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先輩開業インタビュー

知識も経験もない中、家族のために起業。ECコンサルタントと無人古着店の異業種2軸で展開する新進気鋭の若手経営者

商社から大手人材紹介会社、そしてアマゾンジャパンへ。そんな華々しいキャリアを進む最中、コロナ禍に直面し、妻や子どもとの時間を優先するため、起業という新しい道を選択。24時間営業の無人古着店を経営しながら、ECコンサルタントとして活動するという、ネットとリアルの2軸で展開する異色の若手経営者が、合同会社AVEND代表の南雲宏樹さんです。武器は、スピード感と泥臭い営業活動で、思いついたアイデアはとにかくチャレンジしていく猪突猛進スタイル。無人古着店を発想からわずか3か月で立ち上げるなど、その実行力は目を見張るものがあります。そんな南雲さんに、起業にいたるまでの経緯や、事業内容などを詳しく伺いました。

ロールモデルをさらにブラッシュアップした古着店を立ち上げる

24時間営業の無人古着店「SELFURUGI(セルフルギ)」の外観写真 ――まずは事業内容について教えてください
合同会社AVENDとして、大きく2つの事業を展開しています。まず一つが24時間営業の無人古着店の運営です。現在、都内の池袋、吉祥寺、そして西東京の昭島と、3か所に「SELFURUGI(セルフルギ)」というお店を構えています。店舗スタッフがおらず、来店客はセルフレジで清算するスタイルのお店になります。そしてもう一つが、Amazonで販売している企業へのコンサルティング業です。僕は元々、アマゾンジャパン合同会社でコンサルティング業務をしていて、その経験を活かし、法人のクライアントに売上を上げるためのアドバイスや運用代行をサービスとして提供しています。

――無人の古着店とは、かなり珍しいですね
実は、無人の古着店は以前からすでにあって、その既存店をロールモデルにして始めたのが「SELFURUGI」になります。誰かが“ファーストペンギン”となって最初に始めた事業を、“セカンドペンギン”がうまくブラッシュアップして成功した事例はこれまで数多くあると思うのですが、僕たちもまさにその発想でした。実際に無人の古着店に足を運んで、品揃えなどを確かめ、これなら当社で仕入れられる商品や、価格帯で勝負できると思い、スタートしたというわけです。

――そもそもなぜ古着だったのですか?
合同会社AVENDは中学校からの友人と一緒に立ち上げたのですが、その友人が以前から古着を仕入れてECサイトで販売する副業をしていたことに由来します。二人で何か会社を立ち上げたいと考えたところ、彼は古着を販売するための仕入れルートがありましたし、僕はその当時、アマゾンジャパンで働いていて、ECに強かった。なので、自然な流れで古着を扱うビジネスにたどり着きました。ひとまず古着の販売は企業に勤めながら副業としてスタートし、その後、数カ月して店舗まで作ったという流れです。

コロナ禍により家族との時間の大切さに気づき、起業を決意

「コロナ禍により家族との時間の大切さに気づき、起業を決意」と語る合同会社AVEND代表の南雲宏樹さんの写真 ――起業にいたるまでの経歴を教えてください
大学を卒業して最初に入社したのが、化学品の専門商社でした。やりがいのある仕事だったのですが、3年半ほど勤めた頃に上司とぶつかってしまって、それがきっかけで転職することになりました。ちょうどそのタイミングが、転職市場が活気付いていた頃だったこともあって、ラッキーなことに業界大手の人材紹介会社に採用していただけました。ここではキャリアについてのコンサルティングや、ヘッドハンターのような業務を3年ほどしていました。その後、2021年に今度は起業を視野に入れながらアマゾンジャパンに転職し、約1年間、法人相手にセールス戦略のコンサルティングをしていました。そして同年に起業し、今にいたります。

――それぞれ違う分野へ転職していますが、明確な目的があったのですか?
正直に言えば、行き当たりばったりです。大手人材紹介会社やアマゾンジャパンを渡り歩いた、なんて言うと、経歴として輝かしく見えますが、実は僕自身が一番驚いています。人材紹介会社へ転職した2018年当時、景気が上向きになって大量採用していた波に乗っかった形でしたし、アマゾンジャパンに入社した2021年は、新型コロナが流行しEC業界の需要が急拡大したタイミングで、人材不足を補うために未経験者でも採用していたこともあって入社できました。本当に自分でも、幸運続きだったと思います。

――アマゾンジャパンを1年足らずで辞めて、起業した理由は?
家庭が大きな理由になっています。退職する少し前に妻が双子を妊娠して、長男とあわせて3児の父になったのですが、入社時、新型コロナの影響からフルリモートだったこともあって、育児に参加できていたんです。しかし、その後にオフィスに出社して仕事をする方針に変わり、家にいる時間が少なくなってしまいました。妻一人で3人の子どもの面倒を見る大変さを考えた時、これは家庭が崩壊してしまうな、と。それなら自由に動ける働き方のほうがいいと思い、起業しました。ただ、妻からは収入面が不安定になることから、反対をされました。それでも、家庭が壊れるよりはましだと、勢いで押し切りましたが。

