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先輩開業インタビュー

2つの魅力でリスクを回避。『笑点』元ディレクターによる、「落語が聞ける小料理屋」の強み

日々、多くの店が新規開店している飲食業界。熾烈な競争をより有利に運ぶため、さまざまなイベントの開催や、アトラクション的な要素を取り入れるなど、付加価値によって特別な個性を獲得した店も次々に誕生しています。
2016年9月に台東区にオープンした「落語・小料理 やきもち」は、その名のとおり、生で落語を聞ける小料理屋というコンセプトで人気を集める店。日本テレビ『笑点』の元ディレクターという経歴を持つ店主の中田志保さんは、同業界で囁かれる「35歳限界説」を前に将来を考え直し、独立開業を決意したという異色の経歴の持ち主です。
飲食店未経験でありながら開業を決めたというこのお店には、どのような想いが込められているのでしょうか。退職や開店の経緯、落語と小料理という2つの軸を持つ店ならではの強みなどについてお聞きしました。

「会社でくすぶっているよりは、人を楽しませるために店を開こうと決めました」

――店を始めるまでは、どんな仕事をされていたんですか?

中田:22歳で日本テレビに入社して、ずっと制作畑で働いていました。でも、総合演出になれる売れっ子ディレクター以外は35歳で現場から離れなければいけない、「35歳限界説」という暗黙のルールがあったんです。私はそんなに売れていない自覚があったので、32歳くらいから「次を考えないといけないな」と思っていました。ちょうどその頃に、『笑点』を担当することになったんです。

――もともと落語は好きだった?

中田:ほとんど聞いたことがありませんでした。でも、そんな私とも師匠たちは仲良くしてくださって。特に三遊亭小遊三師匠とは月に1度は飲みに行って、いろんなことを教えていただき、どんどん落語の魅力にハマっていきました。それで、あるとき知り合いの飲食店の方に、落語会をやりたいから噺家さんを呼んでほしいと相談されて、若手の噺家さんを定期的に紹介するようになったんです。

でも、その落語会を続けていくうちに、お店の方が忙しくてあまり集客できないときがあって。「それなら私が仕切る!」と自分で主催するようになりました。それをきっかけに、もともと人を楽しませる仕事をしたくてテレビ局に入社したことを思い出し、会社でくすぶっているよりはと、開業を決意しました。

――なぜ寄席ではなく、小料理屋で落語を、と考えたのでしょうか?

中田:師匠方から、昔は料亭のお座敷に呼ばれて、そこで落語をすることもあったと聞いて、素敵な世界だなと思ったんです。落語は色気があるものなので、それを感じていただくには、近い距離で、なおかつ多少お酒が入ったほうがいい。

それにお客さまが落語を見て帰るだけの箱じゃなくて、噺家さんやほかのお客さま、店のスタッフがつながっていける場所をつくりたかったんです。経営的にも、30席ほどの客席ではチケット代で噺家さんのギャラを支払うことは難しい。店を続けていくことを考えた結果、小料理屋を組み合わせることにしました。

先輩経営者からの「3年分の生活費は残しておいたほうがいい」というアドバイス

――会社をやめたのは、お店をやると決めてから?

中田:そうですね。ただ、飲食店で働いた経験がなかったので、退職後、まずは居酒屋で調理のアルバイトをしました。祖母が料理の先生だったこともあり、「生きる=料理をする」という環境のなかで育ってきたので一通りの料理はできましたが、やはり飲食店のスピード感やクオリティーは違いますからね。

――どのくらいの期間働いていたんですか?

中田:その居酒屋のオーナーに、独立のために勉強したいという事情を先に話して、3か月だけ働かせてもらいました。普通は短期だと嫌がられると思うんですけど、そのオーナーが人のつながりを大事にしていらっしゃる方で、快く受け入れてくれたことがありがたかったですね。

――物件探しについてはいかがでしょう。秋葉原と浅草橋の中間であるこの場所を選んだ理由は、落語好きの集客が決め手ですか?

