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先輩開業インタビュー

おもしろいことを発信し続ければ、それが仕事になる。地域密着型クリエイティブディレクターの仕事術

「埼玉をおもしろい県にしたい」その想いから埼玉県に特化した地域情報サイトの運営や映像制作、また県内の自治体や企業のプロモーションなど、多岐にわたる活動をしている鷺谷政明さん。自主制作の動画から生まれた「埼玉ポーズ」がメディアから注目を集め、ヒット映画で使われるなど、クリエイティブディレクターとして話題を発信し続けている鷺谷さんに、起業のきっかけ や仕事の向き合い方についてお話を伺いました。

埼玉県に特化したコンテンツを発信

   埼玉県についての取材を受ける天下茶夜の鷺谷政明さんの写真 ――現在の事業内容を教えてください。
大きく3つあります。まず事業の柱 となっているのは、自治体からの依頼で町おこしなどに使用される動画コンテンツや、企業の商品をPRする映像やチラシ、イベントなどの制作です。2つ目は、テレビや雑誌などの取材を受けてコメントしたり、企業向けに講演を行ったりといった活動です。最後に3つ目ですが、地域情報サイトやYouTubeの運営など、主に自主制作でのコンテンツづくりになります。これらすべてを「天下茶夜」の屋号で行っています。

――取材や講演はどのような内容で受けるのでしょうか?
取材は主に埼玉について語ってほしいという依頼内容が多いです。以前に手がけた「そうだ埼玉」という歌とダンスで埼玉県をPRする自主制作の動画が話題となり、その仕掛け人としてテレビに呼ばれるようになりました。また、そうした活動に興味を持ってくれた企業からは、おもしろい広報誌の作り方といったテーマで、社内の広報担当者にアドバイスする講師として講演を依頼されることもあります。

先の見えた人生が嫌で、やりたいことをリストアップ

    起業までの道のりについて語る天下茶夜の鷺谷政明さんの写真 ――映像や音楽などのコンテンツづくりは独立前から行っていたのですか?
実はボブ・ディランに憧れてミュージシャンを目指していた時期があり、音楽や映像については若い頃から興味がありました。それもあって、初めて就職したのは大手のレコード販売店です。そこで店舗に立つスタッフとして働いたのですが、やはりミュージシャンへの未練もあり、結局は3年ほどで会社を辞めてしまいました。それから3か月の間、集中して曲を作り、デモテープを募集しているレコード会社やラジオ局など約80か所へ送りましたが、デビューなどにつながることなく、それでスパッと思いを断ち切ることができました。

――その後、どのような会社に勤めたのでしょうか?
1年ほどイベント制作会社に勤めた後、音楽と映像を扱う制作会社に転職しました。音楽事業部に配属され、業務内容は主にCD制作です。しかし、当時は時代的にCDの売れ行きが不調になってきていた時期です。残念ながら2010年に会社は倒産してしまいました。その時にクライアントや協力会社などから「フリーランスとして一緒に仕事をしてほしい」と、声をかけてもらえたので、外部契約のプロデューサーとして活動していました。しかし、やはり時代の流れには勝てず、CDの売れ行きは下がりっぱなしで、そうした活動も3年ほどでストップしました。

――それからフリーランスとしてこれまで活動しているのですか?
その頃、すでに33歳になっていたので、またどこかの企業に再就職しようと考えていたのですが、その時にふと、この先の人生が見えたような気がしたんです。またどこかへ勤めて、職場で出会った人と結婚し、定年まで働き続ける。当たり前のことですが、それが求めていることではないと直感的に悟ってしまった。それなら、今自分がやりたいことを全部ノートに書き出し、すべてやり終えてから就職活動をしようと考えたのです。

おもしろいことを追求し続け、生まれた仕事

――どんなことをやりたかったのでしょうか?
ざっくり言えば、映像と音楽を作ることです。例えば、映画監督をしてみたかったので、自主制作映画を作り、小さな劇場で上映会を催しました。また、組んでいたバンド「6才児」でライブもしましたし、CDを作って店舗にも置いてもらいました。これまでのコンテンツづくりのノウハウや伝手を活用したら、意外と実現できてしまうものです。そのバンドで作った曲の一つが「そうだ埼玉」でした。

――それがきっかけで埼玉県のPR動画を作成したのですね
当時、あるアイドルグループの曲に合わせて自治体の職員が躍る動画が流行っていて、埼玉県でも何かできないかと思っていたのですが、同じものをやってもおもしろくない。それなら「そうだ埼玉」でオリジナルのPR動画を作れないものかと、埼玉県の企業や自治体に片っ端から声をかけたのです。結果、多くの方々や団体の協力を得ることができ、動画ができあがったというわけです。また、そのタイミングで埼玉に特化した情報サイト「そうだ埼玉.com」を立ち上げました。それが2014年9月です。

――「そうだ埼玉」があったからこそ今の活動がある、と
そうですね。ただ、決して「これは仕事になる」とか「これで儲けよう」と、意図していたわけではないのです。なので、起業した感覚もなくて、法人化もしていない。好き勝手にやりたいことをやっているうちに仕事につながっていったという。埼玉ポーズが話題になったのも、女子高生がプリクラで撮った写真をSNSに投稿して、それが各メディアの目に止まり、テレビで取り上げてもらったことがきっかけです。また、NHKを始め、ほとんどのチャンネルに出演させてもらい、さらには埼玉ポーズが2019年公開のヒット映画に使われるなんて、制作時は思いもよりませんでした。

