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先輩開業インタビュー

開業、閉店を繰り返した居酒屋が、行列のできる専門店「マグロマート」になるまで

サラリーマンから飲食店経営者へと転身した尾坂亮さんは、テレビや雑誌にも取り上げられ、SNSでも話題沸騰中のマグロ専門店「マグロマート」のオーナーです。学生時代の同級生との共同経営により、僅かな開業資金でバーを始めたのが、今から約5年前。バーの次に開店したこだわりのマグロ専門店がブレイクし、中野の住宅街に移転リニューアルした現在の「マグロマート」は予約必須の大繁盛店になりました。新規開業や閉店などいくつかの挫折、苦労もありながら、ライバルの多い飲食業で勝ち組となった道のりと店作りのこだわり、開店を間近に控えた新店についてもお話を伺いました。

1号店は初期費用80万円でスタートした仲間が集うバー

cont01.jpg――尾坂さんはサラリーマン出身ですが、飲食店を独立開業されたきっかけは?

尾坂:大学卒業後、新卒で大手人材派遣企業に3年半勤め、27歳で退職しました。僕は学生時代にバーでアルバイトをしていて、そのときから自分も何かやりたいと思っていたので、入社面接でも「20代で店を出したい」という話をしていました。もともとお酒が好きでしたので、高校・大学の同級生で金融会社に勤務していた友人と二人で、飲み屋をやろうと考えたんです。

――そこからすぐに開業を?

尾坂:いえ、まずは飲食業の勘を取り戻しながら開業資金を貯めようと、退職した2009年の夏頃から4か月ほどバーでアルバイトを。そして、2010年の1月から共同経営者の友人と合流して本格的に店舗物件を探し始め、2月に中野で「0番酒場」というバーを始めました。

――共同経営なので開業資金もお二人で折半されたかと思いますが、どれほど資金を準備されたのですか?

尾坂:僕は、開業当時はサラリーマン時代の退職金などで50万円ほどが手元に残っていましたので、それを元手に。友人と合わせても200万円くらいだったので開業資金としてはかなり乏しい。最初は屋台から始めるくらいでもいいかと話していたんですけど、物件を探すうちに冷蔵庫などもついている格安の居抜き物件が中野に見つかりまして。厨房用具やドリンクなどの在庫などを合わせても、初期費用を80万円に押さえることができる好物件でした。そこは内装がとてもキレイで、普通なら300万円ほどかかるリノベーション代もかからなかったし、造作譲渡料も0円。探せばいい物件はあるものだなと思いましたね。

――共同経営者がいる場合、資金以外でも話し合うことは多いと思いますが、尾坂さんたちの役割分担はどうなさっていたのですか?

尾坂:なんとなくはありましたね。僕はメニューブックや看板など、店にまつわるものを作ったりしたので、いちおう制作担当ということになるのでしょうか(笑)。最初の店「0番酒場」は、気の合う仲間が集まれる気軽なバーだったので、具体的なメニューなどは二人で話し合ったり、それまで自分たちが飲み歩いてきた店を参考にするなどして、思い描いた店作りを試し試しやっていきました。未経験の飲食店を切り盛りするノウハウは持っていなかったので、周囲の人たちのアドバイスを参考にしていました。そして2011年春に2号店として今の「マグロマート」の前身となる「城ヶ島マグロマート」という店をまた中野にオープンしたんですが、そこからは食材の仕入れ先、マグロの卸業者のみなさんから多くのことを教わりましたし、今もおつき合いは大事にさせてもらっています。

廃業寸前からの脱出は、飲み屋で出会った「マグロ」だった

cont02_2.jpg ――最初のバー「0番酒場」からわずか1年ほどで2号店「城ヶ島マグロマート」の出店を決意されたわけですが、それは「0番酒場」が好調だったからでしょうか?

