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先輩開業インタビュー

団地の一角で大繁盛。都内増加中のブルーパブは、ブームに乗らないことが鍵

酒税法の改正により日本にクラフトビールが誕生したのは、1994年。1990年代後半には、第一次クラフトビールブームが到来し、2000年代には、第一次ブームによって研鑽を積んだ生産者による本格的なマイクロブルワリー(ビール醸造所)が育ち始め、第二次ブームが訪れました。そしていまは第三次ブーム。ブルワリーを併設した酒場「ブルーパブ(店内でビールを醸造し、それを提供するパブ)」に注目が集まり、都内でも店舗が増加しています。
2017年6月に東京・江東区にオープンした「横十間川酒造 ガハハビール(通称:ガハハビール)」は、そんなブルーパブのひとつ。「ブルー居酒屋」というユニークなコンセプトを掲げ、公営住宅である「南砂二丁目団地」の一角にお店を構えています。珍しい立地ながら、平日の夕方でもお客さんがひっきりなしに訪れるこのお店のオーナー・馬場哲生さんに、独立・開業を決意した理由やブルーパブ開業の苦労、地域の人に愛されるお店づくりの工夫などをうかがいました。

20代で諦めた映像監督という夢。直感で思いついた「ブルワリー+居酒屋」が、第二の目標となった

20代で諦めた映像監督という夢。直感で思いついた「ブルワリー+居酒屋」が、第二の目標となった ――「ガハハビール」とはユニークな店名ですね。

馬場:私が「ガハハ」と笑う姿を見て、友人がつけてくれました。お客さんからは、「最近、キャラづくりのためにあえてガハハと笑ってない?」と突っ込まれています(笑)。

――たしかに、今日もずっと笑顔ですね。馬場さんはガハハビールを開業される前は、どのような仕事をされていたのですか。

馬場:若い頃の夢は映像監督でした。29歳までは助監督や撮影アシスタントをしていましたが、結婚を機に地に足をつけた仕事に就こうと、正社員登用のある居酒屋でアルバイトを始めたんです。もともと、料理をつくることも食べることも好きだったので、飲食の仕事で生きていこうと思いましたが、独立・開業までは考えていませんでしたね。日々の仕事を覚えることで精一杯でした。

独立・開業を考えるようになったのは、それから3年後。32歳の頃です。一緒に働いていた先輩が独立・開業の夢を持っており、「一緒に居酒屋をやらないか」と誘われたことがきっかけでした。結局、先輩の夢は頓挫したのですが、私はそこで火がついた。どんな店にすれば良いかというイメージはまったくありませんでしたが、いつかは自分の店を持ちたいと思うようになりました。

そんなとき、働いていた海鮮居酒屋の近所に、「高円寺麦酒工房」というお店が開業したんです。「麦酒工房」は株式会社麦酒企画が運営するブルーパブ。いまは東京や埼玉で6店舗を展開していますが、当時はまだ2店舗くらいしかありませんでした。これを見たとき、ブルー「パブ」ではなくて、自分の経験を活かしたブルー「居酒屋」としてお店を出したら面白いかも、と直感的に思いました。いま振り返るとこのときに、「いつかは自分の店を持つ」というふわっとした夢が、「ブルー『居酒屋』で独立・開業を目指す」という目標になったと思います。

「ブームは去った後が怖い」。ブルー「居酒屋」という独自のコンセプトを掲げた理由とは?

「ブームは去った後が怖い」。ブルー「居酒屋」という独自のコンセプトを掲げた理由とは? ――夢が目標に変わったあとは、どのように動かれたのですか。

馬場:「高円寺麦酒工房」がアルバイトを募集していたので、修行のつもりで応募しました。採用され、そこから約4年間働いて、最終的には正社員として店長まで任せてもらいました。働き始めの頃は「自分にはビールづくりは無理だ」と思っていましたね。ビールの醸造は、酵母の量や発酵温度などが重要な理系の世界。私は、そのあたりはもうからっきしで。考えるだけで頭痛がするほどでした(笑)。

ただ会社が、「独立行政法人 酒類総合研究所」が開催する『種類醸造講習』に参加させてくれて。ここでは、酒類製造に必要な総合的知識と製造技術など、ビールづくりの理論を学びました。あとは、とにかく実体験です。つくっては失敗して、改善を繰り返す。このときの経験が、ガハハビール立ち上げに役立ちましたね。特に力を入れたのは、個人的にいろいろなブルワリーでクラフトビールを飲みまくること。もちろん、これも大事な勉強です(笑)。

――「高円寺麦酒工房」で修行をして4年後の2016年、38歳のときに、満を持して独立・開業に舵を切ります。この頃には、都内を始めとした大都市圏ではブルーパブも増え始め、第三次クラフトビールブームともいわれるようになりました。これは、独立・開業の追い風になったのではないでしょうか。

