1. 独立・開業・フランチャイズ情報TOP
  2. マイナビ独立マガジン
  3. 先輩開業インタビュー
  4. 理想を実現するため一人営業の道へ。地元の愛犬家たちが集うオーガニック野菜とワインのレストラン
先輩開業インタビュー

理想を実現するため一人営業の道へ。地元の愛犬家たちが集うオーガニック野菜とワインのレストラン

近年、都市部からの移住者が増えている湘南エリア。その中央に位置し、海や緑豊かな山々に恵まれた地域が神奈川県平塚市です。セカンドライフを過ごす環境として人気のこの街で、愛犬とともに入店でき、オーガニック野菜と和風料理、そしてワインを楽しめるレストラン「ぶどう畑のさんぽ道」を営業しているのが、高梨恭子さんです。約20年前にこの地へ移り住んできた高梨さんは、女性一人でレストランを切り盛りしています。地元の野菜や、ぶどうが大好きで、自身もゴールデンレトリバーを飼っていることから、料理を楽しめて愛犬家たちが集まれる場所を作りたかったのだとか。そんな高梨さんに、詳しくお話を伺いました。

愛犬同伴OK、オーガニック志向のレストラン

――レストランの特徴を教えてください
オーガニックな農作物だけを栽培している平塚市の農家さんから、直接仕入れた野菜を使った料理を提供しています。料理に合わせて提供しているワインは、添加物などを極力使用しない自然派ワインで、メニューはなく、その日仕入れたもので料理を構成しています。また、ワンちゃんと一緒に入店できるのも大きな特徴です。私もゴールデンレトリバーを飼っていて、当店ではいつも愛犬のキキがお客様をお出迎えしています。そして、2階はワインセラーになっていて、自宅で自然派ワインを楽しみたい方や、プレゼントなどに購入したい方にご利用いただいています。

――開放的で、素敵なお店ですね
ありがとうございます。私もこの空間の雰囲気が大好きで物件を借りたんです。実は、初めは飲食をやりたかったわけではなくて、人が集まることができるコミュニティスペースのようなものを作りたいなと漠然と思っていました。人生の最期を迎えるまでにどれだけの人に出会えるだろう、なんて思った時期があって、下の子が小学校の高学年になったタイミングで、残りの半生は好きなことだけして生きようと決めました。また、愛犬と離れたくなくて、一緒に働ける場所を求めてもいたので、自営という選択を選んだというわけです。

ぶどう畑のさんぽ道の店内の写真 ――以前からこの物件を狙っていたのですか?
嫁いだ先が平塚で酒屋をしていて、ここからすぐの近所にあります。この物件は以前、フレンチを出すレストランをしていて、取引先でもあったんです。私も客として食べにきていたのですが、平塚駅前のほうへと移転して、そのあとに入った飲食店もクローズしてしまって。立地としても最高の場所だと思っていたので、まだビジネスプランも固まっていないのに借りてしまいました。私は昔から瞬発力と直感で動くタイプの人間なのですが、ただの主婦がいきなり毎月20万円の家賃を払おうというのですから、本当に無謀だったと自分でも思います。



友人として自宅に招かれているような場所にしたかった

――最終的に飲食店をしようと決めた理由は?
私は農業が盛んな埼玉県深谷市の出身で、父が本業のかたわら野菜作りもしていました。だから、家で出る野菜はほとんど自家製で、大学に入るまで市販の野菜をあまり口にしたことがありませんでした。なので、野菜には少しこだわりがあったのですが、ある時、ご縁があって平塚市のとある農家さんと知り合い、そこで作られた有機野菜を食べた時、「父の味だ!」と思って。よくよく考えたらこの平塚でおいしい野菜をメインで提供するレストランは目にしたことがなかったし、それにワインを合わせたら絶対に喜んでもらえるだろうと思い、自分の構想が、この野菜との出合いで確信に変わりました。

――そもそも飲食店の経験はあったのですか?
大学生の時にカフェでアルバイトをしたくらいで、ほとんど素人です。レストランを始めるとなって、さすがに一人では難しいと思い、当時通っていた料理教室の先生に厨房に入っていただきました。2018年12月にオープンしたのですが、営業を続けるうちに、私が思い描いていたお店のイメージと、先生の考え方がだんだん噛み合わなくなってきてしまったんです。すると、お客様にもそれが伝わっていたみたいで、仲のよい友人から「今の状態は恭子ちゃんのやりたかったことなの?」なんて言われてしまい、ショックでした。それでオープンから半年ほど経った頃、自分一人でやってみようと決心しました。

