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先輩開業インタビュー

生活に役立つ“仏教”を広めたい!マーケティングスキルをフル活用してオープンした「お寺カフェ」

神奈川県小田原駅から伊豆箱根鉄道大雄山線に揺られて約10分。のどかな風景が広がる飯田岡駅からほど近い場所にあるのが「お寺カフェ 瑞鳥庵(ずいちょうあん)」です。一見、古民家風の外観ですが、一歩入るとバーカウンターのあるおしゃれなカフェスタイルで、くつろぎの空間が広がっています。このお店を開いたのは、ハーブとアロマセラピー関連の事業を行う企業で10年以上マーケティングに携わっていたという長谷川麻美さん。お店作りにも、自身のキャリアで培ったノウハウが活かされているのだとか。カフェを立ち上げた経緯や、なぜ「お寺カフェ」なのかについて、長谷川さんにお話を伺いました。

お釈迦様の教えが役立った経験からお寺カフェを開業

「お寺カフェ 瑞鳥庵(ずいちょうあん)」の外観の写真 ――お店の特徴を教えてください
ランチ営業がメインのカフェになります。営業時間は11時から18時までで、今はコロナの影響もあって完全予約営業にしています。その他に、トリートメントサロンやタイ古式マッサージ、整体といったサービス専用のお部屋が2階に併設されていて、提携している専門の先生から施術を受けることができます。あとは、趣味程度でワークショップもしていて、アロマの教室などを催しています。仕事以外でいえば、ボランティアとして地域の子どもたちや保護者に食事を提供するコミュニティ「こども食堂」をこのカフェを使って月に1回行っています。

――かなり幅広く活動されていますね
以前にハーブとアロマセラピー関連の事業を行っている企業にいたので、その時の経験をもとに販売やサービスを展開しています。ハーブやアロマオイルなどの知識は前職で身につけたもので、時期によって香りや効能が高まる商品をお客様におすすめしたり、使い方やブレンドの仕方もアドバイスしています。トリートメントサロンについても私が直接施術しているわけではありませんが資格だけは持ってもいます。

――なぜ「お寺カフェ」なのですか?
実家が隣にある陽雲寺というお寺で、住職である父やお寺とイベントなどで連携しているから「お寺カフェ」なんです。フリーマーケットを開催したり、住職である父がカフェにきて仏教講座をしたりしています。瑞鳥庵という名前も、浄土宗の開祖である法然上人が宗派を立ち上げるお話に登場する、吉兆の際に現れる鳥「瑞鳥」からですし、ロゴに入っている6本の線は、輪廻転生のお話に出てくる「六道」を表しています。

――カフェのコンセプトに「お寺」がしっかりと入っているのですね
そうですね。会社員時代に部下の育成について悩んでいた時に、父から「部下のミスは6回までは怒っちゃだめだぞ」とアドバイスをもらったことがありました。仏教には「六道輪廻」という教えがあって、この世には「地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天上」の6つの世界があり、私たちはこの「六道」を越えられずに、悩んだり苦しんだりしている。でも、お釈迦様は修行により、この6つの道を越えられ、仏の世界に到達された。だから、お前も6回までは我慢しろ、と。それで実践してみたところ、部下との関係もよくなって「仏教って役に立つじゃん!」と、寺の子なのにそのタイミングで知って。それで、せっかくならこうした仏教の考えを広めたいと思ったのもお寺カフェを始めたきっかけになっています。

実家のお寺に人が立ち寄る仕組みを作りたかった

――お父様の影響もあってカフェを開業されたのですね
実はお店の土地と建物を購入したのも父親なんです。お寺の目の前の土地を駐車場にするために10年ほど前に購入して、そのあとにこのカフェの隣の一軒家を購入しました。それで、また近接地のこの建物が空き家になって売りに出されていたので、建物を潰してもう一つ駐車場を作ろうと考え買ったようです。でも、室内が広かったこともあって、何かに活用できるんじゃないかと母が言い出したんです。じゃあ、ここでできることを考えてみようかという話になったのがスタートでした。

