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先輩開業インタビュー

副業で始めたバーがSNS効果で大行列店に。繁盛のきっかけ「MOKUBAZAカレー」はなぜ生まれた?

個人店を宣伝するうえで、いまや欠かせない存在なのがSNS。とくに女性や若者に圧倒的人気を誇るInstagramやTwitterは、インパクトある名物店、見た目にも美味しそうな飲食店の看板メニューの写真であふれています。店主の情報発信の場としてだけでなく、お客さんが拡散した情報がさらに新しいファンを呼び込むこともある、とても優秀なプロモーションツールです。
そんなSNSブームでスポットが当たった人気店の一つが、2004年にオープンしたCURRY & BAR「MOKUBAZA」。看板メニューの「チーズキーマカレー」は、味のよさもさることながら、まるでスイーツのように美しくユニークな見た目が大ヒットし、ランチタイム、バータイムともに行列が絶えません。しかも店主の宮本英哲さんは、グラフィックデザイナーからバーのオーナーへと転身した異業種開業の先輩です。その宮本さんに、飲食店には欠かせない「人気メニュー」ができるまでと経営ノウハウを伺いました。

本業の傍ら、バーを始めてみたが儲からず。メイン料理に「キーマカレー」を開発したら人気に

――宮本さんは元グラフィックデザイナーだったそうですね。

宮本:はい。もともとは空間デザインに興味があり、製図専門学校に入りました。卒業してからは、グラフィックやインストアのデザインを手がける会社を何社か経験し、27歳くらいでフリーランスのデザイナーとして独立しました。

――そこから、なぜ飲食店経営を始めたのですか?

宮本:10代の頃からカナダ留学するほどスノーボードに熱中していて、よくスキー場のペンションに通っていたため、山小屋風ペンションの経営にずっと憧れていたんです。でもよく考えてみると、好きな音楽を流して同じ趣味の仲間が集まって酒を飲める場所なら、宿である必要はないと気づきました。そこから、デザイナーの職を活かしながら自分の好きな空間づくりをしたくて、都内でバーを開こうと思いました。

――それで、デザイナーを辞められてMOKUBAZAを開店されたのですね。

宮本:いえ、じつはこの場所は、もともとデザイナー事務所として借りていて、昼はデザイナー、夜にバーを開く兼業をしばらく続けていました。でも実際、バーを始めても、そう簡単に儲からなくて……。デザイナーの収入がよかったのでなんとか続けていられたという状況でした。

――しかし、いまや「MOKUBAZAのカレー」は専門店を凌駕する人気ぶりです。始められたきっかけは?

宮本:飲食店に限らず、人気になる店はどこも、「あの店といえばアレだよね」というコンセプトが明確にあるんですよね。なので、ぼくもバーを始めるにあたっては明確なコンセプトを打ち出したかった。内装を昔憧れていた居心地のいい山小屋風にして、料理にも看板メニューをつくることにしたんです。

そこで思いついたのが、いまのカレーメニューです。きっかけは、バーを始めた直後くらいのタイミングで、大手食品メーカーでスパイスの商品開発をしていた友人が会社を辞めたこと。ぼくもカレーは大好きでしたから、じゃあ、特別な厨房設備がなくてもつくれるカレーに力を入れようと決めました。でも、普通のカレーではありきたりだと思い、当時まだ専門店がなかったキーマカレーに絞って、その友人と一緒に研究をしながらつくり上げたんです。

――他の店にはないメニューで勝負しようと。

宮本:はい。そしてバーのメニューとして出していたキーマカレーの評判が上がり、味を追求していくうちに種類も増えていきました。カレーのおかげでお店の売上も上がっていきました。とはいうものの、お客さんが爆発的に増えたのは、2008年頃にいま一番人気の「チーズキーマカレー」を出すようになってからですね。デザイナーの仕事も、完全にやめたのは3、4年前で、それまではなんだかんだで続けていました。

デザイナーという職業柄もあって、料理の見た目にもこだわった

cont02.jpg ――「MOKUBAZAといえばチーズキーマカレー」と言われるほど人気ですが、どうやって発想を?

