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先輩開業インタビュー

会社役員からまさかの転身。「いすみ米」との出会いがきっかけとなって起業したおにぎり専門店

房総半島南部に位置し、温暖な気候に恵まれた農業が盛んな町、千葉県いすみ市。四季折々の農作物が豊かに実る田園都市であり、米どころとしても知る人ぞ知る地域でもあります。そんな田畑広がる小さな町で、おにぎりを握り続けているのが「おにぎり工房かっつぁん」店主の坂本勝彦さんです。今年で10周年を迎えるおにぎり専門店を一人切り盛りしてきた坂本さんですが、前職はおにぎりとはまったく無縁の、役員まで務めた元IT企業の営業マン。そんな坂本さんがなぜおにぎり専門店を開業することになったのか。その経緯や運営などについて詳しく伺いました。

「いすみ米」にこだわり、“ここでしか食べられない”おにぎりを販売

千葉県いすみ市にある「おにぎり工房かっつぁん」の外観の写真 ――「おにぎり工房かっつぁん」では、おにぎりのみを扱っているのですか?
基本的には、地元いすみ市の中川地区で作られている「いすみ米」を使ったおにぎりを店頭や委託、またイベントなどに出店して販売しています。あとはおにぎり販売に付随して、いすみ米の飲食店への卸売などもしています。自宅の敷地内に店舗を構えていて、平日の火曜日から金曜日の10時30分から15時30分までオープンしています。

――いすみ米にこだわっている理由を教えてください
いすみ米は千葉県産のお米の3大ブランドの一つになっています。地元の人なら誰もが知っているおいしいお米なのですが、全国区となると知名度はかなり低いといえます。なので、いすみ米のおいしさをもっと世の中に広めたいという思いを込めて、日々おにぎりを提供しています。具材も千葉県産のものを使っていて、ここでしか食べられない商品になっています。また、一度食べればそのおいしさにご納得いただけることが多くて、お客様のほとんどがリピーターになってくれています。

米として売るのは難しい、でも、おにぎりなら売れる!

千葉県いすみ市の田園風景の写真 ――いすみ市で開業した経緯を教えてください
以前は、都内でソフトウェアを開発・販売する企業に勤めていました。営業を担当していて、成績としてもそれなりに結果を残していたので、役員にまで昇格することができ、ある意味では順風満帆でした。そんな中、結婚して子どもが産まれた時に、近所の方から「子どもの声がうるさい」と苦情がきて、トラブルになったんです。子どもは泣いて走り回るもの、という認識だった私にとってはかなりショックでした。また、子どもが喘息やアトピーを発症するなど、子育ての場所として東京はふさわしくないのでは、と疑問を感じるようにもなっていました。そこで思い切って田舎に移住しようと、今から20年前、39歳の時にいすみ市へと引っ越してきたんです。

――移住がきっかけで今のお店を開業したのですか?
いいえ、当時はここから会社に通っていました。出勤に片道2時間半かかり、社長には相談せずに決めたので、えらく怒られてしまいましたが。今の住まいに決めた理由は、目の前に広がる田園風景と、その中を走るいすみ鉄道の美しい景観でした。そんなところなので周囲は農家ばかりなんです。地域の方からはよくお米をもらったりしていたのですが、これが驚くほどうまい。仕事柄、全国に出張へいっていろんなお米を食べていたのですが、一際おいしく感じた。なぜこれほどの米があまり知られてないのかと疑問に思って、それなら自分が売ってみたいと考えるようになりました。

――お米の販売はどのように始めたのですか?
まずは勤めていた会社のお得意様に口コミで販売していました。役員だったこともあって、そこは意外と自由にやらせてもらえたのです。社長も、「この米はうまい!」って言ってくれていたし、当時としては珍しく副業もOKでした。ただ、売ってみてわかったのは、米を米のまま売るのはとても難しいということ。なぜなら、日本においしくない米はほとんどないですし、炊きたてのお米ならなおさらです。どうやって差別化を図ればいいか、悩みどころでした。でも、おいしいのは間違いないので、どうにかもっと売れないだろうかと日々頭を悩ましていました。