――会社をやめようとすぐに決断できたのですか?
母からこの建物について相談を受けたのが32歳の時でした。当時、私は勤めていた企業でマーケティング本部という、経営企画に携わる部署にいて、バリバリ働いていたのですが、いわゆる転職が難しくなっていく年齢だったこともあり、会社を辞めるか、それとも続けるか、悩んでいた時期でもありました。そんな時に、母の「もったいないから何かしたい」という言葉を聞いて、最終的には乗っかる形でお店を始めようと決めました。

「お寺カフェ 瑞鳥庵(ずいちょうあん)」においてある無財の七施の写真 ――当初はどのような構想を練っていたのでしょうか?
できれば、近所の人が集まれるような場所にしたいと考えていました。あとは、お寺との連携です。よく「坊主丸儲け」といわれるように、お寺の業界は儲かっているように思われる方は多いようですが、実際は檀家さんも年々減っていて、衰退の一途をたどっています。私の家は3姉妹で跡取りがいません。なので、妹が僧籍を取り、父の跡を継ぐ予定です。だから、実家のお寺に人が集まるような仕組みを作りたいと考えました。ただでさえお寺は一般的に敷居が高く、入りにくいと言われる場所です。隣にカフェがあれば、コーヒーを飲むついでに立ち寄ってくれるかもしれない。そんなイメージから構想を練っていきました。

マーケティングの知識を活かして戦略や客層を設定

――お寺を含めマーケティング視点でお店作りを考えたのですね
実はお店作りに関しては慣れているんです。マーケティングの部署に7年いて、30か所ほどリアル店舗を出店しました。その中にカフェ業態もありましたし、ドリンクスタンドやサロン付きの店を作った経験もあります。なので、出店場所となる土地がどんな状態か、どんな店にすれば人気が出るかを考えることは割と得意なんです。もちろん、地元の小田原についても調べました。人口約20万人弱で、40代から50代の単身もしくはご夫婦だけの世帯が多いのが特徴です。団塊ジュニア世代と言えばわかりやすいでしょうか。この世代の消費傾向は「ちょっといいもの」がキーワードで、バブリーなんです。

――ちょうど若い頃にバブルを経験している世代ですね
その通りです。なので、お店ではその世代にヒットするもので、私ができることをしようと考えました。また、私がもといた会社が女性をターゲットにしていたので、同じターゲットのほうがやりやすいということもあり、かなり女性向きなお店に作っています。イメージしたのは、大人の女性がゆっくりおしゃべりするカフェ。そのため、テーブルの幅もゆったりできるように広めにし、椅子も大きめにしています。

お寺カフェ 瑞鳥庵(ずいちょうあん)」の内観の写真 ――ターゲットの設定からお店作りを始めた、と
そうですね。ただ、実際に内装を工事する際には、いかにコストを抑えるかということも重視しました。細かい話ですけど、キッチン内の設備は知り合いの閉店したレストランから譲っていただき、それが収まるように設計しています。また、大工さんが手を動かしているところを横で見ていて、どのように作業をしているかを教わり、自分でできるところはDIYで仕上げてもいます。特に2階のサロンスペースの床などはほとんど自分で張り替えました。

――会社での出店経験は役立ちましたか?
店舗を作ることに対してハードルが低かったのは確かです。でも、会社の場合とは大きく違っていた点も多かったですね。例えば、会社の場合は、納期がすべてです。例えば、大きな施設に出店するとなると、必ず設定したオープン日に出店しなければなりません。それに間に合わせるためなら、費用がどれだけ加算されてもいいという感覚でした。でも、自分でお店を出す時は、自然と千円単位でケチっていましたし、そのためならオープンが遅れてもOKといった感じでした。

