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先輩開業インタビュー
修行期間10か月。未経験からスピード開店したパン屋店主の開業ノウハウ

多くの日本人が、主食として親しんでいるパン。総務省の家計調査によると、主食への世帯支出では2011年にパンが米を逆転して以降、その序列は継続中。そのなかで、日々、多くのパン屋が新規開店しています。「パン職人」と聞くと長年の修行が必要な印象がありますが、近年はノウハウを伝授する有名店や専門学校も登場。短期間で独立・開業が目指せるようになっています。

東京・田園調布にある「アヤパン」を切り盛りする守谷彩さんは、有名店による開業支援システムを利用して2015年に開業。オープンからまだ3年ながら、テレビをはじめとした各種メディアに取り上げられることも多い人気店となっています。「パンづくりは趣味程度だった」と話す彼女は、なぜパン屋を開業したのでしょうか。開業に至る経緯や開店資金の目安、さらには売上に至るまで、パン屋経営のあれこれについてうかがいました。

人気店に修行の直談判。主婦からパン屋経営者への道

人気店に修行の直談判。主婦からパン屋経営者への道 ――守谷さんが「アヤパン」を開業したのは2015年、34歳のときだとうかがいました。どうして、パン屋を経営することになったのでしょうか?

守谷:もともとは夫が経営していたコンビニを手伝っていたのですが、売上が年々下がっていたこともあり、業態の切り替えを模索していました。そのなかで、私は過去に飲食業に携わった経験があったので、食べ物のお店をオープンしたいと考えていて、研究のためにいろいろな食べ物の食べ歩きをはじめたんです。

そのときに、横浜・大倉山にある人気のお店「TOTSZEN BAKER'S KITCHEN(トツゼンベーカーズキッチン)」で食べたパンがすごく美味しくて。味はもちろんですけど、お店の雰囲気がすごく良かったんです。求人募集など何も出していなかったんですけど、「これだ!」と思って直談判して、開業するために働かせてもらうことになりました(笑)。

――求人募集がない状況で、人気店で働くことができたなんて奇跡的ですね。

守谷:面接を受けて、合否をこの日までに連絡します、というギリギリの日に返事があったので、本当にドキドキしました(笑)。でも、ちょうどそのとき、そのお店のオーナーさんが「パン屋開業パッケージ」というものをスタートするタイミングだったんです。パンづくりから必要な什器をそろえるための方法まで、パン屋で開業するためのノウハウを教えてくれるプログラムです。その広告塔になってくれるなら、という条件つきでチャレンジさせてもらえることになりました。すごくタイミングが良かったんです。

――はじめから、開業するという前提での修行だったんですね。とはいえ、まったくの未経験から、いきなりパン屋で働くことに不安はなかったのでしょうか?

守谷:もちろんありました。これまで、自宅でパンを焼くことはありましたが、趣味の延長みたいなものだったので。専門的に勉強していない人間が、いきなり飛び込んで良い世界なのかという葛藤もありましたね。それに、3人の子どもの育児もしなくてはいけませんでしたから。

10か月の修行期間で身につけた「パン屋の極意」

10か月の修行期間で身につけた「パン屋の極意」 ――実際に働いてみていかがでしたか?

守谷:朝はとても早いし、想像以上にハードでした。大変な世界に飛び込んでしまったなと思いましたね。

――そのなかで、パン屋のノウハウを少しずつ学んでいった?

守谷:そうですね。たとえば、過去に飲食店で働いていたときは「古いものから先に出せ」と教わっていたんです。そうしないと、ストックしている食材や料理がどんどん古くなって、最終的には廃棄しなくてはならないですから、当然ですよね。

でも、そのパン屋では「とにかく焼きたてを先に出せ」と。すごく衝撃的でした。お客さまにいちばん美味しい状態のものを食べてもらう、それを徹底することの大切さを学びましたね。あと、パン屋には「ライブ感」が重要なことも知りました。お客さまがいるタイミングを見計らって焼きたてのパンを出すと、すごく反応が良いんです。

――たしかに焼きたてのパンは、つい手を伸ばしたくなります。

守谷:そのほか、パンの陳列方法も工夫が凝らされていて。ただ商品を並べるのではなく、色やかたち、大きさのメリハリをつけるだけで、売れ行きがまったく変わってくるんです。プライスカードもただ名前や価格を記入するだけでなく、パンの説明を一言書いておく。そうすると、手に取ってもらいやすくなるんです。パンのつくり方以外にも、お客さまにアピールするための方法をたくさん学ぶことができました。

――修行期間はどれくらいだったんですか?

