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先輩開業インタビュー

飼い主の気持ちに寄り添いたい!起業支援サービスをフル活用して開業した往診専門の動物病院

動物を飼っている家庭での心配事の一つが、ペットの健康です。言葉が通じない“家族”の体調管理は、飼い主が見守ることが大切になります。しかし、いざ具合が悪くなった際に、すぐに動物病院に連れていけるとは限りません。そうした時、自宅に獣医師が来てくれたら――。そんなニーズに応えたサービスを埼玉県鶴ヶ島市近郊で展開しているのが、動物往診+在宅ケアサービスを提供する「にくきゅう」です。一般的な動物病院とは違い、往診専門というスタイルで、病院へ行くことが困難なペットや、さまざまな事情で通院が難しい飼い主の心強い味方として活躍しています。女性起業家としても注目されている立石絵美さんに、事業についてのお話を伺いました。

治療から困りごとまで受け付ける往診専門サービスを展開

動物往診+在宅ケアサービスを提供する「にくきゅう」の機材と車の写真 ――往診専門という営業スタイルについて詳しく教えてください。
基本的に、動物を診察・治療するという点では一般の獣医師さんと同じなのですが、店舗を構えず、往診のみで営業している動物病院になります。埼玉県鶴ヶ島市をベースに近郊の市町村に伺っていて、診察から会計までを伺った先で行うスタイルを取っているのが大きな特徴です。現在は、ストレスを抱えやすい小鳥以外の動物はほとんど対応しています。なので、犬や猫以外にも、ウサギとかハムスターなどの往診依頼も比較的多いですね。

――往診というスタイルだと持ち運べる器具も限られると思うのですが、どの程度の治療をされているのですか?
切開での処置などは難しいですが、血液検査やエコーができるくらいの設備は車で持ち運んでいます。なので、レントゲン以外は対応できる体制を常時整えています。ただし、麻酔をかけるような施術をする場合、人工呼吸器が必要になるのでそこまでの対応はしていません。落ち着かせないと施術できないような動物を診察する際には、鎮静薬や向精神薬などを使っています。

――治療以外で依頼が来ることはありますか?
例えばウサギは歯が伸びてくるので、歯切りなどの無麻酔でできる範囲の処置はしています。あとは、つい最近ですが、噛む癖がついてしまった犬の首輪が外れてしまい、散歩に行けなくなったことで、爪が伸びてしまったから切りに来てほしいという依頼がありました。実際に行ってみると、犬が歯をむいてきて大変で。鎮静薬を飲ませてもきかなくて、最終的には柵で押さえつけた状態で、お尻に麻酔薬を入れて寝かせた状態で首輪をつけました。

起業支援セミナーへの参加で事業がより具体化した

――往診専門に決めたきっかけはなんだったのでしょうか?
大学を卒業後、ずっと動物病院で勤務医として働いてきたのですが、鶴ヶ島市へ移住後、出産をきっかけに家庭と仕事を両立する方法を模索するようになりました。 そんな時、女性獣医師ネットワークという、女性で獣医師免許を持っていれば誰でも入会できるFacebookのグループの集まりに参加したのです。そこで先輩獣医師さんに相談したところ、いろんな働き方があることを教えていただきました。最初は往診で開業して、軌道に乗ってきてから病院を構えた方や、すでに往診だけで営業している先生もいて、「そういうスタイルもありなんだ」と、まさに目から鱗でした。また、往診専門であれば勤務医よりも比較的時間が自由に使えるので、子育てがしやすくなるとも思い、起業に踏み切りました。

――勤務医の時は、往診には行っていなかったのですか?
個人的にボランティアで往診に伺うこともありましたが、病院の方針もあり、断らなければいけないことがほとんどでした。でも、猫を多頭飼育している方で、車を持っていないことから自転車で1匹ずつ往復して連れてきていたり、知り合いの車に乗せてもらって来院したりと、大変そうな方々もいて、「行ってあげられたらな」と思うことは何度もありました。勤務医時代の経験から、何よりも大切なのは、飼い主がペットの診察をあきらめなくてもいい環境を作り出すことだと思っています。それが私の事業の一番の目的にもなっています。

