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先輩開業インタビュー

SNS注目「妄想ツイート」のライターさえりさんに聞く、愛される記事を作る方法

大学卒業後、出版社とWEB制作会社での編集経験を経て25歳の若さでライターとして独立したさえりさん。さまざまなメディアで記事をバズらせる(多くの人に記事が読まれ、話題になること)ほか、Twitterでは恋愛のドキドキを妄想する「妄想ツイート」が、多くの女性に絶大な支持を得ています。いちフリーライターでありながら、Twitterのフォロワー数はサブアカウントあわせて10万人以上だというから驚きです。
スマートフォンやソーシャルメディアの普及により、誰もが文章で情報発信が可能となった現代。いまや地方の情報に強い地元ライターも数多く存在し、「WEBライター」という肩書きで独立しているブロガーやライターは全国に広がっています。ライバルがひしめき合うなかで、一線を画した存在になるにはどんなことが必要なのでしょうか? さえりさんのこれまでの経緯とご自身のブランディングについて話を伺いました。

WEB業界を知らないからこそ「読者目線の記事」を理解できる

cont01.jpg――2016年4月にフリーランスのライターとして独立された、さえりさん。WEB業界で注目を浴びている人気ライターの1人ですが、そのきっかけは?

さえり:フリーランスの前に、「LIG(リグ)」という会社で記事を書いていたことが大きいですね。

――LIGは月間650万以上のPV数を誇る「LIGブログ」で有名なWEB制作会社です。どんな仕事をしていたのですか?

さえり:LIGでは外部メディアの記事を制作する部署に配属され、編集者として働いていました。そこではクライアントの依頼を受けて記事を制作していたので、個を出すことはありませんでしたね。それとは別に、「LIGブログ」では月1本社員が自分の名前を出して記事を書くことになっていました。テーマも内容も自由にさせてもらえましたね。

――LIGブログの記事はFacebook、Twitter、はてなブックマークのいずれかが500以上のシェア数になると「殿堂」入りするそうですが、さえりさんの記事は14記事中(漫画イラスト記事除く)半分が殿堂入りしています。なかにはシェア総数1万5,000以上の記事も! そのシェア数は他記事と比べても異例です。

さえり:最初の投稿は「【WEBライター・編集者】最初の一歩」というLIG社員による連載で、文章力をあげるポイントを紹介しました。その記事から殿堂入りになったのは嬉しかったし、入社後わりとすぐに多くの方に読んでもらえていることを実感しました。でも、じつは入社当初はWEBの知識がまったくなくて、面接で「好きなメディアはなんですか?」と聞かれても、よく知られている女性向け掲示板『発言小町』と答えるくらい、ほかのWEBメディアについて何も知らなかったんです。メディア運営が仕事なのに、そんな人をよく採用してくれたなと……。

――それでも、入社後はバズる記事を連発して人気ライターとしても活躍されていたので、会社の判断は間違っていなかったわけですね。

さえり:当時の業務はクライアントから依頼を受け、その要望にあった記事を企画し、ライターに発注。あがってきた原稿を編集して公開するという作業を月に20本程度、担当していました。そのときにプロのライターが書いた記事をたくさん編集したことが、WEB記事を書くうえでかなり勉強になりましたね。

LIGブログはあくまでサブの業務でしたが、せっかくPV数のあるメディアで書かせていただけるのだから、自分を売っていく機会にしようと思っていました。在籍していたのは1年2か月という短い期間でしたが、入社初日からお出かけ情報を発信するメディアを担当させてくれたこともあり、一気にWEB業界のことを学ばせてもらった濃密な時間でした。

――最初に執筆した社員ブログの記事もそうですが、さえりさんの記事は、とても「わかりやすい」文章だと思いました。

さえり:WEB業界のこともそうでしたが、私は世の中のことをあまり知らないんです。誇らしげに言うことでもないのですが、そういう人って世の中に案外多いと思うんです。「知りたいけど、難しいことはわからない」というような。詳しい人から見れば「何をこんな当たり前のことを……」と思われることでも、私と同様にわからない人はいる。その人たちに向けてわかりやすい、やさしい言葉で書けるところは結果的に「知らない」ゆえの強みになったのかなと思っていました。

たとえば、宇宙のことについて知りたくて本を読もうと思ったけど「難しかった」という人たちに情報を提供できるような、仲介役になれたらいいなと。そういった意味では、読者と目線が近いと言えるのかもしれないです。

ビジネス本の編集で学んだのは「編集者としての役割」

cont02.jpg ――少しさかのぼって経歴を伺いたいのですが、LIGに入社される以前は出版社にいらっしゃったそうですね。

さえり:約1年という短い期間だったのですが、大学卒業後は参考書を作っている出版社に就職しました。入社して出版に関する営業や事務などの仕事を少し経験したあと、一般書部門に配属されたんです。一般書と言っても30?40代のサラリーマン向けのビジネス本という、自分が読んだことのないジャンルの編集に最初は戸惑いました。