尾坂:いえ、そういうわけではなかったです。「0番酒場」は僕と友人の二人で切り盛りしていましたが、2年間くらいは個人の収入でいうと月に3万円程度。それでギリギリ回していたので、自分の住む家を借りることもできない状況でした。バーだけでは生活が苦しいというのもあって、利益が上がる店をもう1店舗出してなんとかしようと思ったんです。

――かなりチャレンジャブルですね。

尾坂:当時は僕も共同経営者も独身同士でしたから、もし失敗してもどうとでもなりますからね(苦笑)。2号店の開業資金は知り合いから50万円ほど借り、1年間かけて返済しました。また、「0番酒場」のほうも続けていかなければならないので、「城ヶ島マグロマート」のタイミングで、もう一人同級生を誘って3人体制にしました。

――そもそも、なぜ2号店をマグロ専門店にしようと?

尾坂:それはもう、たまたまですね(笑)。バーを出す前に僕らが通っていた、渋谷の飲み屋のマグロが大好きだったので、そこで仕入れ先を紹介してもらって「0番酒場」の目玉として、マグロを出していたんです。マグロは、部位によって特徴が違うし、メニューの幅も広い奥深い魚。マグロの魅力にひかれて、「じゃあ専門店をやってみよう」と決めました。マグロの知識は、卸業者の方からいろいろ教わりました。最初は神奈川県三浦半島にある三崎漁港の卸業者からメバチマグロを仕入れていたのですが、途中からマグロを扱う会社が多くいる築地に切り替えて、本マグロ中心のメニューにしました。今思えば、専門知識がないからこそ、怖い物知らずの自由な発想で店作りができたのかも知れないですね。

――マグロ専門店を出すことになり、最もこだわったことは何でしたか?

尾坂:マグロ専門店と銘打つからには、マグロ以外のメニューは作らないでおこうということですね。目指したのは鰻屋さん的な店で、最初はマグロの刺し盛りをつまみながらお酒が飲める店にしようと思っていました。実際、最初はマグロ料理も刺身+数品でスタートしたド素人だったんですよ。よくそれで店をやっていたなと思うくらい(笑)。卸業者さんとのおつき合いのなかで美味しいマグロの食べ方や、部位ごとに試してみたいレシピが増えていき、今の「マグロマート」は30品以上のメニューを置くようになりましたね。そもそも、僕らは飲んだり食べたりが好きなので、自分たちが食べ歩きをするなかで、あの部位ならこういう料理もアリかな? と感じたものは試作をやってみて、いいものは店に出せるようにと日々研究や話し合いをしています。

――いくらマグロ専門店という珍しいお店でも、中野は飲食店数が多いので、かなりアピールしないとお客さまを集めるのが難しいかと思いますが、「城ヶ島マグロマート」開店当初はどういう宣伝活動をしましたか?

尾坂:いわゆる「ぐるなび」などの情報サイトには載せてはいなかったです。その代わり、毎月新しいビラを作って駅前や店前で配ったり、看板を工夫したり。最初の頃はポスティングも多少。あと、けっこう早めにTwitterやFacebookなどのSNSは始めていましたが、当初はやはり苦戦しました。お客さまの数は2012年から急激に増えたんですが、それはやはりマスメディアの力です。マグロ専門の飲み屋というのが珍しかったからか、テレビの取材がいくつか来るようになり、一番影響があったのは2012年のお正月にテレビ東京が放映したマグロ特番。そこから客層も忙しさも大きく変わりましたし、商売にも手応えを感じるようになりました。

――具体的に、客層はどう変化しましたか?

尾坂:それまでは、中野近辺の方が多かったのですが、テレビに出てからは遠いエリアからのお客さまが格段に増えましたね。そういうお客さまは電車でいらっしゃるので、夜早めの時間帯からも席が埋まるようになりましたし、来られた方がSNSで料理の写真や情報を拡散してくださるようになり、どんどん店の名前が広がっていったように思います。

