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先輩開業インタビュー

趣味をきっかけに45歳で未知の分野にチャレンジ!「漁師×民泊」で移住に成功した元エリート営業マン

房総半島の南端に位置し、温暖な気候が魅力の千葉県南房総市。この地域は漁業が盛んで、特にアワビや伊勢海老はブランド食材として知られています。そんな南房総へ脱サラをして移住し、漁師にチャレンジするという、異例の経歴を持つのが漁師民泊「Fisherman's house Araking」を経営する荒木宏一さんです。まったくの素人で漁業の世界に飛び込み、漁と民泊で生計を立てることになったきっかけとは。また、これまでの苦労や今後の展開について、詳しくお話を伺いました。

漁師と民泊の二足の草鞋で生計を立てる

漁師民泊「Fisherman's house Araking」の外観写真 ――まずは現在のお仕事について教えてください
漁業と「Fisheman’s house Araking」という1日一組限定の民泊を経営しています。メインは漁業で、「チャカ」と呼ばれる約8mの船で沖へ出て、刺し網という大きな網を海中に張り、伊勢海老やサザエをとっています。夏は、海中に潜ってアワビをとる「海士(あま)」もしていて、余った時間などに船釣りもしています。その時期にとれる旬の魚をトローリングという方法で釣り上げ、私が所属している白間津漁港周辺では、主にカツオ、ブリ、アカハタ、カサゴ、イカやタイなどがとれます。

――素潜り漁もしているんですね
まだ昨年から始めたばかりで、熟練者になると10mくらい潜れる人がいる中で、私はまだ4〜5mしか潜れません。潜るだけならまだいいのですが、海中でアワビを探すとなると一苦労です。がんばって6mくらいまでいっても、水圧で動けなくなってしまいます。アワビのシーズンは5月から8月の4か月間なのですが、実はその期間でも潜れるのは10日くらい。捕れる機会自体がかなり少ないといえますね。

――民泊は漁業と並行して運営しているのですか?
はい。「Fisheman’s house Araking」は一棟貸しの宿で、庭にあるウッドデッキでバーベキューを楽しんだり、魚のさばき方教室などを体験できたりする宿泊施設で、手作りの小さな露天風呂もあります。やはり本業の漁師も、魚がとれる時期ととれない時期があり、収入も不安定なので、空いている自宅の部屋を活用できないかと思い、2018年から開業しました。おかげさまで人気宿になって、全国からさまざまなお客様がいらっしゃいます。

趣味のサーフィンがきっかけで漁師に転職

南房総へ脱サラをして移住し、漁師にチャレンジするきっかけを語る荒木宏一さんの写真 ――南房総市で今の仕事を始めたきっかけはなんですか?
生まれも育ちも東京です。若い頃から世界を舞台に活躍したいという思いがあり、イギリスに語学留学をしたこともあって、英語を武器に貿易会社で海外営業をしていました。その後、半導体を扱うドイツの外資会社に転職し、マネージャーを務めたこともあります。時代がシリコンバブルだったこともあり、自分でも順風満帆の人生を歩んでいる自覚はありました。そのまま定年退職して、退職金をもらって、悠々自適な老後を過ごそう、なんて思い描いてもいましたね。しかし、人生はそううまくはいきません。その後に半導体事業が不振になってしまい、43歳という働き盛りの時に日本の工場閉鎖によりリストラされてしまったんです。

――かなりショックが大きかったのでは?
初めての大きな挫折でした。私の世代は終身雇用が当たり前という考え方がまだあったので、それがもう崩れてしまったな、と。でも、家族もいるし、マンションだってローンが残っている。再就職しないと生活できないという現実があったので、別の商社に転職して2年ほど勤めていました。ただ、その頃から「このままでいいのか」と自問自答するようになったんです。その当時、サーフィンとウインドサーフィンにすごくハマっていて、毎週末に必ず海へいっていたのですが、ふと、急に漁師をやりたくなってしまって。娘に話すと、「漫画じゃないんだから」と失笑される始末。でも、もう気持ちを抑えることはできませんでした。

――なぜ漁師だったのですか?
週末に波乗りをしに千葉や茨城の海に通っていたのですが、漁師をしているサーファーは必ずいい波がくるポイントを知っています。それがいつもうらやましくて、「あんなふうに海の近くで生きていけたらいいな」なんて、漠然と憧れていました。そんな理由だったのですが、思い立ったら吉日という性格なので、すぐにネットで千葉県内の漁業サイトを検索して、漁師の募集を探してみたところ、南房総市で定置網漁をしている会社が漁師を募集していて、すぐに電話をしてみたのです。すると、応募対象は40歳までで、45歳だった私は丁重に断られてしまいました。

――しかし、あきらめなかったわけですね
当時、サーフィンの大会に出て好成績だったこともあり、とにかく体力には自信があったので、断られたのが悔しくて仕方なかったんです。それならと、先に船舶免許を取得して、募集していた会社の事務所へ直接押しかけてみました。その熱意が通じたのか、「最初はアルバイトからだね」と、意外とすんなり認めてもらうことができた。「一旦、3か月間様子をみましょう」ということで、2013年10月から漁師の見習いを始めて、翌年の1月になって定置網漁の船の正規乗組員になることができました。

腰の痛みに苦しむも先輩の助力を得て独立へ

荒木宏一さんが利用する港の写真 ――漁師になって苦労したことはなんですか?
すべてがとにかく大変でした。見習いなので、体力仕事はすべて私の担当です。例えば、かめ掃除と言って、網でとった魚を入れる船内の魚倉を掃除するのですが、海水を吸い上げるのにポンプだけだと時間がかかる。そこで、魚倉に入ってバケツで海水を組み上げるのですが、それが本当にきつい。ヒンズースクワットを1000回するのと同じです。また、ずぶの素人からのスタートなので、覚えることも多く、叱られてばかり。ただ、私も昭和の人間です。石の上にも3年という言葉の通り、3年は我慢しようと考えていました。それに、漁自体は本当に楽しかったので、それで耐えられたのだと思います。