中田:いえ、私が落語会をやらせてもらっていたのが浅草橋のお店だったので、その周辺のエリアで探していたら、たまたまこの物件が見つかったんです。ただ、落語をやるときに、なるべく人をたくさん入れられるように、とは思っていました。ここはビルの1階なのですが、道路から奥まった場所にあるので家賃が安くて、そのわりにけっこう広かった。

――賃料と広さのバランスは、物件探しには欠かせない要素ですよね。

中田:あと、これも物件を探してみてわかったことなんですけど、落語レベルでも、騒音の問題でビルの1階への入居は基本的にNGだったんです。でも、ここは元カラオケスナックなので音に関しては何も言われない。さすがにバンド演奏は難しいですけど、三味線と歌で行う俗曲のライブなどは開催しています。

――エリア、家賃、騒音の3つを満たす物件を選んだと。内装は、使わないテーブルを壁に折りたたんで収納することができて、とても機能的ですよね。

中田:落語の日は多くの人に楽しんでいただいて、それ以外はゆったりとした場所を提供したかったので、日に応じて使える空間を変えられるようにしたいとデザイナーさんにお伝えしました。噺家さんが落語をやる高座も、小上がり席として使用できるようにしていただいています。

――なるほど。かなり費用がかかったんじゃないですか?

中田:内装にはある程度お金をかけましたが、厨房はスナックのときからほぼいじってないので、トータルの費用は安く済みましたね。すべて、自己資金で賄うことができました。

――そういったお金の計算は、誰かに相談したんですか?

中田:はい。飲食店を経営している知り合いの方に相談したら、「ちゃんと考えたほうがいいよ」と言われました。それで資金繰りを計算した事業計画書をつくって見てもらいに行ったんですけど、「こんな都合のよい計画どおりには進まないから」ってほとんど見ずに突き返されて(笑)。

結局、事業計画書の内容は素人同然だったのですが、「お店が認知されるのに3年はかかるから、それまでの生活費は残しておいたほうがいい」というアドバイスをいただいたんです。だから、開店のために使う金額は先に決めて、その範囲内で準備を進めました。

――実際に開業準備を進めていくうえで、特に苦労したことはなんですか?

中田:私と数人のアルバイトだけでスタートしたのですが、オープン直前は、とにかく人出が足りなくて大変でした。お皿をすべて洗ってきれいにしたり、椅子を組み立てたり……開店初日は落語イベントを開催すると決めて、落語家さんのスケジュールを抑えてしまっていたので、オープン日を後ろにずらすことは絶対にできなくて(笑)。結局、知り合いにお願いして、手伝ってもらいました。

「店の機能が2つあれば、どちらかが悪くても補完できる」

――オープンを迎えてからは、順調に営業することができた?

中田:いえ、最初はご祝儀で知り合いがたくさん来てくださったんですけど、2か月ほどでパタッと人が来なくなって。これが本来の実力なんだと痛感しました。ただ、そういうときに来店くださったお客さま同士は連帯感のようなもので強く結びつくし、私も時間がとれるので細やかなコミュニケーションをとることができるんです。その効果もあってか、お客さまから「これじゃ潰れるから宴会入れるよ」と予約を入れてくださることもありました。

――お客さまが少ない時期だからこそ、できる工夫があるんですね。その頃は、落語イベントでも人が集まらない状況だった?

中田:いえ、落語イベントの日は、集客することができていました。このスタイルで良かったと思うのは、落語イベントと通常の小料理店という2つの売り&サービスがあることで、どちらかの売上が悪くても、もう片方でカバーできることなんです。もしどちらか一方だけで営業していたら、行き詰まったときに打開する術が見つからないかもしれない。

飲食業もイベント業も水商売なので、売上の上下は激しいのですが、落語の日も通常の日も売上が悪いという時期は、少なくともこれまではありませんでした。逆に両方とも良い時期もあまりないんですが(笑)。稼ぎ口が2つあることは、経営的な面ですごく助かっています。

――たしかに、2つの軸があるというのはすごく有利ですよね。これなら店を続けていけるな、という目処が立った出来事はありますか?

中田:徐々にお客さまが増えていって、気がついたら続けられていたという感じです。自分の生活費を売上で初めて賄うことができたときは、すごく感動しましたね。

落語と小料理。互いをより活かすために心がけていることとは?

――噺家さんへのオファーは、いままでのツテを使って?