   天下茶夜の活動について語る鷺谷政明さんの写真 ――自治体や企業からの映像制作も「そうだ埼玉」がきっかけですか?
メディアに取り上げられたことで、多くの自治体や地元企業から問い合わせがありました。依頼内容は、「そうだ埼玉」の動画のようにダンスや音楽で地域をPRするものもあれば、街の取り組みを動画で伝えたり、企業のイベントを手伝ったりと、本当にさまざまです。アイデア出しから携わるものが多く、一言でいえば“ひとり広告代理店”のようなスタイルで仕事を請け負っています。もちろん、動画コンテンツなどは一人では作れないので、企画の実現に必要な人材に声をかけ、協力して制作しています。

――具体的にはどのような依頼があるのでしょうか?
例えば久喜市が地域のPR動画を作るという案件があり、1000人がダンスする姿をワンカットで撮るという企画を提案して撮影しました。また、ある百貨店からは物産展の企画の提案を依頼されたので、“海なし県”の埼玉に海をそのまま持ってこようと考え、海産物の販売コーナーの一角にプロジェクションマッピングを使って海を再現しました。その他には、ある銀行がさいたまアリーナで運動会を開催する際に、支店長同士の威信をかけた腕相撲対決や、目隠しで札の枚数を数えて正解を競い合うといったコーナーを企画したこともあります。基本的に求められるのは「おもしろくなる」「盛り上がる」企画がほとんどです。

――おもしろい企画を成立させるために意識していることはありますか?
常に「第三者の視点」を持つようにしています。自治体や企業に関わらず、内部の人間は外からどのように見られているか、わからなくなるものです。これは一つの例ですが、埼玉県のマスコット「コバトン」を県民は知っていても、県外のほとんどの人は知りません。でも、県民にとっては馴染み深いキャラなので、誰もが知っていると思い込んでしまう。地域や企業の魅力を発掘してPRする企画を作るには、そうした主観をなくして冷静な目で客観視することは絶対に必要です。その上でどんなところにスポットを当てればおもしろい企画になるかを熟慮しています。

――映像制作などは費用がかかると思うのですが、資金面はどうしていますか?
撮影に必要な人材はすべて知り合いに協力してもらい、発生した案件によってその都度チームを組んでいるので、機材などをそろえる必要もなく、固定費もそれほどかかっていません。ただ、一度だけ自治体の大きなコンペに参加したら企画が通ってしまったことがあって、銀行から製作費を借りたことはありました。それも、貯金をすべて下せば何とかまかなえる金額だったのですが、さすがに預金残高をゼロにするのは怖かったからで、運営にあたって借入する必要は特にないですね。

「そうだ埼玉.com」の写真 ――「そうだ埼玉.com」はどのように運営しているのですか?
基本的には埼玉県をおもしろい地域にすることが目的なので、笑ってもらえるようなネタ記事ばかりを配信しています。ですから、サイト自体ではあまり収益化ができていないのが現状です。ただ、自治体や企業からいただいた依頼でPRが目的のものであれば、一つのメディアとして告知できる媒体として提案できるのが強みになっています。一般的に映像制作会社は独自のメディアを持っていないですし、「そうだ埼玉.com」はFacebook、Twitter、InstagramなどのSNSとも連携しているので、そこでの告知は依頼側のメリットとして大きいと思います。

仕事はまず自分の感覚を信じることが大事

――現在、力を入れているコンテンツは何ですか?
YouTubeチャンネル「そうだ埼玉TV」の制作です。2020年8月にリニューアルして本格的に稼働をスタートしました。私個人の意見ですが、いずれ情報の発信方法は動画が中心になると考えているので、これからはYouTubeでの展開をメインにしていく予定です。これも制作はチームで行っていて、ほぼ全員が埼玉出身です。チーム名は「SPU(埼玉ポーズ連合)」。普段はまったく別の仕事をしている仲間が動画制作になると集まるので、私はこれを自律分散型組織と呼んでいます。

――「自律分散型組織」の特徴を教えてください。
参加しているメンバーは、全員が地元の町で何かしらの“旗”を振っている人たちです。例えば、野外音楽フェスを運営している人や、樽生ビールのおいしい飲み方を提案する活動をしている人など、本業以外でもおもしろい企画を自分で立ち上げている人ばかり。そうしたメンバーだからこそいろんな発想を持っていて、「そうだ埼玉TV」の企画でもアイデアがより一層広がるんです。

――どのような動画を作っているのですか?
自分たちが思う「おもしろいもの」で結果を出したいので、地域の情報をおもしろおかしく伝えるというよりは、「おもしろいことを埼玉で起こす」ことにこだわっています。例えば、埼玉県の秩父市を舞台に、お店の名称でしりとりをしながら街の紹介をしてみたり、仲が悪いと噂されている市の紹介動画を同時にアップして再生回数を競ったりと、笑いを交えて発信しています。埼玉は特徴のない県として取り上げられることが少なくないのですが、何もないならコンテンツとして作ってしまえばいい。まだまだ実験中ですが、それなりに反響もあり、各所から新しい企画を一緒にやりたいといった連絡はいつも届いています。

――最後に、これから独立を目指す読者にアドバイスをお願いします
私はよく若いクリエイターなどに相対評価と絶対評価の話をしています。今、世の中を見ると相対評価が9、絶対評価が1の割合で生きている人が少なくありません。よくあるのが、お店選びに比較サイトを参考にしているケースです。周りの相対的な評価ばかりを気にして、自分の価値観まで委ねてしまっている人があまりに多い。もっと自分の感性を信じることが大切です。やりたいことがあったらまずは形にしてみる。そのためにも、まずは自分が何をしたいのか、また、何をやりたくないのか。それを書き出すところから始めてみてはどうでしょうか?

天下茶夜
http://tenka-jaya.com/

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