馬場:もちろん、追い風の部分はあります。自分もブームに乗り、オシャレな雰囲気のブルーパブの開業を考えたこともありました。しかし、一方でブームは怖いものだと考えていて。去ったときには潮が引くように客足が途絶えるでしょう。ガハハビールをブルー「居酒屋」というコンセプトにしたのは、保険の意味もあるんです。いざとなったら「居酒屋」として営業することもできますから。

ブルー「居酒屋」にした理由はもうひとつ。私はビール好きですが、日本酒や焼酎を飲みたいこともある。ビールしか出さないこだわりのブルーパブは、こういったお客さまを逃してしまいます。だったら、日本酒が売りの居酒屋みたいに、自家製ビールが売りの「居酒屋」的立ち位置を目指したほうが合理的だと考えました。

地域のニーズに合わせたビールづくりで、「おらが町の醸造所」を目指す

地域のニーズに合わせたビールづくりで、「おらが町の醸造所」を目指す ――ガハハビールを開業する場所として、江東区を選んだ理由はなんでしょうか。

馬場:自分の出身地だったということもありますが、なにより、江東区にはブルワリーがなかったんです。ドイツには、「ビールはその醸造所の煙突の見えるところで飲め」という、古くから言われていることわざがあります。

もともとは、保存方法や輸送手段が確立されていなかった時代、味や香りを楽しむにはつくりたてしか美味しく飲めなかったことから生まれた言葉です。いまでは、「おらが町の醸造所」という意味でも使われたりします。ガハハビールも、江東区初のブルワリーとして、地域に根づいた存在になりたかったんです。

――「おらが町の醸造所」になるために、江東区という場所はベストだったんですね。公団住宅の団地内という場所もユニークです。

馬場:前職で働いていたときの友人などに団地での開業を相談したときは、誰もが「やめとけ」と言っていましたけどね(笑)。たしかに、飲食業では繁華街や駅前での出店が定石。ここは駅から5分ほど歩かなければいけません。しかも、繁華街ではなく生活空間のど真ん中です。ただ、団地にしては若い人も多いし、周辺にはオフィスも増えている。ランチ営業も行えば、それなりに需要があるのではないかとも思っていました。

実際、お昼に訪れたお客さまが次は夜に来てくれたりして、開業から1年ほどですが常連のお客さまもついてきました。地元のお客さまだけでなく、遠方から訪ねてくるビール好きのお客さまもいらっしゃいますよ。こちらは、ブルーパブブームのおかげですね。

――開業後、お客さまの心をつかんで、常連になってもらうためには、さまざまな工夫があったと思います。価格設定やメニュー構成、なにより、ビールのこだわりについて教えてもらえますか。

馬場:基本は「自分が訪れたくなる店」を目指しています。肩肘を張らず毎日でも寄れるような雰囲気を大切にしていますね。ランチもやるようにしているので、休日は子どもも連れてこられます。席数は20程度でこじんまりとしていますが、老若男女が気軽に集まれる場所です。

そのために、価格はできるだけ抑えました。うちのクラフトビールは小で450~600円。普通のブルーパブに比べるとお求めやすい値段設定だと思います。メニューは基本的にはビールに合う濃い味のものや、調味料にクラフトビールを使ったものを提供しています。

クラフトビールは6種類。場所がら、クラフトビール好きなお客さまばかりではないので、飲み疲れしなくて飽きない、いわゆるゴクゴク飲めるタイプのビールに仕上げています。たとえば、店名をつけた「ガハハビール」は、苦みを少なくして、紅茶の香りがするホップを使っています。ホップのさわやかな香りと苦みが特徴のIPA(インディア・ペールエール)もありますが、最近はよりモルトの風味が感じられるビールにも力を入れています。お求めやすくてうまいビール、美味しい料理、そして素敵な店主。これが、ガハハビールの売りですね(笑)。

開店資金は約1,300万円。ブルーパブは免許発行までの運転資金が重要

――店舗の賃料や設備投資費、改装費などの初期費用も、独立開業にあたって大事なポイントの一つです。ブルーパブの場合、何に気をつければよいのでしょうか?