そもそも出版社への入社は、「WEBで新メディアを立ち上げる計画をしているから、ライターとして関わってほしい」と声をかけていただいたのがきっかけなのですが、入社後にWEBマガジンの話がなくなってしまった経緯もあって。それで結局、ビジネス本の企画を「おもしろい」と思えないことと、もう少し自分に合ったスピード感で働きたいと思い、退職を決めました。短い期間で辞めたので周りからはかなり心配されましたが、ほんのわずかでも「編集者の役割」について学べたことや、本作りに携わる人たちと一緒に働けた経験は大きかったです。

――出版社での編集を経験してから、ライターとして独立する人は多いですよね。

さえり:そのときは出版社で本を1冊仕上げる大変さを知って、書くことに対する自信がなくなっていたので、ライターで独立することは考えていませんでした。それに編集の仕事も好きだなと思っていたんです。それで次は「WEBの編集をやってみたい」と思って、たまたま縁があったLIGに入社しました。

ライターは、届けたい人にちゃんと届く文章を書かなくてはいけない

cont03.jpg ――LIGを辞めてフリーランスになろうと思ったのはなぜですか?

さえり:LIGブログでの記事がいくつかバズったり、Twitterでも話題にしてもらって、「書く」仕事が増えはじめたのがきっかけです。もともと副業がOKな会社だったので、外部からフリーライターとしてのお仕事もいただいていて。それがどんどん増えて、これ以上増えたらLIGの本業と両立できないと思ったときに、外部の仕事を断りたくないという気持ちが芽生えたんです。そのときに初めて、ライターとして独立しようと思いました。それが2016年3月で、会社はその2週間後に退職しました。だからあまり「独立するぞ!」とは考えずにスタートしてしまった感じです。完全に勢いですね(笑)。

――勢いで独立してみたものの、不安はなかったですか?

さえり:独立が目的ではなかったので、「フリーがダメだったら、いつでもやめて会社に入ろう」くらいの柔軟な気持ちだったからか、あまり不安はありませんでした。何かあったらそのときに考えようかなと。それくらい覚悟をしていなかったのが逆に足取りを軽くしてくれたのかもしれません。

――独立されてからはどういった形でお仕事を?

さえり:私の場合は企業の担当者やメディアの編集者から直接メールやTwitter経由で仕事のオファーをいただいています。内容は、企業広告や商品PR、オウンドメディアの記事執筆依頼など、さまざまですね。最近では航空会社のAIRDOさんから依頼があって、北海道で圧倒的なシェアを誇るコンビニの戦略を聞きに、札幌まで取材に行きました。

企業の担当者と直接お仕事するときは編集者がいない場合が多いので、これまでの経験を活かして編集者とライターを1人で請ける場合もあります。企画や記事構成を考えたり、文章に誤りがないか校正するのが編集者の仕事ですが、大きな仕事や第三者の視点がほしいときは、知り合いの編集者に入ってもらう場合もあります。そのときは自分の原稿料から編集料を支払うことが多いです。

――ライターが編集作業をフリーランスの編集者に依頼するのは、よくあることなのでしょうか?

さえり:あまりないことだと思います。ただ、編集者がいないと企画も「自分ができそうな範囲」のことしか考えられなくて挑戦もできないし、書いた文章はそのままメディアに載ってしまう。それってどんどん記事をつまらなくするし、独りよがりになりがちだと思っていて。第三者の目が入ったほうが届けたい人にきちんと届く文章になるんですよね。

私の場合は記事をSNSで拡散するまでを依頼したいという仕事が多いので、「掲載されたら、自分のフォロワー10万人が読む」という気持ちでいつも書いています。届けたい人にきちんと届いているか? という視点はもちろんですが、少しでも手抜きをすると次の仕事に影響してしまうので、きちんと仕事を選んでブランディングしていかなくてはという意識も常にあります。

お金の交渉も自分がする。だから企画やギャラの事前確認は必須

cont04.jpg ――しっかりとブランディングしなくてはといった考え方は、フリーランスになってからですか?

さえり:真剣に考え始めたのはフリーランスになってからですが、大学3年生くらいから、人に見られることを前提とした文章は意識していました。たとえば、エロネタはやらないとか、身の切り売りはしないとか。あと「将来の自分」が見たときに困りそうなことはやらない、とか。誰も見ていない頃からブランディングはしていたかもしれないですね(笑)。「こういう人でありたい」という理想像からずれるようなことはしないようにしてきたことが、いまでも活きている気がします。


――さえりさんの理想像はどんな人ですか?

さえり:すごくふわっとしていますが、「身近な人を優しい気持ちにさせる人」でありたいなと。自分の書いたもので、人を傷つけるようなことはしたくないし、どちらかといえばプラスの感情になるものを届けたい。私の発信したもので、読者が「いまあるものを少し愛せるようになってほしい」というテーマをもっているので、私自身もそういう人でありたいと思っています。

――フリーランスと会社員の大きな違いはなんですか?

