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先輩開業インタビュー

住宅地の一角にある自宅を建て替えカフェをオープン。未経験からスタートした地元に愛されるお店づくり

都心へのアクセス性の高さからベッドタウンとして栄えてきた埼玉県鶴ヶ島市は、有名な観光スポットがあるわけでもなく、歓楽街もない。閑静な住宅街が多い地域です。そんな“郊外”である街の駅から徒歩10分ほど離れた住宅地の一角に、カフェ「Takaya」はあります。店主の田中さんは、もともと会社勤めをしていましたが、自宅を住居兼カフェに建て替え、まったくの未経験で飲食業へと転職を果たしました。なぜ数ある飲食の中からカフェを選んだのか。また、メニューや空間づくりはどのように学び、選定したのか。今回は、「Takaya」店主の田中貴也さんに、起業のきっかけやカフェ運営についてお話を伺いました。

母の死をきっかけに、会社を辞めてカフェのオープンを決意

――住宅地の奥まった一角で営業しているのが、とても特徴的です
実はここはもともと私の実家なんです。祖父が何十年も前に長野県から移住してきた時に購入した土地で、私の親がそれを受け継ぎ、私自身もここで生まれ育ちました。それを建て替えてカフェを開いたので、住宅地の奥まった場所で営業しているというわけです。建て替え前の実家は築50年も経っていたこともあって、台風や地震がきたらもう崩れてしまうんじゃないかと不安になるような家でした。そんな状態だったので、2016年に建て替えを決意し、そのタイミングで2階は住居、1階はカフェができる空間をつくり、2020年のオープンに向けて徐々に準備をしていきました。

――どうして自宅でカフェを始めようと考えたのでしょうか?
私が妻と結婚したのは2011年でした。お互いに会社勤めで、二人して定年になったら飲食店をオープンしようと話していたんです。そんな中、2014年に私の母が60歳で亡くなり、さらに私と妻の共通の知り合いも、母と同じく60歳で亡くなってしまって。妻と話し、「やりたいことがあるなら、お互いの定年を待っていては遅いのでは」と価値観が大きく変化しました。私たちは子どもがいないので、二人で生きていく分には、子育てしている家庭よりお金はかかりません。ただ、二人とも会社を辞めてお店を始めたら、それはそれで生活が不安定になるので、とりあえず私がカフェを始めて、妻は外でそのまま働くというスタイルをスタートさせました。

――お店のコンセプトはなんでしょうか?
一言でいえば、「昔ながらの喫茶店」でしょうか。勉強してもいいし、仕事してもいい。スマホをいじっていてもいいし、本を読んでもいい。時間に制限されることなく、ゆっくり、のんびりできるカフェでありたいと思っています。メニューも昔ながらのものをそろえていて、純喫茶によくあるナポリタンや、クリームソーダといったものを提供しています。

Takayaの店内の写真 ――ちなみに、飲食店の中でもカフェを選んだ理由は?
私は今まで飲食店で働いた経験がありません。例えば、中華料理店やフランス料理店を始めるなら修行が必要で、その道に精通しなければならないと思うんです。でも、私が提供しようと考えたのは、「ゆったりとした時間と空間」です。それならカフェだろうと。メニューにも書いてある通り、当店でご用意しているのは軽食です。本格的な料理は出していません。ただ、それでも常連のお客様からは、当店のコーヒーや軽食に「おいしい」と言っていただけているので、本当にありがたいですね。



モデルルームや気になるお店に足を運び、店舗デザインをイメージ

――飲食店が未経験ということですが、店内のデザインはどのようにして決めたのですか?
まず、とにかくたくさんの住宅展示場に足を運びました。そこで実際のモデルルームをいくつも見学して、自分が理想とするデザインや内装を頭の中に叩き込んでいき、一番条件にあうハウスメーカーのデザイナーさんに理想とするデザインを伝えながらイメージを固めていきました。また、カウンターの高さは、妻が通っていたネイルサロンのカウンターが理想的だったので、それを計らせてもらい参考にしました。そうして出来上がったのが、今の店舗デザインです。

