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先輩開業インタビュー

時間に拘束されず、居心地のよい場所で働く。自然から学んだ独自の経営スタイルを貫く釣具店

コロナ禍でブームが到来したといわれているのが、「釣り」です。週末、自然を相手にゆったりと釣り糸を垂らす。そんな癒しの時間が魅力の釣りですが、もう少し本格的なものになると、船に乗って海へ出る「船釣り」があります。この分野になると、時間やコストをかける人が多く、こだわりも強くなっていきます。そんな釣り愛好家向けの釣り具店を経営しているのが、「hage(ヘイグ)」(東京都江東区)の榎本直人さんです。自身も川や海を舞台に糸を垂らし続ける本格派であり、好きが高じて「趣味を仕事にする」ことを実現した、まさに釣りのプロフェッショナル。今回はそんな榎本さんに、起業のきっかけや仕事への向き合い方などを伺いました。

ドリンクも飲めるカフェスタイルの「玄人向け」釣具店

――お店の特徴を教えてください
海釣り専門の釣具店で、主に船で沖へ出て釣りを楽しむ、いわゆる大物釣りと呼ばれる分野の道具を扱っています。ルアーや竿などは、基本的にメーカーや職人から直接仕入れた人気のものやレアものをそろえているのも当店の特徴といえます。また、店内にイスを5席設けていて、来店されたお客様が腰をおろしてコーヒーやビールなどのドリンクが飲めるようにもしています。店舗は共同経営者の畑野と二人で、交代でお店に立って回しています。

「hage(ヘイグ)」を経営する榎本直人さんと共同経営者の畑野さんの写真 ――来店客は初心者というより、玄人の方が多いのでしょうか?
そうですね。これから釣りを始めたいという方が来店しても、初級者向けの道具はそろわないと思います。どちらかと言えば、長年釣りを経験してきた玄人や「本格派」の方が通うお店かもしれません。置いてあるものも個人の職人がハンドメイドで作った、市場で流通する点数がかなり少ない貴重な商品を多く扱っていて、それを目当てに来店される方も少なくないです。

――お店の名前の由来は?
私も畑野も、どちらも頭が薄いことから名付けました。でも、ちゃんと意味もあるので安心してください。「hage」の中に、榎本の「e」、畑野の「h」の頭文字が入っていて、あとは「a」がAll「すべて」、Always「常に」という意味。そして、「g」がgratitude「感謝」という意味を込めています。読み方も、さすがに「ハゲ」ではかっこ悪いので、アメリカの人名で「ヘイグ」と読ませることを知り、そこからとりました。

小学2年生から始めた釣りで、意気投合した同僚と起業

――開業前も釣具店で働いていたのですか?
はい。高校卒業後、どんな仕事に就こうかと迷っているなかで、趣味だった釣りの道具を買いに通っていた都内の釣具店で働こうと思い立ち、募集もしていないのにこちらから面接をお願いして入社しました。海外の釣り愛好家が日本にきた時は真っ先に足を運ぶような有名店で、関東圏内に展開している各店舗で店長なども経験させていただきました。

――独立した理由を教えてください
会社には2018年まで在籍して、トータル22年間勤めたのですが、ずいぶん前から自分の店を持ちたいとは考えていました。ただ、長く勤めている分、休みがとりやすいとか、仕事がやりやすいなど、居心地がよくてなかなか重い腰をあげることができなかったんです。それで、決断を先延ばしにしている間に、会社の経営スタイルが徐々に変わり始めて、あらためて自分の思い描くお店を始めたいという気持ちが高まり、思い切って独立したというわけです。

釣り愛好家向けの釣り具店「hage(ヘイグ)」外観の写真 ――釣りのキャリアも長いのですか?
記憶の限りだと、小学校2年生の頃に、父親に多摩川へ連れていかれたのが最初だったと思います。それから川釣りが趣味になって、週末には渓流釣りをしに山へ出かけていました。その後、親の都合で大阪へと移住した際に、海釣りにもはまり、川と海、どちらも楽しむようになりました。しばらくしてからまた関東へと戻って就職すると、今度はお客様と海へ出るようになり、海釣りがメインになっていきました。なので、もう40年近いキャリアになります。こうして振り返ると、釣りばかりしていますね。

