は土地を貸してくれた農家さんが農機具やトラクターも使っていいと言ってくれたので本当にお金がかかりませんでした。ある程度お金が貯まってから、改めて購入した農業機械もありますが、何も最初からリスクをとる必要はありません。

――驚くほど低予算で始められるのですね

舩木:農地の賃料は市町村によると思います。1万円/1,000㎡は東京の相場ですね。ただし、大型の農業に適した平たくて広い土地、つまり大型の機械を入れて大量生産ができる土地は、なかなか貸地になりません。元の農家さんが充分利益を上げられているので、わざわざ人に貸したりはしないんです。だから新規就農者に回ってくるのは細切れだったり起伏があったりする少し耕しにくい土地。ただ単純に大規模な農業を展開するのではなく、少し工夫が必要なんです。

ちなみにしばらく休眠状態になっていて雑草がボーボーに茂っていた農地はタダで貸してもらうことができました。

途中参入もできる世界。けれど身体の使い方は若いうちに覚えた方がいい

途中参入もできる世界。けれど身体の使い方は若いうちに覚えた方がいい ――若いうちに農家を始めていて良かった、と思うことはありますか?

舩木:やはり力仕事が多いので、若いうちからこの働き方に身体を慣らしておくといいのかもしれないと思います。機械化された作業も多いですが、積み下ろしは人の手によるものが多い。体験農園に来た方に手伝ってもらうこともありますが、平日は基本的に一人で作業をしているので体力は必要です。

数年前に6トンの芋ができてしまったことがあり、これをトラックに積み込むのは大変でした(笑)。

それと当たり前ですが、屋外の作業は冬は寒いし夏は暑い。それにも基礎体力があるうちに身体を慣らしておくといいと思います。けれど、農業の形はいろいろあるため働き方によってはそんなキツい労働をしなくてもいい場合もあります。

例えば、トマトやイチゴのハウス栽培。ビニールハウスを作るための投資は必要ですが、収穫時期をコントロールできるので比較的身体を酷使しなくても高い利益を上げられます。

補助金を受けて農業を開業するなら、専業として頑張れる体力があるうちに始める方がいいと思います。

大きく儲けようとしなければ、さほど失敗しないのが農業

大きく儲けようとしなければ、さほど失敗しないのが農業 ――農業は天候などによって収入に影響が出そうです。経営が苦しくなったことなどはないのでしょうか。

舩木:特にそう感じたことはないですね。僕が楽天的すぎるだけなのかもしれませんが。大きく儲けようとしているわけではないので、大きな失敗もないんです。

年によって収量に変化はありますが、農業って結構単位面積あたりで収入を計算できてしまうものなんですよ。野菜生産であれば1000㎡あたりで年間70万円~100万円の売上が相場。無農薬栽培などにこだわると下は50万円からになります。大規模な露地栽培をするとこの差は大きくなりますが、小さくやっている分にはあまり計算を外れません。

あと今の僕の仕事は、収入は野菜果物生産と、農業体験事業などがあり、野菜の販売だけではなく会員制のイベントを開くことで確実に収入が得られるという面もある。自分の食べ物に困ったことは特にありませんね。野菜ならいくらでもあるので(笑)。

独立した存在だからこそ味わえる、ゼロから何かを生み出せる楽しさ

――現在はどのようなお仕事が中心なのですか?

舩木:借りている4,000㎡ほどの畑で野菜や果物を育てながら、2017年に設立した一般社団法人畑会で理事に就いています。畑会では農家や消費者とネットワークを築き、地元産の野菜の消費が増えるようなイベントを企画しています。農業と観光を結びつける施策の一環として体験農園の運営サポートもしています。体験農園は肥料や種を全部こちらで準備して、利用者には手ぶらで来てもらう手軽なもの。

一般的な体験農園と異なるのは、土地の持ち主である農家さんにそれほど稼働してもらわなくて良いところです。農家さんは高齢化が進んでいますから、日常的にお仕事をすることは難しい。畑会が農家の苦手なところや大変なところのサポートに入ることで休耕地になってしまいそうな農地を生かしています。

――舩木さんにとって、この仕事に魅力とは何でしょう?

舩木:僕にとっては、何かを作り続けることが喜びなんです。作物も、物も、組織も。何もないところから生み出すのが楽しい。これは父親が工務店で働いていた影響なのかもしれませんね。イメージを膨らませて現場で形にしていくのが好きなんです。たとえばここの作業所は僕が図面を書いて、父の工務店に発注したんですよ。壁の絵も自分で描きました。こういったことは大きな組織に属しているとなかなかできないでしょうね。

アイディアは頭のなかで映像化してから書き出すことが大事

アイディアは頭のなかで映像化してから書き出すことが大事 ――農業にまつわる仕事で独立を考えている人にメッセージをお願いします。

舩木:「農業をやってみたい」「自然の中で働いてみたい」という人は少なくなく、実際に僕はよく相談にのっています。

けれど話してみるとどんなことをしたいのかあまり具体的になっていない方が多い。だから自分がどんな場所でどんなことをしていきたいのか、できるだけ映像的に思い描いて、それを具体的に紙に書いていくといいと思います。

これは僕がしていることなのですが、アイディアが生まれたら都度ノートにそれを記述していく。収支決算にまつわることも今後の展開もとにかくどんどん書き溜めていく。そうすると自分だけのネタ帳ができます。

そうやって考えてどんどん展開していくことで、仕事が面白くなる。農業の仕事は結構ルーティーンなので新しいことがしたくなるんですよね。農家が作りなれたものばかりでなくて、新しい品種に手を出すのはそれがあるからです。だから長く仕事を続けられるよう、新しいアイディアをたくさん溜めておくとより発展的な仕事ができるのだと思います。

一般社団法人 畑会(はたかい)

東京都八王子市打越町1137‐5
毎月第3日曜日 AM10時~12時 多摩地域の農家で援農活動を実施
※取材時点の情報です

http://hatakai.com/

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