――答えはすぐに見つかりましたか?
それが本当に意外なタイミングで見つかったんです。子どもの運動会にいった時、妻が握ったおにぎりを食べたら、いつも以上においしかったんです。その瞬間、「ちょっと待てよ、冷めたお米もおいしいぞ」と気づいた。米を米で売ろうとするから難しいのであって、おにぎりにして食べてもらえばおいしさがよりわかってもらえる。しかも、ちょうど駅ナカなどでおにぎり屋を見かけるようになった頃で、時代的にも外れていないと確信できた。「よし、これだ!」と思い、それから約2年後の2011年に退職して、おにぎり専門店を開業しました。

当時珍しかったインターネットを使った宣伝が大成功

開業の準備や集客・販売方法について語る「おにぎり工房かっつぁん」の店主坂本勝彦さんの写真 ――開業にあたってどのような準備をしましたか?
おにぎり屋を開業しようと思いついたのはいいけれど、実は自分でおにぎりを握ったことはありませんでした。そこで、まず始めたのはインターネットでおにぎりについての検索です。どんな握り方があり、またどんな種類があるかを片っ端から調べました。また、近所に秋田料理屋があって、そこの秋田出身の大将は「地元の米よりおいしい」といすみ米に惚れ込んでいる人でした。その方からご飯の炊き方など基本的なことを教えてもらい、あとはほとんど独学で勉強しました。

――当初はどんな販売方法を考えていたのですか?
一国一城の主に憧れて、千葉市内に店舗を持とうと考えました。そこで、市内に40ほどある商店街すべてに足を運んで、朝や昼の人通りの多さを徹底的にリサーチしました。結果的に、市内を通る千葉都市モノレールの終点にある千城台駅の商店街に決め、出店しました。7坪ほどの店でしたが、ただおにぎり屋をやるのではつまらないと思って、アンテナショップも兼ねたお店にしたところ、これが話題となりました。いすみ市の特産物を置いたり、いすみ鉄道に交渉して直で仕入れたものを販売したりと、売上も好調でした。

――仕事を辞めてお店を始めることにご家族は反対しませんでしたか?
妻には当然相談しましたが、すんなり「うん」というわけがないことはわかっていました。そこで、条件として退職金には手を出さない。その代わり、勤めていた会社の持株があったので、その売却益を原資として使わせてほしいと交渉しました。それで300万円ほどのお金を用意できました。あとは、商売を始めるタイミングとしてベストだったのが、自宅のローンがちょうど終わる頃だったということ。無借金だからこそ好きな商売を始められたというわけです。

――集客はどのように行ったのですか?
営業マンといえども、これでもIT関連の企業に籍を置いていた身です。インターネットの重要性はよく理解していたので、ホームページで宣伝しようと考えました。今なら当たり前の発想ですが、当時はまだ商店街の一角にある店がホームページを持つのはまれでした。実際、「千城台 商店街」で検索すると、当店を含めて2、3件しかヒットしなかった。ラッキーだったのは、当店のページを見てくれたケーブルテレビから取材の申し込みが来たことですね。それで当店の名前が広く知られるようになりました。

思い切った販売スタイルの変更で経営も盤石に

――開業後は順調だったわけですね
開業してすぐに千葉都市モノレールが主催するイベントへの出店や、いすみ鉄道のイベント列車での販売なども行うようになり、おかげさまで順調でした。また、お米の販売も続けていて、営業マンの習慣からか、千葉市内から自宅までの1時間がもったいないと思い、帰宅途中に飲食店へ飛び込み営業をして、着実に卸し先を増やしてもいました。かなり勢いに乗っていたので、東京進出も考え始めるようになっていました。

