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先輩開業インタビュー

男性に掃除や料理の楽しさを伝えたい!工業品加工材の卸し業社が始めた「男性向け家事支援サービス」

新型コロナの影響で在宅時間が増える中、男性も家事と向き合う機会が増えています。共働き夫婦にとっても家事分担は必要不可欠であり、男性が取り組む割合は年々高くなっているものの、比率としてはまだまだ女性の仕事になっているようです。これは、働き盛りの世代だけに限らず、会社をリタイヤした後の高齢者も同じ。そんなセカンドライフを送る男性に向けて、家事を教える事業を始めたのが、株式会社コンバート・ワン代表の尾上元彦さんです。創業時は工業品加工材の卸し業社としてスタートするも、まったくの異分野である男性向け家事支援サービス事業を立ち上げた理由とは。尾上さんに詳しくお話を伺いました。

高齢の男性に家事参加を促し、社会問題を解決したい

高齢の男性に料理を教える株式会社コンバート・ワンの尾上元彦さんの写真 ――どのような事業を展開しているのでしょうか?
現在、2つの事業を同時並行で展開しています。まず1つが、売上のメインになっている工業品加工材の卸し業です。これは両面テープやゴム製品、スポンジなどの不織布といった車や輸送機の内側に隠れているような部品を、図面をもとに工場へ発注し、出来上がったものを部品メーカーに納める仕事です。もう1つが、男性に家事を教えるサービスを展開中の「カジオス」です。主に行政や市区町村からご依頼をいただいて料理教室を行ったり、ご家庭に伺って家事を教えたりする事業になります。どちらも私一人で展開しています。

私は以前、工業品加工材を扱う商社に勤めていて、そこから独立し、個人で卸し業を始めました。その後、新規事業として立ち上げたのがカジオスで、主に高齢の男性を対象にした家事支援を行っています。なので、事業名にも「家事をする男性の背中を押す」や「家事をする男性=オス」といった意味を込めています。今は卸し業を事業のベースとして、カジオスの事業の拡充により注力しています。

――なぜ新規事業として家事に着目したのですか?
2010年代初頭から団塊の世代が定年を迎え、充実したセカンドライフを過ごしている人がいる一方で、何もすることがなく引きこもってしまう男性高齢者が増えています。これは人生の大半を仕事に費やし、地元のコミュニティに顔を出したこともなく、退職後に外へ出る理由がなくなったからです。こうなると困るのが奥様です。昼食を作る手間など家事が増えたのに、隣りでゴロゴロと過ごす夫に嫌気がさしてしまうケースも少なくありません。それなら、一緒に家事を楽しめばよいのではないかという発想からサービスを考案しました。

――社会問題の解決にもつながりますね
家事は、脳の前頭前野を活性化して認知症予防に効果があるという研究結果も出ているようです。また、掃除が有酸素運動になるという説もあり、積極的に料理や掃除をすれば健康寿命が延びると言われています。そして、健康寿命が延びれば社会保障費の上昇抑制にもなるので、これから高齢者を支える若い世代を救うことにもつながる。男性に家事を教えることは、現代社会が抱えるさまざまな課題を解決することでもあると考えています。

3.11での被災体験が起業のきっかけであり、カジオスの原点

高齢の男性に家事を教えるサービス「カジオス」の原点となった3.11での被災体験について語る株式会社コンバート・ワンの尾上元彦さんの写真 ――企業に勤めていた頃から今の事業を考えていたのですか?
自分で事業を始めることなどまったく考えていませんでした。衝動的に独立したというのが本音です。実は、起業のきっかけは東日本大震災だったんです。当時、ある企業の工場移転に伴い、そのお手伝いとして備品や設備を納品するために宮城県に滞在していました。そして3.11に現地で被災したのですが、幸い工場が山間部に位置していたため、私自身は津波の被害を免れました。ただ、同じく工場の移設作業に携わっていた地元の業者は、沿岸部に会社や自宅がある人たちばかりだったのです。

――やはり被害は甚大だったのでしょうか?
業者の方々が勤めている鉄工所の機械がすべて海水に浸かって使えなくなったり、流された車が工場の中に突っ込んでいたりと、ひどい状況でした。当然、その人たちの自宅も被災していて、1階はすべて水浸しで2階に避難している方などもいました。ですが、驚いたことに、彼らはまず勤めている会社を優先して復旧させようとしていたのです。命がけで仕事に取り組むその姿を目にした時、思わず自分の仕事のスタンスと比べてしまいました。「もっと仕事に情熱を注ぎたい」そんな気持ちが高まり、独立しようと思い立ったのが起業の理由です。