――家庭を優先したいがための起業だったのですね
実は、2度目の転職も家庭が理由でした。人材紹介会社に在籍していた時に第一子が生まれたのですが、当時は朝9時から夜11時まで延々と仕事をして、そこから飲みに誘われるといった、かなりのハードワークだったんです。それが途中からコロナ禍になり、フルリモートに移行して、それまで外に出て働き詰めで、子どもとほとんど接していなかったことに気づきました。家で仕事をするようになると家族と触れ合う時間もできて、子どもをお風呂にも入れられるようになり、その時間が自分の中ですごく幸せでした。やはり自分は職業人である前に、1人の人間であり、家庭を一番大事にしたい。そうした思いから、家庭を重視した結果、働き方の改善を目的に会社を立ち上げたという側面もあります。

転職直後の高まったエネルギーを副業にぶつけ、新たな気づきを得る

――起業してからはどのような動き方をしたのでしょうか?
勢いで起業したものの、仕事としてはECでの物販と、友人と作り始めていた古着店しかありません。とにかく生活のために、より多くの日銭を稼がないといけなかった。そこで、元々考えていたアマゾンジャパンで得たコンサルティングのスキルを活用し、古着販売とコンサルタントの2軸で展開していこうと思い立ち、準備期間もなく急発進したのが実情です。

――かなりの急展開ですね
かっこよく起業したわけではなく、まさにその真逆でした。とにかく家族を養うためのお金が必要だったので、最初は中古のブランドバックなどを国内の古物市場から仕入れてきて、それをフリマアプリで販売したり、海外から新品のブランド物の財布を直輸入して、ECサイトで販売したり、さまざまなことを試しました。無人古着店もその試したことの一つで、スピーディにたくさんのことに着手して、うまくいったものだけを残すスタイルで会社を回していました。当然、失敗したものにはコストもかかっているので、僕と友人、どちらも300万円ほど身銭を切っています。

――副業からスタートしたというのが興味深いです
これは現役サラリーマンの方にアドバイスとしてお伝えしたいことなのですが、転職をしたタイミングというのは、業務や環境に早く慣れることが必要で、とにかくテンションが上がっています。どんな変化が自分に起こるかを考えると、すごくワクワク感もある時期です。そのエネルギーをぶつける先として、転職した直後から副業を同時並行で始めることをこれまで行ってきました。すると、本業では見えなかった新しい気づきが得られることがあります。もちろん収入もアップするので、一挙両得ですよね。

――具体的にはどのような気づきでしょうか?
例えば、人材紹介会社にいた時は、ヘッドハンターとは真逆の、転職ありきとしないキャリア相談の副業を個人で始めました。僕の当時の本業は「何人の転職を成功させたか」といった数字を追う必要がありました。でも、真逆の考え方の副業をしたことによって、そもそも転職はゴールではなく、大切なのは職への満足度だという考え方が見えてきて、成績も上向きになっていきました。この時、副業から学べることは多くて、本業に良い影響を与えてくれることを体感しました。アマゾンジャパンでも同じで、中学からの友人から物販で稼いでいることを聞き、セールス戦略のアドバイザーとして新たな視点が見えてくるかもしれないと思い、始めた副業が今の本業につながっているというわけです。

無人だからこそ“人の温かみ”を感じられる店舗を目指す

――1号店の池袋店は本業を続けながら立ち上げたということですが、大変だったのではないでしょうか?
初めて店舗運営の構想を友人と話したのが2021年9月で、オープンしたのが同年の12月18日です。かなりのスピードで動いたので、本当に大変でした。まずハードルとなったのが、無人で24時間営業することを許可してくれる物件を探すことです。池袋という土地にしたのは、そもそも都内で条件にOKを出してくれたのが今の物件くらいだったというのが理由です。また、店づくりも費用を抑えるためにDIYで仕上げた部分も多く、こだわりもあったので、かなり泥臭く作っています。

――1号店を立ち上げるのにどれくらいの費用がかかりましたか?
初期費用は、物件の取得から販売する商品を揃えるまで、すべて込みで約150万円とかなり安く抑えられました。基本的に古着は原価率が20%前後で、これも要因の一つです。もちろん、安く仕入れるには大量に購入することが条件になるので、売れなかった場合のリスクも当然あり、利益幅の大きさはそうしたリスクも含まれています。後は、広告費にほとんどお金をかけなかったのも大きかったですね。プレスリリースに詳しいテレビ局の元ディレクターの知り合いからアドバイスをもらいながら、自作のプレスリリースを公開したところ、テレビからいくつか取材がありました。おかげで話題となり、オープンから売上は順調で、7か月で原価回収できました。