守谷:10か月です。家計の問題もあり、開業する時期が先に決まっていたので、オーナーさんには最初からその条件で教えていただいたんです。修行中も開店に向けて融資先を探したり、物件も見つけたりしなくてはいけなかったので、いろんなところを駆け回っていました。だから、当時のことはあんまり記憶がないですね(笑)。

――イチから修行を開始して、10か月で独立まで漕ぎつけたと聞くと、すごく短いように感じます。

守谷:じつはそんなこともないんです。最近はパン屋を開業するための専門学校のようなところもあって、5日や10日ですべてを学べるところもあるんですよ。そう考えると、私は10か月間すごく充実した日々を過ごさせてもらったと思います。生地のこね方から、小麦の配合比率や温度管理の方法、販売方法まで細かく教えていただいたので。

じつは、うちのお店の看板メニューである「バナナ食パン」も、そのお店でゼロから教えていただいたものなんです。レシピなどの詳細な情報は、門外不出のお店も多いなか、それを惜しげもなく教えていただけたのは、すごくありがたかったです。

開業資金1,500万円のうち半分は、調理器具や設備投資に

開業資金1,500万円のうち半分は、調理器具や設備投資に ――開業時にはどれくらいの費用がかかったのでしょうか?

守谷:開業資金として融資を受けたのは1,500万円。そのうちの半分くらいは備品や調理器具で消えましたね。業務用のオーブンとミキサー、そして冷蔵庫、冷凍庫などは中古でそろえたのですが、それでも500万円くらいかかりましたから。あとは内装や外装ですね。このお店は、もともとお寿司屋さんだった場所を改装しているんです。

――外装のテントがとてもかわいらしいですよね。

守谷:どうしてもつけたくて、特注したんです。私は小さい頃からサーカスが好きで、そういう非日常感を味わえる場所にしたいという思いからテントをつけました。お店のウェブサイトもサーカスのテイストを取り入れているし、スタッフも「団員」という肩書きで働いてもらっています。

――パン屋の一日は、どういうスケジュールになっているのでしょうか?

守谷:普段は深夜2時に起きて仕込みをして、9時か10時にはお店をオープンしています。途中でスタッフにお店を任せて仮眠を取らせてもらって、19時に閉店。21時か22時には寝ていますね。

――ハードなスケジュールですね。家族と顔を合わせる機会もなかなかないのでは?

守谷:そうですね。子どもたちには、寂しくなったらお店に来てねって伝えてあります。でも、まったく遊びに来ないから大丈夫なんじゃないかなって思っています(笑)。

――その生活リズムに慣れるまでは大変そうです。

守谷:大変でしたね。体力的にハードすぎて、見かねた親友がたまにお店を手伝ってくれていたのですが、それでも開店当初は週3日しか営業できなかったんです。それが2年目に週4日、3年目は週5日と徐々に慣れていきました。でも、週5日の営業が限界ですね。2日の休みのうち、1日は休んで、もう1日を仕入れと仕込みに当てています。

夏は売上が激減。季節や天気に大きく左右されるパン屋の工夫とは?

夏は売上が激減。季節や天気に大きく左右されるパン屋の工夫とは? ――2015年のオープンから今年で丸3年。ここまでパン屋を続けてこられた理由は何があると思いますか?

守谷:同業の方から、3年続けるのがすごく大変な業界だと聞いていたので、まずは3年続けることができて本当によかったです。ここまで続いた理由は、働いてくれているスタッフも含めた、人の力だと思います。うちのお店には、本当に良い人しかいなくて。資金面で厳しいときに、融資してくださる方をお客さまに紹介していただいたこともありました。パン屋って、夏になると売上がガクンと落ちるんですよ。

――それは意外です。あまり季節に左右されない食べ物というイメージがありました。

守谷:夏に焼き立てのパンは暑苦しいんでしょうね(笑)。そうめんとか喉越しの良い食べ物にポジションを奪われてしまうんです。とくに、うちのお店によく来ていただけるお客さまは、お子さんのいるご家庭やご年配の方が多いので、そういった影響が大きく出てしまう。開業1年目は、すごく苦労しました。

――苦しい時期を乗り越えるためのコツも、この3年間でわかってきた?

守谷:そうですね。少しずつ傾向がわかるようになってきたので、去年はアイスパンに挑戦しました。

――アイスパンですか!?