自分一人だからこそ何にでもチャレンジできる

――オープン時の集客はどのように行ったのですか?
まずはご近所さんに立ち寄ってもらいたかったので、近隣の住宅に2回ほどポスティングをしました。あとはFacebookやInstagramといったSNSでの告知です。ホームページは知り合いにお願いして作ってもらいました。集客という点で一番効果があったのは、ある飲食店情報サイトへの掲載です。コロナ禍になってやめてしまいましたが、そこから予約が入ることは度々ありました。私が設定していたターゲットの年齢層が高かったこともあり、それほど期待していなかったのですが、そうした層も利用しているようで意外でした。

――利用客は基本的には近隣の方ですか?
もう少し広くて、足柄平野といわれる小田原市、南足柄市、また箱根などのエリアからもいらっしゃいます。その他には平塚市や厚木市など神奈川西部からもたまに足を運んでくれる方もいて、ありがたいですね。あとは、本当に少数ですが、都内からのお客様もいて、そうした方々は車で移動しているので、駐車場がある店を探すんです。ここからほど近い小田原駅周辺にもカフェはありますが、駐車場がなく、スマホで検索する方がここへたどり着くというわけです。あらためて地方のお店は駐車場が大事だということを実感しました。

――カフェをオープンしてよかったと感じる瞬間はどんな時ですか?
会社にいた時は、当然、社内のルールに則って仕事をする必要があります。何をするにも稟議が通らないと動けません。ですが、独立してフリーになるとすべて自己責任でやりたい放題です。どんなことにもお金はかかりますが、動き出しはとても早い。やると決めたらすぐやれる。それが仕事でなく、ボランティアでもです。こども食堂も友人から誘われて始めたのですが、会社だったら企画書を作って、プレゼンして、稟議を通してと大変ですよね。自分一人なら「やってみよう!」ができる。何にでもチャレンジできる環境ができたのはよかったなと感じています。

完璧を求めず、ミニマムスタートで、がんばり過ぎない

「お寺カフェ 瑞鳥庵(ずいちょうあん)」の店主長谷川麻美さんの写真 ――今後の展開を教えてください
「結の市」というフリーマーケットや飲食販売をお寺の境内を使って行うイベントを催しているのですが、この活動を広げていくことですね。お寺はお檀家さん以外の方が立ち入る機会がなく、近所の方もイベントで始めて境内に入ったという人は少なくありません。お寺というのは、歴史をさかのぼると地域の方が集まる集会所のような場所でした。なので、できるだけ敷居を低くしたほうがいいと私は思っています。できれば、こうした活動を他のお寺でもしていきたいですね。それが仏教離れを軽減することにも繋がりますから。

――これから開業される方にアドバイスするならどんなことがありますか?
アドバイスするとすれば2つですね。まず一つ目が、開業するならお金を貯めておくこと。何をするにも、頭を悩ませるのが資金です。おそらく飲食店を始めた方は、誰もがうなずくのではないでしょうか。私はこのカフェを開くにあたって、それなりに蓄えていた貯金以外に、日本政策金融公庫と地元の銀行から800万円の融資をいただいています。やはりお店を持つのはお金がかかるもの。あればあるだけ楽になるので、できるだけ貯金をためておくことをおすすめします。

――もう一つはなんでしょうか?
完璧を求めないこと、です。できるだけミニマムスタートで始めること。お店を始める時、誰でもこうしたい、ああしたいと、夢を持っていると思います。でも、そこで100点満点を求めず、60点や70点でよしとするほうが気は楽になるはずです。あとはトライ&エラーを繰り返しながら独自のスタイルができあがっていくものです。別に完璧じゃなくても上司から責められることもなく、ゆるくスタートできるのが個人事業のメリットでもありますから。どうか、がんばり過ぎて自分を苦しめないようにしてほしいと思いますね。

お寺カフェ 瑞鳥庵

所在地:神奈川県小田原市北ノ窪145
電話番号:0465-44-4095
※取材時点の情報です

https://zuichoan.jp/index.html

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