宮本:常連さん向けの裏メニューで焼きキーマカレーを出したのがきっかけ。それにチーズをトッピングしたら、見た目もインパクトがあって味も美味しかった。そこで、より美しい盛りつけにこだわっていろいろ試した結果、溶けるチーズが小山のようにカレーを覆い、生卵の黄身を乗せたドーム状の……一見、カレーとは思えないカレーが生まれました。

――見た目の美しさ、ユニークさにこだわったのがポイントだったんですね。

宮本:はい、もともとがデザイナーですからね(笑)。味がいいのは当然ですが、料理はルックスも大事。チーズキーマカレー以外も、盛りつけにはかなり気を使っています。そして、昼間にやっていたデザイナーの仕事を減らし、2009年からランチタイムをスタートしたら、さらに手応えがありまして。カレーらしくない意外性が面白いから、写真に撮って友達に見せようというお客様がたくさんいらっしゃるようになったんです。

ちょうど時代的にも、個人のブログや「食べログ」などのグルメサイト、TwitterなどのSNSが流行し始めたタイミングだった。チーズキーマカレーのことをお客様自身が面白がってどんどん投稿してくださったんです。

――それが噂を呼んで、ますますお客さんが増えていったんですね。

宮本:チーズキーマカレー目当てのお客様が、その頃から爆発的に増えました。テレビや雑誌の取材もひっきりなしにやってきて、いまでも記事のタイトルには枕詞として「Instagramで話題の~」とつけていただくくらい、SNSでの拡散はものすごい宣伝効果がありましたね。お客様のなかには、うちのカレーを食べるためだけに、九州や北海道などの遠くから訪れてくださる方もいますし、海外の旅行者向けサイトに紹介していただいたおかげで外国人のお客様もすごく増えています。

――宮本さん自身が集客のために行った施策はありましたか?

宮本:いや、それが……ぼくからは本当に何もやってなくて。バーを始めた頃も、チラシづくりすらしていませんでした。だから最初はまったくお客様がいなかったんですよ。お客様の9割は友人でしたし。でも、途中からすべてのことが、いいタイミングで起こったんです。見た目にもこだわった本格的なカレーを始めたらチーズキーマカレーが生まれ、そのタイミングとSNSブームのタイミングがちょうど上手く噛み合った。

しかもうちの店は、JR原宿駅からも表参道の中心からも、JR千駄ヶ谷駅からも歩くと10分くらいかかるので、開店当初は周りに商店街もないし、飲食店もほとんどない、すごく不便な場所。でも、それも隠れ家っぽくて、店を探す面白さみたいなノリにつながってくれたのかなと思います。

見た目の面白さだけでは勝負できない。専門店に負けない味を追求した

――たしかに、今日の取材でも失礼ながら、マンション街の一角にこんなロッジ風のオシャレなお店が? と驚きました。

宮本:あはは、そうですよね。もともとが、山小屋ペンションに憧れてつくった店ですし、ぼく自身もデザイナーとして空間づくりをやりたかったので、店舗デザインも相当こだわっています。設計図も自分で引きましたし、テーブルなども、あえてプレミアがついた使い込んだ感じの廃材を探して使いました。

インテリアも使い込んだ感が欲しかったので、レトロな戸棚やブラウン管テレビを置いていますし、居心地のいい空間づくりにもこだわっています。建築関連の知り合いが多いので、内装、外装工事もお友達価格でやってもらえて、金銭的にも助かりましたね。

――店舗デザインも、デザイナーとしてのこだわりにあふれているんですね。

宮本:ただし、店もメニューも見た目の面白さや意外性だけでは、お客様はリピーターにはなってくれない。そこで、味の面でも他のカレー店に負けない美味しさをさらに追求するようになりました。