――壮絶な体験がチャレンジ精神に火をつけた、と
実は、カジオスを始めたのもこの時の体験がもとになっています。現地にいた時、食事に通っていた小料理屋がありました。3.11当日に足を運んでみると、そのお店も地震の被害に遭い、割れた皿などが散乱した店内で店主とその奥様が呆然と立ち尽くしていたんです。思わず「一緒に手伝うから片付けましょう」と声をかけたのですが、少しずつ片付いていくにつれて、お二人の気持ちが前向きになっていくのがわかりました。その夜、私たちは車中で過ごしたのですが、店主は気持ちを切り替えたようで、「明日から炊き出しをしよう」と誘ってくれました。

――尾上さんも炊き出しを手伝ったのですか?
もちろんです。お店周辺の住民の方たちも自宅が大変なことになっていて、食べるものもままならない状態です。私も現地で揺れを体感したのですが、冗談ではなく「本当に死ぬかと思った」ほどすさまじいものでした。炊き出しに集まった人たちも同じような心理状態だったはずなのですが、温かい料理を口にした途端、不思議と笑顔になるんですよ。本当にうれしかったのを覚えています。この時、どんな状況でも掃除をして片付くと人の気持ちは前向きになり、食事をとれば元気が出て笑顔もこぼれる。家事の持つ力を知った瞬間でした。

笑われながらも調査を続け、掴み取った確かな手ごたえ

高齢の男性に家事を教えるサービス「カジオス」について紹介する株式会社コンバート・ワンの尾上元彦さんの写真 ――起業したのはいつですか?
震災から4か月後の2011年7月に会社を立ち上げました。まずはそれまで携わっていた工業品加工材の卸し業からスタートし、カジオスはそれから4年後の2015年から徐々に準備を始めていきました。小料理屋での体験から着想を得た事業が、社会的にニーズがあるかを調べていったのです。ネットで情報を集めたり、当初から高齢者を対象にしていたので、自宅のある埼玉県内の地域包括支援センターを訪問して回ったりと、高齢者の現状を把握することから始めました。また、サービスをまとめたパンフレットを見せて、地域をよく知る担当者の反応を見て回ったのです。

――対応してくれた方々の反応はいかがでしたか?
ほとんどの方は無反応、時には笑われることもありました。今でこそ男性が家事を手伝うことは珍しくありませんが、当時はまだまだ浸透していなかったように思います。ましてや高齢の男性に家事を教えるサービスなど、介護や見守りの実情を目の当たりにしている担当者からすれば無謀だと思えたのでしょう。それでも、私は宮城県での経験を信じていたので、訪問をやめず、DMなども送り続けました。また、この期間に調理師やクリーニング師、介護や福祉住環境コーディネーターなどの資格も取得していきました。

――そこまで無反応だと、くじけそうにはならなかったのですか?
ごくわずかですが、訪問先の担当者の中には「すばらしいアイデアですね!」と、言ってくれる方もいたので、その言葉が力になりました。社会保障や介護の人材不足などの問題に詳しい人ほど共感してくれたので、確かな手ごたえを感じてもいたのです。例え数パーセントでもそうして認めてくれる人がいたので、続けることができたのだと思います。

――その後はどのような取り組みを行ったのでしょうか?
情報を収集しながらも、実際にサービスを展開するにはどの方法がベストなのか、迷ってもいました。やはり一人では事業内容をまとめるのに限界があったのも事実です。そこで、埼玉県の起業支援を行っている専門機関へ相談に行き、アドバイスを受けながら事業をより具体化していきました。そして、中小企業向けの持続化補助金を活用して、2017年10月にホームページを作成し、ブログなどを書きながら情報を発信し続けていました。

ビジネスプランコンテストでの受賞で事業が急加速

公益財団法人さいたま市産業創造財団が主催するビジネスプランコンテスト「『世界を変える起業家』ビジコンinさいたま2019」で講演する株式会社コンバート・ワンの尾上元彦さんの写真 ――最初に依頼があったのはいつ頃ですか?
2018年に入ってからです。ホームページを見てくれた自治体から依頼が入りました。地域に男女共同参画の意識を根付かせたいという目的で料理教室を開催したり、住民の意識改革のための講座に講師として登壇したりしました。また、個人からの問い合わせなどもありました。奥様がご病気になり、家事全般をしなければならなくなった高齢の男性から、個人レッスンをしてほしいということで、ご自宅に伺ったこともあります。徐々にですが事業として本格的に始動することができたので、内心ほっとしました。

