仕入れ先とは?開拓方法や信頼できる仕入れ先の選び方
事業を営むうえで、良い立地条件や従業員に恵まれても、商品やサービスの質が悪ければ成功は難しいでしょう。その商品やサービスの質に大きく関わるのが、仕入れ先です。
本記事では、仕入れ先探しと選び方、そして仕入れ先と円滑に付き合っていくためのポイントを紹介します。また、仕入れ先と混同しがちな「外注先」「取引先」「得意先」についても触れていきます。
仕入れ先とは?
仕入れ先とは、自社や事業主(以下:自社)が商品を販売するために、必要なものを購入する(仕入れる)相手を指します。業種によっては仕入れが発生しない事業もあり、仕入れのある業種でも、頻度や方法などは異なります。
仕入れが必要な業種の例
以下の業種では基本的に、仕入れが発生することが前提となります。
●小売業
- ▶卸売業から商品を仕入れて、消費者に販売する
- ▶主に消費財(食料品や家庭用品など)を取り扱う
●卸売業
- ▶メーカーから商品を仕入れ、小売業者や企業に卸す
- ▶消費財から生産財(生産者が商品やサービスを生産するための原料・部品など)までを扱う
●製造業
- ▶原材料や部品などを仕入れ、加工組み立てによって商品を製造する
上記のほか、サービス業でもサービスを提供するために材料を仕入れるケースがあります。たとえば飲食店においては、食材や飲料を仕入れる必要があります。
仕入れ先の例
一般的な流通においては、以下が主な仕入れ先となります。
- ●卸売業者(問屋とも呼ばれる。鮮食品や生花なら「仲卸」と呼ばれる。)
- ●メーカーや生産者
- ●商社
一般的な商品なら、卸売業者を頼るのが最も便利でしょう。メーカーや生産者と直接取引する方法もありますが、応じてくれるメーカーや生産者を見つけるのは簡単ではありません。なぜなら、法人としか取引をしていなかったり、小口の取引相手が増えることを避けたがるケースが少なくないからです。
直接取引を希望する場合は、情報を収集したうえで、対応可能なメーカーや生産者を探す必要があります。
商社との取引は、海外の商品を取り扱う商社の場合、面倒な手続きや輸送を委託できますが、商社側が扱っている商品しか仕入れることができず、現地の情報を得にくくなります。また、商社によっては法人のみを販売先としているケースや、一定以上の取引量を販売条件としていることもあります。
商社取引が適さない場合は、現地を訪れて直接買い付ける方法もあります。手続き等の手間は増しますが、独自の商品を買い付けできるメリットがあります。
このほか、業種によっては一般の店舗から仕入れる方法もあります。たとえば、飲食業の場合であれば、一般のスーパーの特売や量販店を利用することも、仕入れの選択肢のひとつです。
取引先・外注先・得意先との違い
仕入れ先と似た言葉について、それぞれの違いを確認してみましょう。
- ●取引先……仕入れや販売を含めた、取引を行う相手全般
- ●得意先……取引先のなかでも、特に高頻度で取引をしている相手(主に購入側を指す)
- ●外注先……業務や製造そのものを外部へ委託する(外注する)場合の委託相手
仕入れ先を開拓する方法
事業にとってより良い仕入れ先を見つけるには、仕入れ先を開拓することが必要です。たとえば、以下のような開拓方法があります。
問屋街
全国には卸業者が集まる問屋街があります。問屋街に足を運べば、実物を見ながら仕入れ先を検討できます。東京では、食品用品の専門店が連なる浅草の「かっぱ橋道具街」や、布地を扱う店舗が集中する日暮里の「繊維街」などが代表的な問屋街です。
見本市・展示会
各種メーカーが直接出展する見本市、展示会なども開催されています。サンプルをもらったり、直接話を聞いたりしながら仕入れ先を見つけることが可能です。
見本市や展示会、イベントの情報は、インターネットで調べたり、最寄りの商工会に問い合わせることで確認できます。
業界専門誌やカタログ
業界によっては、業界専門の雑誌やカタログ、業界新聞等が発行されており、そこから仕入れ先の情報を効率よく集められます。また、業界の最新事情やトレンドなども知ることができます。
知り合いからの紹介