――実際に店舗展開はされたのですか?
はい。千葉都市モノレールから「駅ナカショップへ出店してみませんか?」とお声がけいただき、それで2号店を出店しました。ただ、実際に店を増やしてみると、当然ですが人件費はかかるし、福利厚生もしっかりしないといけない。さらに、店舗を2つ見ないといけなくなるわけだから多忙にもなる。そうなると、なんだか店を保つために働いているような気になって、だんだんと心が疲弊してきたんです。また、同時に1号店のある商店街自体が高齢化の影響もあって、さびれてきているのが目に見えてわかった。それで、店舗展開はあきらめて自宅でおにぎりを作ろうと店を閉じてしまったんです。

――販売スタイルを変更したのですか?
実は千葉都市モノレールやいすみ鉄道のイベントへの出店を通してご縁がつながり、県内のいろんなイベントやマルシェからもお声がけいただけるようになっていました。これまではお店でお客様を迎えるスタイルでしたが、これからはこちらから必要な場所へ販売にいくスタイルに変えようと思い、その拠点として自宅の敷地内に店舗兼厨房を構えたのです。設備や機材などは1号店で使っていたものをそのまま移動してきたので、費用もそれほどかかっていません。それが今から5年前です。

「おにぎり工房かっつぁん」自家製のうめぼしの写真 ――自宅に拠点を移してから経営は安定しましたか?
店中心に考えるのはやめようと覚悟を決めて、地元の直売所や道の駅への委託販売なども始めてみました。すると、週末は月の半分がマルシェなどで埋まっていることもあって、極端な話が、店舗での売上がゼロでもやっていけるようになりました。また、拠点を移したタイミングで進めたのが、具材の自家製化です。家の庭の木でできた梅や、唐辛子やシソなども庭で採れたものを使っていて、そのおかげで原価率もかなり下がり、結果的に安全性を高めることにもつながって、お客様には以前にも増して安心して食べてもらっています。

移住者だからこそわかる魅力を次世代にも伝えていきたい

「おにぎり工房かっつぁん」のおにぎりの写真 ――新型コロナによるイベントへの影響はいかがでしょうか?
都内と違ってお店が豊富にあるわけではないので、マルシェは地域にとって必要なイベントです。お祭りというよりも、必要なものを買いにいくイメージです。だから、コロナ禍でも来てくれる常連さんやコアファンが多い。実は私自身も3つのイベントを主催していて、年に一度の“ご飯もの”をテーマにした「米フェス」や、月一回のマルシェを2つ開催しています。こうした地元のイベントはSNSとの相性がよくて、8割ほどがリピーターとしてきてくれています。もちろん、感染対策には細心の注意を払っています。

――今後の展開について教えてください
いすみ市で私のように新しい商売を始める人は、ほとんどが移住者です。逆に地域の人たちは、このいすみ市を「田舎」と呼び、都会に出ようとばかりしています。私からしたら、こんな魅力的な土地はほかにありません。魅力が見えているからこそ、このいすみ市のすばらしさを次の世代に伝えることが私の役割だと思っています。イベントなどを主催するのも、若い人たちが住みやすい環境にしていくためでもあります。今後はそうした活動に力を入れていきたいですね。

――最後に、独立・開業を目指す読者にアドバイスをお願いします
何かを始めるなら、絶対に“生涯曲げない芯”だけは一本持っておくこと。それは何があっても曲げてはいけません。これがブレてしまうと、起業した意味すらぼやけてしまいます。私にとってはそれが「いすみ米を使ったおにぎり」でした。そうしたものを持っていれば、例え困難に遭遇した時でも、むしろ臨機応変に対応できるものです。そして、何よりも大事なのが、ご縁を広げていくこと。私が営業マンとして大切にしていたのもまさにここです。たくさんの人とご縁をつないでいくと、新しい発想やチャンスがどんどん巡ってくる。あとは、自分を信じて実行あるのみです。みなさん、がんばってください。

おにぎり工房 かっつぁん

所在地:千葉県いすみ市増田587-2
※取材時点の情報です

https://katsu3.jimdofree.com

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