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先輩開業インタビュー

「答えはお客様の中にある」リピーターの心を掴み続けるヨーロッパ料理専門店

日本の西洋文明発祥の地でもあり、横浜開港時の面影を感じさせる、横浜・馬車道。この歴史あるレトロな街並みの一角にあるのが、ヨーロッパバル「MR.EUROPE(ミスター・ヨーロッパ)」です。主にヨーロッパ料理をベースに、本場のワインや各国の肉料理などを楽しめるお店として地元客から親しまれています。インテリアにもこだわり、店内に一歩足を踏み入れれば、欧州の街場にあるレストランの雰囲気を味わえます。このオシャレなお店のオーナーが、今回お話を伺う若林俊男さんです。子どもの頃からヨーロッパの歴史や文化に興味を持ち、ついにはヨーロッパ料理専門店を出店するという、その情熱はまさに店名そのもの。異業種から転職し、知識ゼロからこだわりの店を立ち上げるまでのお話を詳しくお聞きしました。

大好きだったアニメの影響で抱き始めた、ヨーロッパ文化への強い憧れ

――まず、ヨーロッパ料理とはどのようなものでしょうか?
例えば、イタリアといえばパスタ、ドイツならソーセージ。スペインはアヒージョ、イギリスならフィッシュ&チップスと、ヨーロッパ各国を代表する料理があります。それぞれ一つの国の料理にこだわって提供しているお店が多い中、当店に来ていただければヨーロッパの代表的な料理を一度に楽しめるようになっています。特にこだわっているのが肉料理やワインで、素材に和牛を使い、それに合う各国ワインを取りそろえているのも当店の特徴です。

MR.EUROPEの肉料理の写真 ――なぜヨーロッパ料理にこだわったのでしょうか?
子どもの頃に大好きだったアニメがギリシャ神話を元にしていて、神殿やコロッセオなどが作中に登場していました。かっこいいし、迫力もあるのでなんとなく憧れていたのですが、ヨーロッパにそれが実際にあることを知った時は本当に驚きました。しかも歴史を調べてみると、日本がまだ縄文時代、縄で土器に模様をつけていた頃に、海の向こうではあれほど大きな神殿を作っていた。その技術に度肝を抜かれてしまって。それからというものヨーロッパの文化や街並みに興味を持つようになりました。それが今のお店を始める原点になっています。

――最初から料理の道を選んだのですか?
いえ、まったく違います。大学卒業後、最初に就職したのはヨーロッパ専門の旅行会社でした。とにかくヨーロッパをこの目で見たくて、添乗員になれば何度も足を運べると思ったのがきっかけです。でも、イギリスへの初添乗が決まった直後の2001年9月11日、アメリカでテロが発生し、それで旅行はすべてキャンセルになってしまいました。その後もキャンセルの電話が朝から晩まで毎日続く状態で、給料はカットになるし、ボーナスもなくなる始末。当時は若かったこともあって「何のために働いているのだろう…」と落ち込み、結局は1年で辞めてしまいました。その時に強く思ったのが、自分で稼ぐことのできる社長になろうということでした。

――では、いつ頃から飲食店を始めようと考えたのですが?
大変失礼な話なのですが、社長になるなら手っ取り早いのが飲食店だと思ったんです。当時、第一次カフェブームがきていて、街中に似たようなカフェが乱立していました。そうした店を覗いてみると、スタッフやオーナーがなんとなく適当に仕事をしているように見えて「楽そうだし、自分でもできそうだな」と、勘違いしてしまった。恥ずかしながら、そんな甘い考えから料理の道を進んでいくことになりました。

必要なスキルを身につけるため、さまざまな飲食店を経験していった

――料理はどのようにして学んだのですか?
当然ですが、料理を知らないと例え社長になったとしても、自分の店で出しているものがおいしいか、まずいかもわかりません。そこで料理人としての腕を磨くために、夜は料理の専門学校に通いながら、昼間はフレンチを出すお店やカフェ、またケーキ屋さんなどでアルバイトをしていました。そんな生活を2年ほど続けていたと思います。

――ヨーロッパと言ってもさまざまな国がありますが、各国の料理をどのようにして学んでいったのですか?
当時はインターネットが今ほど発達していない時代でしたので、ヨーロッパ各国の料理を学べるところを探すのには苦労しました。散々探して行き着いたのが、カリフォルニア料理を出しているお店です。実は、アメリカは人種のるつぼなので、いろんな国の料理を楽しめるところでもあります。多種多様な料理の勉強ができるだろうと思い、アルバイトとして入社してみると、想像通りでした。そのお店では多国籍の料理を提供していて、そこでの経験が料理人としての今の私のベースになっています。正社員にもなって料理長を任せていただき、30歳になるまで5年ほど働いていました。