信頼できる同業者や、相談先(金融機関、税理士、コンサルタントなど)に仕入れ先を紹介してもらう方法もあります。ただし、紹介者にとっては良い仕入れ先でも、自分の事業に合うとは限りません。取引先を決定するときは、自社が重要視しているポイントを取引先となる相手に正確に伝え、ミスマッチが起こらないように工夫することが大切です。
インターネット検索
インターネットで、調達したい品名とあわせて「商社」「問屋」「卸」などと検索することで、仕入れ先を見つけられる場合があります。詳しく話を聞いてみたい会社を見つけた場合は、問い合わせフォームやメールアドレスから連絡し、資料を取り寄せてみるとよいでしょう。
信頼できる仕入れ先の選び方
事業を運営するうえでは、適切なコストかつ、良質で信頼性の高い取引先を選ぶことが大切です。信頼できる相手なら、顧客に安心して商品やサービスを提供できますし、不測の事態やトラブルが起こるリスクも低減できるでしょう。
ここでは、仕入れ先を選ぶポイントを紹介します。
仕入れ価格
他の条件が同じであれば、仕入れ価格は低い方が望ましいことは言うまでもありません。複数の業者から同じ商品の見積りを取る「相見積り」を行い、価格を比較するとよいでしょう。
また、以下のような割引条件があるかどうかも、仕入れ先を検討するときのポイントとなります。
- ●数量割引……一定量以上を取引することで割引を受けられる
- ●仕入れ割引……支払期日よりも前に支払いをする、もしくは手形決済の取引において現金で支払うといった場合に割引を受けられる
- ●季節割引……季節ごとに需要が異なる商品について、シーズンオフに仕入れた場合に割引を受けられる
なお、仕入れ価格を抑える方法のひとつに、複数の事業者が一緒に仕入れを行う「共同仕入れ」という方法もあります。まとまった量を仕入れることで、仕入れ先から数量割引を受けやすくなったり、価格交渉しやすくなったりするメリットがあります。ただし、関係者が増える分、調整の手間も増える点には注意が必要です。
品質
品質は顧客満足度に直結しますので、実際に仕入れ先を訪れたり、サンプルを取り寄せたりすることが欠かせません。
品質をチェックする際に重視すべきポイントは仕入れるものによっても異なりますが、たとえば特産品は地域によるブランド力があるため、原産地などの情報が重要になります。
加工食品は、原料原産地表示制度によりすべての国産加工食品に原料原産地表示を行うことが義務付けられています。生鮮食品ならば「産地」を表示しますが、加工食品ならば「製造地」を表示します。その他、原産地が 複数ある場合には、重量割合の高いものから順に国名を記載するといった「表示基準」があります。正しい情報が表示されているかなど、事前によく確認することが大切です。
供給量
供給量が年間を通じて安定しているか、仕入れ先の供給網や生産体制を確認します。万が一、人気商品や定番商品が欠品すると、事業が停滞してしまうため、重要度の高い商品の安定性は個別に確認しましょう。
また、需要に応じた供給が受けられるかどうかも重要です。小口、大口の両方の注文に応えてくれる仕入れ先であれば、今後の事業展開にあわせて柔軟に仕入れを行うことが可能です。
安定性
品質や供給量に満足できても、一時的なものでは将来性がありません。今後も安定して仕入れを維持できる体制が整っているかを見極めることが重要です。
専門機関の信用調査によって経営状態を把握することや、経営理念や長期的な経営方針を確認しておくとよいでしょう。それらが仕入れ先の現状と合っていない場合は、経営層と現場の合意が取れておらず、今後経営にぶれが生じる可能性が高まります。現状、よい関係が築けていても、急な方針転換によってトラブルや混乱が生じるリスクが高まります。
納品条件
納品条件として仕入れ先と合意すべき項目は「納品までの期間」「納品場所」「輸送手段」「受け取り方法」など多岐に渡ります。たとえば、生鮮食品であれば、納品までの衛生管理体制も細かくチェックしなければなりません。また、輸送時の梱包状態も確認する必要があるでしょう。梱包が過剰だと無駄なコストが発生しますし、不足していると破損等のリスクが高くなるためです。
納品状態がこちらの希望に合致するかを見極め、合致しない場合は互いに納得できるラインまですり合わせる必要があります。