――起業するにあたってどのような準備をされたのですか?
獣医師として動物病院を開業する以前に、そもそも起業するために何をどうすればよいのか、まったくわかっていませんでした。そこで、どのようなステップを踏めばよいのかを知りたくて、市の広報に掲載されていた鶴ヶ島市が主催する起業支援セミナー に参加することにしました。月に一度、4回ほど開催されるものだったので、休みを調整すれば無理なく参加できたのは助かりました。セミナーでは女性起業家の方が講師として来てくださっていて、どういうタイミングで起業して、準備に何が必要なのか、知りたかった情報を得ることができました。また、やりたいことが収益につながるか、そして、そもそもニーズがあるかなど、これから始める事業と向かい合う大切な機会にもなりました。

――セミナーへの参加でアイデアが具体化していったのですね。
そうですね。当時は往診専門という営業スタイルを取っている獣医師が近隣にいなかったこともあって、やってみたいという気持ちがどんどん強くなっていました。起業支援セミナーでは事業アイデアを一人ずつ発表するプレゼンの時間があって、恥ずかしながらそこで自分の想いを赤裸々に語ってしまったわけです。そうして公言した途端、自分が思っていた以上に周囲の方々からの応援や励ましがどんどん増えていった印象です。

スタートダッシュとなったコンテストでの受賞

動物往診+在宅ケアサービスを提供する「にくきゅう」のロゴと「女性が作る鶴ヶ島ブランド」受賞ロゴの写真 ――セミナーに参加後、どのように準備を進めていったのですか?
起業支援セミナーに参加したことがきっかけで、男女共同参画社会づくりを進める女性センターとのつながりができました。そのご縁で、女性が市をPRするブランドを創出することを目的にした「女性が作る鶴ヶ島ブランド」というコンテストに参加することになり、いろんな方のお力添えもあって、最終的にグランプリをいただくことができました。さらに、起業後のPR活動などでの支援もしていただけることになり、かなり有利なスタートダッシュを切れました。

――起業する際に資金調達はどうされましたか?
「女性が作る鶴ヶ島ブランド」受賞の翌年の2017年に開業したのですが、コンテストで奨励金をいただいたので、それを開業資金にあてました。主な使い道は、往診バッグや顕微鏡、遠心分離機といった機器の購入です。往診車は、ロゴをマグネットにしたものを制作して、当時乗っていた自家用車に貼って活用していました。その後、運転資金と往診専用車を購入するために日本政策 金融公庫から融資を受け、今もコツコツと返済しています。

――起業後、集客はどのように行ったのですか?
コンテストのおかげで、市から3年間は宣伝活動などでの支援をしていただけるという特典があったので、自作したリーフレットを市役所や出張所、市民センターなどに置いていただくことができました。また、市が受賞に関するプレスリリースを無料で出してくれたことから、新聞やテレビの取材依頼が数件来て、これも大きな宣伝活動につながったのでありがたかったです。

メディアへの出演が信頼度アップにつながった

動物往診+在宅ケアサービスを提供する「にくきゅう」のパンフレットの写真 ――新聞やテレビといったメディアへの露出の反響はいかがでしたか?
開業後すぐにメディアで知っていただいた方からご依頼の電話が来るなど、反響はかなりのものでした。特に新聞や役所に置かれたリーフレットなどは、高齢者からするとかなり信頼度が高いようで、そこで紹介された動物病院として、私の信頼性が高まったのは幸運でした。元々、足が悪い方や、免許を返納した方など、通院が困難な高齢者のニーズに応えたいという想いが強かったので、そういう意味では効果的だったはずです。開業して最初に「新聞を見ました」と電話をかけてきた方も60代の男性で、そうした層に広く知ってもらえたのは予想外のうれしい展開でした。