馬場:ブルワリーを店舗に併設するということは、厨房以外にもお客さまを入れられないスペースが発生するということ。つまり坪あたりの客単価が下がります。なので、団地を選んだ理由の一つとして、できるだけ賃料を抑えたかったというのもありました。ここは公営住宅なので、賃料が相場の3分の1と非常に安く、また、更新料も必要ない。これは非常にありがたかった。そもそも、その分の賃料を抑えたかったんです。

もうひとつ、賃料を抑えたかった大事な理由があります。それは、ブルワリーを開設するために必要な「酒類等製造免許(発泡酒)」との関係です。この免許は個人の技能に基づいて発行されるわけではなく、製造ができる設備と場所、酒の製造量が規定をクリアすることが条件。「酒類等製造免許(発泡酒)」は、年間6キロリットル以上のクラフトビールを製造できると認められて、初めて免許が発行されるのです。

つまり、製造ができる設備と場所を整えた時点で賃料は発生するのに、免許が発行されるまではブルーパブとしては営業できない。ガハハビールの場合、2017年1月に申請をして、免許が発行されたのは2017年8月のことでした。この期間は大変でしたね。本当は免許が発行されたタイミングでブルーパブとしてオープンする予定でしたが、資金面で不安が出てきたので、6月にビール製造に先駆け、居酒屋として営業していました。

――開店資金はどれくらい用意したのですか。

馬場:準備したお金は約1,500万円。前職で貯めたお金と妻の貯金が500万円。日本政策金融公庫からの融資が1,000万円です。

内訳としては、クラフトビールの醸造システムが200万円。中古のタンクなどで費用を抑えました。クラフトビールや食材を保管する冷蔵庫が100万円。店舗の保証金などが100万円、什器類は前職のつてを頼って50万円で揃えました。

もっとも費用がかかったのは、店舗の内装で500万円。ただ、友人の大工や内装業を営む妻の実家に手伝ってもらったり、自分で手を動かしたりして、かなり抑えることができました。あとは、当座の運転資金として400万円。合計1,300万円ほどで収まりました。

――独立・開業をする際は、各所に申請する書類の作成も大変だと思いますが、行政書士などに依頼したのですか?

馬場:私の場合は、日本政策金融公庫からの融資に必要な創業計画書と「酒類等製造免許(発泡酒)」取得のための書類が必要だったのですが、どちらも自分で行いました。

「酒類等製造免許(発泡酒)」は、製造する場所の住所と前職での経験、税金滞納や前科がないことが証明できれば、あとは必要事項を記入するだけで難しくありません。前職である「麦酒企画」で、社長がその作業をやっていたのを見ていたこともあり、スムーズでした。創業計画書もわからないところは、政策金融公庫の担当者に聞きながら記入。丁寧に教えてもらえたので、自分でできましたね。

デリケートなクラフトビールづくり。もしもの事態に備えて開業資金は多めに用意しておく

デリケートなクラフトビールづくり。もしもの事態に備えて開業資金は多めに用意しておく ――クラフトビールづくりは、非常にデリケートです。それでいて、1年に6キロリットルを下回る製造量だと、免許の剥奪もありえるそうですが、そのあたりには、苦労が多いのではないでしょうか。

馬場:開業して約1年ですが、今年の醸造量は約9キロリットルになりそうです。いまは、基本的に1回につき150リットル、月に6回ほどつくるようにしています。単純計算すれば、10,8キロリットルですが、季節によって量や回数が変わりますし、納得がいかない味に仕上がったときは廃棄することもあります。

あとは、酵母は温度の変化やほかの菌に弱いので、扱いに気を使っています。清潔にするのはもちろん、たとえば、納豆菌は本当に強くて酵母菌を殺してしまうので、納豆は食べないようにするなど。取材時の撮影も、ブルワリーの外からお願いしています。

――これからブルーパブでの独立・開業を目指す人に向けて、アドバイスをいただけますか。

馬場:ブルーパブに限らず、飲食業は競争も激しく、大変な世界です。私もいまだに軌道に乗ったなんて思っていません。開業前にこの大変さを知っていたら、当時の自分に「やめとけ」というかもしれません(笑)。そのことを理解したうえで、ある程度の覚悟を持って行動を起こすべきです。

それを前提としてアドバイスをするとすれば、まず、「酒類等製造免許(発泡酒)」は申請してから発行されるまでのタイミングがはっきりとわからないので、店の賃料だけを払わなければいけないケースもあると知っておくこと。そのために、できるだけ開業資金を厚めに準備しておくことが大切です。

あとは、流行りに乗るのではなく、長く愛されるように地元の人をターゲットにした店づくりをすること。「おらが町の醸造所」を目指すことが、急増しているブルーパブのなかで生き抜くコツだと思います。

――最後に、この仕事のやりがいを教えてください。

馬場:やはり、自分が心を込めてつくったビールをお客さまに「美味しい」と言ってもらえたときが一番嬉しいですね。大変なことばかりですが、その分、開業したあとの喜びも多い仕事だと思います。

ガハハビール

東京都江東区南砂2-3
03-6659-7043
月、第1・3・5木曜定休
11:00~22:00
※取材時点の情報です

https://twitter.com/gahaha_beer

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