――根性で乗り越えたのですね
やる気だけはありますから。ただ、それなりに仕事も覚えてきた頃、椎間板ヘルニアをわずらい、気持ちだけではどうしようもなくなってしまった。会社も気を使ってくれて、腰の負担にならないような仕事をさせてくれていましたが、それでも漁師の仕事はハードです。痛みを止めるブロック注射などを打ってごまかしていましたが、それも難しくなり、最終的に退社することにしました。いずれは自分で船を持って独立することを目標にしていたので、ここで無理をして体を壊してしまっては元も子もないと思った末の決断です。

――すぐに独立したのですか?
約1年かかりました。退職後にひとまず静養しながら独立の準備を進めたのですが、自分で船を用意しなければなりませんし、定置網漁の船に乗ってはいたものの、それ以外の漁の仕方を覚える必要があります。そこで、腰の具合がよくなってきた頃に、漁師の先輩のところへ手伝いにいき、また一から教わりました。そしてもう一つ、漁をするには漁業権が必要です。取得するには地元の漁業協同組合から認めてもらう必要があります。周囲からは「漁業権を取得するまでに3年はかかる」と言われていましたが、私のがんばりを見てくれていた人が推薦してくれて、約1年で取得することができました。同時に独立ができたので、後押ししてくれた人には感謝しかありません。

気軽に泊まれるスタイルが利用客から大好評"借り入れなし"に

漁師民泊「Fisherman's house Araking」の庭の写真 ――漁業を始めるのに総額でいくらかかりましたか?
私の場合は本当にラッキーで、船はお世話になっている先輩から譲ってもらい、漁で使う網なども先輩が中古で探してくれたので、200〜300万円とかなり安くすみました。おそらくですが、そうした伝手もなく一人で開業しようと思ったら、1000万円くらいはかかるのではないでしょうか。開業に必要な資金は、サラリーマンの時の貯金や、外資会社を早期退職扱いで辞めたこともあり、退職金が少し多く出たので、そのお金で賄いました。

――民泊についてはいかがでしょうか?
南房総市に移住した当初は賃貸の家に住んでいて、途中でこの家を購入したのですが、民泊を始めるにあたっての準備はほとんどDIYですませたので、それほど費用はかかっていません。外装はほぼ手をつけていなくて、内装は壁を塗り直したり、流木のライトなどを装飾したりと完全に手作り。ウッドデッキの設置だけは友人に手伝ってもらいました。露天風呂は2019年の台風災害で庭の木が倒れたので、逆転の発想でその場所に新たに設置しました。宿だからといって特に気取ったことをしていなくて、滞在時は基本的に自由に過ごしてもらい、使ったものは自分で片付けるルール。だからお金がかからなかったというのもありますね。

――そうしたスタイルがお客様から人気を得ている
親戚のおじさんの家に遊びにきた、といった雰囲気が受けたのでしょうね。お客様は家族連れのほかに、女子会利用や男同士の旅も少なくありません。もちろんカップルもきます。驚いたのは、Airbnb(エアビーアンドビー)にしか情報を掲載していなくて、主に訪日外国人がくることを予測していたのに、利用客のほとんどが日本人だったこと。おそらく、地元の魚など「漁師のプレゼント」付きにしたのが喜ばれたのだと思います。リピーターが増えたのと、あとはクチコミで広がったのでしょう。

生業を通して地域に恩返しをしたい

――漁師と民泊では、収入の割合はいかがでしょうか?
漁師は開業して約1年なのでまだ収入は少なく、今は半々くらいです。一人で食べていくには問題ないですが、家族を養うにはかなり厳しいと思います。うちは娘も独立しているので成り立っているようなもの。ただ、漁はいい日も悪い日もあります。夏のアワビ漁はもう少し潜れるようになれば、大きく稼げるようにもなる。そういったことすべてが自分の責任だからこそ、漁師はおもしろい。人生の充実感でいえば、サラリーマン時代とは比較になりません。

――今後の展開について教えてください
いずれは民泊を生かして南房総の魚の魅力を発信していきたいと考えていて、それがこの地域への恩返しだと思っています。南房総はブランドになっている魚は多いけど、売れないものや安いものも多い。でも、料理次第では本当においしくなり、新鮮だとなおさらです。例えば、アイゴという魚なんて、捨てられている魚ですが、直焼きして食べたら身がプリプリで最高です。おいしいものは間違いなくここにある。だから漁業体験などのサービスを通して、楽しさを少しでもわかってもらえたらうれしいですね。もちろん、その前に私が一人前の漁師になることが前提ですが(笑)。

――独立を目指す読者にメッセージをお願いします
もし、私のように移住先で何かを始めようと思ったら、かなりの覚悟が必要です。口先だけでは絶対にダメ。周囲の人たちに本気度が伝わるように、やる気を見せつけることが大切です。特に地方への移住となると、地域住民との連携は必須です。私も漁師としてはまだまだ未熟で、今でも叱られてばかりです。でも、がんばっていれば、そうやって怒りながらも漁のやり方を教えてくれるんです。みんな見ていないようで、ちゃんと努力を見てくれている。そうした人たちに信頼してもらうことが、移住を成功させる1番の秘訣だと思います。

Fisherman's house Araking

所在地:千葉県南房総市千倉町白間津454
※取材時点の情報です

https://araking.jimdofree.com

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