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先輩開業インタビュー

個人飲食店に「投資」が集まる時代が来る? 第一人者PIZZA SLICE店主にそのコツを聞く

「日本でも今後、個人飲食店への投資が増えるはず」と語るのは、2013年、代官山にオープンしたニューヨークピザ専門店「PIZZA SLICE」のオーナー猿丸浩基さん。クオリティーの高いピザを1スライスごとにカフェ形式で楽しめるニューヨークスタイルのピザショップを日本で初めて提案した先駆け的存在です。本場ニューヨークのお店のような素敵な内装と、本格的な味が融合したPIZZA SLICEは、ファッションに敏感な人たちから人気を集め、いまでは表参道に2号店を構えるほどの人気店です。

そんな「PIZZA SLICE」は、日本では珍しく、個人飲食店を法人化し、投資家から出資を受けるスタイルで独立開業したお店。海外では当たり前になりつつあるという飲食業への投資や新たなビジネスの価値観、海外的視点から蓄積されたノウハウなどを教えてもらいました。

個人経営の飲食店を投資で拡大。ブルックリンで目の当たりにしたビジネステクニック

――日本で個人経営の飲食店を開業する場合、猿丸さんのように「投資を受けて」スタートする人はとても少ないと思います。そもそものきっかけとは?

猿丸:25歳のときにピザ修行で単身アメリカに渡ったことがきっかけですね。それまではフラフラしていたのですが(笑)、子どもの頃から大好きだったピザで身を立てようと決心して、アメリカのピザ店でほぼタダ働きで、数年修行をさせてもらったんです。

――アメリカと日本の飲食店に違いはありましたか?

猿丸:はい。当時、ニューヨークのブルックリンに注目が集まっていまして。IT業界で働く人などが、ブルックリンの小さな個人飲食店などに出資することが盛んになっていたんです。例えば投資家からの出資によって、急激に規模を拡大していったお店もありました。

――それが5、6年前の出来事ですね。

猿丸:サンフランシスコの例ですが、日本でもブームになったサードウェーブコーヒーの代表格ブルーボトルコーヒーも、もともとは個人でスタートして、その後投資で大きくなった。ニューヨークでおにぎり屋をしていた日本人の知り合いがいたのですが、彼女もブルックリンの大規模なフリーマーケットに出店したときに投資家とつながって、事業を大きくしていきました。そういうやり方を間近で見ていたので、自分も投資家をパートナーとして、日本で開業できたらなと考えたんです。

「独立開業をする同世代はみんな、スモールビジネスばかりを考えている」

――日本で個人飲食店を開業する際は、自己資金を貯め、足りないぶんは金融公庫から融資を受けて……というのが普通ですが、そうはしなかった。

猿丸:そうなんです。ぼくが2013年に帰国したとき、個人事業主として、内装費を抑えながら工夫を凝らした飲食店が流行っていました。でも資金に余裕がないまま始めてしまうと、結局はスモールビジネスで終わってしまう。それはぼくが目指していた方向性ではなかったんです。そこで、まずアメリカのように投資してくれる人を探そう。投資を受けるためには、個人事業主ではなく法人として会社を立ち上げようと、準備をしていきました。

――スモールビジネスでは終わりたくないというビジョンありきの「投資」という発想だったんですね。

猿丸:そうですね。ぼくはいま31歳なのですが、30歳前後で独立開業する同世代の人は、スローライフ的というか、「むしろスモールビジネスでいいから、自分の好きなものを仕事にしたい」という方がとても多い気がします。

ぼくは大規模なチェーン店を経営したいという野望はまったくないですけど、開業するからにはゆっくりでも大きくしたい、そして新しいことをどんどんやっていきたいタイプなんです。

――スモールビジネスでも、ビッグビジネスでも、成功している方々は、みなさん他にはない独自の魅力をしっかり打ち出していらっしゃいますよね。

猿丸:ぼくもブランディングは不可欠だと思っています。PIZZA SLICEの場合は、ピザの提供の仕方や店構えをリアルなニューヨークスタイルにすることにこだわりたかったので、どうしても資金にゆとりが必要だった。そこで、より発展性のある「投資」を選んだということもあります。

また、アメリカのカフェやコーヒーショップの状況を例に挙げると、まず絶対的マスな存在としてスターバックスコーヒーがあり、いまはそこにサードウェーブコーヒーという、手づくり感のあるブランディングされた中規模チェーン店が食い込んでいます。ところが日本の場合は、マスであるスターバックスと、スモールビジネスであるこだわりの個人店のあいだの存在が、まだまだ少ない。

「人が生きていくうえで欠かせない『食』は、新しい価値観をつくることができる」

――たしかに日本には、サードウェーブと呼ばれるようなマスでもニッチでもないブランドは少ないかもしれません。

猿丸:ということは、その中間に大きなビジネスチャンスがあると思うんです。書店業界でも、紀伊國屋書店やジュンク堂に対抗する、大きなアイデアを持った中規模の本屋さんがあまりないように思います。こんな状況だからこそ、独立開業を目指す30代のぼくら世代が新しい価値観をつくっていくべきなんです。

そのひとつのケースとして、PIZZA SLICEを考えています。ファーストフード店はいっぱいあるのにピザを手軽に食べられる店がないのはなぜ? という発想からこの店をつくったというのもあるんです。

――たしかに、近年は1スライスから楽しめるおしゃれなピザ屋が増えてきているように思います。

猿丸:そういった新しい価値観をつくるうえで、いちばん挑戦しやすい業種が「飲食」だと思うんです。なぜなら、人は絶対にご飯を食べるから。実際、アパレル業界が飲食業を始めるなど、こぞってフードに参画しているのも、それが理由じゃないかと。服が売れない、売上をどう取るか、じゃあ店舗に飲食店を入れようとか。