MR.EUROPEの若林俊男さんの写真 ――退職された理由は?
この頃には自分がやりたいお店のイメージが固まっていたので、もう少し他の飲食店での経験を増やしたいと考えたからです。そんな時に、厨房機器会社から「機器の設置後に使い方などを指導するコンサルティングの仕事をやってみないか」とオファーがあり、いろんなお店を見ることができると思って入社しました。実際にそこではさまざまな飲食店の厨房やカウンターの中の動きを直接見ることができ、とても参考になりました。また、会社が主力として販売していたスチームコンベクションオーブンを使い、洋食だけでなく和食や中華などを作る機会も増えたので、料理の幅が広がったのもこの会社に入ったおかげです。ただ、入社してみると思ったほど仕事がなかったので1年で辞めてしまいましたが。

――次はどちらで修行されたのですか?
経営を勉強したかったこともあって、店長を募集していたカフェに就職しました。料理も大切ですが、経営者として店を運営していくための知識をもう少し深めたかったというのが理由です。料理人はおいしいものを作ることが仕事ですが、経営者は原価率や利益率など数字に強くないといけません。それを経験しておきたかったのです。でも、残念ながら会社が要求する売り上げを立たせることができなくて、こちらも1年ほどで退職することになりました。その後は知人のカフェで働かせてもらいながら、物件探しに入りました。ヨーロッパの雰囲気を感じられるこの馬車道という土地にこだわって飲食店の居抜き物件を探していたので、条件に合う場所を見つけるのに2年ほどかかりました。

閉店を覚悟するほどの状態から、グルメサイトやSNS・メルマガの活用で起死回生

――これまでの経歴を聞くと、オープンまでにかなり用意周到に準備されていたように感じます。
理想のお店をイメージできていたので、自分に必要なものを各所で取り入れてきたつもりでした。ただ、やはりイメージはあくまでイメージでしかありません。2014年に「MR.EUROPE」をオープンしてみると、1年で自己資金が尽きて、閉店を覚悟するほど暇な日々が続きました。今はやっていませんが、当時はランチタイムもお店を開けていて、お昼時に少し賑わうくらいで、夜は誰もこない。もうダメだと思い始めた頃、経営者として大先輩でもあった年上のお客様が「どんなに苦しくても1年はがんばれ」と励ましてくれて。それを鵜呑みにしてお店を開け続けていたら、ちょうど1年後にV字回復してきたんです。

――盛り返した理由はなんだったのでしょうか?
複合的な理由はありますが、その中でも大きかったのはいくつかの有名なグルメサイトに掲載したことだと思います。実は、お店をオープンする際に告知をほとんどしていなかったんです。おいしければお客様はきてくれるはず、それくらいに軽く考えていました。今にして思えば、ヨーロッパ料理専門店と言われても、どんな料理が出てくるかわからないし、周囲においしいお店がたくさんある中で、わざわざそんなよくわからない新規のお店にいくわけがない。完全に失敗でした。

――そもそも認知されていなかったというわけですね。
そうです。なので、現在はSNSやメルマガなどを活用して積極的にお客様へメッセージを送るようにしています。特にメルマガは一度ご来店いただいた方に、リピーターになっていただくためには欠かせないものになっています。初めての来店時にメールアドレスをご登録いただくと初回限定割引を受けられるようにしていて、登録者には最低でも週2、3回はメルマガを配信しています。内容は季節の限定メニューのお知らせやプレゼントキャンペーン、また日々のつぶやきなどさまざまで、始めて4年ほど経ちますが、登録者数は約1800人にまで増えました。

MR.EUROPEの若林俊男さんの写真 ――割引やプレゼントをするとなるとコストがかかりますが、負担にはなっていないのでしょうか?
たしかに最初はコストを考えて二の足を踏むこともありましたが、今ではそれほど気にならなくなりました。実際にメルマガの反応を見てみると、例えば「300円引きします」とか「今なら10%オフです」と呼びかけても、それほど効果はありません。それよりも、今だけしか食べられない限定料理や、一品プレゼントするキャンペーンのほうが来店動機になります。私だってそっちのほうが行きたくなる。そこに対してはコスト的なリスクを考えるよりも、常連のお客様とのコミュニケーションとして割り切ったほうがメリットは大きいですね。

繁盛の秘訣は「自分が作りたいもの」ではなく「お客様が食べたいもの」を出すこと

――お店をオープンするまでにどれくらいの費用がかかりましたか?
一般的に飲食店をオープンさせるには1000万円が必要だといわれます。まず物件を押さえるのに保証金が必要で、家賃の約10倍の費用がかかります。さらにプラスして物件取得費がかかり、居抜き物件なら改装も必要になります。また、機器をそろえるほかに、運転資金を準備しておく必要もあります。飲食店は営業さえしてしまえば現金がすぐに入ってくる商売ですが、スタートダッシュがうまくいかない場合のことも考えてしばらく耐えしのぐだけのお金は準備しておいたほうがいい。そうしたことを踏まえ、当店も日本政策金融公庫などを利用して1000万円は用意しました。