――やはりコンテストでの受賞の影響は大きかったのでしょうか?
そうですね。スタートアップの課題といえば、いかに自社を知っていただくかということだと思います。私は当初、コンテストには参加するつもりがなく、周りから勧められて渋々参加した経緯があります。でも、今となってはそれが分岐点だったとも思います。受賞できたからこそ言えることなのかもしれませんが、これから起業する方は地域のコンテストなどに参加してみると、大きな弾みになる可能性もあるのでおすすめです。

――その他のコンテストに参加されたことはありますか?
開業した年に、埼玉県で毎年催されている「SAITAMA Smile Women」というビジネスプランコンテストに参加しました。最終的にファイナリスト8名に選ばれ、奨励賞をいただいたことで、そこでもまた県の方や地域誌の取材を受けました。また、女性起業家としてセミナーやイベントに講師として呼ばれるようになり、結果的に広告費をかけなくても名前やサービス内容を知っていただける場が増えたのは受賞したからこそ。面倒くさがらずに参加して本当によかったです。

公的支援やSNSをフル活用することが大事

「公的支援やSNSをフル活用することが大事」と語る動物往診+在宅ケアサービスを提供する「にくきゅう」の立石絵美さんの写真 ――振り返ってみて、起業支援センターのサービスを利用してよかったと思いますか?
はい、やはり自分の頭で考えても、知識がなければ堂々巡りになるので、知らないことは知っている人に聞くのが一番です。アドバイスをくれる人は公的な機関にいますし、個人でつながりがあればそうした方々に聞くのもいいと思います。私は鶴ヶ島へは移住してきたので、周りに知り合いがいなかったこともあり、SNSや公的なサービスをフルで使いながら起業の準備を進めました。今も商工会議所などの地域の集まりや、講演などには積極的に参加するようにしています。

――そうした集まりに参加するメリットがあれば教えてください。
まず知り合いが増えるので、起業や経営に関する情報が入りやすくなるということが一つ。そしてもう一つが、直接的に顧客になってくれなくても、獣医師の往診サービスという仕事があるということを知ってもらえることです。例えば、イベントなどで知り合った方が、のちにペットを飼って病院に連れていくことができない状況になったとしたら、インターネットで「獣医師 往診 埼玉」と検索すればにくきゅうが引っかかるわけですよね。そしたら、「あっ、以前にお会いした方だ」と思い出してくれることもあるでしょう。そしたらきっと声をかけてくれる。だから、やはり存在を知ってもらうことに無駄はないと思います。

――現在の仕事をやっていてよかったと思うことはありますか?
以前、診察に伺った方が、にくきゅうの往診サービスがあることを知って、県内の別の地域から猫を2匹連れて鶴ヶ島市へ引っ越してきた方がいました。地域の情報誌を見て、「こんなすばらしいサービスがあるならと、猫のためにもなるので引っ越しを決めました」と言ってくれて。これは本当にうれしかった。また、いつもお世話になっている地域に対しても貢献できているような気がして、もっともっと街の魅力になれるようにがんばっていきたいと思っています。

――最後に、読者にメッセージをお願いします。
地域によって起業支援の制度はさまざまですが、もし起業の仕方がわからなければ、まずはお住まいの地域の支援サービスを調べることから始めてみてはいかがでしょうか。また、異業種交流会などに参加するのもいいと思います。名刺交換をすることで後から巡り巡って連絡が来ることもあるので、本当に出会いに無駄は一切ないというのが私の実感です。自分が出ていかない限りは、待っていても誰も会いに来てくれません。そうした意味では、社交性を身につけることも大事だと思います。ぜひ、人とのご縁を大切にしてほしいと思います。

動物往診+在宅ケアサービス にくきゅう


https://11299.jp/

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