――では、家事支援事業は着実に進んでいったのですね
翌年、さらに認知度を上げるために、公益財団法人さいたま市産業創造財団が主催するビジネスプランコンテスト「『世界を変える起業家』ビジコンinさいたま2019」に応募しました。参加者は60名ほどいたのですが、最終的に「地域を変える起業家賞」を受賞することができました。これはカジオスをより進化させる上でも大変意義のある体験になったと思います。最初の書類審査から最後のプレゼン審査までに、事業内容を記載した資料を約15回は書き直し、結果的にサービスのブラッシュアップにつながりました。

公益財団法人さいたま市産業創造財団が主催するビジネスプランコンテスト「『世界を変える起業家』ビジコンinさいたま2019」で「地域を変える起業家賞」を受賞した株式会社コンバート・ワンの尾上元彦さんの写真 ――受賞後の反響はいかがでしたか?
やはり受賞する前と後では周囲からの印象は大きく変わります。これまでは工業品加工材の卸し業社が家事を教えることに違和感を持つ方も少なくありませんでした。しかし、受賞によって公から認められた形になり、新聞やネット記事などで取り上げられるようになると、一気に信頼性が増したように思います。

全国各地の自治体から問い合わせが来るようにもなったので、これまでの努力が報われたと喜びもひとしおでした。

視点を変えれば逆境もチャンスに変わる

公益財団法人さいたま市産業創造財団が主催するビジネスプランコンテスト「『世界を変える起業家』ビジコンinさいたま2019」に登壇する株式会社コンバート・ワンの尾上元彦さんの写真 ――2020年に入り、新型コロナによる影響は大きいのではないでしょうか?
ビジコンでの受賞によってカジオスが広く知られたことで、いくつかの自治体で料理教室などを開く予定だったのですが、新型コロナの感染拡大ですべてキャンセルになりました。事業展開を加速させるよい機会だったのですが、残念なことに出鼻をくじかれてしまった。しかし、視点を変えれば在宅時間が増えたことで、男性も積極的に家事を行う流れがきているといえます。需要が拡大する可能性も秘めているので、大変な時期ではありますが、一つのビジネスチャンスとして捉えています。

――今後の展開を教えてください
今、ネット記事などで家事をしない、または家事が下手な夫に対する奥様の不満ばかりが目につきます。しかし、それに対する反論はあまり取り上げられていません。これは推測ですが、世の中の男性たちにも言い分があり、不満がたまっているのではないでしょうか。そうした意見を吸い上げ、アドバイスできる場を作ろうと考えています。夫婦は一度、敵対視してしまうとなかなか関係を修復できない場合があります。カジオスがクッションの役割を果たし、解決の糸口になるサービスを構築していきたいと思っています。

――2つの事業を展開するのは大変ではないですか?
卸し業は前職から行っていたことなので、それほど大変だとは感じていません。それに、日本の人口減少や、海外生産の進展と国内工場の縮小・閉鎖が進んでいることを考えると、おそらく工業系の市場はシュリンクしていくと予測しています。その一方で、65歳以上の高齢者人口が2040年にピークを迎えるといわれている中、カジオスの事業はソーシャルビジネスといえるでしょう。まだまだ売上としては成り立ってはいませんが、卸し業でしっかりと収益を確保し、ブルーオーシャンの男性向け家事支援サービスを進めていくことが今は大切だと思っています。

――起業を目指す読者にアドバイスをください。
今から20年ほど前に、ある起業家から「走りながら考えることが大事」という言葉をいただきました。とりあえず走り出してみると、今の自分に足りないものがわかるようになったり、お客様が希望しているものが理解できたりと、それまで見えなかったことが鮮明になるという意味でした。つまり、本当に必要なものは後から見えてくる。私もその意味を理解したのは起業後です。おそらくすべて準備してから始めようとしていたら、まだ起業すらできていないかもしれません。もしみなさんが新しいことにチャレンジするのであれば、ひとまず走り出してみてはいかがでしょうか?

株式会社コンバート・ワン 「カジオス」

所在地:埼玉県さいたま市中央区下落合6-12-20

https://kajiosu.com/

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