ぶどう畑のさんぽ道の店内の写真 ――自分が思い描くお店を追求しようと決めたのですね
当初のコンセプトとして、レストランというよりも、友人として自宅に招かれているような、お客様にとって居心地のよい場所にしたいという思いがありました。愛犬家たちがゆっくり、のんびり、仲間たちと過ごせる場所。それが目標でした。ただ、そのイメージを100%理解し、形にできるのは自分しかいません。また、この平塚エリアには、アーティストや作家たちが多く住んでいて、当店にもよく足を運んでくれます。彼らの話を聞き、創作物を見ているうちに、この空間こそが私にとっての一つの作品なんだと気付かされました。だからこそ、一度一人で限界までがんばろうと決め、現在のスタイルになりました。

――現在のレストランでの客単価はいくらに設定していますか?
特に設定していませんが、オーガニック野菜や地の魚、国産のお肉のみを使っているので、お客様一人当たり6000円から7000円と、少し高めにはなっています。オープン当初はメニューを用意し、金額設定ももう少し低くしていたのですが、このお店のデザインを担当してくれた方から「素敵な時間を過ごしてもらおうと思って、この建物に安くないお金をかけたんです。ここにいるだけですごく豊かな気持ちになれる人がたくさんいるんだから、その分の料金はいただいたほうがいいですよ」と言われて、それをきっかけに見直しました。

起業家セミナーでアイデアを広げ、ようやく受けられた融資

――お店を始めるにあたって、資金は調達しましたか?
私の場合は本当に特殊で、最初に店舗を借りたこともあって、銀行への相談は後回しでした。なので、ビジネスプランも何もなく、銀行にお金を貸してほしいといっても門前払い。これは困ったと思い、そこで初めて都内で開催していた起業家セミナーに参加して、現在のレストランの草案を話してみました。「おもしろいアイデアだから、一つずつ冷静に考えてやってみましょう」とアドバイスされて、少し安心したのを覚えています。それから、会計士さんを紹介していただき、融資の目処も立ちました。おかげさまで、信用金庫と日本政策金融公庫から、合わせて1400万円をお借りでき、レストランを始められました。


ぶどう畑のさんぽ道の外観の写真

――オープン後は順調だったのでしょうか?
オープンしてすぐに地元の愛犬家の方たちはもちろん、都内や他県からのお客様も増えていきました。週末になると、世田谷ナンバーや品川ナンバー、横浜ナンバーといった、違う地域からの車が並ぶようになったのですが、そうすると、今度は近所の方々から敬遠されるようになってしまい、数カ月したらパッタリと客足が遠のいたんです。それは少し焦りました。ただ、先ほどお話ししたような経緯で、一人で営業するようになると、また常連客が戻ってきてくれて。忙しさが戻ってきて、手が回らなくなる時もあり、常連客にその場でお手伝いをお願いしたんです。そうしたら、初めての方もちょっとしたことを手伝ってくれるようになり、お客様同士で自然と会話が生まれるなど、わんちゃん効果もあってか、より優しい和やかな空気が生まれましたね。

――応援してくれる人が増えたのですね
野菜を卸してくれる農家さんが団体で使ってくださったり、以前勤めていた職場の方たちがきてくれたり。一人になってお店が私のカラーになると、共感してくれる人たちが足を運んでくれるようになりました。また、ワインの試飲会や女子会といったイベントを開催するほかに、知り合いの催し物の会場としても使ってもらえるようにもなると、売上も安定してきて、ようやく軌道に乗ってきたと手応えを感じました。そんな矢先、やってきたのがコロナです。



コロナ禍の補助金を活用してWebサイト&ワインセラーをオープン

――コロナの影響で、飲食業界は大変な打撃を受けました
でも、コロナによってさまざまな補助金が出たので、何とか経営を続けることはできました。また、特例処置で飲食店でも「酒類小売業免許」が半年間の期限付きで許可されるようになり、ワインをボトルで販売できるようになったのは大きかったです。その期間中に、正式に酒類小売業免許を取得したので、2階のワインセラーを作ることができました。

