
中学生のころから起業がしたかった。20代のCEOが始めた、新しいスタイルの収納ビジネス
機材などの物だけでなく、スキルや時間、そして空きスペースなどを有効活用できるシェアリングエコノミーが広がっています。それらを支えるのは主にインターネットを介して貸し手と借り手をつなぎ合わせるマッチングサービス。自宅やオフィスの空き部屋などを貸し出し、ユーザーの荷物を置くスペースとして提供できるマッチングサービス「モノオク」は、創業者が民泊ホストをした経験をもとに生まれました。モノオク開業までのヒストリーとこれからの展望について、モノオク株式会社CEOの阿部祐一さんにお話しいただきました。
<INDEX>
ゲストは低額でスペースを確保、ホストは副収入を得られる三方良しのビジネス
――まずは、モノオクの事業内容を教えてください。
モノオクは自宅やオフィス、倉庫にある空きスペースを物置きとして有効活用するためのマッチングサービスです。スペースを貸したい人と借りたい人をつなぎ合わせるプラットフォームサイトを運営し、利用料の一部から収益を得ています。
仕組みはモノオクにスペースを貸したい人(ホスト)が空きスペースの情報をアップし、借り手であるゲストがそれぞれの用途に合ったスペースを見つけてモノオクを介して料金を支払うというもの。現在、登録者数はホストとゲストを合わせて1万6000人、登録スペースは5000件ほどです。
――モノオクのサービスはどのようなニーズに応えているのでしょうか。
例えば、ホストは家を買ったものの子どもが大きくなるまでは空き部屋を持て余してしまう方などです。荷物の受け取りという作業はありますが、ほぼ不労所得に近い形で月額2~3万円ほどの収入を得ることができます。ゲストには引っ越しの合間に中途半端な空白期間ができてしまった人や、シェアハウスに住んでいたりアドレスホッパー(ゲストハウスなどを泊まり歩きながら仕事や生活をすること)をしていたりして一時的に荷物を置くスペースが欲しい人などがよくいらっしゃいます。
――トランクルームを使うよりもユーザーにとっての利点はあるのですか?
都心のトランクルームは初期費用で数万円ほどかかることがほとんどです。対してモノオクは初期費用は必要なく1畳あたり5000円から7000円で借りることができます。またトランクルームは契約の手続きが一般的な不動産を借りるのとほぼ同じで、申し込みの手続きが煩雑。その点、モノオクはウェブ上のやりとりで完結してしまうためお手軽なんです。
――空きスペースは住宅が広かったり蔵などが残っていたりする地方に多いイメージですが、ホストは地方の方が多いのですか?
ホストもゲストも全国にいますが、集中しているのは都心部です。ゲストとホストの距離が離れるほど、どうしても配送料が高額になってしまうためです。今後は地方のスペースももっと増やしていきたいですね。
民泊のホスト経験からシェアリングエコノミーに魅了された
――独立・開業までの経緯を教えてください。
大学を卒業してから半年ほどは、スタートアップ企業で働いていました。僕は中学生のころからいつか起業をしたいと思っていたので、大手の企業などには就職せず、将来に経験を生かせそうなところで働きたかったんです。それでスタートアップ企業と大手企業をつなぐ事業に従事しました。
同時に民泊のホストにも挑戦してみました。当時は旅行者と民泊をつなぐマッチングサービスが上陸した直後の時期。今のような規制がほとんどなかったため、自分の住んでいた賃貸マンションを貸し出しました。借り手がついた日はオフィスに寝泊まりする生活でしたが、とても面白くシェアリングエコノミーの可能性を感じました。部屋は旅行で訪れる外国人などがよく借りてくれました。鍵の受け渡し時などにちょっとした交流が生まれるのが楽しく、今後このようなビジネスが伸びていくことを感じましたね。
――それで、モノオクのシステムを考えついたのですか。
いいえ、不動産に関する事業を始めようとは思ったのですが、最初はモノオクとは違うことをしていました。はじめにチャレンジしたのは、誰でも不動産の仲介ができるよう宅建の資格を持っている人を派遣する事業です。しかしこれは失敗でした。自分には不動産事業に関する知識や経験がまったくなかったので、業界の課題がどこにあるのか把握できなかったんです。
そのためこの事業は鳴かず飛ばずでしたが、同時進行で続けていた民泊の方で動きがありました。当時民泊マッチングサービスでは登録しているホスト同士の交流会などが開かれており、そこで知り合った人たちに空き物件の民泊運営を依頼されたんです。はじめは民泊運営について個人からの相談が多かったのですが、少しずつ業者からの相談も増えてきて民泊の運営代行のような仕事が増えていきました。
――それがどのようにモノオクの事業に結びついていったのでしょう。
あるとき、民泊のホスト仲間に「一時的に冷蔵庫を置かせてほしい」と頼まれたんです。人を泊められるなら物を置くこともできるだろう、と。そこで荷物を置いておく場所を借りたいニーズがあることに気づきました。ちょうど民泊に関する規制が増えてきた時期だったこともあり、これからは物を置く場所を提供するシェアリングサービスをしようとモノオクをスタートさせたんです。
――この時点で、阿部さんがスペースの貸し借りの事業を始めるアドバンテージのようなものはあったのですか?
民泊のホストを経験したことはとても有利に働いたと思います。CtoCビジネスで起きがちなトラブルなどを予測できますし、どんなスペースであれば借り手がつきやすいのかも経験上よく分かっていました。例えば、民泊は貸し出す部屋の写真をきれいに撮ることは非常に大切です。モノオクも同じ。誰でも自分が使うものは清潔で安全なところに保管したいですよね。貸し出すスペースの写真をきれいに撮って掲載することで、リクエスト数を増やしています。
事業を拡大するためには雇用の覚悟が必要

――法人化はどのタイミングでされたのでしょう?