――畑野さんとはどのように出会ったのでしょうか?
元々同じ会社の同期です。だから経歴もほぼ一緒で、退職した時期も同じです。私と似た考えを持っていて、自由気ままに自分のお店で働きたかったらしく、「一緒にお店を立ち上げないか?」と声をかけたら、快く受けてくれました。よく「友達と一緒に起業すると仲違いをして失敗する」と言われますが、お互いに釣りが好きで忙しく働くことが嫌いなタイプということもあり、ぶつかるようなことは今のところありません。

家より長くいる場所だから、居心地のよい場所にこだわった

――現在のお店のスタイルにしようと決めたのはいつ頃でしたか?
驚かれるのですが、厳密に言えば退職してから考えました。これは私の性格で、会社を辞めて自分を追い込まないと、一歩が出ない。だから、2018年2月頃に退職して物件を借り、会社をおこしたのが6月。それから約半年後の12月20日オープンしたので、動き出してからは本当に急ピッチで店づくりを進めました。ただ、途中で契約した物件の持ち主から突然契約を破棄されるなどトラブルもあって、一筋縄にはいかなかったです。

「hage(ヘイグ)」に設置されたボードの写真 ――お店を始めるにあたって、この場所を選んだ理由は?
一番は問屋さんが近くにあることです。自転車に乗って5分くらいなので、スーパーマーケット感覚で仕入れにいけるのが魅力でした。それ以外は、何の縁もゆかりもない土地です。以前勤めていた会社は、渋谷や池袋や上野など主要な駅に店舗をかまえていて、当初は私も山手線沿線にこだわって物件を探していました。でも、探しているうちに、足を運びやすい、運びにくい条件なんていうのは、人それぞれじゃないかと思うようになって。だったら自分たちにとって便利で、何となく居心地のよいところのほうがいい。それで畑野と話し合い、今の場所に落ち着きました。

――お店づくりにかかった費用はいくらくらいでしょうか?
元の内装を解体して、飲食店としての許可がとれるように配管なども調整したので、約800万円かかりました。そのための資金は、日本政策金融公庫から融資を受けました。1000万円です。内装については知り合いのデザイナーにイメージを伝えて、一緒に調整しながらつくりあげました。少しだけDIYもしていて、例えば天井のペンキ塗りや外装などを手伝ったのですが、それはとても楽しかったですね。

――カフェスタイルにしていますが、こちらの売上も大きい?
あくまでお客様が休憩できるようにと設けただけなので、本当に微々たるものです。ただ、カフェとしてのスペースを用意してよかったと思うのは、ご近所の方が遊びにきてくれることです。釣り道具だけを売っていると、誰も来店しない日が絶対あるはずなんです。でも、たまに近くに住む顔見知りがコーヒーを飲みにきてくれるから、話し相手になっていただけるし、息抜きにもなる。家より長くいる場所なので、結果的に今のような居心地のよい空間にこだわって本当によかったです。

意味のないことはしないと決め、仕事よりも時間的なゆとりを優先

――お店をオープンするにあたって、集客はどのように行ったのですか?
近隣のお店へのあいさつ回りのためにチラシは作りましたが、それくらいです。あと、以前の会社でお付き合いのあったお客様や知り合いのところへ独立したタイミングでごあいさつに伺ったり、開業のお知らせメールを送ったりはしました。そのほかには、会社のSNSを立ち上げた程度で、特にお金をかけるようなことはしていません。ただ、店舗がオープンしてから少しして、ECサイトは開設しました。