ぶどう畑のさんぽ道のワインセラーの写真 ――まさにピンチをチャンスにしたわけですね
さらに、コロナ禍の間に商工会議所の持続化補助金を活用して、当店のWebサイトを開設しました。そしてもう一つ、立ち上げたのが地域情報サイト「松風ストリート」です。このサイトはずいぶん前から考えていたアイデアで、当店のある町内へ遊びにきた方に存分に楽しんでもらえるよう、街歩きマップとして活用できるサイトになっています。同じ地域でがんばるお店を応援したくて、取材記事なども掲載し、見応えのある内容を目指して運営しています。

――ワインセラーはどのようにしてオープンしたのでしょうか?
事業再構築補助金を活用しました。店舗の改装に使える補助金で、利用できる金額が大きいのが特徴です。私は2021年2月にこの補助金を知って、酒類小売業免許を取得していたこともあり、ワインセラーを作る決心をしました。2階の改築には800万円ほどかかりましたが、自己資金と合わせて何とかなりました。実際にワインセラーをオープンできたのは、2022年9月です。

――ワインセラーの反響はいかがでしたか?
販売しているボトルワインの売上の平均単価がかなり上がりました。店内に置いていても、お土産に購入していく方は少なかったのですが、ワインセラーに置いてあると、気分が高まるようで、飲んだことのない銘柄を買っていく人や、自分へのご褒美に買って帰る人が確実に増えています。

――改築して大成功ですね
2022年11月には、ワインを卸していただいているスペインのワイナリーさんを迎えて、試飲会をしたところ、大きな反響がありました。ワインセラーのオープン記念ということで催した会でしたが、多くの方に喜んでいただけたと思います。また、2023年3月には、南フランスのワイナリーのオーナーさんをお招きして試飲会をするなど、イベントを開催する場所としても最適で、今後もいろいろな仕掛けを考えています。

やりたいことがあるなら、とにかく声に出してみる

ぶどう畑のさんぽ道を経営されている高梨恭子さんの写真 ――今後の展開について教えてください
今後、当店とは別に運営している地域情報サイト「松風ストリート」をうまく活用して、地域全体が潤うようにしていきたいと考えています。近年は、古い商店街がどんどん廃れていって、次々と新しい商業施設がその跡を埋めていっています。でも、果たしてそれでいいのか、私は疑問に思っています。当店の前の通りも、絶品のケーキ屋さんがあったり、素敵なアンティークショップがあったり、まだまだ地元以外には知られていない魅力がたくさんあります。そこで、当店を足がかりに、いろいろなお店を紹介するためにサイトを活用していきたいんです。

――松風ストリート全体を盛り上げたい、と
例えば、このエリアに遊びにきた方が、「松風ストリート」をきっかけに当店とは別にもう一カ所、ついでに足を運んでいただければ、そこでもお金を使ってくれるかもしれません。またそれは、このエリアへ遊びに来た方にとっては、魅力がもう一つ増えたことにもなるのです。どちらにとってもいいことですよね。東京からそれほど遠くない、海のあるこの街で、のんびりと楽しく過ごせたら最高だと思うんです。そんな魅力をわかりやすく紹介できるサイトを目指しているので、実験的ではありますが、サイトを通してさまざまなことにチャレンジしていきたいです。

――独立開業を考えている方にメッセージをお願いします
やりたいことがあるなら、とにかく声に出してみることです。口に出していると、経験上、サポートしてくれる人が現れるものです。だから、世の中に必要で、おもしろいという確証があるものを見つけたら、それをどんどん言葉にしていく。かかる費用で二の足を踏んでいる人もいますが、大丈夫です。意外と何とかなります。私自身、本当にただの主婦からスタートして、それでも何とかなっていますから(笑)。

ぶどう畑のさんぽ道

所在地:神奈川県平塚市松風町9-12
TEL:0463-45-5088
※取材時点の情報です

https://budousanpo.thebase.in

 マイナビ独立マガジンの最新記事

一覧を見る

 マイナビ独立フランチャイズマガジンの最新記事

一覧を見る
PAGE TOP