――美味しさとルックスの美しさ、両方にこだわると。

宮本:はい、飲食店である以上、当然ですよね。カレーの味は、店を続けるあいだにどんどんマイナーチェンジしています。玉ねぎやお米の種類や産地、ひき肉の部位の配合などにどんどんこだわりが増していき、いまでは契約農家から野菜を仕入れて、信頼する肉屋さんにひき肉の特注をしています。

つくり方にもこだわり、10時間以上玉ねぎを炒め、オリジナルの無化調スパイスブレンドで味つけして合計20時間ほど費やすので、じつに大変。現在はアルバイトさん10人ほどのローテーションで、接客と仕込みを手伝ってもらっています。

――ちなみにカレーは、1日何食くらい出ますか?

宮本:チーズキーマカレーだけでも100から150食くらい。1日中、カレーを仕込んでいる感じですね。とくにキーマカレーは、材料を焦がさないように炒め続ける手間もあるし、無化調なので味も安定しなくて煮込みも焦げないよう、目が離せない。コツもいるし時間が非常にかかるので、あまり他店にはオススメできないメニューです(笑)。

ブームはきっと続かない。だからこそ、手塩にかけたこの店を大切にしたい

――タイミングのよさだけでなく、そのこだわりが、行列の絶えないお店になった。非常に順調に「MOKUBAZA」は成功されたように思えますが、一番苦労したことは何でしたか?

宮本:この店舗のビルが老朽化のために建て替え工事をすることになり、2014年に1年半ほど、代々木の仮店舗で営業していたときですね。まったく知らない土地なので、それまで常連だったお客様も離れてしまい、閑古鳥の鳴く日が続きました。そのときはまだグラフィックデザイナーの仕事もやっていたし、国民政策金融公庫からお金も借りられたので、金銭的な苦労はほぼしていませんが、精神的にはかなりキツかったです。あとは、もはや職業病なんですけど、腱鞘炎になることくらいですかね、玉ねぎを炒めすぎて(笑)。でもカレーづくりは楽しいので、苦ではないかな。

――先輩として、バー経営を目指す方にアドバイスをいただけますか?

宮本:個人店に通うお客様が求めることは、やはり店主の人柄だと思います。そのためには、コンセプトや店のカラーを明確にするべきだし、メニューや値段もそれに合わせることですね。例えば、この近所に立ち飲み屋があるのですが、そこの店内はすごく狭いし、食器にもこだわらず、しかもお酒がめちゃめちゃ安いんです。渋谷の高感度なエリアで、あえてチープにやることがカッコいいし、オシャレで心地もいい。コンセプトがハッキリしているから、他にない店として繁盛しています。個人店ほど、店主のセンスが表れるし、居心地や雰囲気という部分を丁寧につくり込むことが大切だと思います。

――では最後に、今後「MOKUBAZA」をどう発展させていきたいですか?

宮本:正直、お客様からも2号店は出さないのか? という要望はたくさんいただきますし、大手のテナントビルからも出店のオファーがたくさんあるのですが、いまはまったく考えてないです。まずぼくの目が行き届かなくなって、味が落ちるのがイヤ。また、大行列ができるようなブームが5年後、10年後まで続くとも思えない。どんな行列店も、何年かすればお客様は落ち着きますからね。そのためにも、分不相応に手を広げることはしたくないんです。

――個人店には個人店ならではのよさがあると。

宮本:まさにそうですね。人気が上がれば上がるほど、落ちるときは一瞬。多店舗化でいきなり負債が増えて、この店を手放すことになっては本末転倒ですからね。ぼくは手塩にかけたこの店が大好きなので、安定した状態で長く続けられたらと思っています。

CURRY&BAR「MOKUBAZA」

東京都渋谷区神宮前2-28-12 1F
03-3404-2606
日曜、祝日休(月曜はランチのみ休)
11:30〜15:00(ランチ)、19:30〜23:30(バー)
www.mokubaza.com
※取材時点の情報です

CURRY&BAR「MOKUBAZA」

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