さえり:働き方も考え方もお金のやりとりもまるで違いますね。私は基本的にメールで打ち合わせや依頼などのやりとりをしています。なぜかというと、対面で原稿料の交渉をするのが本当に苦手で……。そういうこともあって、依頼をいただいた段階で「一度お話を」と言われても、まずはメールで概要を送ってもらうようにしています。期日や収入源の面だけじゃなく自分のブランディングを守るうえでも、無理をしない方法でコミュニケーションをとることは大事なんですよね。

――フリーランスだからこそ、条件をきちんと確認することは大事だと。

さえり:あと、気持ちの面で一番違うことは、寂しさ……ですかね(笑)。毎日同じ場所にいかないし、会う人も違う。でも寂しい反面、これまで通勤や会議で使っていた時間がなくなったので自由な時間が増えました。自分が居心地良く暮らすことは良い文章や良い仕事につながると思うので、いまの働き方は自分にあっていると思います。

なんでも「妄想」すれば良いわけじゃない。「何のため?」という編集目線を忘れない

cont05.jpg ――恋人や彼とのドキドキを妄想してツイートする、さえりさんの代名詞「妄想ツイート」は多くのファンに支持されていますが、ご自身をブランディングするうえで重要なコンテンツだと捉えているのでしょうか?

さえり:最初は読んでくれた人がほっこりすればいいなぐらいの気持ちで始めたので、まさかこんなに読んでいただけるとは思っていませんでした。ありがたいことに、フリーになってから妄想に関するお仕事の依頼をたくさんいただくのですが、なかには「妄想要素を交えてうちの会社を紹介してください」というのもあって。「一体どうやって?」と思いますよね(笑)。

そういうときに活きてくるのが編集的な視点で、「何のために記事を作りたいのか?」を考えることなんです。言われた通りに記事を作っていると、「誰のための記事なのか」を見失ってしまうことも多々あるので。届けたい人に届かないならクライアントにもマイナスになってしまいますし、当初とは違った「妄想ではない記事」で企画を提案し直すこともあります。そう考えたら、「妄想ツイート」はブランディングという意味では重要かもしれません。

これからの時代、「ライター」のニーズはある。自分よがりにならない文章を書くことを第一歩にしてほしい

cont06.jpg ――ライターとして、いまどんな課題を持っていますか?

さえり:WEBの記事はPV数やSNSのシェア数など、数字で判断されてしまうことが多いのですが、私はバズる記事だけが良い記事ではないと思っています。昔の私みたいに、ネットにあまり馴染みのない人にもしっかり読んでもらえる文章を書くことは、これからもやっていきたいですね。

――フリーランスで仕事をするなかで、守っておいたほうがいいことは何ですか?

さえり:これはライターに限らずなんですが、自分がどうありたいかといったイメージは、ぼんやりでもいいから持っておくことと、やらないことを決めることは大事だと思います。もちろん自分の視野にない分野の仕事をして化学反応で新しいことが始まる場合もあると思いますが、自分のなかで「これは何か違う」と疑問を抱いたら、やらないほうがいいかなと。自分のざわざわした気持ちに、敏感になるというか。いくら人に求められることでも、自分を消耗するような働き方にはやっぱり反対ですね。

――編集者やライターを目指す人や、自分の書いているものが仕事になるのか悩んでいる人が一歩踏み出せるようなアドバイスをお願いします。

さえり:いまはブログやTwitterなどたくさんのツールがあるので、最初の一歩はとにかく「人に読んでもらえる文章」をそういう場所で書くことが大事だと思います。最初から自分らしさを100%出しても、読み手に伝わらないと意味がありません。まずは「読み手ありき」の文章を書けるようになるという意識が、第一歩ではないでしょうか。

私も個を出してはいますがアーティストではないので、自分が表現したいことを書いて評価されたいというよりは、受け手がいるからこそ成り立つ文章を書きたいと思っています。会社員で編集者をしていたときにも感じましたが、いまは「書けるライター」が不足しています。自分の名前を出して、きちんと取材した信頼できる文章を書けるWEBライターが少ないので、今後もニーズは高まってくると思います。

――書けるライターというのは、正しい情報を「読み手ありき」の文章で書ける人なのかもしれませんね。

さえり:もし本当にWEBライターになりたいなら、まずは自分がおもしろいと思った記事の運営会社を調べて文章を送ってみてもいいと思います。メディアが多いぶん、障壁も低いと思うので、諦めずに挑戦してほしいですね。

フリーライター さえり

Twitter @N908Sa(https://twitter.com/n908sa?lang=ja)
ブログ SAERI BLOG(http://saeri.me/)
※取材時点の情報です

SAERI BLOG

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