――オープン後の運営は順調でしたか?
可もなく不可もなく、ほぼ想定通りでした。客単価については、それまでの釣具店での経験があるので大体はわかります。また、それまでのつながりでどれくらいの来店客が見込めるかも、なんとなくですが見えていました。そこから割り出した売上をさらにいくらか低く見積もり、その数字を事業計画書に落とし込んでいたので、かなり現実的な予想を立てていたのがよかったのだと思います。いくらぐらい売上があれば私と畑野、2人の給料が前職と同等になるかも予測をつけていて、ほとんどその通りになっています。

釣り愛好家向けの釣り具店「hage(ヘイグ)」店内の写真 ――お店を運営するなかで、特に大事にしていることはなんですか?
釣具店という仕事柄、お客様と一緒に釣りへ出かけることは特に大事にしています。そうした付き合いが当店をご愛顧いただくことに直結するので、遊びとも仕事ともとれるようなことですが、欠かせない要素になっています。釣りにいく場所は北海道から沖縄まで、時には海外遠征にいくこともあるので、数日間から1週間以上、店を空けることはざらにあります。お互い、月の3分の1くらいは釣りに出かけていることになりますね。

――釣りでお店を空けている間は、運営はどうしているのですか?
一人がお客様と釣りへいっている間は、もう一人が店舗に立っています。なので、定休日は月に1回、第3水曜日だけ。お互いに好きな時に休めるようにもしていて、休日についての決まり事は特に設けず時間的なゆとりを最も大切にしています。コロナ前は遅番早番を決めてどちらも毎日店に立っていたのですが、よくよく考えたらあまり意味のないことだと気づいて。要は、2人ともいないといけないのは、買い出しや仕入れにいく時くらいのもの。「無理に働いてもしかたがない」とコロナを境に思うようになりました。それよりも、例えば家族と過ごす休みはきちんととろうとか、休める時はしっかり休むことを優先しています。これは2人で経営しているメリットだと思います。

思い通りにいかないのが人生、だから先行きの予定は立てない

――今後予定している展開を教えてください
本当はいろいろと考えないといけないとは思うのですが、先のことは決めないようにもしているんです。例えば、ECサイトで商品を一部販売しているのですが、まだそれほど力を入れていなくて、腰を据えて向き合えばさらに売上をつくることはできるはずです。だけど、取り組まないとはいけないと思いつつも、それを決めないようにもしていて。なぜなら、また来年に新しい出会いがあったら、運営について違う切り口が出てくるかもしれない。出会いとか、きっかけとか、そういったものを大切にしつつ、漠然とした方向性は頭の片隅に入れておきながらも道筋をつけていないのが実情です。

――あえて今後の予定を決めず、柔軟に動けるようにしている、と
こうした考え方は釣りからきているのかもしれません。今日は釣れそうだと期待しても、まったく釣果がないことは日常茶飯事です。つまり、予定を立ててもほとんど意味がない。これは自然が教えてくれました。思い通りにはいかないわけで、去年釣れたものが今年も釣れるわけでもない。常に変動していくのが商売であり、人生です。それにうまく合わせていければいいのかなと。要は、私たちは自然から与えられたことをお客様と共有して、楽しんでいければ満足。それで2人の生活が成り立てば、万々歳なんです。

「hage(ヘイグ)」を経営する榎本直人さんの写真 ――最後に、独立・開業を目指す読者にアドバイスをお願いします
さまざまな仕事がありますが、そこでの成功例、失敗例は開業前によく観察し、経験しておくことが大事だと思います。私は前職での経験がかなり役立っていて、いくら売ればいくら儲かるというのをすぐに計算してはじき出すことができます。だからこそ、資金調達の時も借入先との交渉がとてもスムーズにいって、それほど難しくなくお金を借りることができた。今思えば、数字や経験談で話すと説得力が出るのでしょうね。現在勤めている業種と同じ業界で独立するなら、今のうちに多くの経験を積んでおくことをおすすめします。

hage(ヘイグ)

所在地:東京都江東区常盤2-11-1-102
TEL :03-6659-9339
※取材時点の情報です

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