――店舗裏にあるお庭も素敵ですね
ありがとうございます。天然芝に関しては、私と妻がゴルフ好きなことから決めました。少し小高くなっている部分は、ゴルフ場のグリーンをイメージしています。でも、残念ながらここでパターなどを打ったことはまだありませんね。植木は、外構の業者の方と話しながら作り上げていきました。先ほどお話しした通り、建て替えが2016年で、オープンが2020年だったので、完成まで時間がありました。そこで、費用を抑えるために、他の家でいらなくなった樹木があれば欲しいと伝え、それで集め植えています。ただ、ちょうど今咲いているしだれ梅は元からあの場所にあったものです。

Takayaのお庭の写真 ――店内に中2階を設けて、本を読めるスペースを用意していますね
私は本をほとんど読まなかったのですが、昔ながらの喫茶店はお客様が本をのんびりと読んでいるイメージだったので、それに近づけようとスペースを設けました。そしたら、たまたま「まちライブラリー」という、全国に私設図書館を広める活動をされている方が来店して、当店もそれに参加することになりました。全国で900か所以上あり、鶴ヶ島にも十数か所あるようです。当店は本の貸し出しもしていて、希望するお客様には無料でお貸ししています。



メニューは食品ロスが少ないものを選び、味付けはネットや動画を参考にした

――メニューはどのようにして決めましたか?
「昔ながらの喫茶店」のイメージからメニュー決めをスタートさせたのですが、当店は厨房が狭く、在庫を置くスペースがそれほどありません。また、食品ロスをできるだけなくしたかったこともあって、なるべく使い回しができるものを使った料理を出そうと決めました。例えば、にんじんはカレーとドリアに使える、ピーマンはパスタとピラフに使える、という感じで、共通する素材で作れる料理を選定し、最終的に今のメニューに落ち着きました。

――調理方法や味付けは?
メニューが決まったあと、ネットでレシピを検索したり、YouTubeで動画をチェックしたりして、味を決めていきました。特にYouTubeは、動画を一つの品につき50本ほど観たとしたら、50通りの作り方を知ることができます。すると、共通していることがかなりあることに気づくんですよね。バターを使うとか、牛乳を入れるとか、共通項を探していくと、ちょうどいい味付けが見えてくる。それを自分で作ってみて、食べてみる。その繰り返しで、自分が納得のいく味を決めていきました。

Takayaの食器の写真 ――椅子や食器類がすべてふぞろいなのには、何か理由があるのでしょうか?
人には好みがあります。椅子ならデザインはもちろん、座り心地が柔らかい、硬いといったものもある。その中で自分のお気に入りを見つけてほしいと思い、あえて統一感をなくしました。今日はこの椅子に座ってみよう、次はあの椅子を試してみようと、通う楽しみもでてくるはずです。そうした意味で、照明やコーヒーカップなども、色や形が違うものを用意しました。

――資金調達はしましたか?
まず建て替え費用として、外構費も含め4000万円ほど住宅ローンを組みました。お店の準備としては、冷蔵庫やテレビといった電化製品やデザイン違いの椅子、食器などを用意するのに約100万円、店舗入り口に手すりをつけるといった追加の改装で約50万円がかかり、合計でおよそ150万円が必要になりました。こちらは貯金から捻出しました。



立ち上げから情報発信はSNSのみ、それでも朝の情報番組から取材依頼も

――営業をスタートしてみて順調でしたか?
オープンしたのが2020年1月8日で、すぐにやってきたのが新型コロナです。そうこうしていたらもう緊急事態宣言が始まったんですね。なので、最初の年は売り上げも本当に少なかったです。でも意外に思われるかもしれませんが、実は、ほっとしてもいました。なぜなら、もともと飲食店がまったくの未経験だったこともあって、オープン前は不安と緊張で体重が激減するほどだったんです。でも、スロースタートになったことで、慌てることなく少しずつ経験を積むことができた。結果的に、コロナ禍もお店を運営する上では悪くなかったかもしれないと今では思っています。