返品条件
不良品や損傷のある商品については返品が必要になります。その際、どこからが不良品や損傷に該当するのか、基準を明確にします。また、返品時における再納品までの期間、もしも再納品ができない場合の対応も確認しておく必要があります。
支払方法
支払方法としては、現金払いや掛取引があります。掛取引とは「毎月20日」「月末」のように締日を決め、その間の取引代金をまとめて支払う(受け取る)取引です。掛け取引でものを売るのは「売掛」、仕入れを行うのは「買掛」です。買掛では、支払いの手間を月1回にまとめられることと、取引のたびに代金を用意する必要がありません。自社の資金回収と買掛の支払日をずらすことで、資金繰りの安定性を高めることもできますので、自社の事業にとって有利な方法が選択できればベストです。
なお、商品代金のみではなく、運賃や商品への保険料といった諸経費が発生する場合は、それらも考慮してトータルコストを把握します。
コミュニケーションと柔軟性
条件や契約が守られることは重要ですが、取引のなかで想定外のトラブルは日々発生する可能性があります。トラブル防止のためには細やかなコミュニケーションによって仕入れ先と意思疎通を図ることが重要です。
万が一トラブルが起こったときに、普段から密なコミュニケーションをとっていれば、状況に応じて柔軟な対応をとりやすくなるでしょう。
仕入れ先のコンプライアンスが守られているか
他の仕入れ先よりも「低コストで商品を提供してくれる」「短納期に応えてくれる」という魅力的な仕入れ先もあるでしょう。しかし、内部のコンプライアンスが守られていなければ、取引すべきではありません。コンプライアンス違反がある仕入れ先と取引しないように、仕入れ先の事業体制や、労働環境等まで確認しておくことが望ましいでしょう。
仕入れ先を検討するときの注意点
仕入れる商品の品質や取引条件だけでなく、事業全体を見据えて仕入れ先を検討するために、次のような視点を持ちましょう。
仕入れ先は分散させることでリスク回避になる
仕入れでは基本的に、ロスを出さない小ロットでの発注が望ましいとされます。また、仕入れ先を絞って発注を1か所に集中させた方が、価格交渉がしやすくなったり、信頼関係を築きやすくなったりします。
しかし、取引量や仕入れ先を絞りすぎると、仕入れ先の海外移転や事故、倒産、自然災害など想定外の事態に陥った際に、仕入れが困難になり、事業継続できなくなるリスクが高まります。
このようなリスクも念頭に置いたうえで、特定の仕入れ先に依存しすぎないよう意識をすることも大切です。
トラブル時の取り決めを行っておく
信頼できる仕入れ先でも、想定外のトラブルは起こり得えます。たとえば、仕入れた商品の不良により、自社からその商品を購入した顧客が損害を被るようなケースです。そのようなトラブルに対してどう対処するか、発生した費用をどちらが負担するのかなどを事前に決めておきます。
また、トラブルに備えて仕入れ先が事業保険に加入していることもあるでしょう。そのようなケースでは、保険内容や範囲についても確認しておくと、より現実的な取り決めにつながります。
トラブルが起こった際に迅速に対応するためにも、これらの取り決めは必要です。その際、口約束ではなく契約書を交わしておくと安心です。
仕入れ先の情報も参考にする
仕入れ先は、商品情報に詳しいだけでなく、競合店と取引をしていることから、業界の動向を肌で感じています。業界の見通しや仕入れ時のアドバイスなど、有益な情報を得られるような関係性を目指しましょう。そのためには、仕入れ先をパートナーとして大切にする姿勢を持つことが重要です。
信頼できる仕入れ先を見つけて事業を成功へ導こう
信頼できる仕入れ先を見つけられるかどうかは、事業の成功に大きく影響します。商品やサービスの質が顧客の満足度につながりますし、仕入れコストによって原価も変わるため、利益にも直結します。
仕入れ先と信頼関係を築くことができれば、事業運営が安定し、さらなる発展を見据えることができるでしょう。価格や品質など、仕入れ先を選ぶポイントは複数あります。特に譲れないポイントや妥協点を明確にして、互いにすり合わせをしながら仕入れ先を見つけてください。