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先輩開業インタビュー

母の夢に、書店員の娘が乗った!母娘の異なる特技をかけ合わせてできた小さなカフェの夢と現実

神奈川県川崎市の住宅街にぽつんと現れる小さなカフェ「くもい」。百人一首にある言葉を由来としており、「ぽっかりと雲が浮かぶところ」を意味します。 店主の坂本さん親子が、伸びやかで大らかなイメージの店でゆったりとした時間を過ごして欲しいと願ってこの名を付けました。

落ち着きのある空間でこだわりのコーヒーとフードを提供し、地域の人々に愛されている「くもい」は、カフェの開業を夢見る人の理想を体現したようなお店。しかし営業の現実は、きれいごとだけでは語れません。

2015年11月にお母さんと力を合わせて「くもい」をオープンし、街の憩いの場を提供し続けている坂本恵さんにカフェ営業の理想と現実を教えてもらいました。

家族の力を合わせて、焼き立てパンと絵本を楽しめるカフェをオープン

家族の力を合わせて、焼き立てパンと絵本を楽しめるカフェをオープン ――坂本さんはもともとカフェを開きたいという夢を持っていたのですか?

坂本:カフェを開きたいというのは母の夢だったんです。パン作り教室の講師をしていた10年以上前からずっとその夢の話をしていました。

私の父は高校時代にラグビー部に所属していて、そのOB会の結びつきが今でもとても強いんですね。それで会社経営をしているOBの一人が母の話を聞いてコンサルタントを紹介してくれ、その方が情報や開業資金の集め方などを熱心に教えてくれたんです。すると段々と母の夢が形に近づいていって。

その過程で気がつけば私も渦の中心にいて、話が具体的になっていくにつれすっかりやる気になっていた、という流れで一緒に開業することになりました。

――一緒にお店を開こうと思えるほど、母娘の仲が良いのですね。一緒にお店をやってきて喧嘩をしたことはないのですか?

坂本:うーん、仲は普通だと思います。意見がぶつかって腹を立てることはもちろんありますよ。どちらかが完全に主導権を握ってしまい、もう一方はそのサポートに徹するという形であればそういうことはあまりなかったのかもしれませんが、私達は良くも悪くも平等な立場として営業をしているので、どうしても自分の主張が出てしまうんですよね。

でも、母とやってきて良かったと思えることもたくさんあります。考えが似ていることが多いので、テーブル一つ選ぶにも「コレだよね」で通じてしまうことが多い。一から十まで説明しなくても話が通じるので、物事が進むペースは早いと思います。

――坂本さんはカフェ開業までは何をされていたのですか?

坂本:全国チェーンの書店員でした。もともと本が大好きで、大学時代は小説を書く勉強をしていたぐらいなんです。当時は入荷された本を陳列したり、シフトを組むなどのマネジメント業務や店頭でのフェアを企画したりするのが主な仕事でした。

――では、お店を切り盛りするということには慣れていたんですね。

坂本:店長を務めていたわけではないので、そこまでは……。接客はできますが、積極的に人の前に出ていく性格でもないので、今でも切り盛りをするスキルはあまりないと思います。ただ、POPを作ることが多かったので、その技術は今も生かせているかな……。

むしろ私のスキルが生きたのは絵本の選書ですね。「くもい」は開業するうえで「親子で絵本を読める」ということをコンセプトの一つにしたので、ゆったりとした時間に楽しんでほしい名作を揃えています。

「親子で絵本を読める」ことをお店のコンセプトに ――「親子で絵本を読める」ことをお店のコンセプトにしたのはなぜですか?

坂本:絵本を通して幅広い年代のお客様とコミュニケーションを取りたいと考えたんです。 書店員時代に児童書を担当していた時期に感じたのですが、名作の絵本って大人になってからでも充分楽しめるんですよね。実際に「くもい」では、お年を召したお客様が「懐かしい」といって絵本を手に取ってご覧になられています。

『星の王子様』を読んで「うちにもあったよ」と声をかけていただいたこともありますよ。絵本に触れることで、ゆったりとした時間を過ごしていただいています。

自治体や友人などあらゆる人の助けを借りて資金とスキルを獲得

家族の力を合自治体や友人などあらゆる人の助けを借りて資金とスキルを獲得 ――「くもい」はお店のオリジナルブレンドのコーヒーを1杯ずつ手で淹れていたり、焼き立てのパンを提供していたりと商品へのこだわりが強いですよね。その知識や技術はどのように習得したのですか?