中田:いえ、『笑点』時代の人脈は、ほとんど使っていません。この人にやってもらいたいと思ったら、高座に行って出待ちしてお願いすることもあります。噺家のみなさんは気持ちで動かれる方が多いので、どれだけ熱い想いを持っているかを表現するべきだと思っていて。人脈を使ってお願いすることもできるとは思うんですけど、もしうちの店に不満を持たれたときに、『笑点』にもご迷惑をおかけすることになるので、基本的に自分で全責任を背負えるようにしています。

――このお店は落語初心者の入り口にもなりやすいと思いますが、その点で心がけていることはありますか?

中田:本物を間近で見てもらいたいと思っています。噺家さんには前座、二ツ目、真打という階級があるんですが、この距離で真打の落語が見られる機会はほとんどないんです。それと、ネタの持ち時間は30分から50分と短めに設定しているのですが、しっかりと「聞かせるネタ」をやっていただいています。こういう場所で落語をやるときは、普通は軽いネタが多いんですけどね。

――持ち時間を短く設定し、なおかつ聞かせるネタをやってもらっているということには、なにか特別な理由があるのでしょうか?

中田:お店全体の体験のなかで、「緩急」をつけることを意識しています。落語だけで満足してしまうと、お客さまはあまりお酒を召し上がらない傾向にあるんです。でも、落語を短い時間でキュッと楽しんでもらうことで、終わったあとにふわっとした空間が広がって、お客さま同士で感想をしゃべりながらお酒を飲み始める。緩急をつけることが、「落語」と「小料理」を両立させる、最大のポイントなのかなと思っています。

――なるほど。そのほかに、メニューや提供手順などオペレーション面での工夫はありますか?

中田:落語中は食事に手をつけないお客さまも多いので、冷めても大丈夫なものを出そうとは心がけています。あと、落語のなかに食材や料理が出てくる場合は、できるだけその日のメニューとリンクさせるようにしていますね。

また、落語のある日はコース料理(5,400円~)で予約を受けて、落語の料金と食事、ドリンクチケット代を先払いでいただくようにしています。じつは、落語が終わった後はドリンクの注文や、お会計のお客さまが増えるので、お待たせしてしまうことが多かったんですよ。やってみないとわからないことがたくさんあって、苦しんで初めて生まれてきたものも多いですね。

「規模は大きくしたい。だけど、私にしかできない企画を考えたい」

――お店をやっていて、やりがいを感じるときは?

中田:やはりお客さまが楽しんでいらっしゃる姿を見たときですね。落語が終わったあとも噺家さんが店に残ってくださるときは、お客さまにポチ袋を配っているんです。そこにドリンクチケットやお金を入れて、おもしろかったよとか、感謝の気持ちを伝えてほしいと思っていて。最近はポチ袋を活用してくださるお客さまも増えてきたので、「つながり」をつくる場所という意味も含めて、私が目指しているお店の姿が少しずつ実現していると感じています。

――今後目標にしていることはありますか?

中田:いまは客席が30人弱なんですけど、いつか新しいお店を出して、50人規模くらいの広さでやりたいですね。いまの広さで見るのも贅沢なんですけど、かなり豪華な方に出ていただいているので、もう少し人が入る場所でやってもいいかなとは思ってます。

――いつかは大きなホールで出張イベントなんかも?

中田:いえ、ホールでやるという発想は全然なくて。それよりも、夏になったら「落語・小料理 やきもち」ならぬ、「落語・温泉・BBQ やきもち」という企画をやりたいなと思ってます。温泉地で空き家とかを借りて、そこで落語をやって、終わったらバーベキューをして、温泉にも入れる。ホールで見られる落語は、ほかにたくさんありますから、私がやらなくてもと思うんです。

――新しい落語の楽しみ方を追求したい?

中田:新しい落語の楽しみ方を考えるというよりは、単純に「どうやったら今日がもっと楽しくなるだろう?」と考えています。この店も、根本は「人を楽しませたい」ということから始まっているので、楽しいことをいっぱいつくっていきたいですね。

落語・小料理 やきもち

東京都台東区台東1丁目12-11 青木ビル1階B号室
03-6803-2050
月曜定休
火曜〜金曜 18:00〜23:30
土曜 予約のみ
日曜 演芸開催日のみ17:00〜23:00
http://yakimochi.info/
※取材時点の情報です

落語・小料理 やきもち

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