宅建の資格を持っている人を派遣するサービスを始めた段階で法人化はしていました。
けれど、これに関してはそんなに焦る必要はありませんでしたね。法人税は決して安くないうえ、いつか銀行からお金を借りるときのために決算賞与を作っておくという大変な仕事が増えてしまったので。法人化はもっと事業が大きくなってからで良かったと思っています。
――資金調達はされたのですか?
モノオクを始めるタイミングで個人投資家に融資してもらいました。彼も民泊のホスト仲間です。資金はプラットフォームを作るためのサイト構築費用に当てました。この段階でサービス拡大を見込んだので、デザイナー、エンジニア、マーケターを雇用。プラットフォームはこのときに雇ったエンジニアと半年ほどで制作しました。
――まだ事業が軌道に乗るかわからない状況で人を雇うことに恐怖心はありませんでしたか?
起業すると決めた以上、きちんと人を雇って事業を大きくする覚悟はしていました。雇用はどこかで越えなければならない壁だと思うんです。僕はモノオク自体、とてもいいサービスだと思っています。だからこそ、この事業を一緒に大きくしたいと思っている人はいるはず。スポットで仕事を手伝ってもらうのではなく、一緒に事業を大きくしたいと思っている人と働くことはメリットがあると思いました。
――会社のメンバーのほとんどは同世代のようです。同世代だからこそ仕事を進めやすかったこと、あるいは進めにくかったことなどはありますか?
そうですね、メンバーは全員が20代です。それによって仕事が進めにくかったことは……ないですね。一つもないです。同世代ばかりだからこそ仕事はしやすいですよ。デジタルツールに対する肌感覚が同じだし、音楽のようなカルチャーに対する感覚も似ている。共通言語があるという感覚ですね。ネットに対するリテラシーも同じくらいのメンバーが集まっているので、仕事はほとんどリモートで済みます。ときどきは顔を合わせますが、社内のやりとりはほとんどチャットツールを使うので効率的です。
集客のため、ネット上の掲示板に200件以上の書きこみをした
――プラットフォーム事業は、一度知名度が上がれば加速的に利用者数が伸びていくものですが、事業をスタートしたころはどのように利用者を獲得したのでしょうか?
ネットを通じてですが、結構泥臭い集客をしましたよ。モノオクは2018年4月にサービスをスタートさせ、1年目は登録してもらうスペースを増やすことに注力しました。ローカル情報が集まる掲示板に「副業をしませんか?」と書き込みを続けたり、プレスリリースを出したり……。掲示板の書き込みは、全国のページに200件は書き込んだと思います。
――「空いているスペースを貸し出しませんか?」ではなく「副業をしませんか?」と呼びかけたんですね?
いろいろな表現に挑戦してみたのですが、それが一番反応がよかったんです。シェアリングエコノミーを推進したくて始めた会社なので、はじめはそれを謳おうとしたのですがあまり反応が良くなくて。ネットリテラシーが高い人にしかわからない文句よりも誰にでもわかりやすい言葉で伝えることが大切でした。
――借り手であるゲストはどのように集客したのですか?
ゲストの獲得にはスペースの登録数が増えた翌年に乗り出しました。トランクルームの多い地域にビラを撒いたり、リスティング広告などを出したりしましたが、こちらは貸し手よりもどこにいるのかがわかりにくい。集客には苦労しました。しかし、引っ越しなど人の移動が増える1月から3月になるとぐんと利用者が増えました。進学や転勤などの合間に発生する空白期間に一時的に荷物を置きたいという人がわっと利用してくれるようになったんです。
シェアリングエコノミーを通じて社会に貢献をしたい
――モノオクの事業をやっていてよかったと感じたことはありますか?
モノオクは単にスペースの貸し借りをするだけのサービスではないんです。ここでは人と人とのつながり、コミュニケーションが生まれます。物を預けたり預かったりすることを通して、ホストとゲストが仲良くなったという話も聞いており、まさに自分が魅力を感じたシェアリングエコノミーの一端を担っていると感じています。
――今後、モノオクはどのような展開を見込んでいますか?
現在はスペースを借りたいニーズが非常に多く、供給が追いついていない状況です。僕たちの試算では、空きスペースのシェアリングは12倍に伸ばせることができる市場。まだまだ拡大の余地があります。モノオクはトランクルームのような莫大な初期投資を必要とせず成長させることができます。さらに勢いをつけて拡大をさせていきたいですね。これから日本の人口が減っていくなかで空き家が続出するという問題をモノオクのサービスで解決の一助が担えたらとも考えています。
――最後に、これから独立・開業を考えている方々にメッセージをお願いします。
独立・開業の前に、とにかく自分が何をしたいかを考えることが大事だと思います。動機が曖昧なら、無理をして起業することもないのではないでしょうか。けれど「どうしてもこれをやりたい!」という強い思いがあるのであれば、それをやる理由は後からついてきます。
僕は最初こそは起業することが重要でしたが、あるときからどうしてもシェアリングエコノミーに携わりたくなった。それを考えていきついた先にあったのがモノオクのサービスだったんです。僕はほとんど他で働く経験を得ないまま起業をしましたが、起業も就職もそれほど差がないと思っています。自分がやっていることに意義が見いだせれば、日々の仕事に納得感があればそれでいいのではないでしょうか。自分が納得できる仕事ができるといいですね。