――やはりテレビの影響力は強いんですね。それも、マグロ専門というユニークなコンセプトがあったからでしょうね。

尾坂:そうですね。ただ、マスメディアで紹介される際は、偏った伝わり方をすることもかなりあるので、気をつけなければならないかなと。例えば、「ここはマグロが安い!」みたいな(苦笑)。たしかに僕らも、いい品質のマグロを気軽に食べていただける店にしようとかなり営業努力はしていますが、けっして安さを売りにしているわけではないので。ただ最近はマスメディア以上にSNSでうちに興味を持ってくださる方が多いようにも思えます。おそらくですが、SNSを使い慣れている層と「マグロマート」に興味を持つ層の重なりが大きいのかもしれません。最近は学生さん、20代、30代からおじいちゃん、おばあちゃんまで客層はかなり幅広いです。その幅の広さが、マグロという食材の魅力なんだと思います。

卸業者や不動産屋のつながりが新たなビジネスを生む

cont03_2.jpg ――尾坂さんたちの事業の歴史でいいますと、「城ヶ島マグロマート」を出店された同じ2011年の秋には3号店として海鮮系丼もののテイクアウト店を同じ中野にオープンされていました。

尾坂:はい。マグロだけでなく、全国の美味しいものを集めるセレクトショップ的なお店がやりたくて始めましたが……完全に失敗でしたね(苦笑)。結局、赤字だけ出して畳みました。店の作りも好みがわかれる作りだったので、お客さまのターゲットが狭くなってしまいました。もっと小綺麗にして、コンビニエンスな入りやすい店舗作りをすべきだったという反省はありますね。

――さらに2012年に1号店だった「0番酒場」を女性ターゲットにした「マグロバール」へとリニューアルしたそうですね。さらに中野ブロードウェイの地下に4つ目の開業店となるマグロ小売店を始めたとか。

尾坂:「0番酒場」から「マグロバール」へのリニューアルは、「0番酒場」が超常連客を相手にした店だったので、もっといろいろなお客さまに来てもらいたかったのが一つの理由。そこで、すでにある「城ヶ島マグロマート」と同じテイストでもつまらないのでメニューを女性向けのバル形態にしたのですが、上手に差別化ができずそれほど盛り上がりもしなかったかなと(苦笑)。やはり、やるならはっきり尖ったものでなければ、お客さまはついてこないことを学びました。

――シンプルに一つのものを打ち出すほうが新規のお客さまにも伝わりやすいと。そこに現在の「マグロマート」を作るヒントがあったのですね。中野ブロードウェイの小売店はいかがでしたか?

尾坂:前からマグロの小売業をやりたくて出した店なんですが、雑多な雰囲気がある中野ブロードウェイで展開するにはちょっとキレイな店にしすぎたし、価格帯も顧客層に合わずで……。あと、小売店の開店時間は早いので、夜飲み屋をやって朝からそっちを開けるというのが単純にキツくて、小売店は約1年で撤退しました。

――そして、2015年2月に「城ヶ島マグロマート」と「マグロバール」の2店舗を統合&移転して、今の場所に5つ目の店舗となる「マグロマート」を開店して現在に至っています。それはどういう理由からでしたか?

尾坂:たまたま、今の場所にいい物件を見つけたので、じゃあ一つにして、本格的なマグロ専門店の居酒屋にしてしまえということですね。今の店舗はもともと紙屋さんの倉庫で、その向かい側が紙屋さんの店舗だったんです。で、僕もこの道をよく通っていたんですが、紙屋さんが引っ越されて、店舗のほうがいつの間にかスーパーに変わっていた。そんな別業態店舗の使い方があるのかと驚きました。そして知り合いの不動産屋さんから、倉庫のほうも借り手を募集するという話しを聞いたんです。以前から、倉庫の建物自体を気に入っていたし、ここなら2階も使える。しかも飲食の居抜き物件の相場よりもかなり安かったので即決しました。

――合わせて初期費用はいくらぐらいになったんですか?

尾坂:もろもろ合わせて1500万円くらいでしょうか。床、壁、天井はあえて倉庫時代の打ちっ放しのままにして、絵を描くのが得意なスタッフにイラストを描いてもらい、テーブルも木と足を買ってきて自作したので内装費はかなり節約しましたね。

――その打ちっ放しの倉庫感も、年代を問わず入りやすいカジュアルな店舗作りに一役かっていますよね。飲食店、とくに鮮度が命のマグロですが、仕入れで何か工夫していることはありますか?