Takayaの本棚の写真 ――集客方法としては、どのようなことをしていましたか?
正直、ほとんど何もしていないです。ホームページくらいは用意したほうがよいかとも考えたのですが、作るのも面倒だし、頼むとお金がかかるので、それならSNSだけはやろうと決めました。InstagramとFacebookのみ最初に始めて、あとからTwitterも開設しました。いわゆる新聞の折込広告やポスティングといったものは一切していません。最初は看板もなかったくらいです。

――SNSの反応はいかがでしたか?
SNSを見てきてくれる方は多いですね。日々のちょっとした呟きはいつもTwitterで、しっかりと見てほしい営業に関する情報などは時々InstagramとFacebookで流しています。去年のサッカーW杯の時は、日本代表が勝ったらお会計50円引きというイベントを行い、SNSで発信しました。そしたら、その情報を見たテレビのニュース番組から連絡があり、電話取材を受け、取り上げてもらうことができました。思った以上にいろいろな人が見てくれているのだなと、SNSの有用性をあらためて感じました。

――来店される客層は地元の方が多いですか?
そうですね。SNSも地元の方に見てもらえるように、ハッシュタグには必ず「鶴ヶ島」を入れています。最初にターゲットとして想定していた、本を読んだり、おしゃべりしにきたりと、ゆったりとくつろぎたい方がきてくれていて、飲食店では重視されている「回転率」などは一切考えていません。そうした意味では、本当にイメージ通りの営業はできています。



起業するなら「今すぐ」やったほうが、人生は間違いなく楽しくなる

――地元で起業したことで、地域との付き合い方として意識していることはありますか?
地元の飲食店を中心とした集まりがあり、そこに私も加わらせてもらっています。飲食店巡りを促すスタンプラリー企画やイベント企画など、地元を盛り上げようと各店舗の経営者みんなが努力しているので、そうした活動には可能な限り参加しようと思っています。

――営業する中で気をつけていることはありますか?
当たり前のことではありますが、休まず通常営業を続けることです。妻と外食する機会が多いのですが、一番がっかりするのが、お店に行ったら臨時休業でやってないこと。そうした思いは当店のお客様にはしてほしくなくて、決めた営業時間、営業日は最低限守ることを心がけています。緊急事態宣言の期間も国の要請を受けながらも、その中でできる限り営業していました。そんな時でも通ってくれる方がいて、外出できないストレスを解消できる場所として使っていただけていたと思うと、役立てていることに喜びを感じていました。

――今後予定していることはありますか?
5年後を考えた時に、私が50歳、妻が定年を迎える歳になります。そうなった時、今度は妻がお店を回して、私がもう一度外に働きに出るのもおもしろいと思っています。さらに、それから5年したら、その時の状況によっては二人でお店を営業する。そうしてうまくお店を活用しながら人生を楽しんでいけたら最高かな、と。根本的に、それほどお金儲けに興味がなくて、どうすればおもしろい毎日が送れるか、ということをベースに考えているから、そうしたライフスタイルを好むのでしょうね。

Takayaを開業された田中さんの写真 ――最後に、独立・開業を目指す読者にアドバイスをお願いします
起業するならできるだけ若いうちがいいと思っています。母が早くに亡くなったからということ以外にも、例えば60歳になった時に、その時のトレンドに乗れるかどうかわからない、という心配があるからです。今で言えば、SNSです。私が60歳で起業していたら、そうしたものを活用して発信できていたかというと、はなはだ疑問です。それに、体力の問題もあります。一人でお店を回す体力、気力があったかどうか。引退してからやろうと思っているなら、今すぐやったほうが、人生は間違いなく楽しくなりますよ。



Takaya

所在地:埼玉県鶴ヶ島市鶴ヶ丘41-1
TEL:049-285-0489
※取材時点の情報です

https://www.facebook.com/takaya.tsurugashima

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