坂本:オープン当初は、パンやフードに関しては料理が得意な母が担当していました。私は副菜作りを手伝うくらいでしたが、母に習って今ではパンも焼いています。パンはランチタイムに焼き立てが出せるように毎朝仕込んでいますよ。

しかし開業するまでその他のカフェ業務に関しての知識はほとんどありませんでした。必要な知識はカフェの学校に通って身につけたんです。

――カフェの学校というものがあるのですね。

坂本:川崎市と日本政策金融公庫が共同で主催している無料の講座があるんです。 学校には2週間に1度くらい通っていました。原価率とは何かという話から、集客の方法、ロゴの決め方、それを決めるうえでの公募制度の利用方法まで、カフェを運営するうえで必要なことは一通りここで学びました。 カリキュラムの最後にはグループでのワークセッションがあり、実際のカフェで営業を体験させてもらえるんです。本物のお客様が来るのでとても勉強になりました。

フードコーディネーターをしている友人にもすごくすごく助けてもらいました。メニューについては何度もアドバイスをもらいましたね。とくに助けられたのは価格の設定についてです。質の高いものを出そうとはしていたのですが、なにぶん経験がないので自信がなくて……。自家製食パンのトーストを200円で出そうとしていたら「公民館じゃないんだから」と突っ込まれました。彼女のおかげで適正な価格で商品を出すことができたと思っています。

これはお店をオープンさせてから気づいたことなのですが、価格設定って本当に大事なんですよ。それによってお客様の過ごし方などが大きく変わりますから。ちゃんと美味しいものを出していれば、値段でこびる必要はないということがよく分かりました。

――開業資金はどのように調達されたのですか?

坂本:融資を受けたほか、国から創業補助金というものを活用しました。創業補助金(※経済産業省中小企業庁が交付)は国が新しく事業を始める中小企業などをサポートするための制度。返還不要の補助金を200万円受け取ることができます。前述のコンサルタントの方がアドバイスしてくれ、大量の資料をまとめました。書店員の仕事と平行して企画書の作成をしていたので大変でしたね。

企画書については、地元の信用金庫も面倒を見てくれました。融資を受ける予定だった信用金庫さんがペラペラだった企画書を見てくれ、形になるように導いてくれたんです。川崎市産業振興財団の力も借りて、最終的には3年分の収支計画書をつけた分厚い資料が出来上がりました。

――書店の仕事はいつごろまで続けていたのですか?

坂本:開業の半年前までです。業務量の多い新店に配属された頃でしたので、通常の仕事もとても忙しかったですね。書店の仕事と開業準備とで、そのころは手帳が真っ黒になっていました。

開業3カ月前にトラブル発生。けれど、災い転じて福となす

――資金の目処がついた後は、トントン拍子で開業に至ったのですか?

坂本:物件探しで一悶着ありました。創業補助金を受けたら期限内に事業をスタートさせなくてはならないのですが、「くもい」のプレオープンはその期日の前日。ぎりぎりでの開業だったんです。

開業が遅くなった理由は、飲食店の開業ができない物件を選んでしまったことにあります。仲介の不動産屋さんもそれに気づかず準備を進めてしまっていたんです。改装の施工業者さんが入ったときに「火災報知器がないなんておかしい」と指摘され、そのときに初めて気が付きました。それが期日まで3カ月に迫ったころです。

――では、残り3カ月の段階でまた物件を探しなおしたんですね。

坂本:そうなんです。これには焦りましたね……。最初の物件は大企業の寮の近くだったので定食などを出していこうと思っていたのですが、場所を変えたことでコンセプトにも若干変更の必要が出ました。なので、そのときは本当に大変だったのですが……。今になってみれば実は運が良かったんです。その後、その寮はなくなってしまったので。家賃も最初の物件より次に見つけた物件の方が安くなりました。

元々お肉屋さんだった窓の作りを生かしたカウンター席 ここは元々お肉屋さんだったようで、窓の作りが独特なんです。カウンター席の前にある窓はお惣菜を売るのに使っていたんだと思います。この形を生かせたこともお店を作るうえでは面白かったかな。

――お店の形は前の物件の特徴を生かしたんですね。そのことで施工費は抑えられましたか?