尾坂:最初の頃は客足も安定しなかったので仕入れてもロスが出てしまったのですが、以前は2店舗でやっていたのでその中で上手くバランスを取りながら調整していました。今の「マグロマート」はマグロの珍しい部位を集めてお出ししているので、むしろ足りないくらい。集めるのに苦労していますが、仕入れ先には僕らと同じ世代の若い人も多いので、しっかりと関係を築きつつ、協力やアドバイスをいただきながらやらせてもらっています。僕らも仕入れを築地に広げた頃は、とにかくしらみつぶしに業者さんを当たりました。同じように本マグロを扱っていても、腹の部分は高くても背中は安くしてくれるところ、両方同じような金額で扱うところなど、卸値も仕入れ状況も様々。それぞれの得意不得意を知ることが大切でした。

「人が集まる場所」を作ることで街全体を盛り上げたい

cont04_2.jpg ――そんな苦労もある「マグロマート」は、お酒とマグロ料理の美味しさがあってこその繁盛店。専門店の人気を維持するコツはなんでしょうか?

尾坂:人任せにしないこと。例え店舗が増えたとしても、メニューもサービスもオーナーがちゃんと店に関わり続けて、血を薄めないことだと思います。アルバイトは今20名ほどいるので、僕らが毎日顔を出さずに任せることもできますが、そうじゃないほうが、店としては面白いことができると思います。

――今後は、どのようにお店を発展させていきたいですか?

尾坂:とくに多店舗化を目指しているわけではないんですが、まさに今、東中野に5月開店予定の新店舗の準備をしているところです。おかげさまで「マグロマート」には連日、たくさんの方が来てくださいます。今は予約が8割で、当日の席もすぐに埋まってしまう状況。とてもありがたいのですが、もう少し、ふらりと訪れたお客さまが気軽にお酒と食事を楽しめる飲み屋もやってみたくなり、去年の夏あたりから物件を探していたら東中野に木造の古くていい建物を見つけたんです。

――今の「マグロマート」の建物探しのときと似た感じですね。建物に惚れるという。

尾坂:そうですね(笑)。東中野駅から数分の場所にあるのですが、もう築65年ほどのボロボロの建物なので、一度解体して補強などをやり直している最中です。具体的にどういう店にするかはこれからですが、「マグロマート」とは違うテイストの飲み屋にするつもりです。東中野はあまり飲み歩く店もなく、街自体もちょっと元気がないんです。「マグロマート」は今のまま、中野の名所としてできるだけ長く続けていき、東中野の新店のほうは、地元密着で街自体を盛り上げていくような店にしたいですね。

――どんなお店になるか楽しみです。さらに今後、尾坂さんがやりたいことは何ですか?

尾坂:いつか地方の山の上とか、自然豊かなところに、地元の人たちの溜まり場になれるような店を出したいですね、山梨県あたりとか。「0番酒場」の頃から、僕らのポリシーは「人が集まって何かが生まれる場所を作ること」。そんな場所作りを、飲み屋をベースにやっていけたらいいですね。

――では最後に、これから独立開業を目指す方にご自身の経験から、アドバイスをいただけますか?

尾坂:僕も友人と飲み屋を始めましたが、独立開業を一人で成し遂げるのはけっこうキツいと思います。いろいろな視点から、新しいアイデアを生み出すためにも、共同経営ではなくても、信頼できる友人や知人と意見交換ができる状況をたくさん作るのがいいと思います。不動産屋さんや仕入れ業者さんとは仲よくなればなるほど、勉強になることも多いですから。そして初期費用はなるべく抑えること。物件も店内の準備品も探せば安くていいものがちゃんと見つかるはず。人任せにせず、手間をかけていってください。

マグロマート

東京都中野区新井1-10-12 久栄第二ビル1F
03-5942-5594
月〜土/17:00〜24:00、日/16:00〜23:00
不定休
https://www.facebook.com/maguromart003
※取材時点の情報です

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