――とはいえ、大手の飲食チェーンも、時代に合わせた新たなブランディングを提案し続けていますよね。

猿丸:でも、PIZZA SLICEがある渋谷などに集まる、感度が高い若者の需要にしっかり応えられている大きな会社がまだ存在していないと思っています。いままさに戦国状態だと思うので、そこで新しい仕掛けをやっていく意味はあると思いますね。

――飲食業はいまこそ、世代交代と構造改革のチャンスだと。

猿丸:ほんとにそうだと思います。

「アメリカには個人飲食店を発掘する場があり、ビジネスチャンスが多く存在している」

――資金調達の方法として猿丸さんが選ばれた「投資」について、もう少し具体的に聞かせてください。そもそも日本では、個人飲食店に投資してくれる人を見つけるのが大変かと思います。猿丸さんはどうやって、投資家を見つけられたんですか?

猿丸:その点では、ぼくは恵まれていたと思います。アメリカに渡る前に仕事をしていた会社の社長さんが、飲食に限らず、いろいろ投資をされている方で。渡米前の送別会で「将来日本でニューヨークスタイルのピザ屋をやるために、ニューヨークに行こうと思う」と話したら、「応援する、帰国したら相談に乗ろう」と言って背中を押してくれたんです。ニューヨークでも人を紹介してくれたり、出張の合間に様子を見に来てくれたり、とても面倒見のいい方なんですね。

なので、その言葉を鵜呑みにして、帰国してすぐに投資をお願いできないかと相談に行ったんです。こういう事業をやりたくて、資金がどのくらい必要かといったプレゼンをして、それに賛同いただきました。事業計画も、店の内装や厨房器具にいくらかかるなど、なるべく細かく立てたほうが、投資家もイメージしやすいし、交渉もしやすくなります。あと大事なのは、心に響かせること。浮かんでいるアイデアや、「こんな店にしたいんだ」という強い想いは、信頼にもつながりますから。

――では、投資家にツテのない場合は、どのように探したらいいでしょうか?

猿丸:やはり人と会うことですね。社交的な場に行くとか、紹介してもらうとか。そういう場で「自分はこういうことをやりたい」と話すことで、いいアイデアがもらえることもあるし、自分のビジョンをより明確にすることもできます。

――先ほど、ブルックリンのフリーマーケットで投資家と出会ったおにぎり屋さんのお話がありましたが。

猿丸:アメリカでは個人店への投資がビジネスとして普及しているので、そういう若手発掘みたいな場所がすでにあるんです。ブルックリンでいうと、土日に開催するフリーマーケット『ブルックリンフリー』がそのひとつ。

アンティークショップや洋服屋などのほかにも、アイデア豊富な飲食店が出店しています。出店するためにはブランディングがちゃんとできているか、コンセプトがきちんとしているかという、運営委員会による厳しい審査があるんです。海外ではそういう場に投資家が直接来て交渉することもあるそうですが、日本にはまだないですよね。

「飲食店は商材を広げすぎないことが大事。それによってクオリティーも確保できる」

――まさにアメリカンドリームですね。そこでもやはりブランディングやコンセプトは重要だと。

猿丸:日本でお店を始めるにしても、まずはそこからだと思います。海外ではどんな業種でも、個人のこだわりやブランドを確立している店に人気が集まり、そのビジネスに可能性を感じた投資家が出資します。そして規模が大きくなったところで個人事業主が株を売却して、また新しいビジネスを始めるというのがよくあるケースなので、ブランディング意識はとても高いです。

――スモールビジネスで終わらない個人店がたくさんあるんですね。投資してもらった場合、利益はどのように分配を?

猿丸:一般的なのは、株式会社にして株を渡すことではないでしょうか。あとはケースバイケースだと思います。ぼくも会社設立の方法なんてまったく知りませんでしたけど、ネットで調べるところから始めました。

――猿丸さんのご経験から、飲食店を経営する際に気をつけていることは何ですか?

猿丸:大手チェーン店にはない良さは「手づくり感」なので、美味しいピザをちゃんとつくれるスタッフがいないのに、無理して店舗を増やすことはしたくないですね。あと、メニューの幅を広げすぎないのも大事だなと。商材を一つに絞ると設備費も、原材料費も抑えられる。だからPIZZA SLICEではフライドポテトも置かず、サブメニューも最小限にすると決めています。そうした店のほうが、お客さんも安心してくれますしね。

――顧客の立場からすると「こだわりのある専門店」というコンセプトは、味やクオリティーに安心が持てます。

猿丸:そうですよね。その代わり、新しいことにはチャレンジしたいです。店舗経営者も、インプットとアウトプットのバランスが大事。店舗拡大など、ずっとアウトプットを続けていると必ず限界がきます。反対にいろいろな経験をしてインプットが増えると、今度は新しいアイデアが沸いてそれを吐き出したくなる。

いまはライバルも情報量も多くて、簡単に一人勝ちしてビッグマネーを得られる時代じゃない。だけど、超大手チェーンとスモールビジネスのあいだに隙間はあるので、上手くやれば一気に顧客に振り向いてもらえる。そのタイミングを焦らず待って、いざというときのためにインプットし続けておくことが大切だと思いますね。

PIZZA SLICE

東京都渋谷区猿楽町1-3 1F
03-5428-5166
無休
11:30〜23:00(日〜22:30、月が祝日の場合〜23:00)
www.pizzaslice.co
※取材時点の情報です

PIZZA SLICE

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