「人の温かみを感じてもらえることを重視」して店内に設置されたコミュニケーションボードの写真 ――無人の店舗でやはり気にかかるのは、万引きやいたずらだと思うのですが?
監視カメラを定期的にチェックしたり、棚卸で着数を数えたりもしていますが、特に問題ないですね。これが対策になっているかはわかりませんが、お店づくりのコンセプトとして、“人を感じられるお店”であることにはこだわっています。例えば、店内に要望などを紙に書いて貼り付けられるコミュニケーションボードを設置して、お客様からの声を反映させています。以前、「試着室がほしいです」という声があって、すぐに用意しました。そうしたやりとりを通して、人の温かみを感じてもらえることを重視しています。

――そうしたコンセプトはどのようにして生まれたのでしょうか?
売り手としてこんなことを言うのもおかしいですが、このビジネスを始めるまで、古着を着たことも、興味を持ったこともありませんでした。でも、むしろそこが僕の強みだと思っています。僕が以前に持っていた古着店のイメージは、暗い店舗の奥にカウンターがあって、謎のバンダナを巻いた髭もじゃもじゃのおじさんが常連客と喋っている。近寄り難くて汚くて、初めて入るには勇気がいるような店だと思っていました。ただ、僕と同じような人も少なくないと思うんです。そうした古着に対して偏見を持っていた自分だからこそ、価格帯やレイアウトを含め、万人受けする店を作れるとも考えています。目指しているのは、恐れ多くも「古着版ユニクロ」。どの層にも楽しんでもらえる店舗設計を心がけています。

5年前に今の自分を想像できていた人はいない、まず目の前の仕事に注力する

「5年前に今の自分を想像できていた人はいない、まず目の前の仕事に注力する」と語る合同会社AVEND代表の南雲宏樹さんの写真 ――かなりのスピード感をもって展開していく中で、出店することに怖さはなかったですか?
古着店の運営をする一方で、今の僕のメインビジネスとなっているのが、もう一つの事業であるAmazonのコンサルタントや運用代行です。そちらでキャッシュをしっかり稼いでいるので、古着はサブビジネス的なポジションになっています。だからこそ、チャレンジングな展開ができるということは言えるかもしれません。古着店の運営だけでスタートしていたら、体力的にはかなりきつかったでしょう。今後は無人古着店もスケールさせたいと考えていて、2022年10月には熊本と宮城にも出店する予定で、こちらは初フランチャイズになります。

――では、コンサルタント業は順調なのですね
おかげさまで、現在は約10社と契約しています。ただ、ここまで来るのには本当に苦労しました。最初は、Amazonの購入画面の販売者情報を見て、片っ端から電話営業です。当然、電話を即切られてしまうことがほとんどでした。30件かけて1件アポイントが取れれば御の字。ひたすら一日中電話をかけていました。ただ、アポイントから成約までの確率はかなり高かったので、徐々に安定はしていきました。コンサルタントは一般的に商品の原価率にまでタッチすることは少なくて、売上アップのお手伝いはできても、利益の最大化に踏み込むことは難しいのが現状です。でも、僕はそこまで口を出し、企業が本当に求めている利益アップをサポートするので喜ばれることが多く、そこが強みになっています。

――ECを主体としながらリアル店舗を展開していく理由を教えてください
Amazonのようなメガプラットフォームを活用していかないと、戦略的に生き抜けない企業は今後増えていくと予測しています。その一方で、購買活動の主体がネットと店舗、どちらに進んでいくかを考えた時、僕は店舗へ回帰していく流れが起こるとも思っています。その裏付けと言ってはなんですが、実際にAmazonはアメリカで実店舗を急速に展開していっています。それに、日本の若者は今、消費行動の中に刺激的な体験を求めています。いわゆる“モノ消費”より“コト消費”に購買活動が傾いていく潮流が強まっていくとすると、無人店舗という新しい体験にも大きな価値が生まれる。だから、ネットとリアル、どちらも外せないと思っています。

――最後に、独立・開業を目指す読者にアドバイスをお願いします
おそらく5年前に「今の自分」を想像できていた人は少ないはずです。5年の間にたくさん人と出会い、信頼関係が生まれ、新しい仕事を受け、その経験がまた次のビジネスの種になっていく。人生はその連続ではないでしょうか。そう考えると、2年後、3年後にこうしたいとビジョンを描くことに、それほど意味はありません。それよりも、目の前の顧客を満足させるために、自分のアウトプットの質をとにかく高める。その結果が、未来の自分に繋がっていくはずです。理想論を語るより、目先の仕事に注力する。これさえ追求していけば、最終的には自分がなりたい姿にたどり着くと、僕は信じています。

合同会社AVEND

所在地:東京都豊島区目白2-4-8
TEL  :03-6907-2258
※取材時点の情報です

https://avendgk.com

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