坂本:形はある程度生かしましたが内装にはお金をかけました。カフェなので居心地は大事ですから。内装の施工費だけで500万円ほどはかかりました。今思えば、もっと安く抑える方法もあったとは思うのですが、オープンまでの時間がなくなってしまったことからそこは仕方ありませんでした。

SNSでの情報発信が功を奏するも、予想以上の客足にパニック

――開業してから大変だったこと、面白かったことはありますか?

坂本:私、本当に自信がなかったんですね。オープンしてもどうせそんなに来てもらえないだろうと思っていたんです。だからオープン初日は4人前しかランチの用意もしていなかったのですが……開店してみたらびっくり、お店の外にお客様が並んでいたんです。なんとかサンドイッチを量産することで切り抜けましたがまさかの事態でした。

お客様でいっぱいになってしまうということを全く考えていなかったので、カトラリーも席数分しか用意しておらず、片付けてはすぐに洗い物をしなければなりませんでした。全然準備が足りていなかったことを思い知らされましたね。

インスタグラムで開店準備の様子をアップ ――オープン初日にどうやってそんなにお客様を集めたのですか?

坂本:前述のフードコーディネーターの友人にアドバイスを受け、インスタグラムでずっと開店準備の様子をアップしていたんです。「今日はお皿を買いに来ました」とか「かっぱ橋にオリジナルの焼印を作りに来ました」とか。まさかそんなに人に見られていると思っていませんでした。

近所にお住まいのお客様に「オープンを待ってました!」とおっしゃっていただけたのは嬉しかったです。その方は今でもずっと通ってくださっています。

――「くもい」では月1回ベビーマッサージ教室を開いているようですが、これはどのような目的で開催しているのですか?

坂本:ご自宅でベビーマッサージ講座を開いていた方がもっとオープンな場所を使いたいと「くもい」に企画を持ち込んでくださったんです。開講日は店内を貸し切りにして、参加者の方にはランチを提供しています。 2年ほど続けており、そこからリピーターになってくださったお客様もいるのでとてもありがたい企画です。

愛する地元のために店を続けていきたい

前の物件を活かした内装 ――「くもい」を開業して良かったことはなんでしょうか。

坂本:常連のお客様と特別な関係を結べるようになったことです。ご自宅に招いてくださる方や、洋服をプレゼントしてくださる方もいらっしゃるんですよ。今着ている服もいただいたもの。くださったのはいつも三世代でご利用いただいている方です。友人でもなく、親戚でもなく新しい間柄の関係性ができたことは嬉しかったですね。

――地域のために何か還元していきたいという気持ちはあるのですか?

坂本:そうですね。私は生まれも育ちもこの街ですから、地域への思いはもちろんあります。「くもい」がある通りはかつては大きな商店街だったんです。今でも夕方は歩行者天国になるのが当時の名残。でも商店はどんどん減ってしまって。人口は減ってはいないので、お祭りのようなイベントをすると人は集まるんです。だから何か「くもい」にできることで街を元気にしていきたいですね。

最近はNPO法人 幸区盛り上げ隊と一緒に何かイベントを開催しようと考えています。お母さんとお子さんが楽しめるイベントを商店街を巻き込んで実施したいですね。

――最後に、独立・開業を考えているみなさんにメッセージをお願いします。

坂本:本当にやってみたいことがあるなら、言葉にして口に出すことが大切なのかなと思います。声に出して言ってみると、たくさんの手が差し伸べられて、情報もどんどん入ってくるようになります。やりたい、という思いを発信することがまずは開業への第一歩になるのかもしれません。

カフェ くもい

川崎市幸区塚越2-225 安伸ビル1F
044-742-8134
10:00~17:00
(金土日祝 11:30~17:00)
第一・第三水/木曜定休(不定休あり)
ディナータイム/金・土 18:00~21:00
※取材時点の情報です

http://kumonoirutokoro.tumblr.com

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