――店内の雰囲気もヨーロッパ風にするためにかなりこだわったと思うのですが
実は、この物件は元が大手コーヒーチェーン店で、最初から壁のウッドフレームや大理石を模した支柱などがありました。また、ほとんどの厨房機器も設置されていた状態だったので、物件取得費はかなり高額でしたが、ヨーロッパ料理を出すならこの物件しかないと思い、即決しました。

MR.EUROPEの外観の写真 ――メニューはどのように決めたのでしょうか?
オープンした頃は、とにかく自分が作りたいものをメニューに並べていました。でも、今は当時からラインアップもほとんど変わっています。当店は「肉の魔術師」というキャッチフレーズを掲げていますが、実はこれは常連のお客様からヒントを得たものなんです。ある時、厨房機器会社での経験から、スチームコンベクションオーブンを使って肉盛りを作ったところ、「すごくおいしいよ!」と喜んでいただいたことがありました。それがきっかけで肉料理を中心にしたメニューを構成するようになり、ヨーロッパ料理専門なのに和牛を出すようにもなりました。結局、自分が作りたいものを出しているうちは自己満足でしかありません。今なら本当に理解できるのですが、答えはお客様の中にあるんです。お客様が食べたいものを出さないと繁盛店になることは難しいということです。

――お客様が望むものを提供することが成功の秘訣、と
それは間違いないと思います。このコロナ禍で当店も大変だったのですが、その中でもとてもうれしい出来事がありました。持続化給付金制度を利用して、アフターコロナにそなえてお店を改装しようと思ったのですが、資金が足りなくてクラウドファンディングを使って出資を募ったんです。リターン(お礼)はTシャツやオリジナルグッズのほかに、出資者の名前を入れたヨーロッパ各国の車のナンバープレートを制作しました。すると、メルマガなどでつながっていた常連客の方々が協力してくれて、結果として150万円が集まったんです。本当にうれしかったですね。その時のナンバープレートは店内に飾っていて、出資者の方々はそれを眺めながら楽しそうに食事をしている。その様子を見ていると、常連のお客様との強い絆を感じて、この先の不安なんてなくなりますね。

何もかもを犠牲にする覚悟があれば、目標は必ず達成できる

――お店作りで一番意識しているのはどんなことでしょうか?
飲食業界にはQSCAという言葉があって、社名にしようかと迷ったほど大切にしています。意味は頭文字を取って、Quality(品質)、Service(サービス)、Cleanliness(衛生)、Atmosphere(雰囲気)。特に衛生と雰囲気はお店の印象を大きく左右するものなので気をつかっています。お客様がわざわざお店に足を運ぶのは、店内の雰囲気を楽しむためでもあります。それがないならテイクアウトでもいいはずです。「MR.EUROPE」と名乗っている以上、ここでヨーロッパの雰囲気を存分に味わってもらうために、清潔さと雰囲気づくりには力を入れていますよ。

――特にどんなところにこだわっているのでしょうか?
例えばおしぼりです。以前、トルコへ旅行に行った時に、長距離バスでの移動中、サービスでおしぼりをくれたんです。開けてみるとレモンの香りがしました。これはいいと思い、当店でも高級感のある香り付きおしぼりを出しています。その他にも、肉を切るナイフはカラフルな色をそろえたり、フィッシュ&チップスにつけるビネガー(酢)は現地のものを用意したりと、本当に細かいところですがこだわりを持っています。それが積み重なってお店の雰囲気を作り出すからです。

MR.EUROPEの食器の写真 ――最後に、これから独立開業を考えている方にメッセージをお願いします。
まず独立する前に、「楽して稼ぎたい」のか、「苦労してでも成功したい」のか、それを自分に問いかけてみてください。もし、どんなことを犠牲にしても突き進む覚悟があれば大丈夫です。でも、飲食店はオープンが目標ではなく、繁盛させることが目標のはず。私も修行時代は坊主頭でオシャレなんかしなかった。そこにかける時間やお金があったら勉強に費やしたかったし、結婚よりもお店を持ちたかった。すべて犠牲にしてでもやり切るという気持ちがあれば、夢は必ず叶うと思います。皆さん、一緒にがんばりましょう!

MR.EUROPE

所在地:神奈川県横浜市中区北仲通2-30 グッドビル北仲通1階
TEL:045-228-9128
※取材時点の情報です

https://mr-europe.com

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