守谷:一度焼いたパンを冷凍庫で凍らせて、それを常温で少し溶かしてから食べるという商品です。たとえばコーヒー餡とホイップクリームを包むと、コーヒーフロートのような味わいを楽しめるんです。それ以外にもマンゴー餡を入れたものなども開発しました。今年の夏は、惣菜をうまく活用したパンに挑戦したいと思っています。

――逆に、売上が良い時期はあるんですか?

守谷:近所に桜の名所である「桜坂」があるので、3月から4月になるとすごく忙しくなります。桜坂の見学ツアーの行程にこの店を組み込んでいただけていることも大きいですね。桜をイメージしたピンク色の限定パンをつくったこともあり、今年は1日の売上の過去最高額を記録しました。桜が散ると同時に落ち着いていくんですけれど(笑)。

――想像以上に季節に大きく左右されるんですね。それ以外にも、売上に影響を与える要素はありますか?

守谷:天気も重要です。駅前のお店であれば変わってくるのかもしれないですが、うちのような住宅街にあるパン屋さんだと、雨の日は客足が途絶えます。連休のときも、みなさん遠出してしまって客足が減ってしまうので、最近は各地のイベントに参加して、売上が下がらないようにしています。それから、テレビの街歩き番組に取り上げられた直後は、すごく多くのお客さまが来店してくれましたね。

ハプニングをネタにする名物「失敗パン」。安定よりも、ほどよい気まぐれ感が大切

ハプニングをネタにする名物「失敗パン」。安定よりも、ほどよい気まぐれ感が大切 ――住宅街にあるお店だからこその戦略もあるのでしょうか?

守谷:まずは、毎日でも買っていただけるように価格をできる限りリーズナブルに設定しています。それから、新作メニューをどんどん登場させるようにしていますね。これまでに、800種類くらいのメニューをつくってきました。「ミントチョココロネ」とか「クリームソーダパン」とか、スーパーやチェーン店ではなかなか売っていないようなメニューも多いですよ。

新作メニューは、つくる途中で失敗してしまうこともあるんですけど、それを「本日の失敗パン」という名前で、タダ同然の価格で販売しているんです。すると、それをきっかけにお客さまと会話が生まれ、段々と距離も縮まっていく。

――ユニークな試みですね(笑)。これまでどんな「失敗パン」が販売されてきたんですか?

守谷:焼き加減を間違えて焦がしてしまったり、膨らみすぎてオーブンのなかが大変なことになってしまったり。すごいかたちのコロネができたこともありましたね。お客さまがInstagramに投稿してくださることもあって(笑)。そういうハプニングもネタにして楽しんでやっています。

3年間続けてきて、お店が安定しすぎてしまうとお客さまに楽しんでもらえなくなるということに気づいたんです。ほど良い気まぐれ感があることで、つねに楽しんでもらえる。

――地域の人々と良好な関係を築き、お店を続けていくには、そういったコミュニケーションが重要なのかもしれないですね。

守谷:そうですね。まったくの未経験からパン屋をはじめて、まだ3年しか経っていないので、長年経験を積んできたパン職人と肩を並べるのは無理だと思うんですよ。だから、そういうハプニングや失敗も含めて、受け入れてくれる方々に愛されるお店づくりを目指しています。

――今後の目標についても聞かせてください。

守谷:小さな目標としては、自由が丘にお店を出したいなと思っています。激戦区であることは知っているのですが、飲食店を営むのであればいつかは、と思っていた場所なので。自分がどこまでできるか確かめたいなと思っています。そしてゆくゆくは、保育施設を備えた「キッザニア」のようなパン屋を経営したくて。

――お子さまがいらっしゃる、守谷さんならではの夢ですね。

守谷:パンをこねる工程って粘土遊びに近いから、子どもは夢中になれると思うんです。そういう場所があれば、子どもをお店に預けて両親だけでショッピングに出かけることもできるし、親子でパンづくり体験もできる。

働くお店に保育施設の機能が備わっていたら、女性が働きやすい環境づくりにもつながると思っていて。いつかは、世界中の子どもたちにパンづくりの楽しさを知ってもらえるような場所をつくれたら嬉しいですね。

アヤパン

東京都大田区田園調布本町45-12
050-1397-8887
日・月曜定休
火曜〜金曜 10:00〜19:00
土曜 8:00〜19:00

http://www.ayapan-denenchofu.com

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